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アビスフリード争奪戦
侵掠すること火の如く⑦
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「では、今からルール説明及びアビスフリードの居場所についてのヒントを申し上げます」
覚悟を決めたスフィアは堂々と、高らかに文章を読み上げていく。
文章は……生前、オスカーが遺したものだ。
「ルールは先日説明した通り、日没前までにアビスフリードを探し、日没後に私の元へと運んできたものにそれを差し上げます。禁止事項も前述の通りです。行動範囲は宮殿内を除く敷地内全て。遠慮なく探し回っていただいて結構ですわ。また、アビスフリードを日没前に私の元へと運ぶ事は出来ません。
アビスフリードは現在、この宮殿の外、そして敷地内のどこかにあります。
それでは、代々受け継がれてきた、アビスフリードの位置のヒントをお教え致しますわ。
『新緑の宝石は器の中。それは近いようで遠い。暗闇の中にいる者達、そして我々に明るみを照らす。ただ、いつも、大切なものの近くにいる』
以上ですわ」
「──ハァ?」
「それだけ?」
一同は推理をしようとしたが、あまりのヒントのなさに呆れてしまった。
「──連絡事項は以上です。では、各プレイヤーの健闘を祈りますわ。十分後にスタート致しますので、各自、お好きな位置へどうぞ」
スフィアの説明はあっという間に終わった。
そうして、各プレイヤーは不満そうに歩いていった。
「悪いな。こんなところに連れてきて」
「どうしたの?急にそんなこと言って」
申し訳なさそうな雰囲気を出す零弥に、ユミは疑問を呈した。『呈した』と言っても、表情は笑顔のままである。いわゆる、決まり文句だ。
「桐鋼のために連れてきたといっても、貴石競争自体に参加させるのはダメだ。何の説明もなく少々危険な戦いにお前を巻き込んでしまった。勝負を有利にするとはいえ、申し訳ないな……」
零弥は謝罪する。
だが、対照的にユミは笑ったままだ。
「ここまで来て今さら?まぁ私は大丈夫だし……」
「手、震えてるぞ」
「はっ!?」
微かに震えるユミの右手は、強がった言葉の信頼性を著しく下げるものだった。その笑顔も実はひきつっていたりする。
「……とにかく、私は大丈夫だから。そのためにわざわざ、他の陣営を眺めるような行動を取るんでしょ?」
「そうだな……そうだった」
零弥は迷惑をかけたことを責めながらも、次の戦いに切り替えようとした。ユミの存在は、そのスイッチを切り替えるための良いきっかけになった。
そう考えるなら、ユミをこの場に連れてきたのはある意味正解だったのかもしれない。
「まぁ、正直言ってあれぐらいのヒントじゃ今日中には見つからないよ?焦るなって言ったのは零弥の方じゃない」
「あまり楽観的に見る場面ではないが……いいだろう。とりあえず、攻撃だけは注意してくれよ?」
「え?『プレイヤーに攻撃をしてはいけない』って……」
「『プレイヤーを死亡させてはいけない』だ。つまり、攻撃自体はルールの範囲内。人数の一件から、他の陣営もちゃんと聞いているだろうな。
──っていうか、またちゃんと聞いてなかったのかよ」
「……反省ね」
ユミはガックリうなだれた。
オセロの件と言い、今回と言い、ユミは何故かうっかりするところが度々ある。特に、聞き間違いはそのほとんどを占める。
二人は木々が生い茂る、もはや林に近い空間の縁をなぞるように歩いていく。周りを見渡してみればやはり敷地は広大で、所々、障害物で死角になっているところが見受けられた。
零弥はともかく、ユミは魔術に触れたことがあんまり無い。
ほぼ無力状態に近いであろう桐鋼は、一応持たせている。経験が乏しく、戦闘力のほとんどを占める武器が無力になったなら、正直、戦わせられない。ならば、魔術を回避できる場所を探す必要があった。
現在、まだゲームはスタートしていない。今のうちに戦闘に備えなければ。僅かな焦りを携えて、零弥は歩く。
「──で、どうする?こっちが動かないなら、私達にやることってあるのかな?」
ユミが質問をする。
「そうだな……目立ちすぎない程度に遺言の謎を解いていこうか。誰も解けないままゲームが終わってしまうのもよくないしな。戦闘に巻き込まれないよう、細心の注意を払いながらアビスフリードを探していこう」
「了解でーす。じゃあ、あっちに行ってみようか!」
「おい!あんまり走るなって」
緊張を忘れ、無邪気に走っていくユミを、零弥は追いかける。大剣を携えているにも関わらずあれだけのスピードで走れるのも、さすがはユミ、と言ったところだ。
『では、貴石競争を開始致します』
魔術によって宮殿内と敷地内の音声が共有された。そこに、スフィアのアナウンスが混じる。
「パァン!」
魔術によって、銃声のような号砲がなった。それは結界によって敷地街の国民には聞こえない。
そして、それは準備期間の終わりを確かに継げる号砲だ。
各プレイヤー達が次々と動き出す。そしてその中に、アビスフリードの奪取を狙うために、すべての執念を尽くす人物は一体誰なのだろうか。
一見宝物探しゲームに見えた貴石競争。しかし、それが一連の事件の闇を繋ぎ止める紐になっていることは、この中で何人が理解しているのだろうか。
海の向こうで、誰かが動き出す。貴石競争の波紋に飲まれるのは一体誰なのだろうか。
