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第11章 登別温泉旅行ー静香が女を見せるー
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登別温泉には夕方に着いた。まだ、三十センチ程度の雪が積もっており、観光客はまばらだった。宿は湯船が二十以上ある大浴場が有名な第一滝本館であった。滝本館には前にも三回ほど泊まったことがある。会社の旅行会や修学旅行にも利用される大規模な宿泊施設も有する、地元では知らぬ人のいない老舗の大温泉旅館である。ただ、今日は、団体客はおらず家族連れだけのようである。シーズンオフなのか閑散としていた。
まだ夕食には早かったので、美智子へのお土産を探すために、一人で温泉街を散策することにした。登別温泉はアイヌが古くから薬湯として利用してきた温泉で、温泉街はクスリサンベツ川(川の名の語源はアイヌ語で、「クスリ」(薬又は温泉)が流れ下る川を意味する「クスリ・サンケ・ペツ」)の谷沿いにあり、川から立ち上る硫黄の匂いに包まれている。
通称「極楽通り」と呼ばれる商店街には、お土産物屋や飲食店が立ち並んでいるが、お土産を物色している家族連れや若い女性の観光客が目立った。浴衣の上にどてらを羽織ったおじさんの観光客もうろうろしていたが、まだ日没前のせいか「極楽通り」の名にふさわしい温泉街特有の猥雑な雰囲気はない。居酒屋やバーの灯りが煌々とともされる夜更けには、雰囲気は一変し夜の街になるのだろうか?
登別温泉のお土産と言えば、現在では北海道の食材を活かしたお菓子や乳製品などの食べ物が一番人気のようだが、僕の目当ての品はアイヌの工芸品であった。当時登別には、観光ブームを背景に、アイヌ人の才能のある若い工芸家が木彫りの熊などの制作に取り組んでいた。登別温泉の商店街にはアイヌ民芸品のお土産屋が沢山あり、多くの店には一流の木彫り師がいて、木彫りの作品が観光客の人気を集めていた。
美智子はアイヌであることを誇りに思っている。美智子への登別温泉のお土産はアイヌ工芸品のアクセサリーと決めていたが、アイヌ文様でデザインされた美智子のワンピースに似合う木彫りのペンダントを見つけるのに手間取った。数軒の民芸品屋を行ったり来たりして、ようやく決めたが、僕はファッションセンスがないので、美智子に気に入ってもらえるか自信はなかった。
もう、静香の待つ旅館に帰らなくてはならない時間であったので、滝本館に向かって登り道を急いだ。滝本館の手前で本屋があった。本屋にふらっと入った。店頭に官能的な女性の絵が表紙に書かれている雑誌が平積みしてあった。ポルノ小説や性生活の告白記事、扇情的な女性写真などを売りにするカストリ雑誌であった。
いつも立ち読みする学校の前の書店にはこうした雑誌は置かれていなかったが、他の本屋で見かけたことがあり、こうしたエロを売りにする雑誌の存在を知っていたが、手に取って見たことはなかった。性や女性の身体に強い好奇心があったので、見たいという誘惑はあったが、このような本を見ているのを誰かに見られたら恥ずかしいという気持ちの方が強かった。
夕暮れの温泉街の雰囲気のせいか、ここでは知人に見られる心配はないという安心感のせいか、極楽通りの本屋で僕は「夫婦クラブ」というその雑誌に手を伸ばした。パラパラとめくると、男女が複雑に絡みあっている交合図が目に飛び込んできた。目を凝らしてみるが、絡みあいが複雑すぎて、男と女の位置関係がどうなっているのか理解できない。身体の柔軟な新体操の選手でも無理な曲芸的な男女交歓図であった。白黒で細部がぼやけた画であったが、今思えば江戸時代の極彩色の浮世絵(春画)を模したものであったようだった。デフォルメされた男性の巨根、毛虫がのた打ち回っているような女性の局部も描かれていたが、性的な感興は微塵も感ぜず、嫌悪感だけが生じた。醜悪なものを見せられ、気分が悪くなった。
しかし、次に見た女性のヌード写真には目を奪われた。それまでヌード写真は見たことがなかった。雑誌のグラビアページで水着の写真、それもビキニではなくワンピースの水着写真しか見たことがなかった僕には衝撃的であった。豊満な乳房、突き立つ乳首、くびれた腰、ちらと見えるおへそ、秘所を隠すように交差した太い腿、お尻の割れ目、どれも初めて見るものだった。粗悪な用紙に印刷された鮮明度の低い写真であったが、僕は引き込まれてしまった。3ページに亘って掲載されていたヌード写真を繰り返し見返していた時、突然背後から「葵ちゃん、ここにいたのね」と声をかけられた。帰るのが遅いので、静香が迎えに出て、本屋の軒先で立ち読みしている僕に気付いて声をかけたのだ。
写真に見入っていた僕は静香に全く気付かなかったので、いきなり声をかけられ、狼狽して、慌てて雑誌を平置きの台に戻した。僕のどぎまぎした様子をみて、静香は不審そうに僕を見つめてから、僕が戻した雑誌に目を落とした。僕はうろたえ、赤面し、あたふたと本屋から外に出た。本屋からの帰り道で、静香は美智子へのお土産に何を買ったのかについては聞いてきたが、雑誌のことは何も言わなかった。
