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9 アメリカ軍攻撃隊発進
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ついに始まったか、とフレッチャーは思った。
どうやらジャップ空母部隊はまず、ミッドウェー島の空襲から始めようとしているらしい。上手くすれば、こちらが先手を取ることが出来よう。
〇六〇七時、カタリナ飛行艇の発見したジャップ艦隊が紛れもなく四隻の空母を擁する部隊であるとの確認が取れたことで、フレッチャー少将の決意は固まった。
彼はレキシントン、サラトガを率いるフィッチ少将に対して、攻撃隊の発進を命じたのである。自らが直率するヨークタウンについては、すでに出していた索敵機を収容後、レキシントン、サラトガの攻撃隊に続行させることとした。
レキシントンとサラトガが、フレッチャー少将の命を受けて行動を開始する。
巡洋戦艦を改造した排水量三万六〇〇〇トンの巨体が風上へと舵を切り、二隻並んで海上を疾走する姿は勇壮そのものであった。
その甲板上には、ジャップ空母部隊を攻撃すべき航空隊が並んでいる。
「発艦始め!」
そして、その号令と共にレキシントン、サラトガの攻撃隊は発艦を始めた。
レキシントンはF4Fワイルドキャット八機、SBDドーントレス二十二機、TBDデバステーター十二機、サラトガはF4Fワイルドキャット十二機、SBDドーントレス二十四機。合計でF4F二〇機、SBD四十六機、TBD十二機の総計七十八機の攻撃隊であった。
なお、これに続くヨークタウンの攻撃隊はF4F八機、SBD二十四機、TBD九機となる予定であった。
つまり、第十七任務部隊だけで、一〇〇機を超える攻撃隊がジャップ空母部隊に殺到することになるのである。
「彼らに神のご加護があらんことを」
フレッチャーは西の空に向かって消えていく攻撃隊を、そう言って見送った。
◇◇◇
一方、スプルーアンス少将率いる第十六任務部隊もまた、日本艦隊への攻撃に向かっていた。
フレッチャー少将の第十七任務部隊よりも北方に存在していた第十六任務部隊は、その位置の関係からまず南西に進んで発見された日本空母部隊を攻撃圏内に収めなければならなかったのである。
スプルーアンスの手元には、上官であるフレッチャー少将と違って二隻の空母しか存在していなかったが、搭乗員たちの士気は高かった。
それは、この二隻が日本本土初空襲であるドーリットル空襲作戦に参加した空母であるという誇りと、新たに配備された最新鋭艦上攻撃機TBFの存在があるからであった。
真珠湾の復讐をなすという願いを込めて“アヴェンジャー”と呼称されるこの雷撃機は未だ生産機数が少なく、六月中旬になってようやくエンタープライズ、ホーネットの雷撃隊から更新が始まったばかりである。
この最新鋭艦攻を、第十六任務部隊は二十九機、搭載していた。
スプルーアンスも搭乗員たちも、すでにミッドウェーのカタリナ飛行艇が発した敵艦隊発見の報は受け取っている。
搭乗員たちはすでに飛行服を着込み、テレプライター(印刷電信機の一種)の周りに集まって刻々ともたらされてくる敵艦隊の位置情報を頭に叩き込んでいた。
彼らは〇三三〇時に起床して朝食を済ませて以来、ずっと発進命令が下るのを待っていた。すでに待機は数時間におよび、その間に二度出撃命令が出され、二度とも取り消されている。
エンタープライズ艦橋にあるスプルーアンスは、一つの決断を迫られていた。
受け取った索敵結果は、確かにジャップ空母部隊の存在を示したものであった。しかし、暗号解読などの事前情報と比べて、発見されたジャップの空母の数は明らかに少ない。
六月三十日にもたらされた対敵情報では、ジャップの空母部隊は六隻の空母で構成されているという。だが、索敵機がもたらした報告では、ジャップの空母は四隻となっている。
自分たちと同じく、ジャップは空母部隊を二群に分けているのではないか? スプルーアンスはそう考えていた。
しかし、すでに第十七任務部隊では攻撃隊の発艦が行われてしまっている。
ルビコンを渡り、賽を投げてしまった以上、ここで逡巡することは許されない。
彼は、ハルゼー時代からこの任務部隊の参謀長を務めていたマイルズ・ブローニング大佐に意見を求めた。
「我々は、もう少し状況を見極めるべきかね?」
だが、かつての上官であったハルゼーと同じく、いやそれ以上に気性が荒いと言われるこの参謀長の進言は、果断なものであった。
「いえ、こちらが先にジャップを発見した以上、この好機を逃すべきではありません。攻撃隊を放たないうちに、インド洋のイギリス艦隊のようになってはことですから」
ブローニングは、強い口調でそう断言した。
つまり、ジャップの索敵機に発見されてエンタープライズとホーネットが攻撃を受ける前に、持てる全力を今発見されているジャップ空母部隊に差し向けるべきだと言ったのである。
「ふむ、そうだな」
そして、それを聞いたスプルーアンスの決断も早かった。
「よろしい。ジャップ空母艦隊が攻撃圏内に入り次第、攻撃隊の発艦を開始させよ」
「アイ・サー!」
