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第6章 性を知り、目覚める

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 六月に入り、梅雨がないと言われているこの地方も雨の日が続いていた。昼と夜の気温差が大きく、雨が降ると夜は底冷えがした。僕は風邪をひき、発熱した。四十度近い高熱が続き、食事もほとんどのどを通らない状態であった。静香は心配して、入院させて点滴による栄養補給をしてくれるように医師に頼んだが、医師は肺炎にはなっていないのでもう少し様子を見ようと言った。
 薬を飲んでもなかなか解熱しないので、静香は汗をだして熱を下げようと考え、湯たんぽをふとんに入れ、僕をタオルケットと毛布で二重三重に包み、その上に真冬用の掛けふとんをかけた。汗が出るとこまめに下着を取り換えてくれた。ぬるま湯でぬらしたタオルで何度も体を拭いてくれた。
 僕は高熱に浮かされ夢うつつだったのではっきりしないが、胸やお腹そして脚の付け根も丁寧に拭いてくれたようだ。押し当てられた心地よい涼感ははっきりと覚えている。水分補給にも気を配り、生姜湯や野菜スープを飲ませたり、りんごのすりおろしを食べさせたりしてくれた。静香の献身的な看護のおかげで、発熱から四日目に朝起きると熱は三十七度位に下がっていた。
 その日は雨も上がり窓から暖かい日差しが差し込んでいた。ただ、風は強く、港を見下ろす丘に建てられた我が家には、海から駆け上ってくる風がびゅうびゅう吹きつけていた。強風のため外出を控えているのか、道路に人影は見えなかった。隣近所も静まり返っていた。養父の鉄男は、札幌で十時に打ち合わせがあり、朝五時に家を出ていた。静香は鉄男を送り出した後、看病の疲れもあり隣の部屋で仮眠していた。目覚めた僕が「お母さん、来て」と呼ぶと、起き上がって、僕の寝ている部屋に急いで来た。
 「汗だくで気持ちが悪いのでお風呂に入りたい」と僕が言うと、僕の顔を見た静香は、「熱が下がったようね」と言いながら、僕の額に自分の額を押し付けた。それから「まだ、微熱があるわ。熱が完全に下がるまでお風呂はだめよ」と言った。そして、「お風呂はだめなので、タオルで汗を拭き取りましょうね。昨日まで四十度の熱があったのだから起き上がってはだめよ。そこに寝ていなさい。私がやってあげるから」と言って、タオルを取りに行った。
 ぬるま湯を洗面器に入れて戻ってきた静香は、ふとんをはぐり、横にきちんとたたみ、それからふとんの下にかけてあった毛布もめくった。毛布の下にかけてあったタオルケットもめくり、寝巻き姿で寝ている僕の顔色を上から確認し、「熱が下がってよかったわ」と言いながら僕の髪と頬を撫ぜてくれた。
 それから寝巻きの帯を解いた。僕は寝巻きを脱ぐために上半身を起こそうとしたが、静香はそれを制して寝たまま脱がしてくれた。木綿生地の寝巻きの下にパンツははいていたが、上半身は素肌であった。静香は下半身にタオルケットをかけなおしてから、用意したタオルをお湯でぬらしてしぼり、最初に顔と首を拭いてくれた。
 それから、僕の手首を持ち上げて、手から腕、肩を拭き、その後胸を丹念に拭いてくれた。胸を拭いてくれていた時、彼女の髪が僕の顔にかかり、髪の毛のいい匂いがした。胸の後、パンツをへその下まで下げてから、へそのまわりを円を描くように優しく拭いてくれた。
 次に僕は体位を変え腹這いになるように言われた。静香は僕の背中を拭いてから、下半身にかけてあったタオルケットをめくり、うつ伏せのままパンツを脱がし、お尻を拭いてくれた。拭きながら「寒くない、大丈夫」と聞いた。窓から部屋に差し込む暖かい陽光が心地よく「裸んぼうで、いい気持ちだよ」と答えた。
 「風呂上りなどに小さい子供は裸で走り回るのが大好きだけど、そんな気持ちなの。赤ん坊に戻ったような気持ちなの」と言いながら、もう一度背中とお尻をまんべんなくなぞり、お尻の割れ目もタオルできれいにぬぐってくれた。
