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Chapter 6 『シングルマン』
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署の車で向かう君生に便乗しておけば良かったものを、小旅行と勘違いでもしたのか、直樹は電車での移動を選んでいた。
「何でわざわざ電車なんだ?」
「だって幾らフーデリで足腰を鍛えているからって、山梨までチャリなんて無理じゃない。秀三、車持っていないし」
新宿駅から乗った特急を甲府で乗り換え、更に十五分だ。直樹へ愚痴を零しながら降り立った韮崎駅。待合せの十時迄はまだ時間があったが、大きな駅ではない。
駅舎を出てすぐの所に、既に合流を済ませた君生と蔵前の姿を見つける。後は小峰だけだが、考えてみれば君生も蔵前も小峰の顔は知らない。それは小峰から見ても同じ事だ。大きくはないロータリーに首を回す。するとこちらの様子に気付いた一人の男が、車を降り近付いて来た。小峰駿だ。
「……辻山さん。今日は本当にありがとうございます」
小峰に会釈され、小峰を君生と蔵前に、蔵前と君生を小峰へと紹介する。小峰の都合に合わせ、土曜日となった墓参りだが、前城の死から四日も待った事に、君生は何故か不満な様子だった。
「早く行きましょうよ!」
君生とは対称的にやけにテンションを上げる直樹。だが一番のオマケだとも言える直樹をわざわざ小峰に紹介する必要はない。
「これで皆さんお揃いでしょうか? お揃いでしたら参りましょう。私共の墓地がある霊園までは二十分程です。私が先導致しますので。それと辻山さんと新井さんはどうぞ私の車にお越し下さい」
君生と小峰を先導する蔵前の車は、韮崎駅を出発してすぐに高速へと上がった。
「中央道ですか?」
「ええ。一区間ですが、下道だと結構な時間が掛かるんです」
バックミラーに君生の姿が映り込む。隣のゲートには小峰の車だ。蔵前より先に行かないようにと、小峰はこちらの様子を窺っている。小峰の後ろには白いワゴン車。その車体には警視庁の文字。
——警視庁?
見慣れたそのワゴン車は警視庁の鑑識車だった。どうして警視庁の鑑識車が山梨の、しかもこんな田舎を走っているんだ? バックミラーには小峰の姿が映り込む。嫌な胸騒ぎしか起こさない白いワゴン車の姿はもう見えない。先導する蔵前の後ろには小峰、きっと君生はその後ろに続いているはずだ。もしさっきのワゴン車が君生に続いていたら……。
「……着きました」
蔵前が広い駐車場の一角に車を停める。駐車場の入口には小峰、その後ろに君生の車も見える。
「広い霊園ですが、私達の共同墓地は比較的この入口に近い所にあります。この辺りです」
駐車場の脇に立てられた案内地図を蔵前が指差す。確かにその指先は地図に書かれた入口の文字のすぐ右横を差している。
「それでは蔵前さん。前城代表の墓へ案内して下さい」
車を降りて早々、君生は何を焦っているのだろう。
そんな君生より先に駐車場に入ったはずの小峰だが、近くにその姿はなかった。それは直樹も同じだったが、その理由はすぐに知る事が出来た。
水を張っただろう手桶を重そうに手にする直樹。小峰は胸に供花を抱えている。墓参りに相応しい二人の姿に、尚更君生の態度が引っ掛かる。
「ええ。準備が宜しければ参りましょう」
蔵前が歩き出す。
駐車場の一角に設けられた霊園への小さな門を潜る。霊園公園となっているからだろうか、門を潜ったからと言って、すぐに墓地が見えてくる訳でもない。舗装もされていない道は林の中の小径と言う表現が似合う。そんな小径が二手に分かれ、右手への小径を蔵前が選んだ時。木々の隙間に白い石棺のような物が見え始めた。
「ここが私達の共同墓地です」
一角には白い石棺のような物が所狭しと並んでいた。土葬だと聞いてはいたが、あの石棺の中に死者を納めているのだろうか?