部屋食付の和室であったので、夕食は部屋で静香と二人で食べた。食事は美味しかった。噴火湾で獲れた新鮮な赤いボタンエビと黒ホッキの刺身が特に良かった。ボタンエビが大好物なのを知っているので、静香は自分では食べずにすべて僕の皿に取り分けた。静香が何度も勧めるので、サクラマスの塩焼きも静香の分も食べてしまった。静香はむしゃむしゃ食べる僕を嬉しそうに眺めていた。このところ僕と静香の間にあったぎこちなさは消え、久しぶりに賑やかな夕食であった。静香は僕の顔を幸せそうに見つめていた。和やかな視線であった。僕は甘えん坊であった小学生の頃に戻ったような気分であった。
夕食後、温泉に入るため一人で大浴場に向かった。男湯の脱衣所から浴場に入ると、泉質の違う大小さまざまな形状の湯船が二十ほどあり、端の方の人は湯煙に霞んでよく見えないほど大変広い浴場であった。浴場には20人ほどの入浴客しか入っておらず、一番奥の湯船一つを独占してゆったりと湯につかることができた。
湯船から出て一人で髪を洗っていると、僕の隣の洗い場に人が座る気配がした。シャンプーをシャワーで流しながら横目で隣を見て驚いた。女性が身体で洗っていた。(当時は、脱衣所は男女別々で、男の大浴場と女の大浴場は仕切り壁で区切られていたが、仕切りの壁の端に扉がついており、女湯と男湯の行き来が許されていた。ただし、行き来は女性のみ許されており、男性の行き来は禁止されていた。当時、女の大浴場は狭く、広々とした大浴場に入ってみたいという願望が女性客にあったため、こうした措置が取られていたのだと思われる。)
この旅館には前にも来ており、男の大浴場に女も入ってくることは知っていた。以前来たのは小学6年生の時で、女性の裸にさほど関心もなく、はっきり覚えていないが、女性は男性客がまばらな時を見計らって、バスタオルで身を隠しながら入浴していたと思う。
したがって、裸体を堂々とさらして、石鹸で全身を洗っている女を隣に見て、僕は度肝を抜かれた。しかも、そんなにじろじろ見ないでというような視線を僕に送りながら、毛むくじゃらの股間をごしごし洗っている。入浴している客はまばらで、あいている洗い場は他にもあるのに、わざわざ僕の隣の洗い場に来て洗うとは迷惑千万と怒りを感じた。
『あんたの裸など見たくもないよ。こんなきもい女の隣からすぐ逃げ出さなければ』と思い、あわて遠く離れた浴槽に飛び込んだ。底からぶくぶくと気泡が噴出している浴槽で気持ち良かった。下からのジェット水流に身を任せながら、女性客が他にもいないか、大浴場全体を見渡して見た。仕切りの壁の扉の近くに2,3人の女性かも知れない入浴客がいたが、電燈は暗く、湯気でけぶっている上に、近眼の僕には男か女か見分けがつかなかった。いずれにしても若い女性でないことは間違いないようだった。体形の崩れたきもいおばさんの裸は嫌だが、若い女性なら遠くからでも眺めたいと思ったが、諦めて風呂からあがることにした。
僕が風呂から戻ると静香はいなかった。大浴場に行ったようだ。料理は片付けられ、ふとん二組が並んで敷かれていた。すぐに静香も風呂からあがり、部屋に戻って来た。まだ、寝るには早かった。静香が一階でピンポンをしようと僕を誘った。
当時、日本の卓球は長く世界をリードしていた欧州勢を制し、荻村伊智朗などの世界チャンピオンを輩出し、男子団体で世界卓球5連勝を達成するなど黄金時代であった。女子でも岡田とみ(旧姓大川、会計検査院所属)などが世界卓球で金メダリストになっている。こうした中で卓球ブームが起こり、全国の温泉宿に卓球台がおかれ、温泉での遊びと言えば、卓球が定番化していた。
静香は数年前から近所の公民館のサークルで卓球をやっていた。運動不足の解消のために始めたようだが、親しい仲間も出来、卓球自体もおもしろいらしい。最近は、楽しむだけでなく、上達を目指してランニングや腹筋などの筋トレもやり始めていた。
静香と卓球をするのは初めてだった。静香の方が格段に上手かった。静香の変化するサーブをレシーブすることが出来ない。ラケットが空転する。浴衣とスリッパでの卓球なので、本格的なスマッシュではないのに、静香のスマッシュについていけない。
静香は僕の腕前を知ると、攻めるのを止め、守りに徹することに転換した。僕は、最初いい加減にやっていたが、何とか打ち込みを決めようと真剣になる。高校生の息子が母親に手も足も出ないのでは沽券にかかると、夢中になって打ち込むが、強い球も後ろに下がりながられレシーブして、こちらが打ち返しやすいところに返球してくる。
白熱したラリーを続けていると、卓球台の周りに見物客が集まってきた。静香が巧みにレシーブするたびに、観客の歓声が上がる。僕への揶揄の声も起こる。静香への声援を背に、僕はますます闘志を燃やす。静香も汗だくになり、卓球台の左右前後に動きレシーブする。激しく動くと、静香の浴衣の胸元がはだけてくる。はだけたまま下を向くと静香の胸の中が見えるのに気付いた。ラリーが中断するたびに、静香は浴衣のみだれを直していたが、僕は男性客の視線が気になった。中年のおじさんが、にやにやしながら着崩れた静香を見ているようだった。静香がバランスを崩し、裾がめくれて素肌が露わになるとおじさんたちの視線が静香の下半身に集中した。静香のしどけない姿をこれ以上さらすのが嫌になったので、唐突であったが、僕はもう卓球をやめると静香に言った。
ラケットを返却するためにフロントに行きながら、静香が「もう少しやりたかったわ。どうかしたの」と残念そうに言った。
