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17 一航艦の防空戦
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南雲中将はミッドウェー攻撃に出撃した五航戦攻撃隊の収容を待ってから、艦隊を東進させることを決意していた。米空母部隊に向けた攻撃隊を、速やかに収容するためである。
なお、五航戦攻撃隊の帰還は〇六三〇時(現地時間:七月四日〇九三〇時)頃になる予定であった。
発見された米空母部隊に向けて一航戦、二航戦の四空母が二派にわたる攻撃隊の発進を終えたのが〇四二〇時過ぎで、この頃には第二艦隊旗艦・愛宕から発信された「我、空襲ヲ受ク」との電文を一航艦側は受信していた。
この時点では、南雲艦隊の方は敵飛行艇以外の敵機発見報告はなく、警戒のための直掩機を上空に上げつつ五航戦攻撃隊の帰還、あるいは米艦隊に向けた第一次攻撃隊の報告を待っている状況であった。
そうした、ある意味で弛緩した時間が流れていた一航艦に緊張が走る報告がもたらされたのは、〇五三〇時過ぎ(現地時間:〇八三〇時)のことであった。
艦隊陣形の外縁部にあった戦艦霧島が、敵機発見を告げる煙幕を上げ始めたのである。
この時、赤城、加賀、蒼龍、飛龍からは零戦各六機、翔鶴、瑞鶴からは各三機の計三〇機の零戦が直掩隊として艦隊上空に存在していた。
一方、霧島が発見し、一航艦に迫りつつあった敵機の正体は、艦爆隊長ウィリアム・B・オールト中佐率いるレキシントン攻撃隊であった。少し遅れて、サラトガ攻撃隊が続いている。
アメリカ海軍では日本海軍と違って空母ごと、あるいは隊ごとに編隊を組む。
レキシントン攻撃隊はF4Fワイルドキャット八機、SBDドーントレス二十二機、TBDデバステーター十二機、サラトガ攻撃隊は4Fワイルドキャット十二機、SBDドーントレス二十四機、合計でF4F二〇機、SBD四十六機、TBD十二機の総計七十八機。
一航艦がこの規模の敵編隊より攻撃を受けるのは、これが初めての経験であった。
「電探は結局役に立たなかったではないか」
赤城艦橋でそう言ったのは、源田実であった。
五月末の試験ではそれなりの成果を残していた電探であったが、赤城に搭載されている二一号電探は柱島を出港して以来、不調続きであった。
作動していても、探知するのは見張り員の報告とほぼ同時というような有り様。
電探に懐疑的な人間たちにとっては、自らの主張を裏付けるような成果しか赤城の二一号電探は残せていないのだ。
源田だけでなく、司令長官である南雲忠一中将や草鹿龍之介参謀長もまた、電探よりも霧島の見張り員の方が先に敵機を見つけるという結果に、失望に近い表情を浮かべていた。
実際、海軍技術研究所の者たちが試験的に製造し専門的な整備を行っている伊勢、日向の電探と、赤城や翔鶴に搭載されている量産型の電探では、その性能に違いがあったのだ。
さらに、赤城の電探員は未だ電探の扱いに慣れていない。電探を回転させようとするとすぐに不調を起こし、ちょっとした衝撃が加わるとすぐに故障した。二一号電探は翌年に改二型が登場するまで、不安定な性能しか発揮出来なかったのである。
「直掩機、向かいます」
見張り員の声が、赤城艦橋に響く。電探は役に立たなかったが、零戦搭乗員たちはそのようなものなどなくとも敵機の来襲を察知したようである。
不意を突かれさえしなければ、零戦隊が確実に空母を守ってくれるだろう。
源田はそう考えていた。
インド洋では確かに陸上機によって不意を突かれ、赤城、翔鶴の二隻が被弾する損害を受けたが、今回は米機動部隊の動向を飛行艇や潜水艦によってある程度、事前に把握出来ており、索敵機からも米空母から発進した攻撃隊の存在を知らされている。
不意打ちをされる要素など、どこにもない。源田はそう確信していた。
そこに、米軍搭乗員の技量は稚拙だという認識が彼の確信を自信へと変えていた。実際、空襲を受けたという第二艦隊からは、損害に関する報告は未だない。
零戦隊が十二分に活躍してくれるのならば、艦隊の防空は安泰である。
どこか楽観的な考えと共に、源田は敵機発見の報告が寄せられた空を見上げていた。
なお、五航戦攻撃隊の帰還は〇六三〇時(現地時間:七月四日〇九三〇時)頃になる予定であった。
発見された米空母部隊に向けて一航戦、二航戦の四空母が二派にわたる攻撃隊の発進を終えたのが〇四二〇時過ぎで、この頃には第二艦隊旗艦・愛宕から発信された「我、空襲ヲ受ク」との電文を一航艦側は受信していた。
この時点では、南雲艦隊の方は敵飛行艇以外の敵機発見報告はなく、警戒のための直掩機を上空に上げつつ五航戦攻撃隊の帰還、あるいは米艦隊に向けた第一次攻撃隊の報告を待っている状況であった。
そうした、ある意味で弛緩した時間が流れていた一航艦に緊張が走る報告がもたらされたのは、〇五三〇時過ぎ(現地時間:〇八三〇時)のことであった。
艦隊陣形の外縁部にあった戦艦霧島が、敵機発見を告げる煙幕を上げ始めたのである。
この時、赤城、加賀、蒼龍、飛龍からは零戦各六機、翔鶴、瑞鶴からは各三機の計三〇機の零戦が直掩隊として艦隊上空に存在していた。
一方、霧島が発見し、一航艦に迫りつつあった敵機の正体は、艦爆隊長ウィリアム・B・オールト中佐率いるレキシントン攻撃隊であった。少し遅れて、サラトガ攻撃隊が続いている。
アメリカ海軍では日本海軍と違って空母ごと、あるいは隊ごとに編隊を組む。
レキシントン攻撃隊はF4Fワイルドキャット八機、SBDドーントレス二十二機、TBDデバステーター十二機、サラトガ攻撃隊は4Fワイルドキャット十二機、SBDドーントレス二十四機、合計でF4F二〇機、SBD四十六機、TBD十二機の総計七十八機。
一航艦がこの規模の敵編隊より攻撃を受けるのは、これが初めての経験であった。
「電探は結局役に立たなかったではないか」
赤城艦橋でそう言ったのは、源田実であった。
五月末の試験ではそれなりの成果を残していた電探であったが、赤城に搭載されている二一号電探は柱島を出港して以来、不調続きであった。
作動していても、探知するのは見張り員の報告とほぼ同時というような有り様。
電探に懐疑的な人間たちにとっては、自らの主張を裏付けるような成果しか赤城の二一号電探は残せていないのだ。
源田だけでなく、司令長官である南雲忠一中将や草鹿龍之介参謀長もまた、電探よりも霧島の見張り員の方が先に敵機を見つけるという結果に、失望に近い表情を浮かべていた。
実際、海軍技術研究所の者たちが試験的に製造し専門的な整備を行っている伊勢、日向の電探と、赤城や翔鶴に搭載されている量産型の電探では、その性能に違いがあったのだ。
さらに、赤城の電探員は未だ電探の扱いに慣れていない。電探を回転させようとするとすぐに不調を起こし、ちょっとした衝撃が加わるとすぐに故障した。二一号電探は翌年に改二型が登場するまで、不安定な性能しか発揮出来なかったのである。
「直掩機、向かいます」
見張り員の声が、赤城艦橋に響く。電探は役に立たなかったが、零戦搭乗員たちはそのようなものなどなくとも敵機の来襲を察知したようである。
不意を突かれさえしなければ、零戦隊が確実に空母を守ってくれるだろう。
源田はそう考えていた。
インド洋では確かに陸上機によって不意を突かれ、赤城、翔鶴の二隻が被弾する損害を受けたが、今回は米機動部隊の動向を飛行艇や潜水艦によってある程度、事前に把握出来ており、索敵機からも米空母から発進した攻撃隊の存在を知らされている。
不意打ちをされる要素など、どこにもない。源田はそう確信していた。
そこに、米軍搭乗員の技量は稚拙だという認識が彼の確信を自信へと変えていた。実際、空襲を受けたという第二艦隊からは、損害に関する報告は未だない。
零戦隊が十二分に活躍してくれるのならば、艦隊の防空は安泰である。
どこか楽観的な考えと共に、源田は敵機発見の報告が寄せられた空を見上げていた。
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