「これって、これが石棺で、この中に眠っているんですか?」
何にでも興味を示す直樹が同じ疑問を抱き口にする。そんな疑問の意図をすぐに理解した蔵前は一番近くの石棺の横に腰を下ろしている。
「石棺を模してはいますが、これが墓石です。この墓石の中に眠っている訳ではありません。死者は土の中です。死者が眠る石棺が土の中に埋められ、その上に石棺を模した墓石が置かれています」
イスラム教徒の墓を訪れるのは初めての事だ。蔵前の説明がなければ間違った認識を持っていただろう。
「……それで和弥の墓は何処ですか?」
供花を胸にした小峰が蔵前へ向かう。
「前城代表の墓は中央の奥です。少しですが墓石の大きなあのお墓です。二つ並んだ左が父、高幡宗一郎の墓です。そして右手が前城代表の墓になります」
前城が成田和弥である事は小峰も認識できている事なんだろう。蔵前の言葉を迷いなく拾っている。
その時だ。突然、君生が大きく右腕を挙げた。
それが合図だった。
どこに潜んでいたのか、制服の数人。いや、制服の七人に囲まれる。鑑識だ。さっきの警視庁の白いワゴン車。
「どう言う事だ?」
怒りを滲ませた大きな声を君生へぶつける。
「前城氏の、いえ、成田和弥の墓を確認させて頂きます。本当にここに眠っているのが成田和弥なのかどうか」
君生が見せた焦りの理由を教えられる。だがそんな事は許される事ではない。ここは死者が眠る墓だ。
「確認って、まさか君ちゃん。お墓を暴くって事?」
狼狽える直樹。
「和弥を掘り起こすって事ですか?」
小峰の胸から供花が滑り落ちる。
「墓を暴くなんて、そんな事が許されるはずないでしょう。神を冒涜するおつもりですか」
蔵前の声には明らかな怒りが見える。当たり前の反応だ。神に仕える者でなくとも、そんな冒涜が許されない事は解る。
「……令状です」
誰の声にも耳を貸さず、言い切る君生。
「成田和弥の両親からも了承は得ています。本当に成田和弥なのかどうか、DNA鑑定のためです。ご協力お願いします」
既に七人の鑑識は成田の墓を囲んでいる。
君生の行動は制止したいが、令状を見せられては手立てがない。君生の中でもう一人の殺人犯は成田だと断定されたのだろうか? もしこの墓に眠る人物が成田ではなく、別人だったら? そんな小さな望みが、神を冒涜する行為をも、駆り立てたのだろうか。
蔵前にしろ小峰にしろ常識は持ち合わせている。令状を見せられた上で抵抗なんて、出来るはずはない。ただ鑑識に囲まれた成田の墓へ、虚ろな目を向ける二人。そんな二人を差し置いて騒ぐ事は出来ないだろう直樹も黙ったままだ。
三人の目はただ成田の墓へと向かっている。何かを口にする事もなく、ただぼんやりと墓が掘り起こされる様子を眺めている。そんな三人にも掛ける言葉を見出せず同じように成田の墓へ目を向けていた時。
「……長谷沼さん。大変です。来て下さい」
君生を呼ぶ鑑識の声に、足が勝手に成田の墓へと向かう。
「この墓は空です!」
大きくなる鑑識の声。
——空? どう言う事だ?
