性愛 ---母であり、恋人であったあの人---

来夢モロラン

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第15章 静香、離婚して僕と暮らすことを決意

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 代わりが見つかるまで引き留められたので、静香が飲食店を辞めることを申し出てから、一か月後にようやく辞めることになった。辞めた後は、富士製鉄の社員食堂の賄いの仕事をやることになった。静香は料理が好きで、得意なので良い仕事が見つかったと喜んでいた。
 その日は、飲食店勤めの最後の日で、馴染みの客も集まり、送別の催しもあるので、いつもより遅くなると聞いていたが、午後十一時を回っても静香は帰宅しなかった。北海道では秋になると冬はすぐそこに迫っており、秋にはコートが必要な日が多いが、その日は季節外れの暖かさで、静香はコートを持たずに出かけていた。
 静香の帰りがあまりにも遅いので、僕は静香のコートを持って、家の近くにあった富士製鉄の配給所(従業員向けの売店)まで迎えにでた。静香は夜タクシーで帰宅するときは、近所の目を避けるため、配給所前で降りて、自宅まで徒歩で帰ることを僕は知っていた。昼間はぽかぽかと暖かかったのに、夜になるとしんしんと冷えて来た。配給所の前で、僕は寒さに耐えて待っていたが、十二時頃になっても帰ってこないので、心配になり、国道沿いのバス停まで迎いに出ることにした。
 バス停までの道路は一本道で、タクシーが走ることはほとんどなく、この時間には人通りもない道なので、静香とすれ違って見落とす心配はない。バス停の近くまで来ると人が二人見えた。女と男のようだった。二人は揉みあっているように見えた。近寄ると女は静香であった。男は逃げようとする静香を抱きかかえ、キスしようとしていた。男は静香の着ているウールのセーターの裾から手を差し込み胸の辺りをまさぐっている。静香は男の胸に手を当て引き離そうとしているが、男は静香を停留所の壁に押さえつけ、静香のくちびるに自分の口を押し付けた。
 僕は男に体当たりした。不意をつかれて男はよろめいた。僕はもう一度身体を男にぶつけた。男は酔っていたこともあり、ふらつきながらお尻を地面に落とした。僕はさらに男に殴りかかろうとした時、静香が「もう止めて、葵ちゃん。帰りましょう」と言って僕を押し留めた。
 僕は静香にオーバーを着せ家に向かった。静香はかなり酔っており、おぼつかない足取りだったので、僕は静香の腕に手を回し、抱えながら歩いた。「葵ちゃん、ご免なさいね。こんなことになるとは思わなかったのよ。上客だった人なので、二次会を断れなかったの。ひいきにしてくれて、毎晩のように通ってくれたお客様だったので、最後にお付き合いしたの。こんなひどいことされるとは思ってみなかった」と静香は家に着くまでにとぎれとぎれに語った。
 家に着くと「お母さん、すぐお風呂にはいりなよ」と言ったが、静香は「酔っているから、今日はこのまま寝るわ」と言ってオーバーも脱がずふとんに横になった。さっきの男の体臭、たばこと酒の臭いが静香の身体にまとわりついていた。静香がそんな臭いを家の中に持ち込み、すぐにぬぐい落とさずいるのは許せなかった。静香の口や頬には、あの男の口の跡が染みつているはずだ。あの男のけがわらしい手が静香の胸を汚した。全てをすぐに洗い流さなければ気持ちが収まらなかった。
 僕は横になっている静香を座らせて、オーバーを脱がし「入らないとだめだよ。すぐに入りな」促した。
「お酒を飲んでお風呂に入ると危ないわ。寝るわ」と言って、また横になろうとするので、僕は静香を無理やり立たせて、セーターを脱がし、スカートも下におろした。下着姿になってもぐずぐずしているので、僕は静香の下着も脱がし、すっ裸にして浴槽に押し込んだ。
 僕は静香を洗った。タオルで静香の顔を洗い、あの男が静香の口や頬につけた汚れを全てふきとった。それから、静香を立たせて、タオルで胸をふいて、あの男の手の汚れをきれいに流し落とした。そして、あの男の痕跡も臭いも完全に取り除くため、たおるに石鹸をつけて背中も腰もお尻も腕もごしごしとこすった。静香は僕のなすがままに身を任せていた。それから、洗面器に入れたお湯を静香の頭のてっぺんから足の先まで全身に何度もかけ、湯たおるで静香をくるみ、ふとんまで運び寝かせた。毛布とふとんをかけてやると、静香は小さな寝息を立てて、裸のままですぐにすやすやと寝入った。
 
 静香が富士製鉄の食堂で働き始めてから、しばらくして、「悩んでいたのだけれど、決めたわ。お母さんは北朝鮮には行かないことにした」と静香が僕に告げた。「じゃあ、お父さんとはどうなるの」と聞くと「お父さんはもう日本に戻る気はないわ。戻りたいと思っても北が帰ることを許可しないわ」と言うので、「じゃあ、お父さんと別れるの」と問うと、「そういうことになるかしら・・・」と言う。
 これまで、鉄男とは何度か手紙のやり取りをして、静香が僕の高校卒業までは日本に居ることについて鉄男の了承を得えていた。高校卒業までは自宅を処分出来なのでお金(処分代金)を送金できないことも鉄男に伝えていた。衣類や日用品は数回北朝鮮に送っていた。鉄男の要望で、腕時計とネッカチーフも買い集めて送っていた。北朝鮮では人気があり、高く換金できるようだった。
 静香の決心をいつ鉄男に伝えるのかと聞くと「しばらくはお父さんには言わないでおくわ。まだ誰にも言わないでね。秘密にしておいて」と言うので、まだ鉄男に対する未練があるのかと一抹の不安がよぎった。
 しかし、現在でも経済力がないため離婚できず、夫の浮気に耐えて仮面夫婦を演じている女性が結構いるが、当時五十過ぎの女性が離婚して経済的に自立することは、今よりはるかに困難であった。また、第二次大戦後男女同権思想が浸透、定着したが、当時はまだ婦人の道は人(父や夫や息子)に従うこととする儒教の男尊女卑思想も根強く、女性が離婚を決断するには大きな勇気が必要であった。
「世間体なんか気にする必要はないよ。お母さんの生活は僕が責任を持つから。卒業後無医村で十年以上働くことを約束すると、在学中の北大の医学生に学費以外に生活費も含めた奨学金を支給してくれる村もあるらしいんだ。一緒に札幌に行こう。何とかなるよ」と言うと「嬉しいわ。葵ちゃんが私を守ってくれるのね」と言って、頼もしそうに僕を見つめた。 
 
 
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