暁のミッドウェー

三笠 陣

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補論4 海戦の結果による建造計画への影響

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 史実ミッドウェー海戦後、日本は艦艇の建造計画を大幅に変更しました。
 一九四一年九月二十一日に軍令部側より商議されたとされる第五次海軍軍備補充計画(通称「⑤計画」)はミッドウェー海戦の敗北により当初の計画を大幅に変更し、いわゆる改⑤計画として雲龍型空母の量産などが図られることになります。
 雲龍はそもそも一九四一年の「昭和十六年度戦時艦船及航空兵力拡充ニ関スル件」、いわゆる「マル急計画」で建造が決定された艦で、上記⑤計画で二番艦天城、三番艦葛城までの建造が決定され、さらに改⑤計画で四番艦笠置以降の艦が建造されることになります。
 さらに史実ではミッドウェー海戦敗北の結果、雲龍型の量産の他に第四次海軍軍備充実計画(通称「④計画」)で建造が始まった大和型戦艦三番艦信濃の空母化、マル急計画の重巡伊吹の空母化などが次々に行われることになります。
 しかし、作中ミッドウェー海戦では、史実と違って空母の喪失は一隻もありません。
 では、開戦前の計画通りに各種艦艇の建造が行われるかといえば、そういうことにはならないでしょう。
 すでに史実ではミッドウェー海戦前から空母の建造を優先すべきという意見が出ていました。
 宇垣纏の記した『戦藻録』の昭和十七年四月二十三日に、次のような記述があります。

軍備計画打合の為杉浦軍令部三課長来り、情況判断を持して神軍令部一課員来る。夜説明を聞き当部意見を述ぶ。戦艦建造を三号艦迄とし、其余力を空母建造に集中するを可とす。超甲巡は何れにせよ遅るゝを以て見合と為す。潜水艦の建造は大に之を進む。
(宇垣纏『戦藻録』原書房、一九六八年、一〇八頁)

 ただ問題は、史実のように改大鳳型の建造計画を中止してまで雲龍型の量産に踏み切るかということです。
 史実ではたった一本の魚雷が原因で沈没してしまった大鳳ですが、彼女は当時における日本空母の完成形ともいうべき存在でした。
 逆に、雲龍型は改大鳳型よりは量産に適していますが、中型空母故の能力の限界があります。史実ではそれでも喪失した四空母の穴を埋めるために量産が決定されていますが、作中世界ではあえて能力的な限界を抱える雲龍型を量産するとは考えられません。
 烈風、流星という次世代の艦載機運用を考えると、やはり中型の雲龍型では限界があるのです。実際、史実の搭載計画を見ても、雲龍型は烈風、流星の搭載を計画していなかったと解釈出来ます。
 作中世界線では史実のような二号零戦問題は生じないでしょうから、烈風の開発は史実よりは順調に進むはずです(発動機問題などで、やはり海軍と三菱は揉めるでしょうが)。
 そうなりますと、ひとまず空母戦力の充実という意味では雲龍型は当初のマル急計画と⑤計画通りに雲龍、天城、葛城の三隻が建造されることは確実かと考えられます。
 一方、真の意味で空母戦力の充実を考えますと、大鳳型ないしは改大鳳型の量産が必要となります。
 改大鳳型については⑤計画で三隻が計画されていたという説、改⑤計画で初めて計画されたという説の二つがあります。後者の説の場合、⑤計画で計画された三空母は改大鳳型ではなく、排水量四万五〇〇〇トンの大型空母ということになっています。
 どちらの説をとるにせよ、すでに対米開戦をしてしまった段階で悠長に四万五〇〇〇トン級空母の設計を行っている場合ではありません。
 結果的に、作中世界では大鳳型ないしは改大鳳型の量産が決定されることになると考えるのが妥当でしょう。より現実的に考えるならば、起工時期を早めるために改大鳳型ではなく大鳳型がそのまま建造されることになるはずです。
 参考までに、戦時中に竣工した各正規空母の建造期間を示しておきます。