「だって、お母さんの浴衣がはだけていたよ。おじさんたちが、お母さんをじろじろといやらしい目で見てたよ。下着が見えないように注意してよ。お母さん、だらしないよ。そもそも浴衣なのに全力だすのが間違いだよ」
「あら、そうだった。ごめんなさい」と静香は驚いたように言った。
そして、ちらっと素肌が見える瞬間があったかもれないが、乱れて丸見えになることはなかったのに、ひどく気にしている子供の気持ちを推し量るように僕を見て、「心配してくれて、ありがとう」と言った。僕が静香のことをたいせつに思っているので怒っていることが分かり、静香は僕を愛おしく、たまらなくかわいいと思った。一方で、母の着衣の少しの乱れを許さない少年の潔癖さは、女性の肉体に興味と関心を向け始めたためであることも理解した。今で見たことのない、僕の一面を見たと静香は感じた。
ラケット返した後、旅館内のお土産販売コーナーに立ち寄った。養父の鉄男や近所へのお土産は明日商店街で買う予定だったので、値段の下見を兼ねて「これが良い、いやあちらの方がもっと良いなど」と静香とわいわい言って品定めしながら、ゆっくりと見て回った。
販売コーナーの一角にヌードグラビア雑誌が山積みされていた。一夜の楽しみを求める男性宿泊客に需要があるのであろう。その雑誌に目を止めた静香は手に取り、パラパラめくって僕に見せ、「葵ちゃんは、本屋さんでこんな雑誌見ているの」といたずらっぽい目で尋ねてきた。僕は「そんな本は見たことないよ」と少しどぎまぎしながら答えると「男の子は高校生位になると皆見るんじゃないの」と畳み掛けてくる。「隠れて見ている奴もいると思うが、僕は一度も見たことがないよ。エッチには興味ない」と強い調子で答えた。すると「そうなの。一度も見たことないの。葵ちゃんは真面目だからね」と今度は心配顔で返してきた。
部屋に戻ってテレビをつけると愉快なバラエティ番組をやっていたので、十二時まで二人でげらげら笑いながらテレビを見てしまった。卓球で汗をかいたので、遅くなってしまったが、寝る前にもう一度入浴しようということになった。
「大浴場の女湯は湯船が三つしかないのよ。男湯の方は随分広いのでしょう」と静香が聞くので、「男湯は二十位あるよ」と教えると「私も広いところに入ってみたいわ。女の人も入っていた」と尋ねてきた。僕が「全部で二十人くらい入浴していて、そのうち二、三人が女だった」と答えると、静香は「まあ、葵ちゃん、女の人の裸を見たのね」と目を大きく見開いた。僕はあわてて「近くでは見てないよ。遠くにいたので、湯気にけぶってぼんやりとしか見えなかったよ。本当に女の人だったかもはっきりしなかった」と説明した。
すると静香は「こんな遅い時間だから入浴している人はいないかもしれないわね。これから一緒に温泉に行きましょう。誰もいなかったら男湯から呼んでちょうだい。私、前から一度広い大浴場に入りかったの。男の人が入ってきたらすぐ女湯に戻れば良いのよ、なんだか、どきどきわくわくするわ」とスリルと冒険を楽しむ子供のようにはしゃいで言った。
僕が男湯に入ると、入浴客は誰もいなかった。女湯から男湯に入るための扉の近くまで歩いて行き、壁越しに「誰もいないよ。こちらに来ても大丈夫だよ」と静香を呼んだ。男湯と女湯を仕切る壁は密閉されておらず、天井付近は開いているので、大きな声を出さなくても隣の湯に届いた。
すぐに静香がタオルを身体に巻いて男湯に入って来た。そして、扉に一番近い湯船まで行き、素早くタオルを外して入った。僕もその後に続いて同じ湯船に入った。静香はお湯に首までゆったりとつかりながら広い男湯を見渡して、「本当に誰もいないようね。向こうの湯船はすごく広そうね」と僕に聞くので、「あそこは二十五メートルプール位の広さだよ」と答えた。静香は「あそこに入りたいわ。あそこで一緒に泳ぎましょう」というと僕の目の前で湯船から飛び出した。
僕はあわてて顔を横に背け、静香の裸が目に入らないようにした。本当は見てみたかったが、恥ずかしくて、静香の裸を直視できなかった。静香はタオルをつけずに、小走りでプールに向かった。静香の裸は見ないようにしていたのに、静香の小走りの後姿は目に入ってきた。目で追ってしまった。
くびれた腰の下の丸くふっくらとしたお尻に目が吸い込まれた。やわらかそうで、両手で包み込みたいと思った。背中の真ん中には縦の線がくっきりと上から下に走っていた。その中心線はウエストで一旦消えるが、その下にはお尻を縦に割る線が続き、その縦の割れ目は下に下がるにつれ次第に深くなり、最後は左右の太ももの間に入り込んでいた。筋トレなどエクササイズをしているためか、ヒップは高く、脚もすらりと長い。普段は衣服で隠されている静香の美しいフォルムにどきんとした。
女性のヌードより魅力的で、きれいなものが他にあるのだろうか。女性の裸身ほど男を引き付け、男を虜にするものがあるのだろうか。そんな美しいものを人はなぜ衣服で隠して暮らしているのだろうか。見せてもいいのではないのか。静香が若々しく美しかったので僕はうれしかった。
僕も静香の入っている湯船に向かった。プールのように広いので、静香は平泳ぎや背泳ぎの真似をして遊んでいた。水の中で乳房がゆれていた。仰向けに浮かぶと静香のアンダーヘアーが水中から黒く透けて見えた。見ていたらペニスが大きくなり始めた。養母の裸を見て興奮するなんて変態だし、大きくなっているのを知られたら恥ずかしいので、気を静めようとするが、平常に戻らず困った。静香に気付かれる前にお湯に飛び込み、ほとぼりを冷ました。