君生に続き駆け寄った成田の墓。鑑識の手によって外された、石棺を模した墓石。掘り起こされた土の小さな山。目の前にあるものは確かに今、鑑識によって掘り起こされた墓ではあるが、目に飛び込むものはただの空洞だけだ。石棺の形をした空洞。
誰かが先に暴いたのか? いや、違う。
——聞かされています。
小さな引っ掛かりを思い出す。
「蔵前さんは亡くなった成田を、いえ、亡くなった前城代表の姿を見ていますか? 亡くなった後その目で確かめられましたか?」
墓が空だった事に蔵前と小峰と直樹も大きな動揺を見せている。そんな中、蔵前一人に焦点を絞り、誤答を招かないための疑問を投げる。
「……いえ、聞かされただけです」
少しの間を作り、蔵前がぼそりと答える。
「それは誰に? 誰に前城代表の死を聞かされたのですか?」
「それは……」
蔵前の目線の先には立ち並んだ木々だ。木々の隙間、その遠くへと目線を運び自らの記憶を捲っている。
「それは髭面の男からです」
——髭面の男。前城一樹。
前城が成田の死を偽装したと言う事か。何のためにだ? いや、答えはもう出ていたじゃないか。今野、高橋、河野。三人への復讐のためだ。記憶を取り戻した成田が復讐するためだ。いや、復讐のためなら成田の死を偽装する必要なんてない。どうして成田の死を偽装する必要があった? どうして成田の存在を消す必要があった? 生きている成田が復讐の邪魔となる事。
——そうか、河野だ。
河野はワーリン・ダーヴィッシュを取材していた。当然、河野は成田の存在に気付いていたはずだ。そんな河野を殺害するためには、成田の存在は邪魔だ。成田を嗅ぎまわっていた河野。もし成田が死亡したとなれば、河野の矛先がワーリン・ダーヴィッシュに向けられる事はあっても、成田個人に向く事はない。
「……秀三さん。今すぐ東京に戻ります」
もうこんな空の墓には用はないと言う事か。それとも今弾き出した事を、君生も弾き出せたと言うのか。
「……どうしてだ?」
「やはり成田は生きています。あの前城のスマホです。復元された画像にはしっかりと白装束の成田の姿が映っていたらしいです」
「えっ? 和弥が……」
小峰が崩れ落ちる。
十七年だ。成田の墓に手を合わせ、ようやく十七年に蹴りを着けるつもりだった小峰。そんな小峰の肩を直樹が抱き寄せる。
「成田和弥を全国指名手配します」
刑事として意気込むのも無理はないが、成田は既に復讐を成し遂げている。今野、高橋、河野の三人を殺害。もし前城が生きていれば、その復讐を企てるかもしれないが、前城は自殺した。そうなれば残された成田の目的は一つしかない。
「おい、君生。東京までは、どれ位で戻れる?」
「二時間位だと思います」
「急ごう」
成田の目的は一つだ。前城の死を既に成田が知っているかは分からないが、その死を知れば最後の目的を達成するだろう。全国指名手配なんて無意味なものだ。
「何でわざわざ電車なんだ?」
「だって幾らフーデリで足腰を鍛えているからって、山梨までチャリなんて無理じゃない。秀三、車持っていないし」
新宿駅から乗った特急を甲府で乗り換え、更に十五分だ。直樹へ愚痴を零しながら降り立った韮崎駅。待合せの十時迄はまだ時間があったが、大きな駅ではない。
駅舎を出てすぐの所に、既に合流を済ませた君生と蔵前の姿を見つける。後は小峰だけだが、考えてみれば君生も蔵前も小峰の顔は知らない。それは小峰から見ても同じ事だ。大きくはないロータリーに首を回す。するとこちらの様子に気付いた一人の男が、車を降り近付いて来た。小峰駿だ。
「……辻山さん。今日は本当にありがとうございます」
小峰に会釈され、小峰を君生と蔵前に、蔵前と君生を小峰へと紹介する。小峰の都合に合わせ、土曜日となった墓参りだが、前城の死から四日も待った事に、君生は何故か不満な様子だった。
「早く行きましょうよ!」
君生とは対称的にやけにテンションを上げる直樹。だが一番のオマケだとも言える直樹をわざわざ小峰に紹介する必要はない。
「これで皆さんお揃いでしょうか? お揃いでしたら参りましょう。私共の墓地がある霊園までは二十分程です。私が先導致しますので。それと辻山さんと新井さんはどうぞ私の車にお越し下さい」
君生と小峰を先導する蔵前の車は、韮崎駅を出発してすぐに高速へと上がった。
「中央道ですか?」
「ええ。一区間ですが、下道だと結構な時間が掛かるんです」
バックミラーに君生の姿が映り込む。隣のゲートには小峰の車だ。蔵前より先に行かないようにと、小峰はこちらの様子を窺っている。小峰の後ろには白いワゴン車。その車体には警視庁の文字。
——警視庁?
