暁のミッドウェー

三笠 陣

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18 レキシントン攻撃隊

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 母艦を発進して空中を進むこと約二時間あまり。
 オールト中佐は高度四五〇〇メートルを飛行しつつ、眼下の海上に気を配っていた。彼としても、ジャップの空母部隊と直接対決するのはこれが初めての経験なのだ。
 本当にこの針路で正しいのか、自分が飛んだ先にジャップの空母はいるのか。
 そんな自問自答を繰り返しながらこの二時間を飛んできた。
 だが、ようやくオールト中佐の眼下に、白い航跡を幾本も引くジャップ艦隊の姿を見つけたのである。
 とはいえ高度四五〇〇メートルからでは、それは海上に浮かぶ小さな木の葉でしかない。

「連中がジャップの空母部隊で間違いないな?」

 攻撃前の最後の確認、あるいは自分の中にある不安を打ち消すために、彼は後部座席に尋ねた。

「あれは、ジャップの空母部隊に間違いありません!」

 後部座席で双眼鏡を構えていた偵察員は、興奮に声を上ずらせていた。

「アカギにカガ、それに小型空母が見えます!」

「よし、ならば攻撃に移るぞ!」

「アイ・サー!」

 オールト中佐は操縦桿を操り、爆撃針路に入るための接敵行動に入った。だが、そこへ後部座席から警告の叫びが飛んだ。

「上空より零戦ジーク!」





 日本の攻撃隊の場合は、上空から戦闘機、爆撃機隊、雷撃機隊の順でがっしりとした編隊を組んで飛行する。
 だが、アメリカの場合は母艦ごと、編隊ごとに独立して飛行する。このため、戦闘機隊は爆撃機隊と雷撃機隊の中間地点を飛行するようという形式となっていた。これは、日本と違って隊内無線が発達していたことで可能となった戦術ではあったが、初の空母決戦に挑もうとしているミッドウェー海戦時点では、アメリカ側のこの戦術は洗練されたものとは良い難かった。
 この時、零戦隊の一部は高度六〇〇〇メートルにて警戒を行っていた。つまり、オールト中佐のドーントレス隊よりも上空を占位していたのである。
 最初にオールト隊の突入に気付いたのは、加賀の山本旭一飛曹率いる小隊(三機)であった。
 彼らが、上空から逆落としにドーントレス隊に襲いかかったのである。ドーントレス隊も後部機銃で応戦し、そこに双方の戦闘機隊が駆け付けて空戦が始まる。





「右舷八〇度に雷撃機八!」

 一方、オールト中佐らドーントレス隊とほぼ同時に、レキシントン雷撃隊を率いるジェームズ・H・ブレッド少佐のデバステーター隊も一航艦を捕捉していた。

「上空より味方直掩機!」

 赤城見張り員の声には、歓喜が滲んでいた。
 一部の零戦隊は、低空から接近しつつあった米雷撃隊の存在に気付き、降下をかけたのだ。
 魚雷を抱えた状態でのデバステーターは、時速一八五キロ程度しか出せない。たちまち零戦に覆い被さられて、撃墜されていく。
 黒煙と共に安定を失い、海面に激突して水しぶきを上げる様に、艦隊の将兵たちは万歳の叫びを上げる。上空の零戦隊に、声援を送る者たちもいた。
 だが、日本の空母部隊は直掩戦闘機を母艦から管制することは出来ない。機上無線の性能が悪いためで、空戦はほとんど搭乗員個々人の技量に任せられているといえた。
 結果、左舷側から接近しつつあった四機のデバステーターの小隊に、艦隊陣形内部への侵入を許すこととなってしまった。

「撃ち方始め!」

 砲術長の叫びと共に、赤城の高角砲と機銃が火を噴き始める。発砲の振動に、艦橋が揺れる。
 他の艦も、対空戦闘を開始していた。だが、輪形陣を組んでいない一航艦の対空砲火は濃密とは言い難いものであった。
 第三戦隊の金剛型四隻、第五、第八戦隊の重巡四隻が空母を守るべく対空砲火を撃ち上げているが、米雷撃機の侵入を阻むには至っていない。

「左舷三〇度、距離二〇〇〇に雷撃機四!」

「取り舵一杯!」

 見張り員の叫びを受けて、赤城艦長・青木泰二郎大佐が命じる。
 基準排水量三万六五〇〇トンと、赤城の巨体はレキシントンと遜色ない。その船体がゆっくりと艦首を左に向け始める。
 米軍の雷撃機は果敢であった。対空砲火の弾幕が吹き荒れる中を突進し、魚雷を投下した。

「……」

「……」

「……」

 艦橋の誰もが、固唾を呑んで海面を見つめている。
 白い雷跡と、それと投下したデバステーター。
 数瞬後には米雷撃機が赤城の頭上を飛び越していく。そして、ようやく一部の零戦隊がその四機のデバステーターの追撃にかかった。
 するすると海面を這う魚雷の航跡と、赤城の艦首が平行に並ぶ。
 そして―――。
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