僕が湯に入ると静香が寄ってきて、僕の方にお湯を飛ばしてきた。僕も応戦した。子供のようにはしゃいで水を掛け合っていたら、静香が足をとられて転びそうになった。僕は思わず抱き留めた。裸で抱き合うかたちになってしまった。二人はすぐに離れたが、静香の頬や胸の感触が残り、ほとぼりが冷めていた僕のペニスはまた熱を帯びてしまった。
静香は湯船を出て、シャワーを浴び始めた。頭上から滝のように水が流れる大きなシャワーだった。「ああ、いい気持ちだわ。葵ちゃんもいらっしゃい」と僕を呼ぶので、僕も全裸でシャワーの方へ歩いて行った。静香は目をつぶり、腕を両脇にたらして立っていた。髪から滴り落ちた水は、乳房の間からへそを通り、開かれた股間に流れ込んでいた。時々腕を広げ、裸身をくねらせるとシャワーが静香の全身を打ち撥ねた。うなじの髪を両手で束ねながら、顔をシャワーに向けると、胸が反り、乳房が持ちあがり、乳房の頂点に淡いピンク色の乳首が立っていた。エロチックな興奮がこみ上げ、僕のペニスはぐんぐんと大きく硬くなり屹立した。
静香が「葵ちゃんも隣のシャワーで一緒にしましょう」と声をかけ、僕の方を見たので、僕は勃起したペニスをあわてて両手で隠した。それを見た静香は「隠さなくても良いのよ。恥ずかしいことないのよ。異性の裸を見ると、男の人は誰でもそうなるのよ。お母さんの前で隠したりしたらかえっておかしいわ」と言って、自分の方へ手招きした。その言葉を聞いて、僕は恥ずかしがらずに、堂々とすることにした。
動物だった人間は、何も着けずに野山を走りまわっていたのに、何時から裸を人目に晒すことを避けるようになったのだろうか。赤ちゃんは裸でいるのが大好きだ。風呂からあがった赤ちゃんは、おむつをつけるのを嫌がって、母親から逃げ回る。大人だって衣服を脱ぎ捨てると、心や身体が大自然に戻る。ヌーディストの家族は、男親も女親も娘も息子も全裸になってビーチで遊ぶ。全てをさらけ出し、隠すものがないと心身が解放される。
僕は静香と並んでシャワーを浴びながら、湯煙がたちこめる奥深い山中で滝に打たれているような気分になった。隣には一糸まとわず静香が立っている。四十歳には見えないしなやかで張りのある肉体が水をはねて輝いている。やわらかい曲線が美しい。こんな魅惑的な静香が、僕の母でよかった。静香は僕の自慢だ。静香の子供で僕は幸せだ。
もう一度だけ湯につかってから部屋に戻ることになった。二人で窓辺の湯船に沈んだ。ガラス窓の外には、地獄谷と言われる白煙が吹き上げる焼けただれた岩と石の荒れ野が広がっているはずだが、漆黒の闇が広がり月も星も見えなかった。赤鬼、青鬼たちの棲む煮えたぎる熱湯へ至る「鬼火の路」の灯りも見えなかった。
突然「葵ちゃんに見せてあげるわ」と静香が言った。そして、湯から上がり浴槽のふちに腰をかけた。それから、後ろに手をつき膝を立て、揃えていた両脚を開いた。「見て、これが女よ」と言った。薄暗い電燈の下であったがはっきり見えた。秘部が僕の目に焼きついた。静香は両脚をゆっくり閉じ、何も言わずに女湯に戻って行った。
部屋に戻り静香と並んでふとんに入ったが、まぶたを閉じても風呂場での光景がうかんできて寝つかれなかった。静香はなぜ僕に女の秘所を見せたのだろうか。なぜあんな行動をとったのか理解できなかった。北海道大学医学部に進学後、僕が学友達から聞いた体験談では、女の秘所を最初に見たのは写真だったという者が多かった。それも醜悪で、猥褻な写真で、嫌悪感を催すものだったいう。僕がそういう幻滅感を味わう前に、ありのままの姿を見せてあげようということだったのであろうか。
また、ヌード写真の墨消しで隠された部分を何とかして、透けて見えるようにしようとバターを塗ったり悪戦苦闘したという笑い話も学友から聞いた。そんなあほなことに無駄な労力をしないようにと考えたのだろうか。それとも、息子が性交を初体験するとき戸惑わないようにと考えたのだろうか。いまだに謎である。
「葵ちゃん、眠れないの」と静香が聞いた。「眠れないなら、お母さんのふとんにおいで」と言った。僕は隣のふとんにもぐり込んだ。もう僕は静香より十センチも背が高くなっていたが、小学生だった頃のように頭を静香の胸に預けた。静香が僕の髪を撫でてくれた。デコルテから甘いいい匂いが立ち上り、肌は暖かった。僕の気持ちは静まり、安心感が広がった。僕は眠りに落ち、一度も目を覚ますことなく朝まで熟睡した。
まだ夕食には早かったので、美智子へのお土産を探すために、一人で温泉街を散策することにした。登別温泉はアイヌが古くから薬湯として利用してきた温泉で、温泉街はクスリサンベツ川(川の名の語源はアイヌ語で、「クスリ」(薬又は温泉)が流れ下る川を意味する「クスリ・サンケ・ペツ」)の谷沿いにあり、川から立ち上る硫黄の匂いに包まれている。
通称「極楽通り」と呼ばれる商店街には、お土産物屋や飲食店が立ち並んでいるが、お土産を物色している家族連れや若い女性の観光客が目立った。浴衣の上にどてらを羽織ったおじさんの観光客もうろうろしていたが、まだ日没前のせいか「極楽通り」の名にふさわしい温泉街特有の猥雑な雰囲気はない。居酒屋やバーの灯りが煌々とともされる夜更けには、雰囲気は一変し夜の街になるのだろうか?
