26 / 105
26 制空零戦隊
しおりを挟む
ヨークタウン、サラトガの戦闘機隊も、状況はラムゼーらレキシントン戦闘機隊と変わりがなかった。
ヨークタウンのジェームズ・H・フラットレー少佐率いる戦闘機隊などは、誘導に従った地点に向かうとすでに日本の編隊は彼らの上空を通過した後であったなど、誘導管制の混乱は続いていた。
そして、もっとも悲惨であったのは雷撃隊の阻止のために高度六〇〇メートル付近を飛行していたドーントレス隊であった。
後部に七・七ミリ機銃を二門装備するこの艦上爆撃機は、確かに鈍足の雷撃機を阻止するためにはある程度、効果があったかもしれない。
しかし、彼らが標的とする九七艦攻は、彼らの母艦に搭載されていた鈍重なTBDデバステーター雷撃機とはまったく速度が違っていた。
魚雷を抱えて時速一八五キロでのろのろと飛ぶデバステーターと違い、九七艦攻は時速約三三〇キロで突っ込んできたのである。
デバステーターのような鈍重な機体を相手にすると思っていたドーントレス搭乗員たちの対応は、一手、遅れた。彼らもまた、F4F隊と同じく頭上を飛行する敵機を見逃さざるを得なかった。
そして、九七艦攻を守るために制空隊から分離した直掩の零戦隊が、低空を舞うドーントレス隊を迎撃戦闘機と誤認。彼らは上空からいきなり射撃を受けたのである。
もちろん、戦闘機と違って後部機銃のある艦上爆撃機なので、咄嗟に対応出来たドーントレス搭乗員の何人かは機銃を撃ちまくって零戦を撃退することに成功している。しかし、逆にそれは自分たちが戦闘機でないことを零戦搭乗員に知らせることにもなってしまった。
結果として、敵雷撃隊阻止のために配置されたドーントレス隊は味方戦闘機の援護を一切受けることが出来ない状況で、零戦隊によって次々と撃墜される運命を辿ったのである。
曳光弾が敵機の翼に吸い込まれ、白煙を引きながら制御を失ったグラマンが蒼い海へと落ちていく。
「……」
制空隊を率いる赤城の板谷茂少佐は、敵機の撃墜を確認すると即座に意識を周囲に向けた。射撃時の直線飛行時こそ、搭乗員が最も気を付けなければならない瞬間だ。
幸い、背後から迫ろうとする敵機はいなかった。
敵艦隊手前十浬の地点では、制空隊の零戦とグラマンとの間で空戦が繰り広げられていた。
こちらの零戦隊の数は三十六機。内、二十四機を制空隊とし、残りは艦爆、艦攻隊の直掩としている。
米軍の戦闘機隊は、こちらの侵入高度を見誤ったのか、ずいぶんと低い高度にいた。空戦において敵機に上空を占位されることは致命的だ。
攻撃隊を守るべき零戦搭乗員たちは、見事に己の役割を果たしている。
そのことに、板谷は満足感と安堵感を覚えていた。
インド洋から帰還後の人事異動で、真珠湾以来の熟練搭乗員の一部が異動になっている。MI作戦の実施が一ヶ月繰り下げになったことで、そうした新たな搭乗員たちの訓練もある程度行えたが、それでも一抹の不安はあったのだ。
あとは、艦爆隊と艦攻隊が無事に敵空母に爆弾と魚雷を叩き込んでくれるのを祈るばかりであった。
ヨークタウンのジェームズ・H・フラットレー少佐率いる戦闘機隊などは、誘導に従った地点に向かうとすでに日本の編隊は彼らの上空を通過した後であったなど、誘導管制の混乱は続いていた。
そして、もっとも悲惨であったのは雷撃隊の阻止のために高度六〇〇メートル付近を飛行していたドーントレス隊であった。
後部に七・七ミリ機銃を二門装備するこの艦上爆撃機は、確かに鈍足の雷撃機を阻止するためにはある程度、効果があったかもしれない。
しかし、彼らが標的とする九七艦攻は、彼らの母艦に搭載されていた鈍重なTBDデバステーター雷撃機とはまったく速度が違っていた。
魚雷を抱えて時速一八五キロでのろのろと飛ぶデバステーターと違い、九七艦攻は時速約三三〇キロで突っ込んできたのである。
デバステーターのような鈍重な機体を相手にすると思っていたドーントレス搭乗員たちの対応は、一手、遅れた。彼らもまた、F4F隊と同じく頭上を飛行する敵機を見逃さざるを得なかった。
そして、九七艦攻を守るために制空隊から分離した直掩の零戦隊が、低空を舞うドーントレス隊を迎撃戦闘機と誤認。彼らは上空からいきなり射撃を受けたのである。
もちろん、戦闘機と違って後部機銃のある艦上爆撃機なので、咄嗟に対応出来たドーントレス搭乗員の何人かは機銃を撃ちまくって零戦を撃退することに成功している。しかし、逆にそれは自分たちが戦闘機でないことを零戦搭乗員に知らせることにもなってしまった。
結果として、敵雷撃隊阻止のために配置されたドーントレス隊は味方戦闘機の援護を一切受けることが出来ない状況で、零戦隊によって次々と撃墜される運命を辿ったのである。
曳光弾が敵機の翼に吸い込まれ、白煙を引きながら制御を失ったグラマンが蒼い海へと落ちていく。
「……」
制空隊を率いる赤城の板谷茂少佐は、敵機の撃墜を確認すると即座に意識を周囲に向けた。射撃時の直線飛行時こそ、搭乗員が最も気を付けなければならない瞬間だ。
幸い、背後から迫ろうとする敵機はいなかった。
敵艦隊手前十浬の地点では、制空隊の零戦とグラマンとの間で空戦が繰り広げられていた。
こちらの零戦隊の数は三十六機。内、二十四機を制空隊とし、残りは艦爆、艦攻隊の直掩としている。
米軍の戦闘機隊は、こちらの侵入高度を見誤ったのか、ずいぶんと低い高度にいた。空戦において敵機に上空を占位されることは致命的だ。
攻撃隊を守るべき零戦搭乗員たちは、見事に己の役割を果たしている。
そのことに、板谷は満足感と安堵感を覚えていた。
インド洋から帰還後の人事異動で、真珠湾以来の熟練搭乗員の一部が異動になっている。MI作戦の実施が一ヶ月繰り下げになったことで、そうした新たな搭乗員たちの訓練もある程度行えたが、それでも一抹の不安はあったのだ。
あとは、艦爆隊と艦攻隊が無事に敵空母に爆弾と魚雷を叩き込んでくれるのを祈るばかりであった。
16
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる