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23 基地航空隊壊滅
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だが、第五派の空襲が始まったのは、それから間もなくのことであった。
ベンジャミン・W・ノリス海兵少佐率いるSB2Uヴィンディケーター十一機が、第二艦隊上空に現れたのである。
本来はヘンダーソン少佐のドーントレス隊と共同攻撃を行う予定であったのだが、旧式機のために遅れ、結果として時間差攻撃となったのだ。
この時、上空に上がっていた零戦隊の機銃弾は尽きつつあった。
一旦、母艦に帰還して燃料と弾薬の補給を受けている機体も、未だ再度の発艦準備が整っていたなかった。
そのためヘンダーソン隊の時と違い、ノリス隊の迎撃に対応出来た零戦隊はわずか一個小隊三機のみであった。
図らずも、ヘンダーソン隊の犠牲がノリス隊を救ったといえよう。
それでもノリス隊には護衛戦闘機がいなかったため、咄嗟に雲の中に飛び込んだ。ヴィンディケーターはドーントレスよりも旧式な機体であり、零戦隊の前には無力であると考えたのだ。
そして少数の零戦隊の迎撃を振り切って雲を突き抜けると、そこにいたのはジャップ空母ではなく大型艦であった。
ノリス少佐は一瞬だけ、逡巡した。
少し離れた位置にいるジャップの空母を目指すか、このまま目の前にいる大型艦を狙うか。
だが、降下をやり直して敵空母に向かうのは危険が大き過ぎた。いつ、ジャップの戦闘機が自分たちを襲ってくるかもしれないのだ。
爆弾も投下しないまま、虚しく撃墜されるわけにはいかない。
ノリス少佐は決断した。
「全機、俺に続け!」
彼は、目の前にいる大型艦に向け降下を開始したのだ。
「敵機、本艦に向かってきます! 数は十! 距離二〇〇〇!」
ノリス少佐率いるヴィンディケーター隊の目標とされたのは、戦艦日向であった。
「……」
日向防空指揮所で、艦長の松田千秋大佐はじっと上空を見つめていた。
よりにもよって自分の艦を標的にするとは運のない奴らだ、と彼は不敵な内心のまま敵急降下爆撃機の動向、そして風向きを確認している。
松田は、敵機による爆撃は適切な操艦を行えば必ず回避出来るという考えの持ち主であった。
標的艦摂津の艦長をやっていた時代には、詳細な爆撃回避運動に関する意見書を海軍省教育局に提出しているほどである。
それに、松田にはもう一つ、自信の根拠となるものがあった。
日向は五月五日、演習中に第五主砲塔の爆発事故を起こし、今回の作戦では撤去した砲塔のあった場所に九六式二十五ミリ機銃を三連装四基十二門、設置していたのである。
対空火器の数という点でいえば、この時の日向は日本戦艦の中で最も充実している艦といえただろう(もっとも、アメリカの新鋭戦艦に比べれば依然として貧弱であったが)。
対空砲火が炸裂する黒い弾幕の中を、敵機は怯むことなく進んでくる。連中も、ミッドウェーを守るのに必死ということか。
「航海、取り舵」
松田は冷静に航海長に転舵を命じた。依然として、敵機は日向に対する爆撃針路を取り続けている。
二十五ノットで疾走する日向の船体は、舵を切ったところですぐには転舵してくれない。三万五〇〇〇トンの慣性のまま、しばらく直進を続ける。
単に取り舵、面舵の場合、その転舵角度は十五度である。
「……」
なおも松田は上空の敵機の様子を窺っている。
そして、上空でキラリと光るものが見えた瞬間、叫んだ。
「取り舵一杯、急げ!」
「敵機直上、急降下!」
松田の命令に、見張り員の絶叫が重なる。
標的艦摂津での経験から、松田は急降下爆撃機はダイヴブレーキを展開した瞬間、太陽の光を反射して光ることを知っていた。
そうでなくとも、これまでの経験や風向き、自艦と敵機の位置関係から、連中がどの段階で急降下に移るのかは予測がついていた。
日向の舵が取り舵一杯である三十度に切られる。
すでに最初の取り舵によってある程度、左舷に振られ始めていた艦首が、再度の取り舵転舵によってさらに大きく左舷へと振られていく。
急降下の態勢に入った敵機は、その段階で照準の修正が不可能となる。
松田は、これを狙っていたのだ。
引き起こしをかけた敵機が日向艦上を飛び越していった直後、右舷に落下して炸裂した爆弾による水柱が轟音と共に立ち上る。
転舵による傾斜を深める日向の艦橋で、松田は両足に力を込めながら爆弾を投下して上空を通過していく敵機を見つめていた。
やがて、すべての敵機が飛び去り、最後の水柱が崩れ去った時、日向の船体は無傷のまま洋上にその姿を浮かべていた。