登別温泉のお土産と言えば、現在では北海道の食材を活かしたお菓子や乳製品などの食べ物が一番人気のようだが、僕の目当ての品はアイヌの工芸品であった。当時登別には、観光ブームを背景に、アイヌ人の才能のある若い工芸家が木彫りの熊などの制作に取り組んでいた。登別温泉の商店街にはアイヌ民芸品のお土産屋が沢山あり、多くの店には一流の木彫り師がいて、木彫りの作品が観光客の人気を集めていた。
美智子はアイヌであることを誇りに思っている。美智子への登別温泉のお土産はアイヌ工芸品のアクセサリーと決めていたが、アイヌ文様でデザインされた美智子のワンピースに似合う木彫りのペンダントを見つけるのに手間取った。数軒の民芸品屋を行ったり来たりして、ようやく決めたが、僕はファッションセンスがないので、美智子に気に入ってもらえるか自信はなかった。
もう、静香の待つ旅館に帰らなくてはならない時間であったので、滝本館に向かって登り道を急いだ。滝本館の手前で本屋があった。本屋にふらっと入った。店頭に官能的な女性の絵が表紙に書かれている雑誌が平積みしてあった。ポルノ小説や性生活の告白記事、扇情的な女性写真などを売りにするカストリ雑誌であった。
いつも立ち読みする学校の前の書店にはこうした雑誌は置かれていなかったが、他の本屋で見かけたことがあり、こうしたエロを売りにする雑誌の存在を知っていたが、手に取って見たことはなかった。性や女性の身体に強い好奇心があったので、見たいという誘惑はあったが、このような本を見ているのを誰かに見られたら恥ずかしいという気持ちの方が強かった。
夕暮れの温泉街の雰囲気のせいか、ここでは知人に見られる心配はないという安心感のせいか、極楽通りの本屋で僕は「夫婦クラブ」というその雑誌に手を伸ばした。パラパラとめくると、男女が複雑に絡みあっている交合図が目に飛び込んできた。目を凝らしてみるが、絡みあいが複雑すぎて、男と女の位置関係がどうなっているのか理解できない。身体の柔軟な新体操の選手でも無理な曲芸的な男女交歓図であった。白黒で細部がぼやけた画であったが、今思えば江戸時代の極彩色の浮世絵(春画)を模したものであったようだった。デフォルメされた男性の巨根、毛虫がのた打ち回っているような女性の局部も描かれていたが、性的な感興は微塵も感ぜず、嫌悪感だけが生じた。醜悪なものを見せられ、気分が悪くなった。
しかし、次に見た女性のヌード写真には目を奪われた。それまでヌード写真は見たことがなかった。雑誌のグラビアページで水着の写真、それもビキニではなくワンピースの水着写真しか見たことがなかった僕には衝撃的であった。豊満な乳房、突き立つ乳首、くびれた腰、ちらと見えるおへそ、秘所を隠すように交差した太い腿、お尻の割れ目、どれも初めて見るものだった。粗悪な用紙に印刷された鮮明度の低い写真であったが、僕は引き込まれてしまった。3ページに亘って掲載されていたヌード写真を繰り返し見返していた時、突然背後から「葵ちゃん、ここにいたのね」と声をかけられた。帰るのが遅いので、静香が迎えに出て、本屋の軒先で立ち読みしている僕に気付いて声をかけたのだ。
写真に見入っていた僕は静香に全く気付かなかったので、いきなり声をかけられ、狼狽して、慌てて雑誌を平置きの台に戻した。僕のどぎまぎした様子をみて、静香は不審そうに僕を見つめてから、僕が戻した雑誌に目を落とした。僕はうろたえ、赤面し、あたふたと本屋から外に出た。本屋からの帰り道で、静香は美智子へのお土産に何を買ったのかについては聞いてきたが、雑誌のことは何も言わなかった。
部屋食付の和室であったので、夕食は部屋で静香と二人で食べた。食事は美味しかった。噴火湾で獲れた新鮮な赤いボタンエビと黒ホッキの刺身が特に良かった。ボタンエビが大好物なのを知っているので、静香は自分では食べずにすべて僕の皿に取り分けた。静香が何度も勧めるので、サクラマスの塩焼きも静香の分も食べてしまった。静香はむしゃむしゃ食べる僕を嬉しそうに眺めていた。このところ僕と静香の間にあったぎこちなさは消え、久しぶりに賑やかな夕食であった。静香は僕の顔を幸せそうに見つめていた。和やかな視線であった。僕は甘えん坊であった小学生の頃に戻ったような気分であった。
夕食後、温泉に入るため一人で大浴場に向かった。男湯の脱衣所から浴場に入ると、泉質の違う大小さまざまな形状の湯船が二十ほどあり、端の方の人は湯煙に霞んでよく見えないほど大変広い浴場であった。浴場には20人ほどの入浴客しか入っておらず、一番奥の湯船一つを独占してゆったりと湯につかることができた。
