暁のミッドウェー

三笠 陣

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27 江草艦爆隊

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 江草隆繁少佐率いる艦爆隊は、零戦隊の活躍もあり、敵機の妨害を一切受けることなく敵空母部隊上空に到達しつつあった。
 米艦隊の輪形陣の中心に、ひときわ巨大な艦影が見えた。
 周囲を取り囲む巡洋艦の艦影すら小さく見える。四万トン近い排水量を誇る、米軍のレキシントン級に違いない。
 あるいは四月に帝都を空襲した連中はこいつらなのかもしれないと、江草は思う。
 実際にはドーリットル空襲にレキシントンとサラトガ、そしてヨークタウンは参加していないのだが、少なくとも江草を始め多くの搭乗員たちはそう認識していた。そして、だからこそここでこの三隻を沈めなければならないという闘志に燃えていた。

「……」

 江草は自らの率いる艦爆隊を風上に導きながら、眼下の米艦隊の様子を確認する。
 緊密な輪形陣は、インド洋で自分たちが屠った英東洋艦隊とは違っていた。これはインド洋の時のようにはいかぬだろうなと、江草は気を引き締める。

「蒼龍第一中隊は一番艦、第二中隊は二番艦、飛龍隊は三番艦を目標とせよ」

 偵察員の石井樹特務少尉が、江草の命令を全艦爆隊に伝達する。
 艦爆隊の数は、三十四機(当初は三十六機だったが、二機が発動機不調で引き返していた)。蒼龍と飛龍の九九艦爆で構成されている。
 出来れば蒼龍隊も戦力を集中させたかったが、敵空母の数は三隻である。一隻でも取り逃がせば、格納庫内に残った直掩機を発艦させないとも限らない。後続の第二次攻撃隊のためにも、撃沈出来ないまでもまずは飛行甲板を潰しておこうと江草は思ったのである。
 江草隊は、高度五〇〇〇メートルを維持したまま飛行を続ける。先ほどの江草の命令に従って、すでに艦爆隊は三つの編隊に分かれていた。
 攻撃隊隊長である楠美正少佐からは、まだ「ト連送(全軍突撃セヨ)」の通信は発せられていない。
 理想的な雷爆同時攻撃とするための頃合いを図っているのだろう。
 九九艦爆は徐々に爆撃針路に入っていく。これで、いつト連送が発せられても艦爆隊が時機を見誤ることはない。
 そして―――。

「楠機よりト連送、発せられました!」

「よし、行くぞ!」

 江草は、機体を降下態勢に入れた。残りの艦爆隊も、それぞれの目標に向けて降下を開始する。
 途端、敵艦からの対空砲火が自分たちに向かい始める。曳光弾の火箭と、砲弾が炸裂する黒煙。
 機体の風防がビリビリと震え出す。
 その中を、機体後部を赤く塗った特徴的な江草機が風上側に占位しながら降下していく。絶えず自機と標的との位置関係を把握しつつ、機体を目標の上空へと向けていった。
 真後ろから風を受けるようにしているので、機体位置の修正は最小限で済んだ。
 江草は急降下地点まで自らの九九艦爆を導くと、ダイヴブレーキを展開して一転、機体を急降下させる。
 降下角度は六十度。
 対空砲火はますます激しくなったように感じる。轟音が、周囲を満たしていた。
 その中を、江草隊は突っ切っていく。
 眼下に見える敵空母の甲板の縁に並べられている対空火器の発砲炎で、敵空母の飛行甲板の形がはっきりと判る。
 江草は思わず不敵な笑みを浮かべた。米軍は、自ら標的の範囲を教えてくれている。
 高度計の針は、どんどん下がっていく。二〇〇〇メートルを切り、一〇〇〇メートルを切る。
 発砲炎で縁取られた米空母の飛行甲板が、照準器の中で見る見る内に大きくなっていく。

「用意―――」

 江草は投下把柄に手を掛ける。
 高度七〇〇、六〇〇、五〇〇―――。

「てっ!」

 その瞬間、江草は把柄を引いた。
 胴体下部から二五〇キロ爆弾が切り離され、それは米空母の飛行甲板を目指して落下していった。
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