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補論1 両軍の損害
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今回は、「帝国海軍が空母を全力投入したミッドウェー海戦」というテーマで物語を描きました。
執筆の動機や物語の主旨につきましては、第一話あとがきや2022(令和4)年8月13日付活動報告「ミッドウェー海戦八〇周年連載」に書きました通りとなります。
また、「どうやって日本に空母の全力をMI作戦に投入させるか」という問題に対する筆者なりの解決方法は、第二話やそのあとがきに示しました。
しかし一方で、ミッドウェー海戦後の戦争の行方がどうなるのかという点については、作中では明確に示すことは出来ませんでした。
これは、この物語があくまでもミッドウェー海戦に焦点を絞ったものだからであり、そのために戦略フェイズを極力、削ったからです。
ただ、やはり作者としても、今後の日本の戦争計画については考察せざるにはいられません。
そこで「補論」として、作中世界での今後の戦争の進展について、若干の私見を述べることにいたします。
まず、作中におけるミッドウェー海戦での両軍の被害についてです。
日本側の沈没艦・損傷艦については、次のようになります。
沈没艦
戦艦:伊勢
軽巡:由良
この他、主要な艦艇では陸奥、赤城、加賀、蒼龍、翔鶴、隼鷹が損傷しています。
陸奥は十六インチ砲弾を喰らって装甲を貫通されておりますので、修理には時間がかかるでしょう。恐らく、一年近いドック入りを余儀なくされるはずです。
一方、空母については史実翔鶴などを見る限り、三ヶ月あれば戦線に復帰することが出来るでしょう。
これ以外に考えなければならないのは、航空機・搭乗員の喪失です。
史実珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦、南太平洋海戦の事例を考えますと、決して軽微とは言えない損害が発生していると思われます。
史実ミッドウェー海戦で唯一、米空母に反撃を行った飛龍では、小林隊が零戦三機、九九艦爆十三機を失い、友永隊が零戦二機(その後、さらに二機が損傷による不時着水で喪失)、九七艦攻五機を失っています。
搭乗員の数で言えば、零戦五名、九九艦爆二十六名、九七艦攻十五名ということになります。
ただし、作中ミッドウェー海戦は、日米にとって初めての空母決戦です。作中ではレキシントンのFDOが直掩戦闘機の誘導に失敗する描写がありますが、これは史実珊瑚海海戦で米軍が実際に犯した失態です。
こうしたことから考えますと、流石に日米四度目の空母決戦となった史実南太平洋海戦ほどの損耗率にはなっていないと考えるべきでしょう(南太平洋海戦でも、米側は直掩戦闘機の誘導に失敗していますが)。
ちなみに、史実南太平洋海戦での搭乗員喪失数は、零戦十七名、九九艦爆六十二名、九七艦攻六十六名の計一四五名です。
そうなりますと、作中ミッドウェー海戦での搭乗員の喪失は、零戦搭乗員が十五~三〇名、九九艦爆搭乗員が四〇名~六〇名、九七艦攻搭乗員が四十五~七十二名あたりが妥当な数値でしょう。
最低でも一〇〇名程度の搭乗員、酷ければ一六〇名以上の搭乗員を失っていると考えられます。
また、加賀飛行隊長・楠美正少佐、翔鶴飛行隊長・関衛少佐、飛龍飛行隊長・友永丈市大尉など、熟練の隊長級搭乗員も多数戦死しています。
しかし一方で、高橋赫一少佐(五航戦航空参謀)、江草隆繁少佐(蒼龍飛行隊長)、村田重治少佐(赤城飛行隊長)、嶋崎重和少佐(瑞鶴飛行隊長)などは生き残っております。
珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦と連続する消耗を経験していない点から考えても、母艦航空隊の再建はまだ可能な範囲内と考えられるでしょう。
一方、アメリカ側の損害の方がより深刻です。
沈没艦をまとめますと、次のようになります。
戦艦:ノースカロライナ、ワシントン
空母:レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、ホーネット、エンタープライズ
重巡:ヴィンセンス、ミネアポリス、アストリア、ポートランド、ノーザンプトン、ペンサコラ、チェスター
