虚構幻葬の魔術師

crown

文字の大きさ
上 下
99 / 109
アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑤後編Ⅰ

しおりを挟む
「ハァッ……ハァ。私、どんだけ走ったんだろ」
 手札は無く、ただただ逃げ回るしかない状況で、休憩できたのは正直大きい。桐鋼おもりを持った訓練は幾度となく積んでいるのだが、それでも疲れるものは疲れる。
「お嬢ちゃーん?どこにいるのかしら」
 リンジーは無情にも追いかけてくる。しかも、ユミは一つ嫌な予感が付きまとっていた。
 ウィリアムの介入。
 呪霊種アンデットの種族特性は『隠密』。何と発動した魔術が検知されにくいのだ。
 如何に人類といえども、魔力そのもの、魔術の発動には検知、反応することができる(他の種族に比べ微々たるものだが。また検知できない人物も多々いる)。その状況で魔術が検知できないとなると、避けることすら困難になるのは必至。本物の暗殺だ。
「なんか増えてきたし……呪霊種アンデットは攻撃が読み取りづらいから注意しろって零弥言ってたけどなぁ……。本当に見えなかったら終わりじゃん。これ」
 肩で息をする姿は身体が限界に近づいている証拠。一旦深呼吸。それが案外手っ取り早く……
「あー!なんか面白そうなことやってるー」
 吸血鬼ヴァンパイア陣営のクレイアが新たに乱入してきた。見た目幼女と言いつつ、言動はどことなく危うい。
「わぁっ!?」
「お姉ちゃん、持ってるんでしょ?例のヤツ。さっき見てたんだー。洞窟から出てくるところ」
 鋭い歯を光らせたクレイアは、両腕を組んで近寄ってくる。
「……三人目!」
 間合いを詰めさせるのはまずい。という本能がユミの身体を動かせた。
「……さすがに渡してくれないかー。だったら、力ずくで!」
 クレイアは自らの手の甲を噛む。鮮血が溢れ出す中、その甲をかざす。

「『プリズネーション・スカーレットバインド』!」 
 
 手の甲の血が、暴れ回る生き物を形取って襲いかかってくる。無知のようにしなる鮮血が唸る。
 種族特性、『吸血』。生き物の血液を魔術の触媒にする能力。また、魔力として取り込むこともできる。当然ながら自身の血液も魔術のグレードアップに補填することが出来るので、こういった行動はよく見られたりする。
 それはさておき、問題はユミ自身にある。
「血が鞭になった!?ちょっとそれは……!」
 身体が反応する。
 だが、動かない。お陰で一歩目が遅れてしまった。
「あっ……」
 鞭は激しく唸りながらも、攻撃は正確。ユミの左腕に巻き付いて、そのまま大木に絡まった。
「うぅっ!」
 叩きつけられて苦しい肺と、酸素を求める全身。それらが全て、ユミという生き物を極限状態へと誘う。
「すごいね、今の攻撃で腕しか捕まえられないなんてビックリした。お姉ちゃん、普通の人類じゃないよね」
 クレイアは楽しそうに見上げた。
 笑っているが、どことなく危ない。
「私見てたんだ、お姉ちゃんは大切に物を握って洞窟から出てくるところ。そのポケットに入れたんだよね?」
「……」
 ユミは口を開かない。 
「……言わないか。まぁ、捕まったことには変わり無いんだし。じゃあ、じっとしてね」
 クレイアが近寄る。
(ごめん、しくじった)

(零弥……零弥が何をしようとしたのかはわからないけど、これを渡しちゃいけないのはわかってた)

(だけど、ごめん。私はやっぱり、役立たずだったんだ)

「……楽しいお嬢ちゃんじゃの」

「……!?」
 クレイアの背後から、一人の老父の声がする。
 ウィリアムが介入してきた。音も立てず、いつの間にか背後を取られた。しかも、正面で相対するはずのユミすら気づかなかった。
「もー!せっかくのときに邪魔しないでよ!」
 クレイアはバックジャンプした後、不機嫌そうに頬を膨らませる。
「お嬢ちゃん、元気かい?」
「……えぇ……まぁ」
 苦しい状況だが、何とか気力を振り絞って応える。
 ウィリアムは魔力で短剣を生成すると、何とユミに巻き付いた鞭を切断した。 
「……えぇ!?」
「そんなに驚くことかい?儂はただその厄介な物を切っただけだが」
「おじさん!何してんの?」
「……なんですって?」
 ウィリアムの行動は追い付いてきたリンジーを含め、不可解なものだった。 敵に塩を送る行為。アビスフリードを持っている可能性が高いユミを解放する行動は、自分を不利にする、チャンスをみすみす逃すようなものだ。
「あの……どうして、こんなことを?」
「お嬢ちゃん。君はどうして例のブツを集める?」
 ウィリアムからの突然の質問。
「人類じゃ集めても意味は無いだろう?それなのに、どうして必死に逃げる」
「……私自身、どうしてこんな戦いに巻き込まれているのかわからない。アビスフリード自体、私に何か影響を与えるかと言えば、そうでもない」

「だけど、彼はそうじゃない。他の種族に渡ったらまずいとは言っていたけど、本心はわからないまま。だけど、そこには意味があるはずなんです。それを信じた。それが大事だと思えたから、私は進むんです」

「……ごめんなさい、意味わかんないですよね」
「──おもしろいのぉ」
 ウィリアムは優しく微笑んだ。相対的にユミはキョトンとする。
「実におもしろい答えじゃ。自分の為でなく、あくまで人のサポートに徹する。いい心掛けじゃ。じゃが、お嬢ちゃんは一つ足りないことがあるのぉ」
「足りない……こと」
 ユミが改めて問い直す。
「もう少し、自分を大切にすることじゃな」
「……」
 ウィリアムはそういいつつ、手に持った短剣を解消する。
「実のところ、儂も例のブツには興味が無いんじゃ」
「……はぁ?」
 ユミにが驚く。
「興味があったのは……」

「例のブツが惹き付ける物の正体よなぁ!」

 ウィリアムはユミの前に立ち、戦闘の構えにはいる。
 呪霊種アンデット陣営の、まさかの肩入れだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...