大鳳……二年七ヶ月
雲龍……二年
天城……一年八ヶ月(当初、二年二ヶ月の予定)
葛城……一年八ヶ月

 雲龍の起工は一九四二年八月一日(横須賀海軍工廠)、天城は十月一日(三菱重工長崎造船所)、葛城は十二月八日(呉海軍工廠)となります。
 エセックス級は早いものでは起工から竣工まで一年二ヶ月程度ですから、ある意味で雲龍型の量産を選んだ史実は正しかったことになります。大鳳型では、恐らく一年八ヶ月程度で竣工にこぎ着けるのは不可能だったでしょうから。
 しかし、史実ではそれでも雲龍型の竣工は遅きに失したと言わざるを得ません。
 作中世界ではミッドウェー海戦で大戦果を挙げて米軍の反攻時期を遅らせることには成功しているでしょうから、少なくとも史実通りの建造スピードで行けば雲龍型は戦力化出来ると思われます。
 ガダルカナルを始めとするソロモンでの攻防戦で損傷艦が大量発生し、その修理に各工廠が追われることがなければ、雲龍型の竣工時期はさらに早まるでしょう。
 一方、大鳳型ないし改大鳳型を量産するとして、果たしてどこまで建造期間を短縮出来るかは疑問です。
 ちなみに、史実雲龍型の笠置は三菱重工長崎造船所、阿蘇が呉海軍工廠、生駒が神戸川崎重工、鞍馬が三菱重工長崎造船所で、大鳳型ないし改大鳳型を建造するための場所は存在しています。
 なお、史実では重巡伊吹は呉海軍工廠で建造され、二番艦である三〇一号艦(ここでは便宜上、鞍馬とします)は三菱重工長崎造船所で起工されています。
 史実において鞍馬は一九四二年六月一日に起工したので、ミッドウェー海戦敗北の煽りを受けて直後に建造中止、その船台は天城建造に使われたとされています。
 しかし、作中世界では鞍馬の建造は続けられることになるでしょう。伊吹もまた、空母に改装されることはないと考えられます。
 そうなりますと、天城は史実で笠置が建造される予定の船台で建造され、葛城はそのまま呉海軍工廠で建造されることになるでしょう。
 大鳳型ないし改大鳳型が使える造船所は、三菱重工長崎造船所、神戸川崎重工、呉海軍工廠ということになります。
 改大鳳型が⑤計画時点で計画されていたという説に則りますと、作中ミッドウェー海戦後に建造が正式に決定されたとして四二年十月あたりには起工出来るはずです。
 史実では大和型四番艦一一一号艦の資材は伊勢型の航空戦艦化などのために流用されてしまいましたが、作中世界では伊勢型の航空戦艦化は行われません。これら資材が、大鳳型や雲龍型の建造に使われることになるでしょう。
 ただし、そうだとしても大鳳型二番艦以降の竣工は、どれほど早くても一九四五年になってから。史実大鳳が竣工後約三ヶ月で戦力化したことを考えると、一月の初めに竣工したとしても艦隊に加われるのは三月以降になるでしょう。
 マリアナ沖海戦が史実よりも一年以上遅れて、ようやく大鳳型二番艦以降に活躍の場が与えられることになります。
 そうでない場合、史実雲龍型と同じ運命は免れないでしょう。
 その他、史実では水上機母艦であった千歳、千代田や多数の貨客船が空母に改装されますが、日本側も米側の空母建造計画はある程度察知していますので、作中の世界線でも千歳、千代田は空母に改装されると思われます。日進も空母に改装し、千歳、千代田、日進で一個航空戦隊を形成させる計画となりそうです。
 問題はディーゼル機関に不調を抱え、最大速力が二十二ノットの水上機母艦・瑞穂です。一応、南方作戦後の整備で機関の不調は改善されたと言われていますが、史実ではその直後に撃沈されていますので、実際に改善の成果があったかどうかは不明瞭な部分があります。
 史実では独客船シャルンホルストを神鷹に改装する際、機関の換装が行われていますので、機関を換装しての空母化は可能だとは思いますが、それでも千歳などと作戦行動を共にすることは出来ないでしょう。
 作中の世界線では、ぶらじる丸および浅間丸型三隻の計四隻も商船改造空母として改装されると思われますから、それらと合せて船団護衛用の低速空母として運用されるか、あるいは輸送に便利だからと空母化はされずにそのまま高速輸送艦代わりに運用され続けるといったあたりが妥当と考えます。
 さて、最後に残った大和型三番艦信濃。
 彼女はもう、伊勢喪失の代艦として戦艦として竣工することは確実でしょう。
 また、史実武蔵はミッドウェーで沈没した赤城などの乗員が配属されています。作中世界では、武蔵に伊勢乗員が配属されれば、史実以上に武蔵の戦力化は早まると思われます。
 何せ、艦齢の長い伊勢には操砲に熟知した熟練の特務士官がいるでしょうから。
 基本的に、帝国海軍では戦艦の各砲塔長は下士官上がりの特務大尉が勤めることが多かったようで、彼らによって武蔵の戦力化が早まれば、大和、長門と共にガダルカナル方面に出撃することもあり得るはずです。
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