見慣れたそのワゴン車は警視庁の鑑識車だった。どうして警視庁の鑑識車が山梨の、しかもこんな田舎を走っているんだ? バックミラーには小峰の姿が映り込む。嫌な胸騒ぎしか起こさない白いワゴン車の姿はもう見えない。先導する蔵前の後ろには小峰、きっと君生はその後ろに続いているはずだ。もしさっきのワゴン車が君生に続いていたら……。
「……着きました」
蔵前が広い駐車場の一角に車を停める。駐車場の入口には小峰、その後ろに君生の車も見える。
「広い霊園ですが、私達の共同墓地は比較的この入口に近い所にあります。この辺りです」
駐車場の脇に立てられた案内地図を蔵前が指差す。確かにその指先は地図に書かれた入口の文字のすぐ右横を差している。
「それでは蔵前さん。前城代表の墓へ案内して下さい」
車を降りて早々、君生は何を焦っているのだろう。
そんな君生より先に駐車場に入ったはずの小峰だが、近くにその姿はなかった。それは直樹も同じだったが、その理由はすぐに知る事が出来た。
水を張っただろう手桶を重そうに手にする直樹。小峰は胸に供花を抱えている。墓参りに相応しい二人の姿に、尚更君生の態度が引っ掛かる。
「ええ。準備が宜しければ参りましょう」
蔵前が歩き出す。
駐車場の一角に設けられた霊園への小さな門を潜る。霊園公園となっているからだろうか、門を潜ったからと言って、すぐに墓地が見えてくる訳でもない。舗装もされていない道は林の中の小径と言う表現が似合う。そんな小径が二手に分かれ、右手への小径を蔵前が選んだ時。木々の隙間に白い石棺のような物が見え始めた。
「ここが私達の共同墓地です」
一角には白い石棺のような物が所狭しと並んでいた。土葬だと聞いてはいたが、あの石棺の中に死者を納めているのだろうか?
「これって、これが石棺で、この中に眠っているんですか?」
何にでも興味を示す直樹が同じ疑問を抱き口にする。そんな疑問の意図をすぐに理解した蔵前は一番近くの石棺の横に腰を下ろしている。
「石棺を模してはいますが、これが墓石です。この墓石の中に眠っている訳ではありません。死者は土の中です。死者が眠る石棺が土の中に埋められ、その上に石棺を模した墓石が置かれています」
イスラム教徒の墓を訪れるのは初めての事だ。蔵前の説明がなければ間違った認識を持っていただろう。
「……それで和弥の墓は何処ですか?」
供花を胸にした小峰が蔵前へ向かう。
「前城代表の墓は中央の奥です。少しですが墓石の大きなあのお墓です。二つ並んだ左が父、高幡宗一郎の墓です。そして右手が前城代表の墓になります」
前城が成田和弥である事は小峰も認識できている事なんだろう。蔵前の言葉を迷いなく拾っている。
その時だ。突然、君生が大きく右腕を挙げた。
それが合図だった。
どこに潜んでいたのか、制服の数人。いや、制服の七人に囲まれる。鑑識だ。さっきの警視庁の白いワゴン車。
「どう言う事だ?」
怒りを滲ませた大きな声を君生へぶつける。
「前城氏の、いえ、成田和弥の墓を確認させて頂きます。本当にここに眠っているのが成田和弥なのかどうか」
君生が見せた焦りの理由を教えられる。だがそんな事は許される事ではない。ここは死者が眠る墓だ。
「確認って、まさか君ちゃん。お墓を暴くって事?」
狼狽える直樹。
「和弥を掘り起こすって事ですか?」
小峰の胸から供花が滑り落ちる。
「墓を暴くなんて、そんな事が許されるはずないでしょう。神を冒涜するおつもりですか」
蔵前の声には明らかな怒りが見える。当たり前の反応だ。神に仕える者でなくとも、そんな冒涜が許されない事は解る。
「……令状です」
誰の声にも耳を貸さず、言い切る君生。
「成田和弥の両親からも了承は得ています。本当に成田和弥なのかどうか、DNA鑑定のためです。ご協力お願いします」
既に七人の鑑識は成田の墓を囲んでいる。
君生の行動は制止したいが、令状を見せられては手立てがない。君生の中でもう一人の殺人犯は成田だと断定されたのだろうか? もしこの墓に眠る人物が成田ではなく、別人だったら? そんな小さな望みが、神を冒涜する行為をも、駆り立てたのだろうか。
蔵前にしろ小峰にしろ常識は持ち合わせている。令状を見せられた上で抵抗なんて、出来るはずはない。ただ鑑識に囲まれた成田の墓へ、虚ろな目を向ける二人。そんな二人を差し置いて騒ぐ事は出来ないだろう直樹も黙ったままだ。
三人の目はただ成田の墓へと向かっている。何かを口にする事もなく、ただぼんやりと墓が掘り起こされる様子を眺めている。そんな三人にも掛ける言葉を見出せず同じように成田の墓へ目を向けていた時。
「……長谷沼さん。大変です。来て下さい」
君生を呼ぶ鑑識の声に、足が勝手に成田の墓へと向かう。
「この墓は空です!」
大きくなる鑑識の声。
——空? どう言う事だ?