それを探せるのは…………
「──全部……燃やし尽くしてやる……!」
この男も、また動き出す。
覚悟を決めたスフィアは堂々と、高らかに文章を読み上げていく。
文章は……生前、オスカーが遺したものだ。
「ルールは先日説明した通り、日没前までにアビスフリードを探し、日没後に私の元へと運んできたものにそれを差し上げます。禁止事項も前述の通りです。行動範囲は宮殿内を除く敷地内全て。遠慮なく探し回っていただいて結構ですわ。また、アビスフリードを日没前に私の元へと運ぶ事は出来ません。
アビスフリードは現在、この宮殿の外、そして敷地内のどこかにあります。
それでは、代々受け継がれてきた、アビスフリードの位置のヒントをお教え致しますわ。
『新緑の宝石は器の中。それは近いようで遠い。暗闇の中にいる者達、そして我々に明るみを照らす。ただ、いつも、大切なものの近くにいる』
以上ですわ」
「──ハァ?」
「それだけ?」
一同は推理をしようとしたが、あまりのヒントのなさに呆れてしまった。
「──連絡事項は以上です。では、各プレイヤーの健闘を祈りますわ。十分後にスタート致しますので、各自、お好きな位置へどうぞ」
スフィアの説明はあっという間に終わった。
そうして、各プレイヤーは不満そうに歩いていった。
「悪いな。こんなところに連れてきて」
「どうしたの?急にそんなこと言って」
申し訳なさそうな雰囲気を出す零弥に、ユミは疑問を呈した。『呈した』と言っても、表情は笑顔のままである。いわゆる、決まり文句だ。
「桐鋼のために連れてきたといっても、貴石競争自体に参加させるのはダメだ。何の説明もなく少々危険な戦いにお前を巻き込んでしまった。勝負を有利にするとはいえ、申し訳ないな……」
零弥は謝罪する。
だが、対照的にユミは笑ったままだ。
「ここまで来て今さら?まぁ私は大丈夫だし……」
「手、震えてるぞ」
「はっ!?」
微かに震えるユミの右手は、強がった言葉の信頼性を著しく下げるものだった。その笑顔も実はひきつっていたりする。
「……とにかく、私は大丈夫だから。そのためにわざわざ、他の陣営を眺めるような行動を取るんでしょ?」
「そうだな……そうだった」
零弥は迷惑をかけたことを責めながらも、次の戦いに切り替えようとした。ユミの存在は、そのスイッチを切り替えるための良いきっかけになった。
そう考えるなら、ユミをこの場に連れてきたのはある意味正解だったのかもしれない。
「まぁ、正直言ってあれぐらいのヒントじゃ今日中には見つからないよ?焦るなって言ったのは零弥の方じゃない」
「あまり楽観的に見る場面ではないが……いいだろう。とりあえず、攻撃だけは注意してくれよ?」
「え?『プレイヤーに攻撃をしてはいけない』って……」
「『プレイヤーを死亡させてはいけない』だ。つまり、攻撃自体はルールの範囲内。人数の一件から、他の陣営もちゃんと聞いているだろうな。
──っていうか、またちゃんと聞いてなかったのかよ」
「……反省ね」
ユミはガックリうなだれた。
オセロの件と言い、今回と言い、ユミは何故かうっかりするところが度々ある。特に、聞き間違いはそのほとんどを占める。
二人は木々が生い茂る、もはや林に近い空間の縁をなぞるように歩いていく。周りを見渡してみればやはり敷地は広大で、所々、障害物で死角になっているところが見受けられた。
零弥はともかく、ユミは魔術に触れたことがあんまり無い。
ほぼ無力状態に近いであろう桐鋼は、一応持たせている。経験が乏しく、戦闘力のほとんどを占める武器が無力になったなら、正直、戦わせられない。ならば、魔術を回避できる場所を探す必要があった。
現在、まだゲームはスタートしていない。今のうちに戦闘に備えなければ。僅かな焦りを携えて、零弥は歩く。
「──で、どうする?こっちが動かないなら、私達にやることってあるのかな?」
ユミが質問をする。
「そうだな……目立ちすぎない程度に遺言の謎を解いていこうか。誰も解けないままゲームが終わってしまうのもよくないしな。戦闘に巻き込まれないよう、細心の注意を払いながらアビスフリードを探していこう」
「了解でーす。じゃあ、あっちに行ってみようか!」
「おい!あんまり走るなって」
緊張を忘れ、無邪気に走っていくユミを、零弥は追いかける。大剣を携えているにも関わらずあれだけのスピードで走れるのも、さすがはユミ、と言ったところだ。
『では、貴石競争を開始致します』
魔術によって宮殿内と敷地内の音声が共有された。そこに、スフィアのアナウンスが混じる。
「パァン!」
魔術によって、銃声のような号砲がなった。それは結界によって敷地街の国民には聞こえない。
そして、それは準備期間の終わりを確かに継げる号砲だ。
各プレイヤー達が次々と動き出す。そしてその中に、アビスフリードの奪取を狙うために、すべての執念を尽くす人物は一体誰なのだろうか。
一見宝物探しゲームに見えた貴石競争。しかし、それが一連の事件の闇を繋ぎ止める紐になっていることは、この中で何人が理解しているのだろうか。
海の向こうで、誰かが動き出す。貴石競争の波紋に飲まれるのは一体誰なのだろうか。
それを探せるのは…………
「──全部……燃やし尽くしてやる……!」
この男も、また動き出す。
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