虚構幻葬の魔術師

crown

文字の大きさ
上 下
63 / 109
アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション⑥後編

しおりを挟む
「貴石競争に……俺が?」
「そうです。既に先客がおられるかもしれませんが、そうでなければあなたに頼みたいのです」
 スフィアは至って真面目だ。その目は透き通っていてブレたりしない、まっすぐな目だ。
「あの力は、見ていて素晴らしい物でした。魔術とは違い、圧倒的な速効性と確実な効果をもたらす。そこに可能性を感じたのです」
「看板を止めたのはアイツだが?」
「あの人は反応が遅れていました。それは、戦闘面では致命的な結果に繋がりかねません。
 いい観察眼だ。一瞬の出来事でも細かい部分を正確に把握している。
「もし勝利すれば、アビスフリードは手に入るのだな?」
「勝利条件がそうですので、最終的にはそうなりますわね」
 零弥は黙って考え込む。
(アビスフリード……初めて聞くが、なかなか恐ろしい力を持つようだな……。今までその正体や存在を知らなかったが、他の国や巨大組織は既にその情報をつかんでいる可能性はある。もし、ペルティエの取引相手も動いているとしたら……。
 全種族……どのような形式とスケールは解りかねるが、それで争うなら、恐らく魔族ではない人類のはそこまで重要に見られていないだろう。それに、国際間での駆け引きを行うとしたら、序列ランキング入りは来ない……。最善の方法でアビスフリードを何とかしないと……)

(世界の秩序は壊れかねない!)

 零弥の考えは固まった。一人の人類として、また、情報きおくの探求者として……この戦いに身を投じることを決意した。
「わかった。人類陣営として、は参加させてもらおう」
「……零弥……」
「……ありがとうございます。ですが、何とか本国に連絡しないと……」
「大丈夫だ。俺のスマホでも使えば……番号は?」
 零弥はスフィアから宮殿への番号を聞く。それと同時に、スムーズに数字を打ち込んでいく。
 基本的に、国の重要機関、例えば行政組織等は、一般的に電話番号などは公開されているものだ。だからこそ、零弥のような一般人でも部外者でも公平に対応してもらえる。
『──もしもし?こちら、リーピタン王国のヴァールリード家ですが……』
「スフィア・ヴァールリードの身柄は預かっている」
「零弥!?」
 ユミが拍子抜けしたような、情けない声を発する。当然だ。崩壊した宮殿の対応に追われながら請けもった電話でいきなり、安否不明の人物の生死を、まるで誘拐犯のように浴びせかけるなど、非常識極まりない。
『すっ、スフィアお嬢様が!?あなた、お嬢様に何をした!』
「あぁ、安心しろ。彼女は生きている。何なら声だけでも……いや、彼女は起きて無いな」
 そう言いつつ、零弥はスフィアの顔をちらっと見る。その表情は、何かを考えているようで、特に特徴はなかった。
『あなたは誰ですか!』
「さぁな。ただの通りすがりの人間様、と言ったところか?」
『質問に答えなさい!』
 端末から放たれる大音量に耳を背けそうになったが、なんとなく我慢してみた。さっきの一言以前から向こうの背後から様々な雑音が混じっていて、向こうは騒々しくなっていることが聞きとれる。
「まぁまぁ落ち着け。俺はただ無意気に彼女に手をかけようとは思っていない。そう簡単に取り乱すな」
 煽り口調で語る零弥。それには、何故か余裕に溢れていた。
「さて、本題に入ろう。俺は条件次第でスフィア・ヴァールリードを本国に送り返そうと考えている。これは本当だ。ただし、条件次第だがな」
『何ですか?条件とは』
 スフィアが解放されると聞いて、さすがに向こうも落ち着きを取り戻したようだ。
「彼女からは既に、『貴石競争』についての説明を聞いている。勿論、アビスフリードについてもだ」
『……』
「そして、そいつがなかなかの力を保持しているのも当然把握済みだ」
『それで……何がしたい』
「何も言わずともわかるだろう。人類陣営として、貴石競争に参加させていただく」
 零弥は要求した。
「人類陣営は空いているのか?」
『いえ、まだ空席です。』
 零弥はほっとした。
「そうか、なら、スフィアを安全に本国に返す代わりに、俺達をプレイヤーとして参加する。いいな?」
『わかりました。それで、スフィアお嬢様は……!』
「あぁ、身の安全は保証する。ところで、日程はどうなる?」
『全種族は揃ってはいませんが、恐らく、再来週になると思われます』
(再来週……ちょうど三連休か)
「よし。連絡は以上だ」
『あの……あなたは?』
 向こうの女性がふいにどうでもいい質問をする。
「それはそっちについてからだ。あと最後に、別に誘拐の類いを、俺は働いた覚えは無いからな」

 ピッ……

 零弥は通話を終了するために、画面をタップした。
「いつ誘拐されましたの?わたくしは」
「そうよ。突然何を言い出すかと思ったら」
 スフィアとユミが次々と喋りだすので、とりあえず解説だけはしておこうと零弥は思った。
「スフィアが言ったように、人類陣営が既に埋まっている場合が考えられたからな。その場合の取引材料にするつもりだったが……杞憂だったな」
「零弥……流石にゲスい」
 ユミからの低評価はさておき、これで零弥達は貴石競争に参加することが本当に可能となった。あとは、パスポートや何やらを準備し、再来週の金曜日に出発すればいい。
「さて……準備するぞ。着替えやパスポートを忘れるなよ」
「うん……?」
「後、桐鋼も絶対に忘れるな」
「……え!?」
 ユミがこれまた拍子抜けした、情けない声を発した。
「桐鋼って……私も行くの!?」
「当たり前だ。言っただろ、『俺達』って」
「あら、それは楽しみですわね」
 何だかスフィアも乗り気のようだ。
 さて、この状況を四字熟語で表すとすると……
「まさに……四面楚歌……」
 そう言いつつ、ユミはうなだれるのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...