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第十章 タダイ Thaddaeus
Ⅴ・10月21日
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くしゅん。と、体格に似合わないくしゃみを晃平が放つ。晴れ渡った青い空の割には風は冷たく、シャツ一枚の晃平を不憫に思う。
「晃平さん。上着持って来ていないんですか? そんな格好じゃ寒いでしょ?」
「仕方ないだろ! 家と署の往復のつもりだったから、上着なんて持って来てないんだよ」
出署早々捕まえたのは申し訳ないが、もう十月も半ばを過ぎている。幾ら近いからとは言え、上着も持たずに出署した晃平に呆れた目を向ける。
不憫だと思ったさっきの一瞬は撤回だ。
相変わらず教会には見えないその外観に、両手で両腕をさすりながら、晃平が目を丸くしている。何処に連れて行かれるかは、分かっていたはずだが、その外観を教会と見るのは難しい。晃平のきょとんとした顔も納得がいく。
葉佑は早速インターホンを押し、門が開くのを待ち構えている。
「お待ちしておりました。どうぞ」
黒いキャソックに身を包んだ、サイモンの出迎えに、荘厳な中央祭壇を思い出す。
一歩踏み入れた庭を、ぐるりと見回してみる。
ダリアに迎えられたのは暑い夏の日だった。季節が変わり、ダリアはもうなかったが、白い小さな花が出迎えるように、庭一面に咲き誇っていた。
「この白い花は何の花ですか?」
名前を知らない白い花に小さな興味を持っただけだった。それなのにサイモンは丁寧に答えようとしてくれていた。
「えーっと、この白い花ですか? 少々お待ちください」
サイモンもその花の名前を知らない様子だった。
「いや、いいえ、大丈夫です。気にしないで下さい」
本題は花の名前ではない。余計な事に気を取られた事に後悔したが、サイモンが庭の隅にしゃがんでいた男に近付き声を掛けている。
「その白い花はオキザリスだそうです」
「あ、ありがとうございます。あの、そちらの方は?」
庭の隅にしゃがんでいる男の側には、山積みの球根があった。春のために植えているだろう、その球根に、この庭がその男の手によるものだと言う事を教えられる。
「拓海、ご挨拶しなさい」
サイモンが男に声を掛けているが、その男が顔を上げる事はない。サイモンと同じように、黒いキャソックを着ている事から、この教会の神父である事は想像できる。
「すみません。とりあえず事務所へ」
「はい、先日はありがとうございました。こちらは多摩川南署の田村巡査部長です」
葉佑が晃平へ掌を向け、サイモンに紹介している。
「ああ、田村さんなんですね。私も田村です」
サイモンが晃平のその名前に少しの驚きを見せる。同じ田村と言う名前に反応したのだろうが、何故か晃平の顔にも驚きが表れている。失礼なほど、サイモンの顔を盗み見している晃平を不思議に思い、そのシャツの袖を引く。
「晃平さん、失礼ですよ。そんなじろじろ見て。それとも知り合いなんですか?」
少し前を歩く葉佑とサイモンには、届かないほどの小さな声で尋ねる。
ああ。と、小さく返事をするが、晃平はそれ以上の事を何も言わない。どこかで見掛けた事があると言う程度なのだろうか。
教会へ足を踏み入れたのは一瞬の事で、中央祭壇をじっくりと堪能する時間も与えられず、すぐさま事務所へと促される。
晃平はサイモンの顔がよっぽど気になるのか、居心地が悪そうだ。だが葉佑は晃平の様子など気にする事なく、サイモンに勧められた椅子に、早々と腰を落としている。
「それでですね、サイモンさん。ご存じかとは思いますが、"TAMTAM"のSNSに新たな殺人予告が書込まれました。先日殺された田村慎一も、"TAMTAM"にフォローされていた一人です。あなたも"TAMTAM"にフォローされている一人として、くれぐれもご注意頂きたい」
サイモンへの忠告を葉佑が口にする。今までの状況を考えればサイモンが次の標的となる事は、容易く想像できる。——熱心党のシモン。名前まで同じなのだから。
「ご心配ありがとうございます」
穏やかな口調でサイモンが続ける。
「ですが心配は無用です。私は神に仕える身です。神が私の死を望むなら、それも神の思し召しだと思い、私は受け入れるでしょう。ですが、神が私の死を望むとは到底思えません。私はまだ神の言葉を、人々に伝道する役目を担っていますから」
サイモンの毅然とした態度に、葉佑は呆気なく言葉を失ってしまったようだ。
「そうですね。仰る通りです。あなたには神が付いていらっしゃる。神があなたの死を望む事はないでしょう。ですが用心に越した事はないです」
葉佑に代わって、力強くサイモンの目を見る。
何の自信の表れだろうか? やはり神の加護を受ける者の目には、一点の曇りもないのだろうか?
