秋津皇国興亡記

三笠 陣

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第九章 混迷の戦後編

163 それぞれが抱え込む問題

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「宵さん、あなた、襲撃事件からまだ一ヶ月も経っていないのに、よく平然と出歩いていられますね」

 情報交換の一環としてこれまで何度も会談を重ねている長尾家の姫・多喜子は感心すべきか呆れるべきか迷っていることが判る口調で、開口一番、そう言った。

「そう思うのでしたら、多喜子殿の方から屋敷にいらして頂けると嬉しいのですか?」

 一方の宵は、いつも通りの平坦な口調のまま反論する。
 長尾家皇都屋敷の庭園に植えられた桜が開花の時期を迎えつつあるというのに、互いにそれを鑑賞するでもなく皮肉を言い合っていた。

「まあ、一昨年の誘拐事件もこちらでの茶会の帰り道に起こったわけですし、私もちょっと拙いかなとは思っているんですよ」

 紅茶の注がれたティーカップをソーサーの上に置きつつ、多喜子は愚痴るように言った。

「ただまあ、長尾家としても面子がありますからね。正確に言うと、勤子いそこ義姉ねぇ様の面子ですが。長尾家が結城家の姫を呼び出すような形を、どうしても取りたいのでしょうね」

「相変わらず、私は勤子殿に嫌われているようですね」

「宵さんも、別に仲良くしようとは思っていないのでしょう?」

 何食わぬ顔で言った宵に、多喜子は見透かしたように指摘する。

「私はともかく、景紀様を下に見るような発言は許せませんから」

 皇主を盟主とする六家は、盟約の下に対等。それが建前であったが、長尾家次期当主・憲実のりざねの正室・勤子は長幼の序を理由に、景紀と宵を自分よりも下に見ようとしていた。
 自分については女子学士院に通ったことはないので、学歴などから見下されてもやむを得ない。それに、そうしたことは故郷で慣れていた。
 しかし、景紀まで侮辱されるのは宵には我慢ならなかったのだ。
 そのため、勤子との関係は完全に冷え込んでしまっている。本来であれば次期当主の正室同士として交流を深めるべきなのであろうが、一向に関係改善の兆しは見えなかった。
 だからこそ、宵の会談相手はほとんど毎回、多喜子になってしまうのだが。

「そういう惚気発言が自然と出てくるの、私としてはちょっとイラッとしますね」

「多喜子殿も、相変わらず粘着質ですね」

 二人の姫君が冷めた視線を交わし合うが、そこまで殺伐とした雰囲気にはならない。お互い、相手に対してはともかく、景紀に対する思いは似通っているからだ。
 少なくとも、今はまだ目の前の相手と敵対すべきではないと判断している。
 特に長尾家は現地の独走ともいえる冬季攻勢を推し進め、さらには戦後に満洲利権獲得を巡る問題を控えている。不用意に、結城家と敵対するわけにはいかなかった。
 はあ、と多喜子がわざとらしい溜息をつく。

「こちらもこちらで、出迎えや見送りに警護の人間を派遣しているのですから、少しは感謝して欲しいものです」

「むしろ呼び出しているんですから、客人の安全に配慮するのは当然のことでは?」

「ああ言えばこう言う。宵さん、あなたもなかなか良い性格になってきましたよね」

「ええ、多喜子殿のお陰で。ところで、皮肉を言い合いたいだけならば、もう帰らせてもらいますが?」

「ああ、判りました判りました! 判りましたからその雪女対応止めて下さい!」

 宵が立ち上がりかければ、多喜子は慌てたように引き留めようとする。

「まったくもう、つれないですね」

 長尾の姫はわざとらしく溜息をつく。それに合せて、宵ももう一度椅子に座り直した。

「……正直なところ、長尾家、正確には憲実兄上は今、難しい立場にあります。結城家、有馬家からは本来の対斉作戦計画を崩壊させた長尾憲隆の後継者として見られていますし、伊丹家、一色家からは戦後の大陸利権を巡って競合する相手と見られています」