湯船から出て一人で髪を洗っていると、僕の隣の洗い場に人が座る気配がした。シャンプーをシャワーで流しながら横目で隣を見て驚いた。女性が身体で洗っていた。(当時は、脱衣所は男女別々で、男の大浴場と女の大浴場は仕切り壁で区切られていたが、仕切りの壁の端に扉がついており、女湯と男湯の行き来が許されていた。ただし、行き来は女性のみ許されており、男性の行き来は禁止されていた。当時、女の大浴場は狭く、広々とした大浴場に入ってみたいという願望が女性客にあったため、こうした措置が取られていたのだと思われる。)
この旅館には前にも来ており、男の大浴場に女も入ってくることは知っていた。以前来たのは小学6年生の時で、女性の裸にさほど関心もなく、はっきり覚えていないが、女性は男性客がまばらな時を見計らって、バスタオルで身を隠しながら入浴していたと思う。
したがって、裸体を堂々とさらして、石鹸で全身を洗っている女を隣に見て、僕は度肝を抜かれた。しかも、そんなにじろじろ見ないでというような視線を僕に送りながら、毛むくじゃらの股間をごしごし洗っている。入浴している客はまばらで、あいている洗い場は他にもあるのに、わざわざ僕の隣の洗い場に来て洗うとは迷惑千万と怒りを感じた。
『あんたの裸など見たくもないよ。こんなきもい女の隣からすぐ逃げ出さなければ』と思い、あわて遠く離れた浴槽に飛び込んだ。底からぶくぶくと気泡が噴出している浴槽で気持ち良かった。下からのジェット水流に身を任せながら、女性客が他にもいないか、大浴場全体を見渡して見た。仕切りの壁の扉の近くに2,3人の女性かも知れない入浴客がいたが、電燈は暗く、湯気でけぶっている上に、近眼の僕には男か女か見分けがつかなかった。いずれにしても若い女性でないことは間違いないようだった。体形の崩れたきもいおばさんの裸は嫌だが、若い女性なら遠くからでも眺めたいと思ったが、諦めて風呂からあがることにした。
僕が風呂から戻ると静香はいなかった。大浴場に行ったようだ。料理は片付けられ、ふとん二組が並んで敷かれていた。すぐに静香も風呂からあがり、部屋に戻って来た。まだ、寝るには早かった。静香が一階でピンポンをしようと僕を誘った。
当時、日本の卓球は長く世界をリードしていた欧州勢を制し、荻村伊智朗などの世界チャンピオンを輩出し、男子団体で世界卓球5連勝を達成するなど黄金時代であった。女子でも岡田とみ(旧姓大川、会計検査院所属)などが世界卓球で金メダリストになっている。こうした中で卓球ブームが起こり、全国の温泉宿に卓球台がおかれ、温泉での遊びと言えば、卓球が定番化していた。
静香は数年前から近所の公民館のサークルで卓球をやっていた。運動不足の解消のために始めたようだが、親しい仲間も出来、卓球自体もおもしろいらしい。最近は、楽しむだけでなく、上達を目指してランニングや腹筋などの筋トレもやり始めていた。
静香と卓球をするのは初めてだった。静香の方が格段に上手かった。静香の変化するサーブをレシーブすることが出来ない。ラケットが空転する。浴衣とスリッパでの卓球なので、本格的なスマッシュではないのに、静香のスマッシュについていけない。
静香は僕の腕前を知ると、攻めるのを止め、守りに徹することに転換した。僕は、最初いい加減にやっていたが、何とか打ち込みを決めようと真剣になる。高校生の息子が母親に手も足も出ないのでは沽券にかかると、夢中になって打ち込むが、強い球も後ろに下がりながられレシーブして、こちらが打ち返しやすいところに返球してくる。
白熱したラリーを続けていると、卓球台の周りに見物客が集まってきた。静香が巧みにレシーブするたびに、観客の歓声が上がる。僕への揶揄の声も起こる。静香への声援を背に、僕はますます闘志を燃やす。静香も汗だくになり、卓球台の左右前後に動きレシーブする。激しく動くと、静香の浴衣の胸元がはだけてくる。はだけたまま下を向くと静香の胸の中が見えるのに気付いた。ラリーが中断するたびに、静香は浴衣のみだれを直していたが、僕は男性客の視線が気になった。中年のおじさんが、にやにやしながら着崩れた静香を見ているようだった。静香がバランスを崩し、裾がめくれて素肌が露わになるとおじさんたちの視線が静香の下半身に集中した。静香のしどけない姿をこれ以上さらすのが嫌になったので、唐突であったが、僕はもう卓球をやめると静香に言った。
ラケットを返却するためにフロントに行きながら、静香が「もう少しやりたかったわ。どうかしたの」と残念そうに言った。
「だって、お母さんの浴衣がはだけていたよ。おじさんたちが、お母さんをじろじろといやらしい目で見てたよ。下着が見えないように注意してよ。お母さん、だらしないよ。そもそも浴衣なのに全力だすのが間違いだよ」
「あら、そうだった。ごめんなさい」と静香は驚いたように言った。
