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32 最初の破局
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友永丈市大尉率いる第二次攻撃隊は、零戦二十四機、九九艦爆三十六機、九七艦攻三十六機の合計九十六機からなる部隊であった。途中で、零戦一機、九七艦攻二機が発動機不調で引き返していたが、それでも傷付いた第十七任務部隊に対しては過剰な戦力であるといえた。
友永の搭乗する九七艦攻からは、眼下から立ち上る黒煙がはっきりと見えた。
若干、黒煙の所為で敵艦隊の様子が判りにくい。出来れば無傷の艦を狙って戦果を拡大したいところである。
敵の上空直掩機の抵抗は微弱であり、零戦隊が瞬時にグラマンを片付けていた。どうやら敵機は弾薬不足に陥ってたようである。母艦が傷付いていれば着艦も出来ないから、機銃弾の補給も出来ないので当然かと友永は思う。
そのために、彼は余裕をもって敵艦隊を上空から観察することが出来た。
乱れた輪形陣、炎上する空母、巨大な戦艦。
まずは敵空母に止めを刺し、戦艦や重巡を狙うべきか。
友永は蒼龍艦攻隊に、炎上する敵空母への攻撃を指示、艦爆隊に対しては戦艦を中心に攻撃を行うように命じ、詳細な目標の選定は艦爆隊指揮官・小川正一大尉に任せた。
「全機、突撃せよ!」
友永大尉の九七艦攻からト連送が発せられたのは、その直後であった。
合衆国側にとって、日本側の第二次攻撃隊の来襲はまさしく悪夢であった。
わずかに機銃弾を残していたF4Fがジャップ攻撃隊の迎撃に向かったが、そのことごとくが零戦に阻止されて虚しく撃墜されていった。
その中には、後に対零戦空戦術“サッチ・ヴィーブ”を合衆国海軍に広めることになるジョン・S・サッチ少佐も存在していた。この卓越した戦闘機乗りもまた、機銃弾を撃ち尽くした機体では零戦に立ち向かうことは出来なかったのである。
上空にあるのは、ただジャップ機のみ。
最初に突っ込んできたのは、九九艦爆であった。狙われたのは、ノースカロライナ、ポートランド、アトランタであった。
ノースカロライナとアトランタはその対空砲火の激しさから目立つ存在であり、ポートランドはレキシントンの曳航準備のために速力を落としていたことがジャップに狙われてしまった原因であろう。
上空から逆落としに突っ込んできた固定脚の機体は、ノースカロライナとアトランタによる激しい対空砲火によって火球となって爆散するものもあったが、半数以上は投弾に成功して彼女たちの頭上を飛び越していった。
ノースカロライナに命中した二五〇キロ爆弾は二発。一発は中央部に命中して五インチ両用砲二基と四〇ミリ機銃座を何基か破壊。もう一発は第一砲塔天蓋に命中して、十六インチ砲二門の仰俯角装置を損傷させた。
ポートランドにも二発の爆弾が命中。第二砲塔付近に命中した爆弾の爆風と破片が艦橋に飛び込み、艦長以下多数の乗員を殺傷している。
アトランタには一発が命中し、後部射撃指揮所が全滅した。
そして、三隻がジャップ急降下爆撃機の攻撃で転舵を繰り返している中、九七艦攻が輪形陣内部に切り込んできたのである。
最初に突入してきた雷撃隊は、洋上をのろのろと這うように進むヨークタウンとレキシントンに向かっていった。
最早、二隻の空母はジャップにとって訓練の標的のような存在であった。
その舷側に高々と水柱がそそり立った瞬間、二隻が真珠湾に帰還する可能性はまったく失われてしまった。
すでに魚雷一本を被雷していたヨークタウンにはさらに二本、レキシントンにはさらに三本の魚雷が命中した。
その上、運の悪いことに、ヨークタウンの消火活動に加わっていた駆逐艦ハムマンにヨークタウンに命中するはずであった魚雷が直撃、この衝撃で搭載爆雷が誘爆してハムマンは轟沈してしまった。
当然、その爆発は至近にいたヨークタウンにも損傷を与えている。これにより、ヨークタウン艦上で消火活動に当たっていたダメージ・コントロール班が吹き飛ばされ、彼女の火災の鎮火はほとんど絶望的となってしまった。