 現在、六家で最も孤立する確率が高いのが長尾家であるといえた。
 残る斯波家は緒戦における陽鮮での戦功を上手く利用して、賞典禄の増額の確約をすでに取り付けていた。戦後における植民地利権という、未だ講和条約も結ばれていないために不確かなものよりも、確実に得られるものを優先したわけである。
 南泰平洋での植民地利権拡大を目指す結城家と共に、斯波家もいち早く、戦後の大陸利権を巡る対立から抜け出していたのだ。

「それと、嶺州の件もあります。佐薙家宗家に後継者がいなくなってしまったことで、長尾家内でもいささか不穏な動きが出ています」

「……」

 紅茶を口に含んでいた宵の眉が、小さく動く。
 三月に発生した宵姫襲撃事件の責任を問われるのを恐れて、佐薙家次期当主たるべき大寿丸が皇都屋敷に家臣を残したまま失踪していたのである(ただし結城家は、大寿丸が北溟道の農場に身を隠していることを掴んでいる)。
 これにより、佐薙家宗家に佐薙伯爵家を継ぐべき男子がいなくなってしまったのであった。
 結城家内では、景紀と宵との間に生まれた子を後継者に据えるだとか、あるいは分家の男系男子を景紀と宵の養子にするだとかの議論が持ち上がっているが、現状では具体化していない。
 ひとまず、宗家に後継者が不在の佐薙家に、宵を正式な家長として宮内省宗秩寮に申告した程度である。

「まあ、要するに長尾家の血を引く者を佐薙家に送り込んで傀儡とするとか、そういうことを考え出している輩がいるわけですよ。一応、先代佐薙家当主・成親卿の正室は私の叔母であるわけですし」

「しかし、佐薙家の血は引いていないわけですよね?」

「まあ、そこは六家の権力で強引に押し切るつもりなのかもしれません」

「現状、嶺州統治は我が結城家が担っているのですが?」

「しかし、いつまでも後継者不在とするわけにもいかないでしょう? 佐薙家を取り潰してしまうと言うのならばともかく」

 佐薙家は、一昨年の宵姫誘拐事件と先月の宵姫襲撃事件、二度にわたって皇都で騒擾を引き起こし、さらには中央政府から交付された電信維持費を長年にわたって横領していた家である。
 そのために領地が縮小されるという措置が下されたが、将家としては未だ存続し続けていた。
 これは、佐薙成親の正室が長尾家現当主の妹であること、そして成親の娘が結城家次期当主正室であることが原因であった。
 つまり、累が六家にも及ぶことを恐れたが故に、佐薙家を完全に取り潰すことが出来ずにいたのである。
 また現状、結城家が嶺州の統治を代行する政治的根拠を得るためにも、佐薙家を取り潰すわけにはいかないという事情もあった。

「その問題は、結城家と佐薙家で解決します。長尾家による介入は控えるよう、憲実卿に申し上げておいて下さい」

「まあ、宵さんの、結城家の立場からするとそうなりますよね。でも、佐薙家宗家の血に長尾家の血が入っていることも、また事実なのですよ」

 多喜子は、暗に宵の中に流れる血筋を自覚しろと言っている。

「これ以上、嶺州に余計な混乱の種を蒔きたくはありません」

 だが、宵は断乎とした口調でそう返した。
 自分は、嶺州の民の安寧のために景紀に嫁ぐ覚悟をしたのだ。今では景紀を支えるという誓いを結んでいるが、それでも故郷の民の安寧を願う気持ちに変わりはない。
 そして、景紀とともに立案した嶺州振興政策は軌道に乗りつつある。
 それを、後継者争いごときに邪魔されるわけにはいかなかった。

「まあ、この状況でさらにあなたや結城家の神経を逆なでする行為は、賢明とは言えないですよね」

 多喜子は、溜息交じりに納得していた。

「今のところ、憲実兄上もこれ以上、長尾家が六家の中で孤立するようなことはしたくないようです。ただ、長尾家と佐薙家は長年、対立してきた歴史があります。これを好機と、佐薙家を完全に長尾の血で乗っ取ることを考え出す輩もいるんですよ」