そして、ちらっと素肌が見える瞬間があったかもれないが、乱れて丸見えになることはなかったのに、ひどく気にしている子供の気持ちを推し量るように僕を見て、「心配してくれて、ありがとう」と言った。僕が静香のことをたいせつに思っているので怒っていることが分かり、静香は僕を愛おしく、たまらなくかわいいと思った。一方で、母の着衣の少しの乱れを許さない少年の潔癖さは、女性の肉体に興味と関心を向け始めたためであることも理解した。今で見たことのない、僕の一面を見たと静香は感じた。
ラケット返した後、旅館内のお土産販売コーナーに立ち寄った。養父の鉄男や近所へのお土産は明日商店街で買う予定だったので、値段の下見を兼ねて「これが良い、いやあちらの方がもっと良いなど」と静香とわいわい言って品定めしながら、ゆっくりと見て回った。
販売コーナーの一角にヌードグラビア雑誌が山積みされていた。一夜の楽しみを求める男性宿泊客に需要があるのであろう。その雑誌に目を止めた静香は手に取り、パラパラめくって僕に見せ、「葵ちゃんは、本屋さんでこんな雑誌見ているの」といたずらっぽい目で尋ねてきた。僕は「そんな本は見たことないよ」と少しどぎまぎしながら答えると「男の子は高校生位になると皆見るんじゃないの」と畳み掛けてくる。「隠れて見ている奴もいると思うが、僕は一度も見たことがないよ。エッチには興味ない」と強い調子で答えた。すると「そうなの。一度も見たことないの。葵ちゃんは真面目だからね」と今度は心配顔で返してきた。
部屋に戻ってテレビをつけると愉快なバラエティ番組をやっていたので、十二時まで二人でげらげら笑いながらテレビを見てしまった。卓球で汗をかいたので、遅くなってしまったが、寝る前にもう一度入浴しようということになった。
「大浴場の女湯は湯船が三つしかないのよ。男湯の方は随分広いのでしょう」と静香が聞くので、「男湯は二十位あるよ」と教えると「私も広いところに入ってみたいわ。女の人も入っていた」と尋ねてきた。僕が「全部で二十人くらい入浴していて、そのうち二、三人が女だった」と答えると、静香は「まあ、葵ちゃん、女の人の裸を見たのね」と目を大きく見開いた。僕はあわてて「近くでは見てないよ。遠くにいたので、湯気にけぶってぼんやりとしか見えなかったよ。本当に女の人だったかもはっきりしなかった」と説明した。
すると静香は「こんな遅い時間だから入浴している人はいないかもしれないわね。これから一緒に温泉に行きましょう。誰もいなかったら男湯から呼んでちょうだい。私、前から一度広い大浴場に入りかったの。男の人が入ってきたらすぐ女湯に戻れば良いのよ、なんだか、どきどきわくわくするわ」とスリルと冒険を楽しむ子供のようにはしゃいで言った。
僕が男湯に入ると、入浴客は誰もいなかった。女湯から男湯に入るための扉の近くまで歩いて行き、壁越しに「誰もいないよ。こちらに来ても大丈夫だよ」と静香を呼んだ。男湯と女湯を仕切る壁は密閉されておらず、天井付近は開いているので、大きな声を出さなくても隣の湯に届いた。
すぐに静香がタオルを身体に巻いて男湯に入って来た。そして、扉に一番近い湯船まで行き、素早くタオルを外して入った。僕もその後に続いて同じ湯船に入った。静香はお湯に首までゆったりとつかりながら広い男湯を見渡して、「本当に誰もいないようね。向こうの湯船はすごく広そうね」と僕に聞くので、「あそこは二十五メートルプール位の広さだよ」と答えた。静香は「あそこに入りたいわ。あそこで一緒に泳ぎましょう」というと僕の目の前で湯船から飛び出した。
僕はあわてて顔を横に背け、静香の裸が目に入らないようにした。本当は見てみたかったが、恥ずかしくて、静香の裸を直視できなかった。静香はタオルをつけずに、小走りでプールに向かった。静香の裸は見ないようにしていたのに、静香の小走りの後姿は目に入ってきた。目で追ってしまった。
くびれた腰の下の丸くふっくらとしたお尻に目が吸い込まれた。やわらかそうで、両手で包み込みたいと思った。背中の真ん中には縦の線がくっきりと上から下に走っていた。その中心線はウエストで一旦消えるが、その下にはお尻を縦に割る線が続き、その縦の割れ目は下に下がるにつれ次第に深くなり、最後は左右の太ももの間に入り込んでいた。筋トレなどエクササイズをしているためか、ヒップは高く、脚もすらりと長い。普段は衣服で隠されている静香の美しいフォルムにどきんとした。
女性のヌードより魅力的で、きれいなものが他にあるのだろうか。女性の裸身ほど男を引き付け、男を虜にするものがあるのだろうか。そんな美しいものを人はなぜ衣服で隠して暮らしているのだろうか。見せてもいいのではないのか。静香が若々しく美しかったので僕はうれしかった。
