84 / 105
84 リー少将の闘志
しおりを挟む
「アストリア、航行不能の模様! スミス少将との通信途絶!」
「巡洋艦部隊の指揮はキンケード少将が継承せる模様! 現在、ジャップ水雷戦隊と交戦中!」
戦艦ワシントン艦橋には、前方を進む駆逐戦隊、巡洋艦戦隊を襲った悲劇についての報告が寄せられていた。
駆逐戦隊司令官のアーリー大佐、巡洋艦戦隊のスミス少将が指揮を執れなくなった今、ニューオーリンズ座乗のトーマス・C・キンケード少将が指揮を継承するより他になかった。
「キンケード少将にはジャップ水雷戦隊の阻止に全力を尽くすよう、命じたまえ」
司令塔で、リー少将は冷静に命じた。
残念ながら、夜戦の技量ではレーダーを装備していようとも未だジャップの方が上であるようだ。高速で駆逐艦や巡洋艦が駆け回る水雷戦に、こちら側の指揮官が対応出来ていないのであろう。
しかし、それでも火力というものはどのような状況下でも小細工を一蹴出来る力を持つ。
アストリアが戦闘不能に陥ったとはいえ、未だ五隻の重巡が健在なのである。その八インチ砲は、ナガラ・クラスと思しき艦を先頭にしているというジャップ水雷戦隊を圧倒出来るだろう。
海戦開始直後の混乱を収拾出来れば、まだ十分に勝機はあるとリーは考えていた。
「レーダー室、ジャップ大型艦の反応を捉えているか?」
「こちらレーダー室。ジャップ水雷戦隊後方に大型艦と思しき反応七。現在、本艦との距離四万ヤード(約三万六〇〇〇メートル)」
ノースカロライナ級戦艦の搭載する四十五口径Mk.6十六インチ砲の最大射程は、三万三七〇〇メートル。未だ、ジャップ大型艦を射程圏内に捉えるには至っていなかった。
「大型艦七、か。気になるところだな」
レーダー室からの報告を共に聞いていたスプルーアンス少将が呟く。
「コンゴウ・クラスが最大で四隻として、残りは何だと思う?」
「恐らく、ジャップ機動部隊の護衛についていたトネ・クラスでしょう」リー少将はそう分析していた。「ジャップの重巡は魚雷を搭載しているのが厄介ですが、後衛駆逐戦隊に任せるより他にないでしょう。ワシントンとノースカロライナは、ジャップ戦艦との砲戦に集中させるつもりです」
「現在、艦隊の指揮権は貴官にある。貴官の思うように指揮すれば良かろう」
「そうですな」
未だ、ワシントンとノースカロライナの主砲は沈黙を続けている。巡洋艦戦隊を援護するために続けられている星弾射撃が、わずかな振動を司令塔に伝えていた。
こちらに向かってくるジャップ水雷戦隊はおらず、ワシントン、ノースカロライナ、そして後衛の四隻の駆逐艦は、キンケード少将の巡洋艦部隊がジャップ水雷戦隊を防いでいる間に前進を続けている。
ワシントンのレーダーが異変を捉えたのは、その数分後のことであった。
「ジャップ大型艦の反応に変化あり! 面舵に転舵した模様! 本艦の針路を抑えようとしています!」
「ジャップは四〇年前のトーゴーの真似事をする気か」
鼻で嗤うように、リーはレーダー室からの報告に応じた。
敵前で大回頭し、こちらの針路を塞いでT字を描く。まさしく、四〇年前にツシマ沖でトーゴーの艦隊が行った戦術であった。
だが、自分はロジェトヴェンスキーではない。むざむざ、ジャップにT字を描かせはしない。
「こちらは取り舵に転舵! 右同航砲戦用意!」
「アイ・サー! 取り舵に転舵! 右同航砲戦用意!」
リーの命令を受けたデイビス艦長が取り舵を命じ、面舵に転舵したジャップ艦隊に対して同航砲戦を挑むような航跡を描いていく。
おそらく、ジャップの艦隊機動はこちらに対してT字を描こうとする以外に、こちらの針路を妨害してその後方の空母に向かわせないようにする意図も含まれているのだろう。
「レーダー室! 現在の距離は!?」
「およそ三万ヤード(二万七〇〇〇メートル)!」
主砲射程内に捉えはしたが、まだ遠距離である。
夜間ということもあり、光学照準の精度を高めるためにも(レーダーと違い、測距儀は距離に比例して誤差が大きくなる)、砲戦は二万ヤード(約一万八〇〇〇メートル)を切った辺りから行うべきだろう。
「艦長、このままジャップとの距離を詰める! 砲戦距離は二万ヤードだ!」
「アイ・サー!」
「巡洋艦部隊の指揮はキンケード少将が継承せる模様! 現在、ジャップ水雷戦隊と交戦中!」
戦艦ワシントン艦橋には、前方を進む駆逐戦隊、巡洋艦戦隊を襲った悲劇についての報告が寄せられていた。
駆逐戦隊司令官のアーリー大佐、巡洋艦戦隊のスミス少将が指揮を執れなくなった今、ニューオーリンズ座乗のトーマス・C・キンケード少将が指揮を継承するより他になかった。
「キンケード少将にはジャップ水雷戦隊の阻止に全力を尽くすよう、命じたまえ」
司令塔で、リー少将は冷静に命じた。