だがサイモンはその目を逸らした。
「重ね重ねありがとうございます」
葉佑にとってサイモンへの忠告はポーズでしかなかったのか、やり遂げた顔で全てを終わらせている。晃平の目はちらちらとサイモンを盗み見していたが、ようやく落ち着いたようだ。
「くれぐれもご注意を」
「ええ、分かっております」
同じ事を繰り返す、サイモンとのやり取りに、痺れを切らしたのか、葉佑が椅子から腰を上げる。
「そう言えば先ほど庭にいらっしゃった方も、こちらの神父さんですか?」
「ええ、そうですよ。先日研修先のスペインから帰ってきました」
話を変えた葉佑に対する、サイモンの答え。スペインと言うその国名に、前回訪れた時に、聞かされた話を思い出す。"TAMTAM"と思われる男の告解を受けたのは、サイモンではない。告解を受けた司祭はスペインに研修へ行っていた。
「先ほどの神父さんが"TAMTAM"だと思われる男から、告解を受けた方なんですね?」
「ええ、そうですよ」
「そうですか。それでは、先ほどの神父さんにお話を伺いたいのですが?」
「それは出来ません。何か不明な事がありましたら、私がなんなりとお答え致します」
サイモンが即答する。
一体どう言う事だろうか? 本人と話をさせて貰えれば簡単に済むところを、拒否すると言う事はどんな問題があるのだろう。
「どうしてですか? 直接お話を聞きたいのですが」
「今はそのような状況にありません」
「と、仰ると?」
葉佑も同様に興味を示している。前回の話を思い出したのだろう。
さっき庭の隅にしゃがみ込んでいた男を思い出す。サイモンより明らかに若い風貌だったが、黒いキャソック姿に違和感はなかった。神に仕えるに相応しい人格者である事は一目で解る。
「お恥ずかしい話ですが、口を開かないんですよ。ゆるしの秘跡で受けた話に囚われないよう、スペインでの研修に参加させたのですが、それもあまり意味がなかったようで。向こうでも一度も口を開かなかったようです。勿論、沈黙は美徳です。それに外国人なので言葉の問題もあるだろうと、向こうでもそれほど気にはされなかったんですが」
「戻られてからも、ずっと口を閉ざしたままなのですか?」
「ええ、なので申し訳ないですが、直接お話頂けない状況です。何かありましたら、拓海に代わって私が何なりとお答えさせて頂きます」
「えっ? 拓海さんと仰るんですか?」
その名前に先に引っ掛かったのは葉佑だった。晃平に充てられたメッセージを思い出す。
「ええ、田村拓海です。元は孤児だったんですが、今は私と養子縁組を。ただ信者さん達には弟であると伝えています。下手な詮索をされては、拓海が気の毒なので」
「田村拓海なんですね!」
急に大きくなった葉佑の声に、晃平が驚いている。田村拓海の名前は、晃平の耳にも入っているはずだ。
「一つお伺いしたいのですが」
「何でしょうか?」
恐る恐るサイモンへ質問をぶつける。
「"TAMTAM"にフォローされている、アカウントの中に"TAKUMI1028"と言うもがあります。もしかして拓海さんのアカウントではないでしょうか?」
「ええ、そうですよ。私があのアカウントに連絡を取る前にすでにフォローされていました。ですがもう拓海のアカウントは、凍結しているはずですよ。フォローはされていますが、もう何の関りもありません」
サイモンの口調が、少し強くなったように思えた。晃平に宛てられたメッセージ。その事を伝えるべきではあるが、どのように切り出すべきか。
口調が強くなった、サイモンの怒りを買う訳にはいかない。そんな思いで、上手く話してくれと、葉佑に目を合わせる。
「えーと、どこからお話すればいいか」
「何でしょうか?」
切り出し方に困っている、葉佑の態度に気付いたのか、サイモンの声は明らかに大きく、その口調は一段と強くなっている。
「すみません。お話に割り込んで申し訳ないのですが。実は私も"TAMTAM"にフォローされている、アカウントの一人です。その私のアカウントに"TAKUMI1028"のアカウントから、メッセージがありました」