「政治を行う者が全員、賢明であったのならば、世界はもっと住みやすくなっていたでしょうね」

 ある意味で、それこそが政治の難しさであるといえる。

「これでも私は一応、景紀の味方のつもりでいるんですよ。結城家の味方かどうかはともかくとして」

 つまり多喜子は、長尾家の内実を暴露したというわけだ。本来であれば、あえて宵や結城家を警戒させる情報を出す意味はない。
 しかし、景紀にとって不利になりそうな情報だから、あえて宵に伝えたというわけだろう。
 宵と多喜子は、依然として景紀の味方という点でのみ、利害が一致した関係であった。もっとも、その“味方”の定義が自分と多喜子では違うのだろうが、と宵は警戒を残してはいるのだったが。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 講和全権使節団の派遣について、その人選を巡って六家間で意見の対立があった。
 どの家も、自分たちの影響下にある人間を随員に組み込みたかったからである。しかし、ここで有馬頼朋翁が政治力を発揮した。
 随員については、多少、各六家の意見を代表するような人物を入れたものの、多くが能力重視で選ばれたのである。
 首席全権は外務大臣が務め、随員には外務官僚の他、大蔵官僚、商工官僚、さらに陸海軍の佐官も随員に選ばれた(外相不在中は首相が外相を兼摂。事務処理については外務次官が行う)。
 大蔵官僚は賠償金交渉のため、商工官僚は華夷秩序崩壊後の通商体制について交渉するため、それぞれ実務能力と交渉能力に長けた人物が随員となった。
 また一方で、駐秋津アルビオン大使を通じて、秋津皇国―アルビオン連合王国間で講和条約締結後におけるアジア地域での勢力圏範囲設定についての交渉も正式に開始された。

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 これは、各地で南下政策を続ける大陸北方のルーシー帝国に対抗するため、大陸南方での安全を確保しておきたいという両国の思惑が関係していた。
 もともと、斉における勢力圏範囲の設定については、開戦後から両国間で秘密裏に意見の交換が行われている。高山島以北の海域にアルビオン海軍が進出しないように、という取り決めも、結局はこうした外交交渉の流れの中に位置付けられる。
 ただし、アジア地域における勢力圏範囲の設定については、主に攘夷派の盟主と見られていた伊丹正信からの反対があった。
 西洋列強にアジアでの勢力圏を認めるなど、言語道断だというのである。
 しかし、すでにアルビオン連合王国はアヘン戦争において斉朝の領土であった香江を手に入れている。さらにはその際に締結された条約によって長江河口の港・上海が開港されてアルビオン連合王国、帝政フランク、ヴィンランド合衆国の租界が形成されていた。
 今さら、西洋列強をアジアから完全に駆逐することは現実的ではない。
 また、特に連合王国は南アジアのシンドゥへの進出を続け、その地域の約半分を植民地化し、残りの藩王国を保護国化している。
 ここでアルビオン連合王国のアジア進出を牽制し、東南アジアにおける皇国の南洋特殊権益を守るためにも、勢力圏範囲を条約によって設定することは妙案であった。
 アルビオン連合王国側にも、どの地点よりも東に進めば皇国との軍事衝突の危険性が高まるのか、明確に自覚させることが出来る。
 外務省や特に東南アジアに近い高山島植民地の利権を有する有馬家では、シンドゥとその東に隣接するアラカン王国の国境を、勢力圏の境界線にすべきという議論が出ていた。
 アラカン王国は長年、朝貢を迫る斉からの侵略に悩まされていた国であり、皇国はここに武器を輸出するなどして支援し、友好関係を築いてきた歴史がある。
 当然、この国にも秋津人町が形成されて、皇国の利権が存在する。特に世界有数の鉛・亜鉛鉱山の利権は、絶対に手放すことの出来ないものであった。
 この境界線が、皇国としても譲れない部分だったのである。
 この他、シンドゥ方面から東アジアに通ずる海峡を扼する地点に存在する獅子王島を領有すべきという意見も、一部では出ていた。結城家による南泰平洋進出に触発された格好であった。
 獅子王島は現在、現地の王国より秋津人居住地域として全島が与えられており、事実上の租借地となっていた。
 皇国主導の新たな東アジア国際秩序“東亜新秩序”を建設すべしという主張は、国内で確実に対外膨張論を高揚させつつあったのである。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 伊丹家現当主・正信の孫・直信は三月に兵学寮を卒業後、少尉任官を果たし、皇都の歩兵第一連隊附となった。
小隊長などの具体的な役割はなく、連隊長の側について軍務の実際を学ぶように祖父・正信からは言い付けられている。
 その歩兵第一連隊の連隊長は、四月一日より正信女婿じょせい渋川しぶかわ清綱きよつな大佐が着任している。渋川清綱もまた攘夷派諸侯であり、伊丹正信からは嫡男である伊丹家次期当主・寛信ひろのぶよりも信頼されている人物であった。