残念ながら、夜戦の技量ではレーダーを装備していようとも未だジャップの方が上であるようだ。高速で駆逐艦や巡洋艦が駆け回る水雷戦に、こちら側の指揮官が対応出来ていないのであろう。
しかし、それでも火力というものはどのような状況下でも小細工を一蹴出来る力を持つ。
アストリアが戦闘不能に陥ったとはいえ、未だ五隻の重巡が健在なのである。その八インチ砲は、ナガラ・クラスと思しき艦を先頭にしているというジャップ水雷戦隊を圧倒出来るだろう。
海戦開始直後の混乱を収拾出来れば、まだ十分に勝機はあるとリーは考えていた。
「レーダー室、ジャップ大型艦の反応を捉えているか?」
「こちらレーダー室。ジャップ水雷戦隊後方に大型艦と思しき反応七。現在、本艦との距離四万ヤード(約三万六〇〇〇メートル)」
ノースカロライナ級戦艦の搭載する四十五口径Mk.6十六インチ砲の最大射程は、三万三七〇〇メートル。未だ、ジャップ大型艦を射程圏内に捉えるには至っていなかった。
「大型艦七、か。気になるところだな」
レーダー室からの報告を共に聞いていたスプルーアンス少将が呟く。
「コンゴウ・クラスが最大で四隻として、残りは何だと思う?」
「恐らく、ジャップ機動部隊の護衛についていたトネ・クラスでしょう」リー少将はそう分析していた。「ジャップの重巡は魚雷を搭載しているのが厄介ですが、後衛駆逐戦隊に任せるより他にないでしょう。ワシントンとノースカロライナは、ジャップ戦艦との砲戦に集中させるつもりです」
「現在、艦隊の指揮権は貴官にある。貴官の思うように指揮すれば良かろう」
「そうですな」
未だ、ワシントンとノースカロライナの主砲は沈黙を続けている。巡洋艦戦隊を援護するために続けられている星弾射撃が、わずかな振動を司令塔に伝えていた。
こちらに向かってくるジャップ水雷戦隊はおらず、ワシントン、ノースカロライナ、そして後衛の四隻の駆逐艦は、キンケード少将の巡洋艦部隊がジャップ水雷戦隊を防いでいる間に前進を続けている。
ワシントンのレーダーが異変を捉えたのは、その数分後のことであった。
「ジャップ大型艦の反応に変化あり! 面舵に転舵した模様! 本艦の針路を抑えようとしています!」
「ジャップは四〇年前のトーゴーの真似事をする気か」
鼻で嗤うように、リーはレーダー室からの報告に応じた。
敵前で大回頭し、こちらの針路を塞いでT字を描く。まさしく、四〇年前にツシマ沖でトーゴーの艦隊が行った戦術であった。
だが、自分はロジェトヴェンスキーではない。むざむざ、ジャップにT字を描かせはしない。
「こちらは取り舵に転舵! 右同航砲戦用意!」
「アイ・サー! 取り舵に転舵! 右同航砲戦用意!」
リーの命令を受けたデイビス艦長が取り舵を命じ、面舵に転舵したジャップ艦隊に対して同航砲戦を挑むような航跡を描いていく。
おそらく、ジャップの艦隊機動はこちらに対してT字を描こうとする以外に、こちらの針路を妨害してその後方の空母に向かわせないようにする意図も含まれているのだろう。
「レーダー室! 現在の距離は!?」
「およそ三万ヤード(二万七〇〇〇メートル)!」
主砲射程内に捉えはしたが、まだ遠距離である。
夜間ということもあり、光学照準の精度を高めるためにも(レーダーと違い、測距儀は距離に比例して誤差が大きくなる)、砲戦は二万ヤード(約一万八〇〇〇メートル)を切った辺りから行うべきだろう。
「艦長、このままジャップとの距離を詰める! 砲戦距離は二万ヤードだ!」
「アイ・サー!」
18
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
無職ニートの俺は気が付くと聯合艦隊司令長官になっていた
中七七三
ファンタジー
■■アルファポリス 第1回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞■■
無職ニートで軍ヲタの俺が太平洋戦争時の聯合艦隊司令長官となっていた。
これは、別次元から来た女神のせいだった。
その次元では日本が勝利していたのだった。
女神は、神国日本が負けた歴史の世界が許せない。
なぜか、俺を真珠湾攻撃直前の時代に転移させ、聯合艦隊司令長官にした。
軍ヲタ知識で、歴史をどーにかできるのか?
日本勝たせるなんて、無理ゲーじゃねと思いつつ、このままでは自分が死ぬ。
ブーゲンビルで機上戦死か、戦争終わって、戦犯で死刑だ。
この運命を回避するため、必死の戦いが始まった。
参考文献は、各話の最後に掲載しています。完結後に纏めようかと思います。
使用している地図・画像は自作か、ライセンスで再利用可のものを検索し使用しています。
表紙イラストは、ヤングマガジンで賞をとった方が画いたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる