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EPILOGUE マリア Maria
終・12月25日
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一分が経ち日付が変わったが、祥太の腕の中で晃平はまだ目を覚まさずにいる。
「山﨑さん、ありがとうございました」
日付が変わったと同時。祥太が最後に放ったのは感謝を述べた言葉だった。
その意味を汲もうと、祥太の表情を覗き込む。目にはまだ大きな滴が溢れていたが、その姿はやはり慈愛に満ちたマリアに相違なかった。柔らかくなった祥太の表情には、晃平を殺さなくて済んだ安心の色が見えている。その安心の色が感謝の言葉を吐かせた事は間違いない事実だ。
晃平への復讐を胸に抱きながらも、晃平への愛を知った祥太。分離した気持ちの中で、充分に苦しんだはずだろう。それがようやく解き放たれたに違いない。
そんな祥太に抱かれ晃平はまだ目を覚まさずにいる。ベンゾジアゼピン系の薬の効果は、当分切れる事はないのだろう。
二人の姿に卒業旅行で訪れたサン・ピエトロ寺院を思い出す。あれは確かミケランジェロだ。
——ミケランジェロのピエタ像。
イエス・キリストの亡骸を抱く、マリアの姿に祥太が重なる。
晃平の目が開いた時。慈愛に満ちたこの祥太の姿を見せてやる事は出来ないが、祥太を殺人犯にしなくて済んだ事は伝える事が出来る。
それに今祥太の腕の中で眠りながらも、祥太の慈愛を感じているかもしれない。
例え真実を知ろうが、晃平の祥太への愛も変わらないだろう。何を受け止めようが祥太を憎む事などせず、ただ待ち続けるだろう事は容易く想像がつく。
——誕生日おめでとうございます。
晃平が今日で幾つになるのかは知らないが、口には出さずただ言祝を胸にする。
TAMTAM~十二使徒連続殺人事件~ (完)
「山﨑さん、ありがとうございました」
日付が変わったと同時。祥太が最後に放ったのは感謝を述べた言葉だった。
その意味を汲もうと、祥太の表情を覗き込む。目にはまだ大きな滴が溢れていたが、その姿はやはり慈愛に満ちたマリアに相違なかった。柔らかくなった祥太の表情には、晃平を殺さなくて済んだ安心の色が見えている。その安心の色が感謝の言葉を吐かせた事は間違いない事実だ。
晃平への復讐を胸に抱きながらも、晃平への愛を知った祥太。分離した気持ちの中で、充分に苦しんだはずだろう。それがようやく解き放たれたに違いない。
そんな祥太に抱かれ晃平はまだ目を覚まさずにいる。ベンゾジアゼピン系の薬の効果は、当分切れる事はないのだろう。
二人の姿に卒業旅行で訪れたサン・ピエトロ寺院を思い出す。あれは確かミケランジェロだ。
——ミケランジェロのピエタ像。
イエス・キリストの亡骸を抱く、マリアの姿に祥太が重なる。
晃平の目が開いた時。慈愛に満ちたこの祥太の姿を見せてやる事は出来ないが、祥太を殺人犯にしなくて済んだ事は伝える事が出来る。
それに今祥太の腕の中で眠りながらも、祥太の慈愛を感じているかもしれない。
例え真実を知ろうが、晃平の祥太への愛も変わらないだろう。何を受け止めようが祥太を憎む事などせず、ただ待ち続けるだろう事は容易く想像がつく。
——誕生日おめでとうございます。
晃平が今日で幾つになるのかは知らないが、口には出さずただ言祝を胸にする。
TAMTAM~十二使徒連続殺人事件~ (完)
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失礼致します、志賀です。
私事ですが現在は精神的に厳しそうな『冬のキリギリス』以外の貴作を読了しました。近況ボードに書かれていた御意見に賛同しまして、この貴作も応援したく駄文を寄せさせて頂いております。
各貴作を大変面白くも興味深く拝読致しました。かの翔吾様の書かれる作品はもっと評価されてしかるべきものと思います。数作品がホラー・ミステリー小説大賞で高順位に就かれているのを嬉しく拝見しつつ、良作に巡り合えた幸運と、誰よりも、かの翔吾様に御礼申し上げたく。
本当に有難うございます。
近々『冬のキリギリス』も拝読したいです。
志賀様
いつもありがとうございます。
ミステリーを書いてますが、その根本にはやり切れない気持ちが理由となるような、そんな話が好きなので、どうしても切なくなる話ばかりになるんです。「冬のキリギリス」も一応ミステリーに分類していますが、そんなやり切れない気持ちを書き綴ったと自負しております。
お時間、お心に余裕のある時にでも読了頂き、また感想を頂ければ幸いです。
面白かった……。十二使徒に合わせた連続殺人事件、被害者に共通するものと犯罪者TAMTAMとの関係は何か。冒頭から最後までずっとドキドキしながら拝読しました。名前から犯人の目処は立ちながら理由が全然見つからなくて、終章の開示にああ、そっか……、と。面白かったです……とても密な読書時間をいただきました。
ご読了頂きありがとうございます!
最後まで読んで頂けるのは本当に嬉しいです!