「拓海からあなたにメッセージですか?」
場の空気を変えてくれたのは晃平だった。サイモンの口調に強さはなく、聞き慣れた穏やかな声に戻っていた。
「はい、ですがその内容が少し気になるもので」
「どのようなメッセージを、拓海は送ったのですか?」
「それが、タダイは自分だと、次に殺されるのは自分だと、そんな内容のメッセージを送ってこられました」
「えっ? 次に殺されるのは自分だと、拓海が殺されるのは自分だと怯えているのですか? そんなメッセージが?」
サイモンの表情が変わる。口を開かなくなった拓海の声を、一番欲しているのは、サイモンに違いない。例え他人に送られたメッセージであれ、拓海の意思に心を揺さぶられてしまったのだろう。
「ただ、少し意味が分からないのですが、ハロウィンに"TAMTAM"からプレゼントがあると、そんなメッセージも送られてきました」
「どう言う意味ですか?」
「すみません。それは私にも分かりません。ただ一つ言える事は、あなたと拓海さんが、"TAMTAM"の標的にされる、可能性があると言う事です。現に拓海さんは、次に殺されるのは自分だと言っています。どうか、ご自身と、拓海さんにも注意を払われて下さい」
メッセージの内容とは、少しニュアンスが違うが、晃平の言葉で全てを伝えられたように思えた。
一週間後だ。
十月二十八日。
奴の手に掛からないように、充分注意して貰えればそれでいい。田村拓海の口から、直接話を聞きたいが、無理にその口をこじ開ける事は出来ない。サイモン神父には自身と、拓海に注意を払って、十月二十九日を迎えて貰うしかない。
「晃平さん。上着持って来ていないんですか? そんな格好じゃ寒いでしょ?」
「仕方ないだろ! 家と署の往復のつもりだったから、上着なんて持って来てないんだよ」
出署早々捕まえたのは申し訳ないが、もう十月も半ばを過ぎている。幾ら近いからとは言え、上着も持たずに出署した晃平に呆れた目を向ける。
不憫だと思ったさっきの一瞬は撤回だ。
相変わらず教会には見えないその外観に、両手で両腕をさすりながら、晃平が目を丸くしている。何処に連れて行かれるかは、分かっていたはずだが、その外観を教会と見るのは難しい。晃平のきょとんとした顔も納得がいく。
葉佑は早速インターホンを押し、門が開くのを待ち構えている。
「お待ちしておりました。どうぞ」
黒いキャソックに身を包んだ、サイモンの出迎えに、荘厳な中央祭壇を思い出す。
一歩踏み入れた庭を、ぐるりと見回してみる。
ダリアに迎えられたのは暑い夏の日だった。季節が変わり、ダリアはもうなかったが、白い小さな花が出迎えるように、庭一面に咲き誇っていた。
「この白い花は何の花ですか?」
名前を知らない白い花に小さな興味を持っただけだった。それなのにサイモンは丁寧に答えようとしてくれていた。
「えーっと、この白い花ですか? 少々お待ちください」
サイモンもその花の名前を知らない様子だった。
「いや、いいえ、大丈夫です。気にしないで下さい」
本題は花の名前ではない。余計な事に気を取られた事に後悔したが、サイモンが庭の隅にしゃがんでいた男に近付き声を掛けている。
「その白い花はオキザリスだそうです」
「あ、ありがとうございます。あの、そちらの方は?」
庭の隅にしゃがんでいる男の側には、山積みの球根があった。春のために植えているだろう、その球根に、この庭がその男の手によるものだと言う事を教えられる。
「拓海、ご挨拶しなさい」
サイモンが男に声を掛けているが、その男が顔を上げる事はない。サイモンと同じように、黒いキャソックを着ている事から、この教会の神父である事は想像できる。
「すみません。とりあえず事務所へ」
「はい、先日はありがとうございました。こちらは多摩川南署の田村巡査部長です」
葉佑が晃平へ掌を向け、サイモンに紹介している。
「ああ、田村さんなんですね。私も田村です」
