秋津皇国興亡記

三笠 陣

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第九章 混迷の戦後編

168 新たなる問題

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 皇暦五三六年五月七日、秋津皇国と大斉帝国との間に講和条約が調印された。
 それは、皇国の突き付けた条件を斉側がほとんどそのまま受諾するという、皇国側の勝利と斉の敗北を確定させるものであった。
 かつて斉が夷狄でありながら中華帝国である綏朝を破ったように、再び中華帝国は夷狄である秋津皇国に敗北することとなったのである。
 秋津皇国への賠償金三億両については現金支払として、まず半年後の十一月七日までに一億両、一年後の皇暦五三七年五月七日までにもう一億両、残りの一億両に関しては三ヶ月ごとに五〇〇万両を支払うという細目協定が結ばれた。当然、支払が遅れればその分だけ利子が生じることとなる。
 銀本位制を敷いている斉側は現金支払ではなく現銀支払を望んだが、すでに金本位制に移行していた皇国側はこれを認めなかった。
 また、賠償金の第一次支払が行われるまで、天津は皇国軍による保障占領が続けられることとなった。
 それ以外の地域については、条約批准後三ヶ月以内に撤兵することで合意が形成されている(満洲における駐兵権については、主として鉄道沿線に駐兵することを斉に認めさせるべく交渉中)。
 皇国における条約批准は、皇主による六家当主(有馬家のみ先代当主・頼朋)への諮詢が行われた後、五月十日に行われた。
 第三国による干渉が起こる前に、速やかに講和条約を発効させたかったのである。
 こうして、燕京講和条約は正式に成立することとなったのであった(両国による批准書の交換は五月二十日とされた)。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 干渉の兆候は、すでに講和会議中から見られていた。
 四月二十日、駐秋津ルーシー大使が皇国政府に対し、皇国が斉に提出した講和条件の内容について照会を求めてきたのである。
 すでに外相は講和会議首席全権として渡斉していたため、直接の対応に当たったのは首相と外務次官であった。とはいえ、もちろん、彼らの背後には六家会議を通した六家側の意向が存在している。
 この時、皇国政府は各国大使に対して、皇国側の講和条件を通報する決定を下した。
 講和条件の中にはこれまで西欧列強が斉に対して強く求めていた通商の拡大が含まれており、アヘン戦争後に斉との間で片務的最恵国待遇を約する条約を結んでいた西洋列強にも講和条件の一部は適用される。
 皇国側は、こうした部分を開示することで西洋列強による一致した干渉を防ごうとしたのである。
 斉との通商拡大は各国の利害が錯綜する問題であり、これによって逆に西洋列強の足並みを乱そうとしたわけである。
 しかし、ルーシー帝国が重視したのはそうした通商問題ではなく、皇国が遼東半島の割譲、満洲利権の獲得を狙っている点であった。
 皇国の示した対斉講和条件に対して、ルーシー帝国大使は皇国による満洲利権拡大は自国の安全保障上、重大視せざるを得ないと懸念を伝えた。
 現在、ルーシー帝国はシビルア地方にて皇国と国境を接している。しかし皇国側が大陸植民地・氷州に鉄道を敷設している一方、ルーシー帝国領西シビルア地方には未だ鉄道が通っていない。
 鉄道が軍の移動速度を飛躍的に速めていることは、すでにいくつかの戦例が証明している。もし満洲に鉄道が敷設されれば、沿海州の主要な港・龍原府から氷州西部国境地帯へ至る経路は格段に短縮される。
 それを、ルーシー帝国は恐れたのであった。
 さらに、かつてアヘン戦争後に広南国に派兵して東南アジアに植民地を形成すること目指しつつも皇国に阻止された経験のある帝政フランクの大使もまた、皇国が斉に対して特別な利益を求めるならばこれに反対せざるを得ないと不満の意を表明していた。
 明らかに、皇国の広南出兵に端を発する反秋津感情に基づくものであった。
 加えて、秋津皇国がプルーゼン帝国に置いている大使からの情報として、ルーシー帝国、帝政フランク、ヴィンランド合衆国の三国が、この条件で講和が成立した場合、共同で皇国に対して抗議する可能性のあることが政府や六家に伝えられた。
 プルーゼン帝国はもともと領邦国家が統一されて成立した国家であり、西を帝政フランクに、東をルーシー帝国に挟まれている立場にある。
 この東西の両国が提携することは、プルーゼン帝国にとっては国防上の危機であった。だからこそ、ルーシー帝国と帝政フランクが外交的に連帯する動きを見せていることを、敏感に察知したのであった。
 そして同様の情報は、駐ヴィンランド合衆国大使、駐アルビオン連合王国大使などからももたらされ、三国による干渉がいよいよ現実のものとして考えられるようになってきた。