そして、追い打ちを掛けるように後続の雷撃隊がノースカロライナなど大型水上艦艇を目標に超低空で迫ってきたのである。
この内、ノースカロライナの操艦は巧みであり、ジャップ雷撃機の射点を外すことに成功した。しかし、この転舵によってノースカロライナの船体が逸れたために、逆にそのジャップ雷撃隊は重巡ヴィンセンスに対して絶好の射点に付くことになった。
九七艦攻の搭乗員は、ヴィンセンスも戦艦であると誤認して即座に目標を変更、彼女に三本の魚雷を命中させた(一発不発)。
さらにアトランタにも二本の魚雷が命中し、炎上した一機の九七艦攻が駆逐艦ヒューズに体当たりを敢行していた。
ジャップ第二次攻撃隊が去った後に残されたのは、乱れた輪形陣の中で黒煙を上げ、沈没寸前になっている艦艇たちであった。
「レキシントン、ヨークタウン、ヴィンセンス、アトランタ共に航行不能です。ヨークタウン以外の三隻ではすでに総員退艦命令が出されております。バックマスター艦長からも、ヨークタウンの復旧は最早絶望的であるとの報告が寄せられております」
「……終わった、な」
かすかに残っていた、ヨークタウンとレキシントンを真珠湾に連れて帰るという希望。今やそれは完全に打ち砕かれていた。
フレッチャーはアストリア艦橋で悄然と報告を受ける。
第十七任務部隊は、今まさにレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、ヴィンセンス、アトランタを失おうとしていた。これにすでに轟沈した駆逐艦ハムマンを加えれば、六隻の艦艇がジャップ航空隊によって撃沈されたことになる。
ノースカロライナの回避運動が失敗していれば損害はさらに拡大していたであろうから、戦艦を失わずに済んだことを喜ぶべきだろうか。
だが、肝心の空母を失おうとしている以上、フレッチャーはノースカロライナの無事を素直に喜ぶことは出来なかった。
「各艦に、乗員の救助に全力を尽くすよう伝達せよ」
それが、この海戦で自分が下す最後の命令になるかもしれない。そんなことを、フレッチャーは思っていた。
友永の搭乗する九七艦攻からは、眼下から立ち上る黒煙がはっきりと見えた。
若干、黒煙の所為で敵艦隊の様子が判りにくい。出来れば無傷の艦を狙って戦果を拡大したいところである。
敵の上空直掩機の抵抗は微弱であり、零戦隊が瞬時にグラマンを片付けていた。どうやら敵機は弾薬不足に陥ってたようである。母艦が傷付いていれば着艦も出来ないから、機銃弾の補給も出来ないので当然かと友永は思う。
そのために、彼は余裕をもって敵艦隊を上空から観察することが出来た。
乱れた輪形陣、炎上する空母、巨大な戦艦。
まずは敵空母に止めを刺し、戦艦や重巡を狙うべきか。
友永は蒼龍艦攻隊に、炎上する敵空母への攻撃を指示、艦爆隊に対しては戦艦を中心に攻撃を行うように命じ、詳細な目標の選定は艦爆隊指揮官・小川正一大尉に任せた。
「全機、突撃せよ!」
友永大尉の九七艦攻からト連送が発せられたのは、その直後であった。
合衆国側にとって、日本側の第二次攻撃隊の来襲はまさしく悪夢であった。
わずかに機銃弾を残していたF4Fがジャップ攻撃隊の迎撃に向かったが、そのことごとくが零戦に阻止されて虚しく撃墜されていった。
その中には、後に対零戦空戦術“サッチ・ヴィーブ”を合衆国海軍に広めることになるジョン・S・サッチ少佐も存在していた。この卓越した戦闘機乗りもまた、機銃弾を撃ち尽くした機体では零戦に立ち向かうことは出来なかったのである。
上空にあるのは、ただジャップ機のみ。
最初に突っ込んできたのは、九九艦爆であった。狙われたのは、ノースカロライナ、ポートランド、アトランタであった。
ノースカロライナとアトランタはその対空砲火の激しさから目立つ存在であり、ポートランドはレキシントンの曳航準備のために速力を落としていたことがジャップに狙われてしまった原因であろう。
上空から逆落としに突っ込んできた固定脚の機体は、ノースカロライナとアトランタによる激しい対空砲火によって火球となって爆散するものもあったが、半数以上は投弾に成功して彼女たちの頭上を飛び越していった。
ノースカロライナに命中した二五〇キロ爆弾は二発。一発は中央部に命中して五インチ両用砲二基と四〇ミリ機銃座を何基か破壊。もう一発は第一砲塔天蓋に命中して、十六インチ砲二門の仰俯角装置を損傷させた。
ポートランドにも二発の爆弾が命中。第二砲塔付近に命中した爆弾の爆風と破片が艦橋に飛び込み、艦長以下多数の乗員を殺傷している。
アトランタには一発が命中し、後部射撃指揮所が全滅した。
そして、三隻がジャップ急降下爆撃機の攻撃で転舵を繰り返している中、九七艦攻が輪形陣内部に切り込んできたのである。
最初に突入してきた雷撃隊は、洋上をのろのろと這うように進むヨークタウンとレキシントンに向かっていった。
最早、二隻の空母はジャップにとって訓練の標的のような存在であった。
その舷側に高々と水柱がそそり立った瞬間、二隻が真珠湾に帰還する可能性はまったく失われてしまった。
すでに魚雷一本を被雷していたヨークタウンにはさらに二本、レキシントンにはさらに三本の魚雷が命中した。
その上、運の悪いことに、ヨークタウンの消火活動に加わっていた駆逐艦ハムマンにヨークタウンに命中するはずであった魚雷が直撃、この衝撃で搭載爆雷が誘爆してハムマンは轟沈してしまった。
当然、その爆発は至近にいたヨークタウンにも損傷を与えている。これにより、ヨークタウン艦上で消火活動に当たっていたダメージ・コントロール班が吹き飛ばされ、彼女の火災の鎮火はほとんど絶望的となってしまった。
そして、追い打ちを掛けるように後続の雷撃隊がノースカロライナなど大型水上艦艇を目標に超低空で迫ってきたのである。
この内、ノースカロライナの操艦は巧みであり、ジャップ雷撃機の射点を外すことに成功した。しかし、この転舵によってノースカロライナの船体が逸れたために、逆にそのジャップ雷撃隊は重巡ヴィンセンスに対して絶好の射点に付くことになった。
九七艦攻の搭乗員は、ヴィンセンスも戦艦であると誤認して即座に目標を変更、彼女に三本の魚雷を命中させた(一発不発)。
さらにアトランタにも二本の魚雷が命中し、炎上した一機の九七艦攻が駆逐艦ヒューズに体当たりを敢行していた。
ジャップ第二次攻撃隊が去った後に残されたのは、乱れた輪形陣の中で黒煙を上げ、沈没寸前になっている艦艇たちであった。
「レキシントン、ヨークタウン、ヴィンセンス、アトランタ共に航行不能です。ヨークタウン以外の三隻ではすでに総員退艦命令が出されております。バックマスター艦長からも、ヨークタウンの復旧は最早絶望的であるとの報告が寄せられております」
「……終わった、な」
かすかに残っていた、ヨークタウンとレキシントンを真珠湾に連れて帰るという希望。今やそれは完全に打ち砕かれていた。
フレッチャーはアストリア艦橋で悄然と報告を受ける。
第十七任務部隊は、今まさにレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、ヴィンセンス、アトランタを失おうとしていた。これにすでに轟沈した駆逐艦ハムマンを加えれば、六隻の艦艇がジャップ航空隊によって撃沈されたことになる。
ノースカロライナの回避運動が失敗していれば損害はさらに拡大していたであろうから、戦艦を失わずに済んだことを喜ぶべきだろうか。
だが、肝心の空母を失おうとしている以上、フレッチャーはノースカロライナの無事を素直に喜ぶことは出来なかった。
「各艦に、乗員の救助に全力を尽くすよう伝達せよ」
それが、この海戦で自分が下す最後の命令になるかもしれない。そんなことを、フレッチャーは思っていた。
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