サイモンが晃平のその名前に少しの驚きを見せる。同じ田村と言う名前に反応したのだろうが、何故か晃平の顔にも驚きが表れている。失礼なほど、サイモンの顔を盗み見している晃平を不思議に思い、そのシャツの袖を引く。
「晃平さん、失礼ですよ。そんなじろじろ見て。それとも知り合いなんですか?」
少し前を歩く葉佑とサイモンには、届かないほどの小さな声で尋ねる。
ああ。と、小さく返事をするが、晃平はそれ以上の事を何も言わない。どこかで見掛けた事があると言う程度なのだろうか。
教会へ足を踏み入れたのは一瞬の事で、中央祭壇をじっくりと堪能する時間も与えられず、すぐさま事務所へと促される。
晃平はサイモンの顔がよっぽど気になるのか、居心地が悪そうだ。だが葉佑は晃平の様子など気にする事なく、サイモンに勧められた椅子に、早々と腰を落としている。
「それでですね、サイモンさん。ご存じかとは思いますが、"TAMTAM"のSNSに新たな殺人予告が書込まれました。先日殺された田村慎一も、"TAMTAM"にフォローされていた一人です。あなたも"TAMTAM"にフォローされている一人として、くれぐれもご注意頂きたい」
サイモンへの忠告を葉佑が口にする。今までの状況を考えればサイモンが次の標的となる事は、容易く想像できる。——熱心党のシモン。名前まで同じなのだから。
「ご心配ありがとうございます」
穏やかな口調でサイモンが続ける。
「ですが心配は無用です。私は神に仕える身です。神が私の死を望むなら、それも神の思し召しだと思い、私は受け入れるでしょう。ですが、神が私の死を望むとは到底思えません。私はまだ神の言葉を、人々に伝道する役目を担っていますから」
サイモンの毅然とした態度に、葉佑は呆気なく言葉を失ってしまったようだ。
「そうですね。仰る通りです。あなたには神が付いていらっしゃる。神があなたの死を望む事はないでしょう。ですが用心に越した事はないです」
葉佑に代わって、力強くサイモンの目を見る。
何の自信の表れだろうか? やはり神の加護を受ける者の目には、一点の曇りもないのだろうか?
だがサイモンはその目を逸らした。
「重ね重ねありがとうございます」
葉佑にとってサイモンへの忠告はポーズでしかなかったのか、やり遂げた顔で全てを終わらせている。晃平の目はちらちらとサイモンを盗み見していたが、ようやく落ち着いたようだ。
「くれぐれもご注意を」
「ええ、分かっております」
同じ事を繰り返す、サイモンとのやり取りに、痺れを切らしたのか、葉佑が椅子から腰を上げる。
「そう言えば先ほど庭にいらっしゃった方も、こちらの神父さんですか?」
「ええ、そうですよ。先日研修先のスペインから帰ってきました」
話を変えた葉佑に対する、サイモンの答え。スペインと言うその国名に、前回訪れた時に、聞かされた話を思い出す。"TAMTAM"と思われる男の告解を受けたのは、サイモンではない。告解を受けた司祭はスペインに研修へ行っていた。
「先ほどの神父さんが"TAMTAM"だと思われる男から、告解を受けた方なんですね?」
「ええ、そうですよ」
「そうですか。それでは、先ほどの神父さんにお話を伺いたいのですが?」
「それは出来ません。何か不明な事がありましたら、私がなんなりとお答え致します」
サイモンが即答する。
一体どう言う事だろうか? 本人と話をさせて貰えれば簡単に済むところを、拒否すると言う事はどんな問題があるのだろう。
「どうしてですか? 直接お話を聞きたいのですが」
「今はそのような状況にありません」
「と、仰ると?」
葉佑も同様に興味を示している。前回の話を思い出したのだろう。
さっき庭の隅にしゃがみ込んでいた男を思い出す。サイモンより明らかに若い風貌だったが、黒いキャソック姿に違和感はなかった。神に仕えるに相応しい人格者である事は一目で解る。