軽巡:アトランタ
駆逐艦:ハムマン、フェルプス、ウォーデン、アンダーソン、ラッセル
合計しますと、戦艦二、空母五、重巡七、軽巡一、駆逐艦五という損害です。
乗組員の戦死者は一万名以上、搭乗員についても相当な損害が発生しているはずです。
史実ミッドウェー海戦でも、アメリカ側には二〇〇名以上の搭乗員の犠牲が発生しています(基地航空隊も含む)。
ここから考えますと、海戦の規模などを加味して二五〇~三〇〇名と、日本以上の搭乗員の喪失が発生していると思われます。特にその後の水上砲戦で、収容先の艦が撃沈されて戦死した搭乗員も多いはずです。
そうなると、搭乗員の喪失は三五〇名以上にも達するかもしれません。
ここからの損害をどう回復するのかが、米海軍にとって喫緊の課題となるでしょう。
戦艦については東海岸でサウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツがすでに竣工し、アラバマも八月十六日に竣工する予定です。アイオワ級も一九四三年二月二十二日にアイオワが、五月二十三日にニュージャジーがそれぞれ竣工します。
空母についても、一九四二年十二月三十一日にエセックスが竣工するのを皮切りに、四三年一月十四日インディペンデンス、二月十七日レキシントンⅡ、二十五日プリンストンⅡ、三月三十一日ベローウッド、四月十五日ヨークタウンⅡ、五月二十四日バンカーヒル、二十八日カウペンス、六月十七日モンテレーと、続々と竣工していきます。
作中ミッドウェー海戦から一年で、米海軍は戦艦六隻、正規空母四隻、軽空母五隻という戦力を揃えることになるのです。
もちろん、ボルチモア級も一年以内にボルチモア、ボストンの二隻が完成します。
ただし、戦力化については史実エセックス、ヨークタウンⅡ、インディペンデンスの初陣が四三年九月一日の南鳥島攻撃だったことを考えると、たとえ作中世界で米海軍が竣工時期の繰り上げ、乗員・搭乗員の訓練の促進を行ったとしても、四三年六月あたりまでは戦力として使うことは出来ないと考えられます。
もっとも、作中ミッドウェー海戦時点ではまだ米海軍には空母ワスプ、レンジャーが健在ですから、これにサウスダコタ級を加えた戦力を回航して日本海軍に対抗することは、ある程度は可能でしょう。
執筆の動機や物語の主旨につきましては、第一話あとがきや2022(令和4)年8月13日付活動報告「ミッドウェー海戦八〇周年連載」に書きました通りとなります。
また、「どうやって日本に空母の全力をMI作戦に投入させるか」という問題に対する筆者なりの解決方法は、第二話やそのあとがきに示しました。
しかし一方で、ミッドウェー海戦後の戦争の行方がどうなるのかという点については、作中では明確に示すことは出来ませんでした。
これは、この物語があくまでもミッドウェー海戦に焦点を絞ったものだからであり、そのために戦略フェイズを極力、削ったからです。
ただ、やはり作者としても、今後の日本の戦争計画については考察せざるにはいられません。
そこで「補論」として、作中世界での今後の戦争の進展について、若干の私見を述べることにいたします。
まず、作中におけるミッドウェー海戦での両軍の被害についてです。
日本側の沈没艦・損傷艦については、次のようになります。
沈没艦
戦艦:伊勢
軽巡:由良
この他、主要な艦艇では陸奥、赤城、加賀、蒼龍、翔鶴、隼鷹が損傷しています。
陸奥は十六インチ砲弾を喰らって装甲を貫通されておりますので、修理には時間がかかるでしょう。恐らく、一年近いドック入りを余儀なくされるはずです。
一方、空母については史実翔鶴などを見る限り、三ヶ月あれば戦線に復帰することが出来るでしょう。
これ以外に考えなければならないのは、航空機・搭乗員の喪失です。
史実珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦、南太平洋海戦の事例を考えますと、決して軽微とは言えない損害が発生していると思われます。
史実ミッドウェー海戦で唯一、米空母に反撃を行った飛龍では、小林隊が零戦三機、九九艦爆十三機を失い、友永隊が零戦二機(その後、さらに二機が損傷による不時着水で喪失)、九七艦攻五機を失っています。
搭乗員の数で言えば、零戦五名、九九艦爆二十六名、九七艦攻十五名ということになります。
