暁のミッドウェー

三笠 陣

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12 第二機動部隊への空襲

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 この時、ミッドウェーを発進した攻撃隊もまた、近藤信竹中将率いる第二機動部隊に迫りつつあった。
 ミッドウェー攻撃に飛び立った志賀大尉率いる攻撃隊は途上でこの米側攻撃隊とすれ違っており、艦攻隊率いる鮫島博一大尉が艦隊に対して警告の電文を送っている。
 そのため第二機動部隊の将兵は、対空戦闘の用意を整えた上で敵機の来襲に臨むことが出来ていた。
 また、伊勢と日向に搭載されていた電探もこの時、効果を発揮していた。
 五月末、この二戦艦には試験的に電波探信儀、つまりはレーダーが搭載され、各種試験後もそのまま撤去されることなく、搭載されていたのである。
 伊勢には「二号一型」と呼ばれる対空電探が、日向には「二号二型」と呼ばれる対水上電探が設置されていた。
 二一号電探は波長一・五メートル、調子が良ければ航空機を単機で五〇キロ、編隊で一〇〇キロの探知能力を持っている。一方の二二号電探は波長十メートル、こちらも調子が良ければ大型艦を五〇キロ、小型艦を十七キロの距離で探知することが出来た。
 先日、ミッドウェー海域で濃霧が発生した際には日向の二二号電探が艦隊の針路保持に効果を発揮し、昨日の米飛行艇に対しては伊勢の二一号電探が威力を発揮した。
 リード少尉のカタリナ飛行艇を距離三十三キロで探知し、即座に発進した零戦がこれを撃墜したのである。
 敵機はこちらの艦隊の発見に気を取られていたのか、上空から逆落としに突っ込んできた零戦にさしたる抵抗も出来ずに撃墜されていた。
 志賀隊からの警告もあり、直掩の零戦の発艦も含めて第二機動部隊の迎撃態勢は万全であった。

「直掩の零戦、敵機に向かいます!」

 龍驤艦橋にある角田覚治は、見張り員の報告に鷹揚に頷いてみせた。
 ここから先は、零戦搭乗員たちの技量と各艦の艦長や航海長の操艦技術にかかっている。戦隊司令官としては、ただ空襲が終わるのを待つだけである。

「ミッドウェーの基地航空隊は、こちらに食い付いたか」

 第二機動部隊の任務は、ミッドウェー島の基地施設の破壊である。だが、それでも角田には米空母部隊の所在が気になっていた。
 空母を守るように進む戦艦日向の艦長・松田千秋大佐が図上演習で青軍(日本軍)の空母に壊滅的打撃を与えたことは、角田の記憶にも残っている。
 もし、図演と同じような状況が実際に起こったら?
 図上演習の際は、統裁官兼青軍指揮官の宇垣纏少将が強引に青軍の損害を軽微なものに訂正したため、南雲艦隊が実際に大損害を受けた場合のことは何も想定されていない。
 図演で自らの指揮ぶりを否定された松田大佐も、図演は味方の士気を向上させることが最大の目的、と解釈し、やはり南雲艦隊が大損害を蒙った場合の米軍側の作戦行動の予測について何も語っていない。
 対空戦闘で手持ち無沙汰となったためか、角田は今すぐ日向の松田艦長に問い合わせてみたい気分になった。もちろん、そのような単なる思いつきを実行出来るわけもなく、ただ龍驤の司令官席に座っているしかない。
 しかし、万が一が起こった場合は……?
 第二艦隊司令長官・近藤信竹中将は、航空戦の指揮を角田に一任してくれていた。
 つまり水上砲戦のような状況が発生しない限り、第二機動部隊の実質的な指揮官は角田であったのだ。
 どのような事態が発生しても一航艦を援護しやすいよう、もう少し艦隊を北寄りに進めるべきか……。
 そう思いつつ、角田は高角砲発砲の振動に揺れる龍驤に身を任せていた。
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