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74 未知の敵艦隊
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「重巡筑摩からの電文を傍受しました。『本艦二号機、傾斜炎上中ノ敵空母東方三〇浬ニ敵空母四、戦艦二、巡洋艦六、駆逐艦十五ノ西航スルヲ認メタリ』。以上です」
「……これは、どういうことだ?」
思わず、近藤は白石参謀長を始めとする幕僚を見回した。
捕虜情報では米空母は五隻。こちらの航空隊の戦果報告では、撃沈確実と報告された空母は五隻。つまり、米艦隊にもう健在な空母は残っていないはずであった。
だというのに、新たに四隻の空母が出現していた。
捕虜情報になかったワスプとレンジャー、それに何隻かの特設空母が後詰めとして控えていたとでもいうのか。
あるいは、攻撃隊の戦果報告に誤認があったのか。
「急ぎ、一航艦司令部に問い合わせましょう」
白石参謀長も、緊迫した面持ちになっていた。
新たな敵空母の存在もそうだが、その艦隊が西に向かって進んでいるというのが気になるところであった。
もしや敵は、インド洋での一航艦のように、水上艦艇による追撃戦を目論んでいるのではないか。
何せ、こちらには機関が停止して曳航せざるを得ない赤城が存在している。米航空隊によって曳航中の赤城は確実に捕捉されているはずであり、夜戦によってこれを撃沈しようというのは、決して突飛な考えではない。
しかも、彼我の艦隊の距離は一〇〇浬未満に縮まっている。
現状で赤城がほぼ停止状態であることを考えると、敵艦隊が二〇ノット以上の速力で接近してきた場合、五時間から六時間でこちらは捕捉されてしまう。
そして、午前と午後に撃破した米空母の護衛艦艇にも、戦艦も存在していた。この新たに現れた敵艦隊に含まれる戦艦の数を加えれば、三隻から四隻の戦艦が未だ米艦隊で健在なはずである。
米旧式戦艦は真珠湾で壊滅させたはずであるから、これら米戦艦は十六インチ砲を搭載した最新鋭戦艦であろう。
一航艦の護衛である金剛型では、荷が重い相手だ。金剛型は所詮、巡洋戦艦改造の戦艦でしかない。
四十一センチ砲を搭載する陸奥を擁している自分たち第二艦隊が相手取らなければならないだろう。その第二艦隊にしても、四十一センチ砲を搭載しているのは陸奥のみ。
伊勢と日向は三十六センチ砲搭載戦艦で、しかも日向は砲塔爆発事故によって第五砲塔を失って砲戦能力が低下している状態である。
近藤の背を、冷たい汗が流れていた。
◇◇◇
飛龍がすべての機体の収容を終えたのは、一六二〇時(現地時間:一九二〇時)のことであった。
橋本大尉機以下、生還した機体も大なり小なり損傷を受けていた。
一度、米空母から距離を取るために西に進んでいた第一航空艦隊は、攻撃隊の収容のため再び東進していた。
被弾した翔鶴も機関は無事で、火災も鎮火させることが出来た。少なくとも、空襲で損傷した艦はあれど、沈没した艦は現時点では存在してしなかった。
ただ、飛龍の搭乗員待機室の雰囲気は、重く暗いものであった。
飛龍飛行隊長・友永丈市大尉以下、士官搭乗員のほとんどが戦死・負傷し、五体満足で生き残っているのは艦爆隊長である小林道雄大尉と艦攻隊の橋本敏男大尉、それに零戦隊の重松康弘大尉など片手の指で数えられるほどしかいなかった。
下士官以下の搭乗員の未帰還は、さらに多い。
主計科烹炊班は今日一日戦い通しであった搭乗員のための食事を用意していたが、他空母から飛龍に着艦した搭乗員たちに分けてもまだ、余ってしまったほどであった。持ち主のいなくなった食器が、机の上に寂しそうに並んでいる。。
無事に帰還出来たものの、橋本敏男大尉は到底食事に手を付けようという肉体的・精神的余裕はなかった。とにかく疲れ切っていた。
