暁のミッドウェー

三笠 陣

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26 制空零戦隊

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 ヨークタウン、サラトガの戦闘機隊も、状況はラムゼーらレキシントン戦闘機隊と変わりがなかった。
 ヨークタウンのジェームズ・H・フラットレー少佐率いる戦闘機隊などは、誘導に従った地点に向かうとすでに日本の編隊は彼らの上空を通過した後であったなど、誘導管制の混乱は続いていた。
 そして、もっとも悲惨であったのは雷撃隊の阻止のために高度六〇〇メートル付近を飛行していたドーントレス隊であった。
 後部に七・七ミリ機銃を二門装備するこの艦上爆撃機は、確かに鈍足の雷撃機を阻止するためにはある程度、効果があったかもしれない。
 しかし、彼らが標的とする九七艦攻は、彼らの母艦に搭載されていた鈍重なTBDデバステーター雷撃機とはまったく速度が違っていた。
 魚雷を抱えて時速一八五キロでのろのろと飛ぶデバステーターと違い、九七艦攻は時速約三三〇キロで突っ込んできたのである。
 デバステーターのような鈍重な機体を相手にすると思っていたドーントレス搭乗員たちの対応は、一手、遅れた。彼らもまた、F4F隊と同じく頭上を飛行する敵機を見逃さざるを得なかった。
 そして、九七艦攻を守るために制空隊から分離した直掩の零戦隊が、低空を舞うドーントレス隊を迎撃戦闘機と誤認。彼らは上空からいきなり射撃を受けたのである。
 もちろん、戦闘機と違って後部機銃のある艦上爆撃機なので、咄嗟に対応出来たドーントレス搭乗員の何人かは機銃を撃ちまくって零戦を撃退することに成功している。しかし、逆にそれは自分たちが戦闘機でないことを零戦搭乗員に知らせることにもなってしまった。
 結果として、敵雷撃隊阻止のために配置されたドーントレス隊は味方戦闘機の援護を一切受けることが出来ない状況で、零戦隊によって次々と撃墜される運命を辿ったのである。





 曳光弾が敵機の翼に吸い込まれ、白煙を引きながら制御を失ったグラマンが蒼い海へと落ちていく。

「……」

 制空隊を率いる赤城の板谷茂少佐は、敵機の撃墜を確認すると即座に意識を周囲に向けた。射撃時の直線飛行時こそ、搭乗員が最も気を付けなければならない瞬間だ。
 幸い、背後から迫ろうとする敵機はいなかった。
 敵艦隊手前十浬の地点では、制空隊の零戦とグラマンとの間で空戦が繰り広げられていた。
 こちらの零戦隊の数は三十六機。内、二十四機を制空隊とし、残りは艦爆、艦攻隊の直掩としている。
 米軍の戦闘機隊は、こちらの侵入高度を見誤ったのか、ずいぶんと低い高度にいた。空戦において敵機に上空を占位されることは致命的だ。
 攻撃隊を守るべき零戦搭乗員たちは、見事に己の役割を果たしている。
 そのことに、板谷は満足感と安堵感を覚えていた。
 インド洋から帰還後の人事異動で、真珠湾以来の熟練搭乗員の一部が異動になっている。MI作戦の実施が一ヶ月繰り下げになったことで、そうした新たな搭乗員たちの訓練もある程度行えたが、それでも一抹の不安はあったのだ。
 あとは、艦爆隊と艦攻隊が無事に敵空母に爆弾と魚雷を叩き込んでくれるのを祈るばかりであった。
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