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37 ヨークタウン最後の攻撃隊
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フレッチャー少将率いる第十七任務部隊が最後に放った攻撃隊、ヨークタウンから発進したF4F八機、SBD二十四機、TBD九機の計四十一機の攻撃隊が第一航空艦隊を捕捉したのは、一〇〇三時(日本時間:〇七〇三時)のことであった。
ヨークタウン隊はエンタープライズ隊、ホーネット隊と異なり、戦闘機隊、艦爆隊、雷撃隊の三隊が分離することなく飛行を続けることに成功していた。
最初に一航艦を発見したのは、第五偵察中隊のウィリアム・O・バーチJr少佐(SBD七機)であった。彼は眼下に日本の大型空母の姿を認めていた。
ただし、バーチ少佐が第一航空艦隊を発見した時点では鈍足のTBD隊はいささか遅れ気味であり、ヨークタウン第五雷撃隊を率いるジョー・テイラー少佐はバーチ隊に対して自分たちを待つように無線で呼びかけていた。
残るウォレス・C・ショート大尉率いるヨークタウン第五爆撃隊(SBD十七機)も、一〇〇五時には一航艦を視認していた。
一方、日本側も重巡利根が一〇〇二時(日本時間:〇七〇二時)にはヨークタウン攻撃隊を視認していた。四分後、利根から警告を受けた赤城でも距離四万五〇〇〇メートルでヨークタウン攻撃隊の姿を確認している(この時点で赤城の電探は、高角砲射撃時の衝撃で再び故障していた)。
この段階で、いささか先行気味のバーチ少佐は決断を迫られていた。このままテイラー少佐の雷撃隊の到着を待って同時攻撃を仕掛けるか、あるいは先に攻撃を開始するか。
バーチ少佐は周囲を見渡したが、警戒していた零戦の姿は見当たらなかった。実はこの時点で、一航艦の上空を直掩していた零戦隊は、ホーネット、エンタープライズの雷撃隊を阻止していたために低空に降りていたのである。
結果、バーチ少佐はこれを好機と判断。厄介な零戦が自分たちのところに上がってくる前に、攻撃を仕掛けることを決意した。
彼は七機のSBDドーントレスを目標に定めた敵空母の艦尾方向に回り込ませ、高度一万七〇〇〇フィート(約五一〇〇メートル)から降下を開始した。
「敵降爆、本艦後方より接近中! 距離二万!」
バーチ隊が狙いを定めた空母は、加賀であった。艦橋に、見張り員の叫びが響く。
「取り舵一杯。黒二〇」
岡田次作艦長は、冷静にそう命じた。村上輝男掌舵長が「転舵三〇度」と復唱して舵輪を回す。
岡田は航空隊出身の艦長であり、特に爆撃戦術に精通した人物であった。
加賀の最大戦速は二十八ノットと他の空母よりも遅く、転舵による速力の低下も考えて推進器の回転数を二〇回転増やす“黒二〇”を同時に命じたのである(“赤”の場合は回転数を下げる)。すでに度重なる空襲によって最大戦速を出し続けている加賀の機関にさらに負荷をかける命令ではあったが、回避運動のためにはやむを得ないと思っている。
岡田は防空指揮所で艦尾方向から迫りつつある敵急降下爆撃機と思しき黒い点を見つめる。
零戦隊が低空に降りてしまっていた所為で、高空にある敵機を迎撃すべき味方機の姿はなかった。恐らく、敵機は容易に襲撃運動に入るだろう。
基準排水量約三万八二〇〇トンの船体は、取り舵一杯を命じてもまだ直進を続けていた。その間にも、敵機は接近を続けている。自艦と敵機との距離の関係か、その黒点の動きはいやにゆっくりしているように見えた。
「各部に伝達。艦の傾斜に注意せよ」
岡田は艦内スピーカーを通してそう伝達する。大きな角度をつけて転舵をすると、加賀の傾斜は二十五度にも達する。それを、乗員たちに注意したのである。
そして、ようやく加賀の艦首が左舷に振られ始めた時、「敵機直上、急降下!」の叫びが上がる。
「赤々、急げ!」
間髪を容れず、岡田艦長は鋭く命じた。“赤々”は、「緊急左舷四十五度回頭」を示す。命令と同時に、周辺の艦に緊急転舵を知らせる信号汽笛が鳴らされる。
取り舵三〇度で切られた舵がさらに回され、左舷へ転舵する慣性のつき始めた船体がさらに傾斜を深めながら回頭していく。
急降下を開始したバーチ少佐たちは、不運に見舞われていた。
高度が下がっていくに従って、爆撃照準器がどんどん曇っていったのである。さらに前部風防まで曇始め、ほとんど前が見えないという最悪の状況に陥っていた。
これは空気中の水蒸気が凝結した結果ではあるのだが、当然ながら彼らは神の仕打ちを呪っていた。
それでもバーチ少佐は己の勘を頼りに一〇〇〇ポンド(約四五三キロ)爆弾を目標と定めたジャップ大型空母に投下する。部下の六機のSBDもまた、隊長機に続いて爆弾を投下した。