僕も静香の入っている湯船に向かった。プールのように広いので、静香は平泳ぎや背泳ぎの真似をして遊んでいた。水の中で乳房がゆれていた。仰向けに浮かぶと静香のアンダーヘアーが水中から黒く透けて見えた。見ていたらペニスが大きくなり始めた。養母の裸を見て興奮するなんて変態だし、大きくなっているのを知られたら恥ずかしいので、気を静めようとするが、平常に戻らず困った。静香に気付かれる前にお湯に飛び込み、ほとぼりを冷ました。
僕が湯に入ると静香が寄ってきて、僕の方にお湯を飛ばしてきた。僕も応戦した。子供のようにはしゃいで水を掛け合っていたら、静香が足をとられて転びそうになった。僕は思わず抱き留めた。裸で抱き合うかたちになってしまった。二人はすぐに離れたが、静香の頬や胸の感触が残り、ほとぼりが冷めていた僕のペニスはまた熱を帯びてしまった。
静香は湯船を出て、シャワーを浴び始めた。頭上から滝のように水が流れる大きなシャワーだった。「ああ、いい気持ちだわ。葵ちゃんもいらっしゃい」と僕を呼ぶので、僕も全裸でシャワーの方へ歩いて行った。静香は目をつぶり、腕を両脇にたらして立っていた。髪から滴り落ちた水は、乳房の間からへそを通り、開かれた股間に流れ込んでいた。時々腕を広げ、裸身をくねらせるとシャワーが静香の全身を打ち撥ねた。うなじの髪を両手で束ねながら、顔をシャワーに向けると、胸が反り、乳房が持ちあがり、乳房の頂点に淡いピンク色の乳首が立っていた。エロチックな興奮がこみ上げ、僕のペニスはぐんぐんと大きく硬くなり屹立した。
静香が「葵ちゃんも隣のシャワーで一緒にしましょう」と声をかけ、僕の方を見たので、僕は勃起したペニスをあわてて両手で隠した。それを見た静香は「隠さなくても良いのよ。恥ずかしいことないのよ。異性の裸を見ると、男の人は誰でもそうなるのよ。お母さんの前で隠したりしたらかえっておかしいわ」と言って、自分の方へ手招きした。その言葉を聞いて、僕は恥ずかしがらずに、堂々とすることにした。
動物だった人間は、何も着けずに野山を走りまわっていたのに、何時から裸を人目に晒すことを避けるようになったのだろうか。赤ちゃんは裸でいるのが大好きだ。風呂からあがった赤ちゃんは、おむつをつけるのを嫌がって、母親から逃げ回る。大人だって衣服を脱ぎ捨てると、心や身体が大自然に戻る。ヌーディストの家族は、男親も女親も娘も息子も全裸になってビーチで遊ぶ。全てをさらけ出し、隠すものがないと心身が解放される。
僕は静香と並んでシャワーを浴びながら、湯煙がたちこめる奥深い山中で滝に打たれているような気分になった。隣には一糸まとわず静香が立っている。四十歳には見えないしなやかで張りのある肉体が水をはねて輝いている。やわらかい曲線が美しい。こんな魅惑的な静香が、僕の母でよかった。静香は僕の自慢だ。静香の子供で僕は幸せだ。
もう一度だけ湯につかってから部屋に戻ることになった。二人で窓辺の湯船に沈んだ。ガラス窓の外には、地獄谷と言われる白煙が吹き上げる焼けただれた岩と石の荒れ野が広がっているはずだが、漆黒の闇が広がり月も星も見えなかった。赤鬼、青鬼たちの棲む煮えたぎる熱湯へ至る「鬼火の路」の灯りも見えなかった。
突然「葵ちゃんに見せてあげるわ」と静香が言った。そして、湯から上がり浴槽のふちに腰をかけた。それから、後ろに手をつき膝を立て、揃えていた両脚を開いた。「見て、これが女よ」と言った。薄暗い電燈の下であったがはっきり見えた。秘部が僕の目に焼きついた。静香は両脚をゆっくり閉じ、何も言わずに女湯に戻って行った。
部屋に戻り静香と並んでふとんに入ったが、まぶたを閉じても風呂場での光景がうかんできて寝つかれなかった。静香はなぜ僕に女の秘所を見せたのだろうか。なぜあんな行動をとったのか理解できなかった。北海道大学医学部に進学後、僕が学友達から聞いた体験談では、女の秘所を最初に見たのは写真だったという者が多かった。それも醜悪で、猥褻な写真で、嫌悪感を催すものだったいう。僕がそういう幻滅感を味わう前に、ありのままの姿を見せてあげようということだったのであろうか。
また、ヌード写真の墨消しで隠された部分を何とかして、透けて見えるようにしようとバターを塗ったり悪戦苦闘したという笑い話も学友から聞いた。そんなあほなことに無駄な労力をしないようにと考えたのだろうか。それとも、息子が性交を初体験するとき戸惑わないようにと考えたのだろうか。いまだに謎である。
「葵ちゃん、眠れないの」と静香が聞いた。「眠れないなら、お母さんのふとんにおいで」と言った。僕は隣のふとんにもぐり込んだ。もう僕は静香より十センチも背が高くなっていたが、小学生だった頃のように頭を静香の胸に預けた。静香が僕の髪を撫でてくれた。デコルテから甘いいい匂いが立ち上り、肌は暖かった。僕の気持ちは静まり、安心感が広がった。僕は眠りに落ち、一度も目を覚ますことなく朝まで熟睡した。
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