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第2章 静香の母性愛
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家は眼下に港が一望できる高台にあった。養父の金田鉄男(本名、金永基キム・ヨンギ)は、韓国から松茸や朝鮮人参を輸入する会社を経営しており、比較的裕福であったので、子供のいない夫婦二人きりの暮らしでは十分な広さであったが、さして広い家ではなかった。この北の港町ではありふれた造りで、玄関を入ると十畳ほどの居間と四畳ほどの台所があり、台所の右手に浴室と便所があった。その他、居間とふすまで仕切られた八畳ほどの部屋が二つあった。その二つの部屋は板の壁で仕切られていたが、その一部屋が僕に与えられ、もう一部屋が夫婦の寝室となった。
居間とふすまで隔てただけで、プライバシーがきちんと確保されているとは言えないものの、自分の個室をもらい、孤児院では四人部屋で暮らしていた僕は嬉しかった。養母は料理好きで、孤児院での食事とは比べようもない美味しさであった。養父は出張で家を留守にすることが多く、養母は一人寂しく食事をとることも多かったが、僕という子供ができたので、張り合いができ、三食とも工夫を凝らした手料理をふるまってくれた。
「食べたいものはないか。何が食べたいのか」いつも僕に聞いていた。食べたいと言った料理は必ず上手に作る人だった。僕は食が細い方だったので、盛りだくさんの料理を食べ残すことも多かったが、そんな時「どこか具合でも悪いの」と言いながら、僕の額に手を当てて、僕の顔を心配げに見つめる彼女の優しさは、僕をとても幸せにした。
彼女のふくよかな胸に顔を埋め甘えたいと思ったが、幼くして実母と死に別れた僕は母親に対する甘え方を知らなかった。同居するようになってまだ日が浅いので、遠慮や気恥ずかしさもあった。甘えることが出来るようになったきっかけは、養父が泊まりがけの出張で家を空けた時に起きた。
「今夜はお父さんがいないので、葵ちゃんの部屋で二人で寝ましょう」と静香が弾んだ声で言った。ふとんを二つ敷いて並んで寝ることになった。僕はうれしかった。別々の布団で寝たが、静香が隣から手を伸ばし、僕の頬を撫でた。掛布団を少し持ち上げて、「こちらにおいで」と言った。僕は、静香のふとんに滑り込んだ。静香の甘い匂いがした。僕が静香の胸に顔を埋めると、僕の髪をやさしく何度も撫でてくれた。
そして、僕を引き寄せ背中を上から下へさすり抱きしめてくれた。実母の記憶がほとんどない僕は、涙が少し出た。それから、養父がいない日は静香と並んで寝るのが習慣となった。僕は養父の泊まりの出張を心待ちにするようになった。
彼女にとって僕は可愛いお人形さんであった。彼女は僕を理髪店に頻繁に連れて行った。散髪のあいだじゅう、理髪台の隣に立ち、細々とヘアースタイルの指示を出した。そうすることが、とても楽しそうだった。
ミディアムスタイルであった僕の髪型は、後ろやサイドを刈り上げた見た目さっぱりのショートになったり、「これでは男の子っぽすぎるわ」と言って、短すぎず、少し長めの清楚で爽やかなヘアースタイルになったり、「やっぱり葵ちゃんには小学生のうちにしかできない可愛いい男子ボブが一番お似合いね」と言って、ミディアムに戻ったりした。彼女はどうしたら僕に似合う可愛い髪形になるかあれこれ悩む母であった。そして、僕がとても可愛い子供であることが自慢な母であった。
おしゃれな洋服もたくさん買ってくれた。毎日取っ替え引っ替え服を着替えさせられた、着せ替え人形のように、僕をコーディネートするのを楽しんでいた。シンプルでカジュアルな服装であったが、彼女の上品なセンスで選ばれており、見る人誰もが可愛いと言ってくれた。
居間とふすまで隔てただけで、プライバシーがきちんと確保されているとは言えないものの、自分の個室をもらい、孤児院では四人部屋で暮らしていた僕は嬉しかった。養母は料理好きで、孤児院での食事とは比べようもない美味しさであった。養父は出張で家を留守にすることが多く、養母は一人寂しく食事をとることも多かったが、僕という子供ができたので、張り合いができ、三食とも工夫を凝らした手料理をふるまってくれた。
「食べたいものはないか。何が食べたいのか」いつも僕に聞いていた。食べたいと言った料理は必ず上手に作る人だった。僕は食が細い方だったので、盛りだくさんの料理を食べ残すことも多かったが、そんな時「どこか具合でも悪いの」と言いながら、僕の額に手を当てて、僕の顔を心配げに見つめる彼女の優しさは、僕をとても幸せにした。
彼女のふくよかな胸に顔を埋め甘えたいと思ったが、幼くして実母と死に別れた僕は母親に対する甘え方を知らなかった。同居するようになってまだ日が浅いので、遠慮や気恥ずかしさもあった。甘えることが出来るようになったきっかけは、養父が泊まりがけの出張で家を空けた時に起きた。
「今夜はお父さんがいないので、葵ちゃんの部屋で二人で寝ましょう」と静香が弾んだ声で言った。ふとんを二つ敷いて並んで寝ることになった。僕はうれしかった。別々の布団で寝たが、静香が隣から手を伸ばし、僕の頬を撫でた。掛布団を少し持ち上げて、「こちらにおいで」と言った。僕は、静香のふとんに滑り込んだ。静香の甘い匂いがした。僕が静香の胸に顔を埋めると、僕の髪をやさしく何度も撫でてくれた。
そして、僕を引き寄せ背中を上から下へさすり抱きしめてくれた。実母の記憶がほとんどない僕は、涙が少し出た。それから、養父がいない日は静香と並んで寝るのが習慣となった。僕は養父の泊まりの出張を心待ちにするようになった。
彼女にとって僕は可愛いお人形さんであった。彼女は僕を理髪店に頻繁に連れて行った。散髪のあいだじゅう、理髪台の隣に立ち、細々とヘアースタイルの指示を出した。そうすることが、とても楽しそうだった。
ミディアムスタイルであった僕の髪型は、後ろやサイドを刈り上げた見た目さっぱりのショートになったり、「これでは男の子っぽすぎるわ」と言って、短すぎず、少し長めの清楚で爽やかなヘアースタイルになったり、「やっぱり葵ちゃんには小学生のうちにしかできない可愛いい男子ボブが一番お似合いね」と言って、ミディアムに戻ったりした。彼女はどうしたら僕に似合う可愛い髪形になるかあれこれ悩む母であった。そして、僕がとても可愛い子供であることが自慢な母であった。
おしゃれな洋服もたくさん買ってくれた。毎日取っ替え引っ替え服を着替えさせられた、着せ替え人形のように、僕をコーディネートするのを楽しんでいた。シンプルでカジュアルな服装であったが、彼女の上品なセンスで選ばれており、見る人誰もが可愛いと言ってくれた。
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