 それからタオルは洗面器に戻し、素手で僕の腕、肩を揉み、両手で背中やお尻をマッサージしてくれた。お尻をさする時は彼女の胸が僕の腕に触れた。背中とお尻を円を描くようにさすってくれる彼女の手は柔らかく、僕は夢を見ているようなうっとりとした気持ちになった。いつまでもこの夢ごこちが続いてほしいと願った。
 「マッサージはおしまいよ。あおむけになって」と静香が言ったので、僕は寝たまま身体の向きを変えた。静香はあおむけに寝返りしたので露わになった僕の性器をちらっと見てからタオルケットで隠した。「ちんちんは自分で拭きなさい」と言ってから、太もも、ひざを拭いてくれた。
 拭き終わると「後は自分でやりなさい」と言って立ち上がり、ふすまを開けて部屋をいったん出た。しかし、僕が起き上がる前に戻ってきて、寝ている僕の横に正座した。そして、「葵ちゃんは、この前自慰についてお母さんに聞いたわね。今、教えてあげるわ」と言った。
 そして、タオルケットをめくった。汗でべとついだ僕の局所が彼女の目にさらされた。「まずきれいにしましょうね」と言って、彼女は薬指から指輪を外し、洗面器の横に置いてあった石鹸を手に取り、手の平で泡立て、泡立った石鹸のついた指で僕のちんちんをつまみ上げた。そして、両手の手のひらに包み込んでこすり、それから左手の手のひらにのせて、右手の指の腹で陰茎の裏も表もなぞり、汚れを落としてくれた。
 陰嚢、恥丘、鼠径部も手のひらと指で優しく洗った後、濡れタオルで石鹸を落とし、最後に清潔なタオルで水分を拭き取ってくれた。僕は彼女にちんちんをこんなにまじまじと見せたことはないし、まして手で触られたことはなかったので、最初は恥ずかしくて、身も心も縮み、ちんちんも縮み上がってしまった。
 でも、だんだんリラックスし、手足がゆったりと伸長し、縮こまっていたちんちんは彼女の手の平の上で伸びやかにいつもより広がり、まっすぐに長くなったような気がした。
「精子と卵子が一緒になっていのちが誕生することは学校で習って知っているでしょう。精子は男の子が中学生頃になるとこの袋の中のタマタマでつくられるようになるのよ」と言って、静香は僕の陰嚢にそっと触れた。それから陰茎を手のひらに載せて「つくられた精子は、この中を通っておしっこの出るところから外に出るのよ」と言って、陰茎の先端の尿道口を指の腹でとんとんとした。
 「精子がつくられるようになると、つくられた精子は眠っている時に外にあふれ出てくることがあるのよ。葵ちゃんにも、もうすぐそういうことが起こるはずよ。それから、自分でちんちんをさわっていると、固く大きくなって、いい気持ちなって、精子が出てくるのよ。それを自慰と言うのよ。大人になり始めた男の子なら誰でも経験することで、心配することは何もないのよ。自慰の説明はこれで終わり」と言い、僕の性器をタオルで覆い、静香は立ち上がりかけたが、「葵ちゃん、ごめんね。確かめたいことがあるから、もう一度見せてね」と言って、タオルをめくった。
 そして、股間に横たわっていた陰茎を左手で持ち、お腹に垂直に立てた。「葵ちゃんのペニスの先端が皮で包まれているのが心配なの。剝けると病気でないと聞いてみるので剝いてみるわね」と言って、右手で包皮を下に引き始めたが、皮が裂かれるような痛みが一瞬走ったので、僕は「痛いよ。止めて」と叫んだ。静香は一旦手を止めたが、「頭が半分はもう出ているわ。あと少しよ。我慢してね」と言って、一気に下に引き下げた。少し痛かっただけで、亀頭部が完全に露出した。
 「ああよかったわ。剝けたから心配ないわ。でも、先端の下の溝の部分に白い垢がついているわ。これからは、お風呂に入ったら、必ず皮を下げ、垢を洗い流すようにしなさいね」と言いながら、亀頭の下の溝についた垢を指で摘まんで除き、石鹸で泡立てた手で、亀頭とその下の溝を握りながら洗ってくれた。その瞬間、ぞくぞくするような快感が僕を貫いた。射精はなかったが、おそらくその時が、僕が性の喜びに目覚めた瞬間であったろう。
 
 
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