「まったくもって有馬の老人はけしからん。あの老人こそ国政を壟断する奸臣だ」

 日々の訓練や連隊の庶務などに携わっている直信であるが、連隊長の側に付いているためにその思想に触れる機会は多かった。
 この日は、四月の人事異動で新たに着任した将校たちと交流を深めるという名目で、渋川連隊長が部隊の将校たちを料亭に集めていた。
 だが実態は、有馬頼朋批判に始まり、西洋列強の横暴さ、皇国が東亜の盟主となって西洋列強と対決することの使命など渋川大佐が滔々と語るのを、皆が聞かされているだけであった。

「今や皇国は斉朝を降し、皇運はますます盛んとなりつつある。今こそ我らは旧弊を脱し、西洋の魔手より東亜を守護せねばならんのだ。故に、我ら軍人の使命は誠に重大である」

 直信はこの宴席に出席している他の将校たちを見た。多くの者が、連隊長の演説に聴き入っているようだった。
 完全に爺様の差し金だな。直信は、渋川大佐の下に自分を配属した祖父・正信の意図を察していた。
 明らかに、歩兵第一連隊の将校たちの中に攘夷思想を抱いている者が多い。
 これは、祖父や陸軍内部の攘夷派たちが意図したことだろう。陸軍に絶大な影響力を持つ六家ならば、人事に影響力を及ぼすことは容易だ。
 特に伊丹家は兵部省陸軍軍務局長に家臣団出身の畑秀之助少将を送り込んでいる。陸軍中枢に影響力を行使することなど、祖父にとっては容易いことなのだろう。
 問題は、単に祖父が攘夷思想を持つ者たちで孫である自分の周囲を固めようとしているだけなのか、ということだ。
 伊丹家現当主・正信とその嫡子で伊丹家次期当主・寛信、つまり直信の父との折合いは良くない。
 祖父は攘夷主義者であると共に、厳格な父親であったらしい。そのために寛信は父に対して反発し、婚約の話が持ち上がる前、十代後半で奥女中の少女に手を出して子を産ませてしまった。
 それが、直信であった。
 将家の間では、正室を娶る前に愛妾との間に男子が生まれた場合、そのまま正室を置かないことも多い。
 これは先に生まれた妾腹の男子と、後から生まれた正室の男子との間で後継者争いが起こるのを防ぐと共に、婚儀にかかる費用を節約出来るからという経済的な理由もあった。
 直信のような存在は将家では大多数とは言えなかったが、かといって特段珍しい事例というわけでもない。
 当時の祖父は父の行いに怒り狂ったというが、生まれた赤子に罪はないと思ったのか、それとも単に初孫に愛情が生まれたのか、直信は正信から粗略に扱われた記憶はない。
 正信は孫に甘い祖父というわけではなかったが、それでも直信は祖父に可愛がられていた。
 ただし、祖父・正信と父・寛信との仲は直信が生まれても変わることはなかった。今次戦役でも寛信は出征することなく、領国の統治を任されたまま次期当主として戦功を挙げる機会を奪われていた。
 代わりに祖父は、六家の次代を担う者として、同じく攘夷思想を持つ一色公直を気に入っていた。
 女婿の渋川清綱もまた、祖父が義理の息子として目をかけている存在である。
 そうした人物の下に自分を付けることで、祖父は自分に攘夷思想を教え込もうといているのだろう。
 正直、直信にも西洋列強を忌避する気持ちはある。
 ただし、それはまだ自分の中で攘夷思想というほどには洗練されていないように思えた。アヘン戦争などという道義に悖る戦争を仕掛け、皇国の南洋特殊権益を脅かそうとする西洋諸国への、一般的な嫌悪感があるだけだ。
 多分、祖父は自分に期待しているのだろうな、と直信は感じている。次期当主たる父との折合いが悪いために、祖父・正信は息子ではなく孫に家を託したいのだ。
 祖父は恐らく、国内情勢が落ち着けば息子に家督を譲り、自身は大御所として伊丹家に影響力を及ぼす。その上で父を早々に隠居に追い込み、直信を当主に就ける。そういうことを考えているのだと思う。
 祖父は、有馬頼朋翁よりは若いとはいえ、それでも六家の中では頼朋翁に次ぐ年齢である。
 だからこそ、孫の直信には自身の政治思想を引き継いで欲しいのだろう。

