暁のミッドウェー

三笠 陣

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98 静寂のミッドウェー島

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 ミッドウェー島は現地時間七月五日の朝を迎えていた。
 未だ空襲による破壊の痕跡は生々しく、焼け焦げた臭いが守備隊将兵の鼻を突いている。
 昨日はカメラを持って戦闘の様子を記録していたジョン・フォードも、今日は小銃を持って蛸壺陣地フォックスフォールの中に身を潜めていた。

「……」

 その表情は険しいものであったが、決して怯えの感情は浮かんでいなかった。

『味方の艦隊は、戦艦も含めて壊滅したらしい』

 昨夜、ミッドウェー守備隊長シマード大佐より、フォードはそう告げられた。

『空母も、戦艦も、もう一隻もミッドウェーの沖合には残っていない』

 その声は、自分たちミッドウェー島守備隊に訪れる暗い運命を予感しているのか、悲痛なものであった。

『フォード監督、貴官は撮影フィルムと共にこの島を脱出するのだ』

 そしてシマード大佐はフォードに対してそう言ってきたのだ。
 しかし、フォードはこれを拒否した。ミッドウェー島に配属された以上、広報要員だとしても島の守備に殉じるのが軍人としての務めであると反駁したのである。
 この時、ミッドウェーの飛行場にはハワイから飛来してジャップ艦隊を空襲し、補給のために着陸していたブレイキー少佐のB17部隊が存在していた。
 この部隊とスウィニー中佐のB17部隊、およびPBYカタリナ部隊は、ジャップ上陸の際にはかえって標的となると判断されたことから、壊滅を避けるため日の出前にハワイに向けて退避させることが決定していた。
 その機体に、シマード大佐はフォードを乗せるつもりであったらしい。
 だが、フォードはB17に撮影を終えたフィルムを託して離陸を見送ると、自身は守備隊の一員として配置に付いたのである。

「……」

 緊張とともに、時間は過ぎていく。
 だが、太陽が自分たちの頭上で輝く時間になっても、ジャップは現れなかった。
 昨日まで索敵に使っていたカタリナ飛行艇までもをハワイに退避させてしまったため、また艦隊が壊滅したこともあって合衆国側はジャップ艦隊の所在を十分に把握出来ていなかったのである。
 この緊張状態は、ハワイ真珠湾の戦闘情報班ハイポがミッドウェーからかなり離れた位置で発せられたジャップ艦隊のものと思しき無線を傍受し、ジャップがミッドウェー攻略を諦めたと判断されるまで継続することとなった。
 その間、無為な緊張状態を強いられたフォードは映画監督としての本能を抑えきらなかったらしく、緊張の面持ちで島の守備配置に付く将兵たちの様子をカメラで撮影して回ったという。
 後に、B17によってハワイへ運ばれたフィルムも含め、フォードの撮影した一連の映像は「The Battle of Midway」というニュース映画として放映されることとなる。
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