ここに、アメリカ海軍の五空母はその総力を発見された日本空母部隊―――第一航空艦隊へと差し向けることとなったのである。
どうやらジャップ空母部隊はまず、ミッドウェー島の空襲から始めようとしているらしい。上手くすれば、こちらが先手を取ることが出来よう。
〇六〇七時、カタリナ飛行艇の発見したジャップ艦隊が紛れもなく四隻の空母を擁する部隊であるとの確認が取れたことで、フレッチャー少将の決意は固まった。
彼はレキシントン、サラトガを率いるフィッチ少将に対して、攻撃隊の発進を命じたのである。自らが直率するヨークタウンについては、すでに出していた索敵機を収容後、レキシントン、サラトガの攻撃隊に続行させることとした。
レキシントンとサラトガが、フレッチャー少将の命を受けて行動を開始する。
巡洋戦艦を改造した排水量三万六〇〇〇トンの巨体が風上へと舵を切り、二隻並んで海上を疾走する姿は勇壮そのものであった。
その甲板上には、ジャップ空母部隊を攻撃すべき航空隊が並んでいる。
「発艦始め!」
そして、その号令と共にレキシントン、サラトガの攻撃隊は発艦を始めた。
レキシントンはF4Fワイルドキャット八機、SBDドーントレス二十二機、TBDデバステーター十二機、サラトガはF4Fワイルドキャット十二機、SBDドーントレス二十四機。合計でF4F二〇機、SBD四十六機、TBD十二機の総計七十八機の攻撃隊であった。
なお、これに続くヨークタウンの攻撃隊はF4F八機、SBD二十四機、TBD九機となる予定であった。
つまり、第十七任務部隊だけで、一〇〇機を超える攻撃隊がジャップ空母部隊に殺到することになるのである。
「彼らに神のご加護があらんことを」
フレッチャーは西の空に向かって消えていく攻撃隊を、そう言って見送った。
◇◇◇
一方、スプルーアンス少将率いる第十六任務部隊もまた、日本艦隊への攻撃に向かっていた。
フレッチャー少将の第十七任務部隊よりも北方に存在していた第十六任務部隊は、その位置の関係からまず南西に進んで発見された日本空母部隊を攻撃圏内に収めなければならなかったのである。
スプルーアンスの手元には、上官であるフレッチャー少将と違って二隻の空母しか存在していなかったが、搭乗員たちの士気は高かった。
それは、この二隻が日本本土初空襲であるドーリットル空襲作戦に参加した空母であるという誇りと、新たに配備された最新鋭艦上攻撃機TBFの存在があるからであった。
真珠湾の復讐をなすという願いを込めて“アヴェンジャー”と呼称されるこの雷撃機は未だ生産機数が少なく、六月中旬になってようやくエンタープライズ、ホーネットの雷撃隊から更新が始まったばかりである。
この最新鋭艦攻を、第十六任務部隊は二十九機、搭載していた。
スプルーアンスも搭乗員たちも、すでにミッドウェーのカタリナ飛行艇が発した敵艦隊発見の報は受け取っている。
搭乗員たちはすでに飛行服を着込み、テレプライター(印刷電信機の一種)の周りに集まって刻々ともたらされてくる敵艦隊の位置情報を頭に叩き込んでいた。
彼らは〇三三〇時に起床して朝食を済ませて以来、ずっと発進命令が下るのを待っていた。すでに待機は数時間におよび、その間に二度出撃命令が出され、二度とも取り消されている。
エンタープライズ艦橋にあるスプルーアンスは、一つの決断を迫られていた。
受け取った索敵結果は、確かにジャップ空母部隊の存在を示したものであった。しかし、暗号解読などの事前情報と比べて、発見されたジャップの空母の数は明らかに少ない。
六月三十日にもたらされた対敵情報では、ジャップの空母部隊は六隻の空母で構成されているという。だが、索敵機がもたらした報告では、ジャップの空母は四隻となっている。
自分たちと同じく、ジャップは空母部隊を二群に分けているのではないか? スプルーアンスはそう考えていた。
しかし、すでに第十七任務部隊では攻撃隊の発艦が行われてしまっている。
ルビコンを渡り、賽を投げてしまった以上、ここで逡巡することは許されない。
彼は、ハルゼー時代からこの任務部隊の参謀長を務めていたマイルズ・ブローニング大佐に意見を求めた。
「我々は、もう少し状況を見極めるべきかね?」
だが、かつての上官であったハルゼーと同じく、いやそれ以上に気性が荒いと言われるこの参謀長の進言は、果断なものであった。
「いえ、こちらが先にジャップを発見した以上、この好機を逃すべきではありません。攻撃隊を放たないうちに、インド洋のイギリス艦隊のようになってはことですから」
ブローニングは、強い口調でそう断言した。
つまり、ジャップの索敵機に発見されてエンタープライズとホーネットが攻撃を受ける前に、持てる全力を今発見されているジャップ空母部隊に差し向けるべきだと言ったのである。
「ふむ、そうだな」
そして、それを聞いたスプルーアンスの決断も早かった。
「よろしい。ジャップ空母艦隊が攻撃圏内に入り次第、攻撃隊の発艦を開始させよ」
「アイ・サー!」
ここに、アメリカ海軍の五空母はその総力を発見された日本空母部隊―――第一航空艦隊へと差し向けることとなったのである。
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