暁のミッドウェー

三笠 陣

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15 交錯する攻撃隊

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 ミッドウェーの戦場海域上空にはこの時、両軍の複数の攻撃隊が存在していた。
 日本側は、嶋崎重和少佐率いる五航戦攻撃隊、志賀淑雄大尉率いる第二機動部隊攻撃隊、そして楠美正少佐率いる第一次攻撃隊、友永丈市大尉率いる第二次攻撃隊である。
 一方のアメリカ側は、ミッドウェー島を発進した攻撃隊、第十七任務部隊および第十六任務部隊を発進した攻撃隊の三つが空中に存在していた。
 この内、ミッドウェー島の航空部隊は、この海域に存在していた合衆国航空戦力の中で最も早く敵艦隊への攻撃を開始することに成功している。
 この戦力は、B17十五機(陸軍)、B26マローダー四機(陸軍)、SBDドーントレス十六機(海兵隊)、TBFアヴェンジャー六機(海軍)、SB2Uヴィンディケーター十一機(海兵隊)。
 合計五十二機の攻撃隊であった。ただし、戦闘機の護衛は存在していない。
 その上、指揮系統が陸軍、海軍、海兵隊と分かれていたため、統一的な攻撃の指揮を執れる者が存在していなかった。
 各攻撃隊が、それぞれに日本艦隊への空襲を敢行する形となったのである。
 最初に第二機動部隊に対する攻撃を開始したのは、ランドン・K・フィーバリング大尉率いるTBF隊と、ジェームズ・F・コリンズ大尉のB26隊であった。
 空襲が開始された時刻は、日本側の戦闘詳報によると〇四〇五時(日本時間。現地時間:七月四日〇七〇五時)と記録されている。
 TBF隊とB26隊は、指揮官同士が特に連携していたわけではないのだが、奇しくもほとんど同じ時刻に第二機動部隊への攻撃を開始することに成功したのである。特に最新鋭攻撃機TBFアヴェンジャーは、この空襲が初陣となった。
 ただ、この二つの攻撃隊に一機の護衛戦闘機も付けられていなかったことが、悲劇を生んだ。
 TBF隊のフィーバリング大尉は、出撃前、敵空母が一隻の場合は三機ずつに分かれて両舷から攻撃する、敵空母が二隻以上の場合は各機がそれぞれの目標を選定して攻撃せよと命じていた。
 一方の第二機動部隊では、伊勢の二一号電探が朝からおおむね好調に作動していた。伊勢と日向には、海軍技術研究所が実戦での情報を収集したいとして派遣した熟練技術者が同乗していた。彼らによって、帝国海軍初の実戦での電探使用は支えられていたのである。
 この伊勢の電探がほぼ正常に作動していたことが、米攻撃隊の悲劇を助長した。
 この時、TBFは爆弾倉の開閉機構の作動不良を恐れ、爆弾倉を開いたまま第二機動部隊に接近していた。そのために空気抵抗によって動きが鈍重になっていたのである。
 六機のTBFは、各個に目標を選定して攻撃を開始しようとした。その時、上空から直掩の零戦隊に襲いかかられたのである。
 一瞬にして、フィーバリング大尉以下、五機の機体が黒煙に包まれる。

零戦ジーク!」

 そして残る一機、バート・アーネスト少尉の操るTBFの機内に、機銃手の絶叫が響いた。アーネストは咄嗟に操縦桿を捻る。だが、遅かった。機体に衝撃が走る。

「ああっ、神よ!」

 咄嗟に口走った祈りの言葉が天に届いたのかは判らない。だが、被弾の衝撃の後もアーネスト少尉の機体は飛行を続けていた。

「おい、お前たち、無事か!?」

 後部の電信員と機銃手に呼びかけてみるが、反応はなかった。この時、機銃手は零戦の放った機銃弾の直撃によって即死し、電信員も負傷によって意識を失っていたのである。
 だが、アーネスト少尉は生き残ったのは自分だけだと思ってしまった。
 そして、その自分も遠からず死ぬのだろうと絶望的な気分になる。今の被弾によって油圧装置が故障したのか、昇降舵の操作が不可能となってしまったのだ。さらにコンパスも破壊されていた。

「ガッデム!」

 だが、だからこそジャップに魚雷をぶち込まないうちに死んで堪るかという思いが湧き上がってくる。
 もう敵艦隊の中央へと突っ込んで、そこにいる空母に魚雷を投下するのは不可能となっていた。アーネストは手近な目標を探す。三本煙突の巡洋艦が、彼の目に映った。
 その巡洋艦に向かってアーネストは魚雷を投下する。
 そして、彼が一縷の希望をかけて着陸用のトリム調整装置を操作すると、奇跡的に機体は上昇を開始した。
 そのまま彼の機体は零戦による追撃を受けつつも、辛うじて第二機動部隊の上空からの離脱に成功する。そして、このアーネスト機のみが、TBF雷撃隊唯一の生き残りとなった。
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