「お恥ずかしい話ですが、口を開かないんですよ。ゆるしの秘跡で受けた話に囚われないよう、スペインでの研修に参加させたのですが、それもあまり意味がなかったようで。向こうでも一度も口を開かなかったようです。勿論、沈黙は美徳です。それに外国人なので言葉の問題もあるだろうと、向こうでもそれほど気にはされなかったんですが」
「戻られてからも、ずっと口を閉ざしたままなのですか?」
「ええ、なので申し訳ないですが、直接お話頂けない状況です。何かありましたら、拓海に代わって私が何なりとお答えさせて頂きます」
「えっ? 拓海さんと仰るんですか?」
その名前に先に引っ掛かったのは葉佑だった。晃平に充てられたメッセージを思い出す。
「ええ、田村拓海です。元は孤児だったんですが、今は私と養子縁組を。ただ信者さん達には弟であると伝えています。下手な詮索をされては、拓海が気の毒なので」
「田村拓海なんですね!」
急に大きくなった葉佑の声に、晃平が驚いている。田村拓海の名前は、晃平の耳にも入っているはずだ。
「一つお伺いしたいのですが」
「何でしょうか?」
恐る恐るサイモンへ質問をぶつける。
「"TAMTAM"にフォローされている、アカウントの中に"TAKUMI1028"と言うもがあります。もしかして拓海さんのアカウントではないでしょうか?」
「ええ、そうですよ。私があのアカウントに連絡を取る前にすでにフォローされていました。ですがもう拓海のアカウントは、凍結しているはずですよ。フォローはされていますが、もう何の関りもありません」
サイモンの口調が、少し強くなったように思えた。晃平に宛てられたメッセージ。その事を伝えるべきではあるが、どのように切り出すべきか。
口調が強くなった、サイモンの怒りを買う訳にはいかない。そんな思いで、上手く話してくれと、葉佑に目を合わせる。
「えーと、どこからお話すればいいか」
「何でしょうか?」
切り出し方に困っている、葉佑の態度に気付いたのか、サイモンの声は明らかに大きく、その口調は一段と強くなっている。
「すみません。お話に割り込んで申し訳ないのですが。実は私も"TAMTAM"にフォローされている、アカウントの一人です。その私のアカウントに"TAKUMI1028"のアカウントから、メッセージがありました」
「拓海からあなたにメッセージですか?」
場の空気を変えてくれたのは晃平だった。サイモンの口調に強さはなく、聞き慣れた穏やかな声に戻っていた。
「はい、ですがその内容が少し気になるもので」
「どのようなメッセージを、拓海は送ったのですか?」
「それが、タダイは自分だと、次に殺されるのは自分だと、そんな内容のメッセージを送ってこられました」
「えっ? 次に殺されるのは自分だと、拓海が殺されるのは自分だと怯えているのですか? そんなメッセージが?」
サイモンの表情が変わる。口を開かなくなった拓海の声を、一番欲しているのは、サイモンに違いない。例え他人に送られたメッセージであれ、拓海の意思に心を揺さぶられてしまったのだろう。
「ただ、少し意味が分からないのですが、ハロウィンに"TAMTAM"からプレゼントがあると、そんなメッセージも送られてきました」
「どう言う意味ですか?」
「すみません。それは私にも分かりません。ただ一つ言える事は、あなたと拓海さんが、"TAMTAM"の標的にされる、可能性があると言う事です。現に拓海さんは、次に殺されるのは自分だと言っています。どうか、ご自身と、拓海さんにも注意を払われて下さい」
メッセージの内容とは、少しニュアンスが違うが、晃平の言葉で全てを伝えられたように思えた。
一週間後だ。
十月二十八日。
奴の手に掛からないように、充分注意して貰えればそれでいい。田村拓海の口から、直接話を聞きたいが、無理にその口をこじ開ける事は出来ない。サイモン神父には自身と、拓海に注意を払って、十月二十九日を迎えて貰うしかない。
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