ただし、作中ミッドウェー海戦は、日米にとって初めての空母決戦です。作中ではレキシントンのFDOが直掩戦闘機の誘導に失敗する描写がありますが、これは史実珊瑚海海戦で米軍が実際に犯した失態です。
こうしたことから考えますと、流石に日米四度目の空母決戦となった史実南太平洋海戦ほどの損耗率にはなっていないと考えるべきでしょう(南太平洋海戦でも、米側は直掩戦闘機の誘導に失敗していますが)。
ちなみに、史実南太平洋海戦での搭乗員喪失数は、零戦十七名、九九艦爆六十二名、九七艦攻六十六名の計一四五名です。
そうなりますと、作中ミッドウェー海戦での搭乗員の喪失は、零戦搭乗員が十五~三〇名、九九艦爆搭乗員が四〇名~六〇名、九七艦攻搭乗員が四十五~七十二名あたりが妥当な数値でしょう。
最低でも一〇〇名程度の搭乗員、酷ければ一六〇名以上の搭乗員を失っていると考えられます。
また、加賀飛行隊長・楠美正少佐、翔鶴飛行隊長・関衛少佐、飛龍飛行隊長・友永丈市大尉など、熟練の隊長級搭乗員も多数戦死しています。
しかし一方で、高橋赫一少佐(五航戦航空参謀)、江草隆繁少佐(蒼龍飛行隊長)、村田重治少佐(赤城飛行隊長)、嶋崎重和少佐(瑞鶴飛行隊長)などは生き残っております。
珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦と連続する消耗を経験していない点から考えても、母艦航空隊の再建はまだ可能な範囲内と考えられるでしょう。
一方、アメリカ側の損害の方がより深刻です。
沈没艦をまとめますと、次のようになります。
戦艦:ノースカロライナ、ワシントン
空母:レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、ホーネット、エンタープライズ
重巡:ヴィンセンス、ミネアポリス、アストリア、ポートランド、ノーザンプトン、ペンサコラ、チェスター
軽巡:アトランタ
駆逐艦:ハムマン、フェルプス、ウォーデン、アンダーソン、ラッセル
合計しますと、戦艦二、空母五、重巡七、軽巡一、駆逐艦五という損害です。
乗組員の戦死者は一万名以上、搭乗員についても相当な損害が発生しているはずです。
史実ミッドウェー海戦でも、アメリカ側には二〇〇名以上の搭乗員の犠牲が発生しています(基地航空隊も含む)。
ここから考えますと、海戦の規模などを加味して二五〇~三〇〇名と、日本以上の搭乗員の喪失が発生していると思われます。特にその後の水上砲戦で、収容先の艦が撃沈されて戦死した搭乗員も多いはずです。
そうなると、搭乗員の喪失は三五〇名以上にも達するかもしれません。
ここからの損害をどう回復するのかが、米海軍にとって喫緊の課題となるでしょう。
戦艦については東海岸でサウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツがすでに竣工し、アラバマも八月十六日に竣工する予定です。アイオワ級も一九四三年二月二十二日にアイオワが、五月二十三日にニュージャジーがそれぞれ竣工します。
空母についても、一九四二年十二月三十一日にエセックスが竣工するのを皮切りに、四三年一月十四日インディペンデンス、二月十七日レキシントンⅡ、二十五日プリンストンⅡ、三月三十一日ベローウッド、四月十五日ヨークタウンⅡ、五月二十四日バンカーヒル、二十八日カウペンス、六月十七日モンテレーと、続々と竣工していきます。
作中ミッドウェー海戦から一年で、米海軍は戦艦六隻、正規空母四隻、軽空母五隻という戦力を揃えることになるのです。
もちろん、ボルチモア級も一年以内にボルチモア、ボストンの二隻が完成します。
ただし、戦力化については史実エセックス、ヨークタウンⅡ、インディペンデンスの初陣が四三年九月一日の南鳥島攻撃だったことを考えると、たとえ作中世界で米海軍が竣工時期の繰り上げ、乗員・搭乗員の訓練の促進を行ったとしても、四三年六月あたりまでは戦力として使うことは出来ないと考えられます。
もっとも、作中ミッドウェー海戦時点ではまだ米海軍には空母ワスプ、レンジャーが健在ですから、これにサウスダコタ級を加えた戦力を回航して日本海軍に対抗することは、ある程度は可能でしょう。
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