暁のミッドウェー

三笠 陣

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16 B26雷撃隊

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 一方、コリンズ大尉率いるB26隊はTBF隊よりは敵艦隊に接近することに成功していた。零戦による迎撃を受けた直後、咄嗟に降下することで加速し、その追撃を振り切ったのである。結果、一機を失うのみでコリンズ隊は第二機動部隊の空母に肉薄することが出来た。
 伊勢や日向、陸奥、そして愛宕以下の艦艇が盛んに対空砲火を噴き上げるが、それは濃密な弾幕とは言い難いものであった。
 轟音と黒煙を突破して三機のB26が雷撃を敢行したのは、もっとも手近な位置にあった小型空母であった。





「敵双発雷撃機三機、右舷より突っ込んできます!」

 龍驤艦橋に、見張り員の絶叫が響き渡る。角田以下四航戦司令部の者たちが緊迫した表情で、右舷を見る。

「面舵一杯、急げ!」

 間髪を容れず、加藤艦長が転舵の命令を下す。敵雷撃機に対して艦首を向けることで、敵に対する面積を最小限にしようとしているわけである。
 対空砲火の弾幕が、三機の双発雷撃機の周囲に集中する。だが、撃墜される機体はなかった。
 基準排水量一万一〇〇〇トン、重心の高い龍驤の船体が、思い切り左に傾斜しながら右舷へと転舵を続けている。

「……」

「……」

「……」

 その傾斜に皆が足を踏ん張って耐えている龍驤艦橋は、緊迫した空気に満ちていた。ここまで敵雷撃機に接近される経験は、初めてであったからだ。
 敵の一番機の投下した魚雷が、舷側を通過して後方に抜ける。まだ艦橋の緊張感は続く。続いて敵の二番機。だが、何故かこの機体は魚雷を投下しなかった。投下装置の故障かもしれない(実際には投下装置の不良でいつの間にか魚雷を投下してしまっており、このB26は龍驤接近時に魚雷を抱えていなかった)。
 そして、三機目は巧みだった。一番機、二番機が転舵によって躱されると知ると、咄嗟に龍驤の左舷側に回り込んだのである。

「敵三番機、左舷に回り込みました!」

「取り舵一杯!」

 龍驤の舵が、今度は反対方向に切られる。二十九ノットの高速を発揮しつつ、彼女は「S」字の航跡を描きながら回避運動を続けていた。

「敵機、なおも低空で接近中!」

 三機目のB26は、魚雷を投下した低空のまま龍驤に接近してきていた。まるで、こちらに体当たりでもしようというかのようである。

「撃て! 撃ち落とせ!」

 砲術長の切迫した声が響き、高角砲と機銃が猛然と射撃を続ける。

「……」

 誰もが緊迫の表情を浮かべる中、角田は艦橋で仁王立ちになって接近する敵機を睨み続けていた。
 刹那、敵機は機銃掃射を行いつつ龍驤の飛行甲板上を飛び去っていった。龍驤乗員たちの目に、機体に描かれた鮮やかな白い星が映る。

「魚雷、左舷に抜けました!」

「被害知らせ!」

 ほっと息つく暇もなく、加藤艦長は被害の集計を求めた。この時、龍驤はB26による機銃掃射によって高角砲一基が旋回不能となり、二名の重傷者を出していたのである。
 だがとにかくも、米軍機の第一波を凌ぐことは出来た。四隻の空母に、深刻な損害は生じていない。

「だが、戦いは始まったばかりに過ぎん」

 角田はそう言って、自らの気を引き締めた。今の敵機は、勇敢そのものであった。このような搭乗員が米空母にもいるのならば、この戦いは容易ならぬものとなるだろう。
 そんな予感を、彼は覚えていた。
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