こうして、第二艦隊は五派にわたるミッドウェー島基地航空隊の空襲をことごとく退けることに成功したのである。
ベンジャミン・W・ノリス海兵少佐率いるSB2Uヴィンディケーター十一機が、第二艦隊上空に現れたのである。
本来はヘンダーソン少佐のドーントレス隊と共同攻撃を行う予定であったのだが、旧式機のために遅れ、結果として時間差攻撃となったのだ。
この時、上空に上がっていた零戦隊の機銃弾は尽きつつあった。
一旦、母艦に帰還して燃料と弾薬の補給を受けている機体も、未だ再度の発艦準備が整っていたなかった。
そのためヘンダーソン隊の時と違い、ノリス隊の迎撃に対応出来た零戦隊はわずか一個小隊三機のみであった。
図らずも、ヘンダーソン隊の犠牲がノリス隊を救ったといえよう。
それでもノリス隊には護衛戦闘機がいなかったため、咄嗟に雲の中に飛び込んだ。ヴィンディケーターはドーントレスよりも旧式な機体であり、零戦隊の前には無力であると考えたのだ。
そして少数の零戦隊の迎撃を振り切って雲を突き抜けると、そこにいたのはジャップ空母ではなく大型艦であった。
ノリス少佐は一瞬だけ、逡巡した。
少し離れた位置にいるジャップの空母を目指すか、このまま目の前にいる大型艦を狙うか。
だが、降下をやり直して敵空母に向かうのは危険が大き過ぎた。いつ、ジャップの戦闘機が自分たちを襲ってくるかもしれないのだ。
爆弾も投下しないまま、虚しく撃墜されるわけにはいかない。
ノリス少佐は決断した。
「全機、俺に続け!」
彼は、目の前にいる大型艦に向け降下を開始したのだ。
「敵機、本艦に向かってきます! 数は十! 距離二〇〇〇!」
ノリス少佐率いるヴィンディケーター隊の目標とされたのは、戦艦日向であった。
「……」
日向防空指揮所で、艦長の松田千秋大佐はじっと上空を見つめていた。
よりにもよって自分の艦を標的にするとは運のない奴らだ、と彼は不敵な内心のまま敵急降下爆撃機の動向、そして風向きを確認している。
松田は、敵機による爆撃は適切な操艦を行えば必ず回避出来るという考えの持ち主であった。
標的艦摂津の艦長をやっていた時代には、詳細な爆撃回避運動に関する意見書を海軍省教育局に提出しているほどである。
それに、松田にはもう一つ、自信の根拠となるものがあった。
日向は五月五日、演習中に第五主砲塔の爆発事故を起こし、今回の作戦では撤去した砲塔のあった場所に九六式二十五ミリ機銃を三連装四基十二門、設置していたのである。
対空火器の数という点でいえば、この時の日向は日本戦艦の中で最も充実している艦といえただろう(もっとも、アメリカの新鋭戦艦に比べれば依然として貧弱であったが)。
対空砲火が炸裂する黒い弾幕の中を、敵機は怯むことなく進んでくる。連中も、ミッドウェーを守るのに必死ということか。
「航海、取り舵」
松田は冷静に航海長に転舵を命じた。依然として、敵機は日向に対する爆撃針路を取り続けている。
二十五ノットで疾走する日向の船体は、舵を切ったところですぐには転舵してくれない。三万五〇〇〇トンの慣性のまま、しばらく直進を続ける。
単に取り舵、面舵の場合、その転舵角度は十五度である。
「……」
なおも松田は上空の敵機の様子を窺っている。
そして、上空でキラリと光るものが見えた瞬間、叫んだ。
「取り舵一杯、急げ!」
「敵機直上、急降下!」
松田の命令に、見張り員の絶叫が重なる。
標的艦摂津での経験から、松田は急降下爆撃機はダイヴブレーキを展開した瞬間、太陽の光を反射して光ることを知っていた。
そうでなくとも、これまでの経験や風向き、自艦と敵機の位置関係から、連中がどの段階で急降下に移るのかは予測がついていた。
日向の舵が取り舵一杯である三十度に切られる。
すでに最初の取り舵によってある程度、左舷に振られ始めていた艦首が、再度の取り舵転舵によってさらに大きく左舷へと振られていく。
急降下の態勢に入った敵機は、その段階で照準の修正が不可能となる。
松田は、これを狙っていたのだ。
引き起こしをかけた敵機が日向艦上を飛び越していった直後、右舷に落下して炸裂した爆弾による水柱が轟音と共に立ち上る。
転舵による傾斜を深める日向の艦橋で、松田は両足に力を込めながら爆弾を投下して上空を通過していく敵機を見つめていた。
やがて、すべての敵機が飛び去り、最後の水柱が崩れ去った時、日向の船体は無傷のまま洋上にその姿を浮かべていた。
こうして、第二艦隊は五派にわたるミッドウェー島基地航空隊の空襲をことごとく退けることに成功したのである。
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