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31 さらなる脅威の接近
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「ラムゼイ大佐(サラトガ艦長)より、先ほど総員退艦命令を発したとのことです」
「近くの駆逐艦に、乗員の救助を急がせろ」
傾斜するヨークタウンの艦橋で、フレッチャー少将はそう命じた。
ヨークタウンの速力は五ノットにまで低下しており、沈没の危険性はないものの、この海戦ではすでに役に立たなくなっていることは明白であった。
一方、魚雷七本、爆弾六発を被弾したサラトガの状況は、ヨークタウンの艦橋から見ても絶望的である。ジャップの空襲が終わってから三十分足らずで総員退艦命令が出されたことも、やむを得ないことであった。
他方、レキシントンの状況についても予断を許さないものであった。彼女は五本の魚雷を喰らい、傾斜を深めている。巡洋戦艦改造の船体はよく持ち堪えているが、艦全体が火災に覆われている様を見れば、被害の復旧が可能かどうかは判断がつかない。
これ以上の浸水を食い止め、火災を鎮火させれば、真珠湾への曳航も可能かもしれない。フレッチャーはひとまず、レキシントンの近くにいる艦に消火を手伝わせると共に、やはり近くにいる重巡ポートランドに彼女の曳航の準備をするように命じていた。
「提督、アストリアへの移乗準備、整いました」
「うむ、ご苦労」
そして自身の乗艦たるヨークタウンに、フレッチャーが別れを告げるときが来た。損傷した艦では、十分な指揮は行えない。
彼はヨークタウンに近い位置にあった重巡アストリアに移乗することにしたのである。出来れば最新の通信設備を搭載している戦艦ノースカロライナにしたかったのだが、ヨークタウンとの位置関係上、やむを得なかった。
やがてアストリアからのボートがヨークタウンの右舷に横付けされ、第十七任務部隊の司令部要員たちが舷側から垂らされたロープを伝って乗り込んでいく。フレッチャーも若い水兵二人に手伝ってもらいながら、ボートに乗り込んでアストリアに旗艦を移した。
「第十六任務部隊のスプルーアンス少将に伝えてくれ。後は貴官に託す。貴官に神のご加護があらんことを、以上だ」
そしてアストリアに移乗して最初にフレッチャーが下した命令が、それであった。すでに第十七任務部隊に空母機動部隊としての能力はなく、あとはサラトガの乗員救助とヨークタウン、レキシントンを真珠湾に連れて帰ることだけが任務のような状況であった。
ジャップの母艦航空隊は、あまりに強大過ぎた。たった一撃で合衆国海軍の誇る三空母が戦闘力を失い、その内一隻は沈没しかかっている。
残る空母は、スプルーアンス少将の手元にあるエンタープライズとホーネットのみ。
イギリスからの要請を受け入れて、ワスプを大西洋に残したままであったことが悔やまれた。真珠湾を壊滅させ、英東洋艦隊を屠ったナグモのタスクフォースに対抗するのに、空母を出し惜しみすべきではなかったのだ。
フレッチャーが猛将ハルゼーの後を承けたスプルーアンスの奮闘を内心で祈っていると、レーダー室から緊迫の報告がもたらされた。
新たな未確認機の大編隊が接近中であると言う。
「……」
「……」
「……」
アストリア艦橋の誰もが、その報告に顔を強ばらせた。
三空母の損傷によって、上空直掩機は弾薬不足、燃料不足に陥ってしまっている。すでに何機からの機体は駆逐艦の周囲に不時着して、搭乗員が救助されるような有り様であった。
輪形陣自体も、そうした不時着機の救助やサラトガ乗員の収容、ヨークタウン、レキシントンの救援などで乱れてしまっている。
この状況で再び空襲があれば、第十七任務部隊は護衛艦艇も含めて壊滅的被害を受けるだろう。
フレッチャーは暗澹たる気分と共に、神の仕打ちを呪うかのような目で上空を見つめていた。
「近くの駆逐艦に、乗員の救助を急がせろ」
傾斜するヨークタウンの艦橋で、フレッチャー少将はそう命じた。
ヨークタウンの速力は五ノットにまで低下しており、沈没の危険性はないものの、この海戦ではすでに役に立たなくなっていることは明白であった。
一方、魚雷七本、爆弾六発を被弾したサラトガの状況は、ヨークタウンの艦橋から見ても絶望的である。ジャップの空襲が終わってから三十分足らずで総員退艦命令が出されたことも、やむを得ないことであった。
他方、レキシントンの状況についても予断を許さないものであった。彼女は五本の魚雷を喰らい、傾斜を深めている。巡洋戦艦改造の船体はよく持ち堪えているが、艦全体が火災に覆われている様を見れば、被害の復旧が可能かどうかは判断がつかない。
これ以上の浸水を食い止め、火災を鎮火させれば、真珠湾への曳航も可能かもしれない。フレッチャーはひとまず、レキシントンの近くにいる艦に消火を手伝わせると共に、やはり近くにいる重巡ポートランドに彼女の曳航の準備をするように命じていた。
「提督、アストリアへの移乗準備、整いました」
「うむ、ご苦労」
そして自身の乗艦たるヨークタウンに、フレッチャーが別れを告げるときが来た。損傷した艦では、十分な指揮は行えない。
彼はヨークタウンに近い位置にあった重巡アストリアに移乗することにしたのである。出来れば最新の通信設備を搭載している戦艦ノースカロライナにしたかったのだが、ヨークタウンとの位置関係上、やむを得なかった。
やがてアストリアからのボートがヨークタウンの右舷に横付けされ、第十七任務部隊の司令部要員たちが舷側から垂らされたロープを伝って乗り込んでいく。フレッチャーも若い水兵二人に手伝ってもらいながら、ボートに乗り込んでアストリアに旗艦を移した。
「第十六任務部隊のスプルーアンス少将に伝えてくれ。後は貴官に託す。貴官に神のご加護があらんことを、以上だ」
そしてアストリアに移乗して最初にフレッチャーが下した命令が、それであった。すでに第十七任務部隊に空母機動部隊としての能力はなく、あとはサラトガの乗員救助とヨークタウン、レキシントンを真珠湾に連れて帰ることだけが任務のような状況であった。
ジャップの母艦航空隊は、あまりに強大過ぎた。たった一撃で合衆国海軍の誇る三空母が戦闘力を失い、その内一隻は沈没しかかっている。
残る空母は、スプルーアンス少将の手元にあるエンタープライズとホーネットのみ。
イギリスからの要請を受け入れて、ワスプを大西洋に残したままであったことが悔やまれた。真珠湾を壊滅させ、英東洋艦隊を屠ったナグモのタスクフォースに対抗するのに、空母を出し惜しみすべきではなかったのだ。
フレッチャーが猛将ハルゼーの後を承けたスプルーアンスの奮闘を内心で祈っていると、レーダー室から緊迫の報告がもたらされた。
新たな未確認機の大編隊が接近中であると言う。
「……」
「……」
「……」
アストリア艦橋の誰もが、その報告に顔を強ばらせた。
三空母の損傷によって、上空直掩機は弾薬不足、燃料不足に陥ってしまっている。すでに何機からの機体は駆逐艦の周囲に不時着して、搭乗員が救助されるような有り様であった。
輪形陣自体も、そうした不時着機の救助やサラトガ乗員の収容、ヨークタウン、レキシントンの救援などで乱れてしまっている。
この状況で再び空襲があれば、第十七任務部隊は護衛艦艇も含めて壊滅的被害を受けるだろう。
フレッチャーは暗澹たる気分と共に、神の仕打ちを呪うかのような目で上空を見つめていた。
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