「今、我々は時代の転換点にいる。我々将家は皇室の藩屏として皇運を扶翼し奉り、以て皇国無窮の礎を築かねばならんのだ」

 渋川大佐の演説は、まだ続いている。
 兵学寮でも、この種の攘夷論を唱える先輩・同期生はいた。ある意味で、聞き飽きた論調でもある。
 兵学寮、か……。
 そこまで考えて、直信は気分が重くなった。
 兵学寮での五年間は、確かに楽しかった。だが卒業寸前、直信は同期生の割腹自殺事件に遭遇し、死に切れなかったその同期生の首を落としてやることになった。
 その時の生々しい感触と、最早助からないとはいえ同期生を斬らねばならないことへのどうしようもないやるせなさは、一ヶ月近く経った今でも直信の脳裏から離れなかった。
 渋川大佐の主張だと、西洋の夷狄を排する前にまず国内の意見を統一せねばならないらしい。つまり、攘夷を実行する前に、まず同じ秋津人と対立しなければならないのだろう。
 それと同期生を介錯したことが、どうしても直信には繋がって思えてしまう。
 同期生の割腹自殺の要因が宵姫襲撃事件にあったことから、政治的意見の対立による秋津人同士の殺し合いということがどうにも現実味を帯びているように感じるのだ。
 自分の考え過ぎかもしれない。
 だが何となく、渋川大佐の主張を醒めた感情で受け止めている自分がいる。
 相手が、匪賊と化した牢人であるならば直信にも躊躇はない。彼らは民の生活を脅かす存在であり、それを討滅することは将家に生まれた者の義務であると思っているからだ。
 しかし、単に政治的意見を異にするだけの同胞に刃や銃口を向けることは、忌避感があった。
 渋川大佐は自分にとって義理の叔父に当たるが、それでも親しみを覚えることは出来なかった。
 何となく、六家出身ということを抜きにしても、部隊の中で自分だけが孤立しているように思えてしまう。
 五年間を同年代の者たちと過ごした兵学寮を卒業した直後だから、そう思えてしまうのかもしれない。
 その意味では、祖父の期待の表れであるとはいえ、歩兵第一連隊に配属されて皇都勤務となったことは自分にとって不幸中の幸いであったかもしれないと直信は思う。
 父・寛信のことがあったからか、直信は十歳で元服して早々に婚約者を決められた。
 皇都にいれば、自分と違ってまだ女子学士院に在学中の彼女に逢うことが出来る。
 何だか無性に、無邪気に自分を慕ってくれているあの少女に逢いたかった。
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