  ◇◇◇

「ルーシー帝国と帝政フランク、それにヴィンランド合衆国による干渉か。ヒスパニアやホラントあたりも加わると思っておったが、意外に少なかったな」

 四月下旬、皇都郊外の有馬家別邸にて、有馬頼朋翁はそう呟いた。

「ヒスパニアもホラントも、かつての大航海時代やその後の皇国の海外進出でアジアから勢力を追われた国ですからね」

 有馬家大御所の言葉に、宵が応じる。
 ヒスパニア王国は皇国との間で起こったフェリペニアを巡る比島戦役で大きな被害を蒙り、辛うじて北部に植民都市を維持しているに過ぎない。それでも、ヒスパニアの東南アジアにおける重要な交易拠点の一つとして発展を続けていたが。
 もう一方のホラント王国は、かつてアルビオン連合王国との間に戦争が起こり、それに便乗した皇国によって東南アジアの拠点をことごとく奪取されたという過去を持つ。
 しかし、大航海時代に隆盛を誇ったこれら西洋の国々は、今では戦争の敗北などが重なって衰退期に入っている。
 干渉があっても、無視し得るものと考えられていた。
 しかし、ルーシー帝国、帝政フランク、ヴィンランド合衆国による干渉は、完全なる無視を決め込むわけにもいかない。
 帝政フランクとは直接国境を接しているわけではないが、ルーシー帝国とは氷州植民地で、ヴィンランド合衆国とは泰平洋を挟んで皇国と接している国家である。
 そしてこの両国は、ヒスパニア王国やホラント王国のように衰微を続けている国家ではない。

「まったく、これで攘夷論が盛り上がらねば良いのだがな」

 頼朋翁は、小さく鼻を鳴らした。攘夷を掲げる伊丹家と一色家の発言力が強まることを、警戒しているようであった。

「我が結城家は、南泰平洋に進出しようとしているところであり、ヴィンランド合衆国への警戒感が強まっております」

 干渉を予感させる外交情報が皇都にもたらされる少し前の四月十五日、皇国は南泰平洋南瀛諸島の領有を宣言したばかりであった。
 その時は、ヴィンランド合衆国も皇国が最初に“発見”した島であることから容認する姿勢を見せていた。
 しかし、新海諸島については別である。この諸島は、大航海時代にはすでにホラント王国によって“発見”されていた。
 しかも、形の上とはいえ新海諸島はニューゼーランディア部族連合国として独立国を形成している。
 併合のための政治的・外交的障害は、南瀛諸島よりも高いといえた。
 実際、ニューゼーランディア部族連合国の併合については、現地部族長たちへの根回しと同意を得て行うという方針が立てられている。
 かつて、独立国であるとの宣言を秋津皇国皇主に認めて欲しいと請願した新海諸島の部族長の数は三十四人。
 しかし、有力部族長以外にも、新海諸島には大小五〇〇人近い部族長・支部族長が存在する。これらが独立宣言後も抗争を続けているのである。
 まさしく、皇国の戦国時代さながらの情勢であった。
 このうち、このまま部族間の抗争が続けば自分たちの国は遠からず消滅してしまうと危機感を募らせている者、皇国と手を結ぶことで部族間抗争を優位に進めようとする者を中心に、皇国は懐柔工作を始めていた。
 しかし、新海諸島の独立を維持すべきと考える部族長勢力が泰平洋への進出を始めているヴィンランド合衆国と手を結んで皇国に対抗する可能性も考えられた。
 だからこそ、結城家内ではヴィンランド合衆国の今後の動向を警戒していたのである。