しかし、加賀が緊急左舷四十五度回頭という大転舵を行ったことも重なり、七発の爆弾は彼女の右舷側に七本の水柱を立てるだけに終わってしまったのであった。
ヨークタウン隊はエンタープライズ隊、ホーネット隊と異なり、戦闘機隊、艦爆隊、雷撃隊の三隊が分離することなく飛行を続けることに成功していた。
最初に一航艦を発見したのは、第五偵察中隊のウィリアム・O・バーチJr少佐(SBD七機)であった。彼は眼下に日本の大型空母の姿を認めていた。
ただし、バーチ少佐が第一航空艦隊を発見した時点では鈍足のTBD隊はいささか遅れ気味であり、ヨークタウン第五雷撃隊を率いるジョー・テイラー少佐はバーチ隊に対して自分たちを待つように無線で呼びかけていた。
残るウォレス・C・ショート大尉率いるヨークタウン第五爆撃隊(SBD十七機)も、一〇〇五時には一航艦を視認していた。
一方、日本側も重巡利根が一〇〇二時(日本時間:〇七〇二時)にはヨークタウン攻撃隊を視認していた。四分後、利根から警告を受けた赤城でも距離四万五〇〇〇メートルでヨークタウン攻撃隊の姿を確認している(この時点で赤城の電探は、高角砲射撃時の衝撃で再び故障していた)。
この段階で、いささか先行気味のバーチ少佐は決断を迫られていた。このままテイラー少佐の雷撃隊の到着を待って同時攻撃を仕掛けるか、あるいは先に攻撃を開始するか。
バーチ少佐は周囲を見渡したが、警戒していた零戦の姿は見当たらなかった。実はこの時点で、一航艦の上空を直掩していた零戦隊は、ホーネット、エンタープライズの雷撃隊を阻止していたために低空に降りていたのである。
結果、バーチ少佐はこれを好機と判断。厄介な零戦が自分たちのところに上がってくる前に、攻撃を仕掛けることを決意した。
彼は七機のSBDドーントレスを目標に定めた敵空母の艦尾方向に回り込ませ、高度一万七〇〇〇フィート(約五一〇〇メートル)から降下を開始した。
「敵降爆、本艦後方より接近中! 距離二万!」
バーチ隊が狙いを定めた空母は、加賀であった。艦橋に、見張り員の叫びが響く。
「取り舵一杯。黒二〇」
岡田次作艦長は、冷静にそう命じた。村上輝男掌舵長が「転舵三〇度」と復唱して舵輪を回す。
岡田は航空隊出身の艦長であり、特に爆撃戦術に精通した人物であった。
加賀の最大戦速は二十八ノットと他の空母よりも遅く、転舵による速力の低下も考えて推進器の回転数を二〇回転増やす“黒二〇”を同時に命じたのである(“赤”の場合は回転数を下げる)。すでに度重なる空襲によって最大戦速を出し続けている加賀の機関にさらに負荷をかける命令ではあったが、回避運動のためにはやむを得ないと思っている。
岡田は防空指揮所で艦尾方向から迫りつつある敵急降下爆撃機と思しき黒い点を見つめる。
零戦隊が低空に降りてしまっていた所為で、高空にある敵機を迎撃すべき味方機の姿はなかった。恐らく、敵機は容易に襲撃運動に入るだろう。
基準排水量約三万八二〇〇トンの船体は、取り舵一杯を命じてもまだ直進を続けていた。その間にも、敵機は接近を続けている。自艦と敵機との距離の関係か、その黒点の動きはいやにゆっくりしているように見えた。
「各部に伝達。艦の傾斜に注意せよ」
岡田は艦内スピーカーを通してそう伝達する。大きな角度をつけて転舵をすると、加賀の傾斜は二十五度にも達する。それを、乗員たちに注意したのである。
そして、ようやく加賀の艦首が左舷に振られ始めた時、「敵機直上、急降下!」の叫びが上がる。
「赤々、急げ!」
間髪を容れず、岡田艦長は鋭く命じた。“赤々”は、「緊急左舷四十五度回頭」を示す。命令と同時に、周辺の艦に緊急転舵を知らせる信号汽笛が鳴らされる。
取り舵三〇度で切られた舵がさらに回され、左舷へ転舵する慣性のつき始めた船体がさらに傾斜を深めながら回頭していく。
急降下を開始したバーチ少佐たちは、不運に見舞われていた。
高度が下がっていくに従って、爆撃照準器がどんどん曇っていったのである。さらに前部風防まで曇始め、ほとんど前が見えないという最悪の状況に陥っていた。
これは空気中の水蒸気が凝結した結果ではあるのだが、当然ながら彼らは神の仕打ちを呪っていた。
それでもバーチ少佐は己の勘を頼りに一〇〇〇ポンド(約四五三キロ)爆弾を目標と定めたジャップ大型空母に投下する。部下の六機のSBDもまた、隊長機に続いて爆弾を投下した。
しかし、加賀が緊急左舷四十五度回頭という大転舵を行ったことも重なり、七発の爆弾は彼女の右舷側に七本の水柱を立てるだけに終わってしまったのであった。
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