君生に続き駆け寄った成田の墓。鑑識の手によって外された、石棺を模した墓石。掘り起こされた土の小さな山。目の前にあるものは確かに今、鑑識によって掘り起こされた墓ではあるが、目に飛び込むものはただの空洞だけだ。石棺の形をした空洞。
誰かが先に暴いたのか? いや、違う。
——聞かされています。
小さな引っ掛かりを思い出す。
「蔵前さんは亡くなった成田を、いえ、亡くなった前城代表の姿を見ていますか? 亡くなった後その目で確かめられましたか?」
墓が空だった事に蔵前と小峰と直樹も大きな動揺を見せている。そんな中、蔵前一人に焦点を絞り、誤答を招かないための疑問を投げる。
「……いえ、聞かされただけです」
少しの間を作り、蔵前がぼそりと答える。
「それは誰に? 誰に前城代表の死を聞かされたのですか?」
「それは……」
蔵前の目線の先には立ち並んだ木々だ。木々の隙間、その遠くへと目線を運び自らの記憶を捲っている。
「それは髭面の男からです」
——髭面の男。前城一樹。
前城が成田の死を偽装したと言う事か。何のためにだ? いや、答えはもう出ていたじゃないか。今野、高橋、河野。三人への復讐のためだ。記憶を取り戻した成田が復讐するためだ。いや、復讐のためなら成田の死を偽装する必要なんてない。どうして成田の死を偽装する必要があった? どうして成田の存在を消す必要があった? 生きている成田が復讐の邪魔となる事。
——そうか、河野だ。
河野はワーリン・ダーヴィッシュを取材していた。当然、河野は成田の存在に気付いていたはずだ。そんな河野を殺害するためには、成田の存在は邪魔だ。成田を嗅ぎまわっていた河野。もし成田が死亡したとなれば、河野の矛先がワーリン・ダーヴィッシュに向けられる事はあっても、成田個人に向く事はない。
「……秀三さん。今すぐ東京に戻ります」
もうこんな空の墓には用はないと言う事か。それとも今弾き出した事を、君生も弾き出せたと言うのか。
「……どうしてだ?」
「やはり成田は生きています。あの前城のスマホです。復元された画像にはしっかりと白装束の成田の姿が映っていたらしいです」
「えっ? 和弥が……」
小峰が崩れ落ちる。
十七年だ。成田の墓に手を合わせ、ようやく十七年に蹴りを着けるつもりだった小峰。そんな小峰の肩を直樹が抱き寄せる。
「成田和弥を全国指名手配します」
刑事として意気込むのも無理はないが、成田は既に復讐を成し遂げている。今野、高橋、河野の三人を殺害。もし前城が生きていれば、その復讐を企てるかもしれないが、前城は自殺した。そうなれば残された成田の目的は一つしかない。
「おい、君生。東京までは、どれ位で戻れる?」
「二時間位だと思います」
「急ごう」
成田の目的は一つだ。前城の死を既に成田が知っているかは分からないが、その死を知れば最後の目的を達成するだろう。全国指名手配なんて無意味なものだ。
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