「ヴィンランドは十年ほど前に自らの“フロンティア”を消滅させたからな。これからは、さらに泰平洋を越えて西へ西へと漸進していく国策を続けていくことだろう」

 かつてアルビオン連合王国の植民地であった新大陸植民地が「ヴィンランド合衆国」として独立してからすでに一〇〇年あまり。
 その間、合衆国は常に西漸政策を進めてきた。その土地に住んでいた先住民を虐殺し、強制移住させ、土地を奪い、周辺諸国との戦争にも勝利して、十数年前、北ヴィンランド大陸(新大陸)西海岸にまで国土を広げることに成功していたのである。
 その先に広がっていたのが泰平洋であり、数億人の人口を抱える市場である大斉帝国であった。
 すでにそれ以前の時代から泰平洋に商船を派遣していたヴィンランド合衆国であったが、西海岸到達以降はその動きをさらに活発化させつつあった。
 しかし、合衆国の国土が西海岸に達した時にはすでに、泰平洋は秋津皇国の勢力圏となっていた。
 だからこそ、皇国は南下政策を続けるルーシー帝国と共に、西漸政策を続けるヴィンランド合衆国を警戒していたのである。

「それに、合衆国は今、内政上の問題を糊塗するために外部に敵を作り出したいはずだ」

「例の、奴隷制問題ですか?」

「うむ、そうだ」

 宵の言葉に、頼朋翁は頷いた。
 ヴィンランド合衆国は、白人に対しては自由と平等と民主主義を標榜する一方、黒人を奴隷として酷使する奴隷制国家でもあった。
 しかし、工業化の進展に伴い、奴隷制度に反対する勢力も合衆国内で生まれつつあった。主に工業化が進んでいる北部の民衆たちが、奴隷によって自分たちの労働が奪われることを警戒し始めたのである。
 一方で綿花栽培が盛んな合衆国南部では、労働力としての奴隷は依然として重要であり、奴隷制の継続を強く主張していた。
 こうした奴隷制を巡る合衆国国内の対立は近年、尖鋭化しつつあった。
 だからこそ、国内の矛盾から国民の目を逸らすために、国民共通の敵が必要だったのである。
 そしてそれは、自国の西漸政策に歯止めをかけようとする秋津皇国こそが最も適任であった。

「加えてかの国では今、北部出身の大統領に対する南部出身者の不満が高まっておるそうだ。なおさら、自らの支持率を維持するために外部の敵は必要であろうよ」

 民主政治というものを嘲弄するように、有馬家の大御所は言った。

「頼朋翁は、今後の皇国の対外国策はどうあるべきとお考えで?」

「ひとまずは、国力の回復が優先であろう。急進的な攘夷派の一部には、このままルーシー帝国などとも一戦を交えるべきなどと言っておる輩もいるようだが、国力の回復を待たずに新たな戦争を引き起こすなど、無謀の極みであろう」

「例の徴傭船舶問題もその一つかと存じます」

「ふん。小娘が余計な動きを見せおって」

 だが、宵の言葉を頼朋翁は不愉快そうに切り捨てた。

「船舶量の問題はともかく、徴傭船員の身分保障までは進めようとは急進的に過ぎように。まずは国内の産業基盤を強固にする。労働問題はその後に解決すれば良い。国家予算とは無限にあるものではないのだ。あまり民草に寄り添おうとし過ぎるのも問題であるぞ」

 六家長老の男は、そう言って宵の政治的策動に注意を与える。
 彼にとって、今次戦役で判明した弾薬消費量の増大と戦時生産体制の思わぬ脆弱性の問題に対処することこそが最優先課題であり、労働者や船員の保護などはいずれの機会に行えば良いと考えていた。
 一方、自身の信念を否定された宵は、無表情でそれに耐えていた。
 頼朋翁の言葉にも、一面の真実が含まれていることも事実であったからだ。予算は有限である以上、そこに優先順位を付けようとするのは当然のことであった。
 結局、この日も宵は頼朋翁自ら点てた茶を振る舞われることなく、有馬家別邸を後にすることとなった。