山口少将らに戦果報告を行った後、十分に休むようにと言われると蜜柑の缶詰の汁だけを飲んで、彼は搭乗員寝室に下がった。
「……これは、どういうことだ?」
思わず、近藤は白石参謀長を始めとする幕僚を見回した。
捕虜情報では米空母は五隻。こちらの航空隊の戦果報告では、撃沈確実と報告された空母は五隻。つまり、米艦隊にもう健在な空母は残っていないはずであった。
だというのに、新たに四隻の空母が出現していた。
捕虜情報になかったワスプとレンジャー、それに何隻かの特設空母が後詰めとして控えていたとでもいうのか。
あるいは、攻撃隊の戦果報告に誤認があったのか。
「急ぎ、一航艦司令部に問い合わせましょう」
白石参謀長も、緊迫した面持ちになっていた。
新たな敵空母の存在もそうだが、その艦隊が西に向かって進んでいるというのが気になるところであった。
もしや敵は、インド洋での一航艦のように、水上艦艇による追撃戦を目論んでいるのではないか。
何せ、こちらには機関が停止して曳航せざるを得ない赤城が存在している。米航空隊によって曳航中の赤城は確実に捕捉されているはずであり、夜戦によってこれを撃沈しようというのは、決して突飛な考えではない。
しかも、彼我の艦隊の距離は一〇〇浬未満に縮まっている。
現状で赤城がほぼ停止状態であることを考えると、敵艦隊が二〇ノット以上の速力で接近してきた場合、五時間から六時間でこちらは捕捉されてしまう。
そして、午前と午後に撃破した米空母の護衛艦艇にも、戦艦も存在していた。この新たに現れた敵艦隊に含まれる戦艦の数を加えれば、三隻から四隻の戦艦が未だ米艦隊で健在なはずである。
米旧式戦艦は真珠湾で壊滅させたはずであるから、これら米戦艦は十六インチ砲を搭載した最新鋭戦艦であろう。
一航艦の護衛である金剛型では、荷が重い相手だ。金剛型は所詮、巡洋戦艦改造の戦艦でしかない。
四十一センチ砲を搭載する陸奥を擁している自分たち第二艦隊が相手取らなければならないだろう。その第二艦隊にしても、四十一センチ砲を搭載しているのは陸奥のみ。
伊勢と日向は三十六センチ砲搭載戦艦で、しかも日向は砲塔爆発事故によって第五砲塔を失って砲戦能力が低下している状態である。
近藤の背を、冷たい汗が流れていた。
◇◇◇
飛龍がすべての機体の収容を終えたのは、一六二〇時(現地時間:一九二〇時)のことであった。
橋本大尉機以下、生還した機体も大なり小なり損傷を受けていた。
一度、米空母から距離を取るために西に進んでいた第一航空艦隊は、攻撃隊の収容のため再び東進していた。
被弾した翔鶴も機関は無事で、火災も鎮火させることが出来た。少なくとも、空襲で損傷した艦はあれど、沈没した艦は現時点では存在してしなかった。
ただ、飛龍の搭乗員待機室の雰囲気は、重く暗いものであった。
飛龍飛行隊長・友永丈市大尉以下、士官搭乗員のほとんどが戦死・負傷し、五体満足で生き残っているのは艦爆隊長である小林道雄大尉と艦攻隊の橋本敏男大尉、それに零戦隊の重松康弘大尉など片手の指で数えられるほどしかいなかった。
下士官以下の搭乗員の未帰還は、さらに多い。
主計科烹炊班は今日一日戦い通しであった搭乗員のための食事を用意していたが、他空母から飛龍に着艦した搭乗員たちに分けてもまだ、余ってしまったほどであった。持ち主のいなくなった食器が、机の上に寂しそうに並んでいる。。
無事に帰還出来たものの、橋本敏男大尉は到底食事に手を付けようという肉体的・精神的余裕はなかった。とにかく疲れ切っていた。
山口少将らに戦果報告を行った後、十分に休むようにと言われると蜜柑の缶詰の汁だけを飲んで、彼は搭乗員寝室に下がった。
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