暁のミッドウェー

三笠 陣

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73 合流する機動部隊

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 近藤信竹中将率いる第二機動部隊(第二艦隊)が第一機動部隊(第一航空艦隊)との合同を果たしたのは、一六〇〇時(現地時間:一九〇〇時)過ぎのことであった。
 すでに日没まで一時間を切り、下弦に近い月齢二十・二の月が空に昇っていた。
 この時、第二艦隊が合同を果たした一航艦の艦艇は、第四駆逐隊に護衛された赤城、加賀、蒼龍の損傷三空母であった。
 すでに三空母とも火災は鎮火しているようであったが、赤城のみは洋上に停止して戦艦比叡による曳航が試みられていた。
 赤城は被弾によって左舷側の舵が舵中央のまま固定されてしまっていたが、その後の消火活動でさらに機関までが停止してしまう事態に陥っていたのである。
 これは直接的な損傷が原因ではなく、消火活動の中で放出された炭酸ガスが機関室に入り込み、機関科将兵の一部がこれによって死亡、脱出した者たちもいたものの、機関部に炭酸ガスが充満して再び機関室に戻ることが不可能となってしまったのである。
 戦闘中であるために各所の隔壁も閉鎖されており、換気のしようがなかった。
 このため舵の損傷と合せて、南雲中将および栗田中将は比叡に赤城の曳航を命じていたのである。
 この間、三空母は米潜水艦のものと思しき雷撃を受けたが何とか無傷で切り抜け、第二艦隊と合同する三〇分ほど前にはB17による空襲も受けたが、これも高高度からの水平爆撃であったために命中弾はなかった。
 なお、このB17隊はハワイを出撃したブレイキー少佐の部隊と、ミッドウェー基地で再度、爆弾を搭載して出撃したスウィニー中佐の部隊であり、彼らは戦果として空母二、戦艦一、巡洋艦一、駆逐艦一の撃破を報告している。
 この他、ミッドウェー島からはノリス少佐率いるSB2Uヴィンディケーター隊とSBDドーントレス隊も薄暮攻撃を期して出撃していたのだが、彼らは針路を誤った末、自らの機位を失い、ノリス少佐以下多数の機体が未帰還となった。

「ようやく、日没か」

 愛宕艦橋で、近藤信竹中将は一息つくかのように安堵の声を漏らした。
 日の出と共に始まったミッドウェー攻撃に始まり、敵機の連続した空襲と、その後の北上しながらの米空母への攻撃。
 砲水雷戦と違い敵艦の姿が見えないことで、かえって緊張を強いられていた。敵の姿が見えないことで、いつ何時、どの方角から敵の来襲を受けるか判らないからだ。
 その意味では、伊勢に搭載された対空電探は非常に役に立っていた。日向の水上捜索電探も一航艦の艦艇と合同するのに効果を発揮したのだから、なかなかに便利な装備であった。

「問題は、これからだな」

 第二艦隊では一五〇〇時過ぎ、飛龍艦攻隊の発した米空母一隻撃沈確実という電文を受信していた。実際に撃破された敵艦の姿が見えないため、戦果の判定にはある程度、慎重さが求められるであろうが、午前中の戦果と合せれば米空母五隻を撃沈したことになる。
 陸奥の通信室は第四駆逐隊のもたらした捕虜情報(米空母がレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットの五隻であるというもの)を受信していたので、近藤もこれでミッドウェー沖に現れた米空母のすべてを撃沈出来たと考えていた。
 残された問題は、ミッドウェー島の基地施設である。
 第二艦隊が再度の空襲を受けたということは、ミッドウェーの航空基地は未だ健在と考えるべきだろう。
 これはいよいよ、夜間、艦砲によってミッドウェー島の基地施設を破壊する必要があるかもしれない。
 この場の最先任指揮官は、近藤自身であった。
 損傷した隼鷹も含めて南雲中将の下に空母をすべて預け(上陸船団の護衛についている瑞鳳、祥鳳は除く)、自らはこのまま南下してミッドウェー島を叩くべきか。
 MI作戦を完遂すべく、そう作戦計画の修正を考えていた近藤を驚愕させる電文が届けられたのは、一六一三時(現地時間:一九一三時)のことであった。
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