  ◇◇◇

 結城家内部では、南泰平洋進出に関してヴィンランド合衆国の動向を警戒すると共に、もう一つの問題が取り沙汰されるようになっていた。
 それは、当主・結城景忠の一門衆の弱さであった。
 景忠の子は、景紀ただ一人である。景忠には兄弟として相柄国知事・景秀がいるが、不仲のため一門衆としての信頼に欠ける。

「今の主家の弱いところは、一門衆が少ないことであるな。特に若にご兄弟やご姉妹がおられないことが、とるべき政策の幅を狭めてしまっている」

「せめて新海諸島の有力部族長に嫁がせられる姫君がおれば、もう少し懐柔工作もやりやすかったであろうに」

 重臣や景忠側近勢力の間で、そのような会話が交わされるようになっていた。
 現在、結城景忠の子供は景紀だけであり、他に兄弟姉妹はいない。景忠には弟として景秀、景恒の二人がおり、他家に嫁いだ妹もいるが、次代を担うべき景紀の一門衆が少ないことは問題であった。
 将来的に景紀の近くで補佐したり、あるいは他家との繋がりを深めるための弟妹がいないことは、家としての政治的基盤の弱さに繋がってしまう。
 だからこそ、家臣団たちは次代を担うべき景紀の子は、一人でも多く必要だと考えているのである。
 もっとも、兄弟だから必ずしも仲が良いとは限らない。現当主・景忠と異母弟・景秀が不仲であることは、家臣団たちも理解している。
 最近、景秀が攘夷派と接近を図っているような動きを見せていることも、不安要素ではあった。
 しかし、もう一人の景恒との関係は良好で、景恒は領営銀行である第八十五銀行理事として、兄・景忠の領政を経済面から支えている。

「そろそろ若君には側室なり愛妾なりを置くことを考えていただく頃合いかもしれんな」

 そういうことを口にする家臣も、出始めていた。

「愛妾といえば、冬花殿はどうなのだ?」

「あれは彼女に嫉妬しておる若い家臣団連中が、陰口を叩いておるだけよ」

「あれだけ綺麗に成長した娘を側に侍らせておいて、手を出さぬ若様も奇妙なものであるな」

「それは言えておるな」

 そうしたいささか下世話な会話も、一部家臣の間で交わされていた。

「しかしなぁ、冬花殿が補佐官として優秀なことは認めるが、化生の血が主家に入ることはいささか拙いのではないか?」

「まあ、たとえ男児が生まれてもどこかの術者の家に養子に出すより他にないであろうな」

 葛葉冬花という少女に対する家臣団たちの感情は、多少なりとも複雑なものがあった。
 景忠公側用人・里見善光のように主君からの寵を良いことに専横を振るう人物ではないことは理解しているものの、一方で妖狐の血を引くことに対する懸念もあった。
 家臣団の中には、あそこまで景紀に忠を尽くしている女性ならば側室や愛妾としても構わないのではないかという同情的な意見を持つ者がいる一方で、妖狐の血が主家の血筋の中に混じり込むことに嫌悪感を示す者もいた。
 そして、幼少期に葛葉冬花という少女を虐め、今二十代から十代後半になる若手家臣団の中には、彼女の存在に危機感を抱く者も存在していた。
かつての仕打ちへの報復として、彼女が景紀に自分たちの讒言を吹き込むのではないかと恐れていたのである。
 そうした者たちの一部が密かに景秀に接近するなど、景忠公による家臣団の統制の揺らぎは依然として収まっていなかった。





 筆頭家老の細君・なるを世話役に、結城家直属の忍の娘・菖蒲を護衛役にしている宵の元には、官僚系家臣団と用人系家臣団の双方の情報がもたらされていた。

「そうですか。景紀様に側室や愛妾を、という話が出ておりますか」

 済から夫・益永忠胤が接見を求めていると聞かされた宵は、済同席の下で忠胤を引見していた。

「はい。恐れながら、やはりお世継ぎなどの問題について、家臣どもの関心は高いようでして」

 これは結城家の将来に関わる問題なので、下手に隠すよりも宵姫の耳に直接入れた方が良いと考え、忠胤は接見に踏み切っていた。
 もっとも、景忠公側用人である里見善光に先を越されることを恐れたという理由もある。下手に里見が影響力を及ぼせる娘(例えば親戚の娘など)を側室や愛妾として差し出すようなことがあれば、あの側用人の権勢はますます盛んになってしまうだろうと考えたのだ。
 そして、宵姫ならばこの話題を直言したとしても悋気を起こすことはないだろうという信頼もあった。

「私が景紀様に嫁いですでに一年半。この間、子を授かれなかったことは私の不徳の致すところです」

 まだ十七になったばかりの少女にそういう台詞を言わせてしまうことに、益永としては忸怩たる思いを禁じ得ない。

「姫様の責任ではございません」

 すると、済がそう言って宵の言葉を否定する。

「若様の下に嫁がれた時には、まだお体が小さかったのです。ご無理をなさっては、御身に差し障りがあります。幸い、若様もご理解のあるお方。側室や愛妾などは、気の早い家臣どもが勝手に言っていることです。あまりお気になさる必要はございません」

 済の口調には、こうした問題を宵姫の元に持ってきた夫を責めるような響きがあった。
 もっとも、多少は身長に変化があったとはいえ、同年代に比べて宵が小柄であることには依然として変わりがなかったが。

「とはいえ、今は結城家発展の時です」

 宵は双方の言葉に理解を示しつつ、そう言った。

「景紀様の御子が、男女ともに必要であることは理解しています。いずれ私の方から、景紀様には申し上げようと思います。それまで、この問題は私の方で預からせて頂いてよろしいですか?」

「御意。こちらこそ、出過ぎたことを申しました」

「いえ、家臣団の皆様のご懸念はもっともなことです。しかし重臣の方々には差し当たり、ヴィンランド合衆国の干渉があった場合の南泰平洋問題について、対処方針を策定することが急務でありましょう」

「はっ、姫様のお心を煩わせましたこと、臣として誠、慚愧に堪えませぬ」

「よいのですよ、益永殿。そうした直言をしてくれる者は貴重ですから。私にとっても、景紀様にとっても」

「はっ、もったいないお言葉です」

 益永は宵姫が理解ある姫君であることに感謝しつつ、彼女の前を辞するのであった。





「やはり、景紀様にはそろそろ本気で世継ぎの問題を考えて頂かねばならないようですね」

 宵は気晴らしに屋敷の庭園を散策しつつ、独り、そう呟いた。

「あとは、冬花様と貴通様がどうお考えなのか」

 宵は、将家当主が側室や愛妾を置くのは当然と考えている。今の結城家が置かれた状況のように、次代を担う世継ぎだけでなく、政略結婚など政治的選択肢を広めることの出来る子供の存在は、家の発展のために必要不可欠であるからだ。
 ただ、やはり景紀が側室や愛妾を置くならば、冬花や貴通を優先してあげて欲しいと思うのだ。
 もちろん、殿方と結ばれることだけが女性の幸せとは限らないだろうが、それでもあの二人を差し置いて別の女性を側室や愛妾として迎えることについては、宵は反対であった。
 景紀も恐らく同じ気持ちだと宵は思っているが、あくまで子供が生まれることが優先の家臣団とは意見を異にするだろう。
 それに、側室や愛妾の問題が下手に政治問題化することも、宵の望むところではなかった。自分の娘などを差し出して六家次期当主に取り入ろうとする人間は、必ず存在するだろう。
 やはり、まずは自分が景紀の子を授かることが優先か。
 そうでなければ、冬花も貴通も遠慮が先に立つだろう。
 戦後の利権分配、第三国による干渉問題、南泰平洋問題、そして世継ぎの問題。
 戦争は終結の気配を見せつつも、宵の周りに存在する問題は、当面、解決しそうになかった。
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