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第八章 中華衰亡編
155 作戦準備の合間
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三月初め、独立混成第一旅団は遼東半島の金州に駐屯していた。
港のある大連港は目の前であり、金州城の城壁からは湾内に停泊する輸送船の姿がはっきりと見えている。
二月二十日に発令された新たな兵力部署により、独混第一旅団は軍監本部直属となり、新たな作戦に備えるための訓練と準備に入るよう命じられていた。
軍監本部、海軍軍令本部などの間で極秘の内に進められている天津上陸作戦および紫禁城降下作戦の実施期日は、三月下旬の風浪の穏やかな日とされている。
大連から西に行った旅順は海軍の泊地となっており、そちらでは海軍陸戦隊の訓練が続けられているという。
前線に近い海城から後方の金州へと移動した当初は旅団将兵の中に弛緩した空気が流れていたが、ここ数日は何か大きな作戦準備が行われているのではないかと囁き合う者たちが多くなり、それに伴って将兵たちの緊張感も上がってきていた。
とはいえ、あまり緊張状態が続いても将兵の心身に負担をかけるだけであるからと、景紀は冬営中と同じように兵士たちを警備、休暇、訓練の順で輪番制を取らせている。
これまで遼東半島の中心地は金州であったが、皇国が遼東半島を占領したここ半年ほどの間で、むしろ寒村であった大連の方が発達しつつあった。
大連港柳樹屯には陸軍の兵站拠点が置かれ、その周囲に将兵たちの宿舎、軍慰安所などの娯楽施設、そして野戦軽便鉄道の駅などが次々と建てられており、町のごとき様相を呈していたからである。
「どうにも上手くいきませんなぁ」
金州郊外の開けた場所で、独混第一旅団龍兵隊長の加東正虎少佐はぼやいた。傍らの景紀も、渋面を作っている。
「下手をすると、発艦時の事故が起こりかねませんぜ」
二人の目の前で行われているのは、翼龍に曳かせた気球を発進させる訓練であった。
船の上の短い滑走路を想定して地面に白線を引いていたが、その範囲内で発進に成功した龍兵と気球の操縦手はわずかであった。
「気球を発進させる時に邪魔な帆柱は一時的に撤去して甲板上をまっさらにしてもらえれば何とかなりますが、こっちに関しては完全に搭乗員の技量と訓練次第ってところです」
「あと二、三週間で何とかすることは難しいか?」
「若、若も翼龍乗りならよくご存じでしょう?」険しい口調で、加東は言う。「翼龍乗りは一朝一夕の訓練でどうにかなるものじゃありません。しかも、陸軍龍兵にとっては慣れない船上からの発進です」
「だが、海軍龍兵も、船上から気球を曳いたまま発進した経験のある人間はいないらしい。翼龍で気球を曳く訓練をやっていた貴官らに、実行してもらうしかない」
「上陸地点の後方に降下して、海岸と内陸の前後から敵を挟撃して混乱状態に陥らせる。理論としちゃあ悪くありませんが、実施するとなると相当な困難が伴いますぜ。最悪、発進する気球の半数は事故を起こすことを覚悟してもらわにゃあなりません」
「……」
景紀は、腕を組んで唸らざるを得なかった。
船上からの気球の発進は、実際に訓練を開始してみると予想以上の困難があったのだ。
「正直、龍兵の立場から言わせてもらえれば、戦国時代みたいに翼龍に人を乗せて敵の城に突っ込ませる決死隊を編成してもらった方が有り難いですな。確実に敵中で孤立して戦死することが判っていても、事故で死ぬよりかは納得して死ねますからな」
「旅団の翼龍で元気な奴の数は?」
「二十九頭」
加東少佐は端的に答えた。旅団の龍兵戦隊の定数は三十六騎であるが、疲労や体の不調などの要因で飛ばせない翼龍も存在している。
「一騎に三人まで乗せるとして、八十七人か……」
一方、旅団の気球は今回の紫禁城降下作戦に合せて増強され、十基となっている。気球一基の籠に兵員三〇名を乗せるとすれば、三〇〇名。ただし、分解した多銃身砲やその弾薬の輸送も必要なため、実際にはその八割程度の二四〇名ほどとなるだろう。
降下後の気球はそのまま紫禁城内に下ろし、籠を組み合わせて簡易的な遮蔽物とする計画となっている。
気球を反復させて、兵員や弾薬を輸送することは出来ない。
これは、気球を着艦させることが難しいと判断されたからだ。加藤隊長以下の龍兵ですら、龍母の飛行甲板に着艦させることに慣れていないのだ。気球を曳いたまま着艦させるなど、ほとんど不可能であった。
このため、弾薬や糧食などは海軍の翼龍からの空輸で凌ぐことになっている。
「若のことですから、どうせそこの陰陽師の嬢ちゃんも同行させるんでしょう?」
加東少佐は景紀の斜め後ろに控える冬花を見た。
「陽鮮倭館じゃあ、大活躍だったそうじゃないですか。八十七人という額面通りに戦力を換算する必要もないと思いますがね」
「そうなんだがなぁ……」
景紀はどこか納得していない口調で、訓練中の龍兵部隊を見つめていた。
状況は、倭館というすでに防御陣地になり得る場所に籠っていることが出来た帯城軍乱の時とは違う。
出来るだけ多くの兵員と、多銃身砲を持ち込みたいというのが景紀の本音だった。彼は降下部隊を編成したいのであって、決死隊を編成したいのではない。
「翼龍の問題さえ解決出来れば何とかなるんだろうが……」
あるいは、倭館攻防戦の時に館員を脱出させた時の逆、翼龍を反復して送り込んで兵力を増員していくという手もある。
この場合は、翼龍を龍母の飛行甲板に着艦出来る技量が必要となってくるので、兵員の輸送は海軍龍兵部隊の協力を仰ぐことになるだろう。
「……いや、倭館攻防戦。そうか、その手があったか……」
はっと閃くものがあって、景紀は冬花に顔を向けた。
「伊季殿らの調査団は、まだこちらに留まったままだったな?」
「はい」
主君からの問いに、冬花は首肯した。
「呪術通信で、伊季殿に連絡を取ってくれ。軍として少し協力して頂きたいことがある、とな」
◇◇◇
穂積貴通は、旅団司令部の自室で寝台の上に体を丸めていた。
「大事な、作戦の前だっていうのに……」
布団を被りながら、男装の少女は呻く。下腹部から襲ってくる痛みが、貴通の体を苛んでいた。
ずっと来ていなかった月のものが、唐突に来てしまったのだ。
ずきずきと疼く下腹部。全身を覆う倦怠感。手足がむくんでいるような感覚。
その所為で、旅団の庶務や景紀と共に龍兵部隊の訓練を視察に行くことも出来なくなってしまった。
最初は無理にでも景紀についていこうとしたのだが、逆に休養を取るように言われてしまった。
景紀の方から、司令部の従兵などには単なる体調不良だと説明してもらっている。司令部の者たちや四隊長なども、旅団幕僚としての激務が祟ったのだろうと勝手に納得してくれたという。
「ほんと、僕って何なんでしょう……」
女として生まれながら、女として生きることを許されない自分。だけれども、女特有の体の不調に悩まされる自分。
これの所為で、兵学寮在学中は景紀に随分と迷惑をかけた。
だが同時に、男と女の体の違いを思い知らされる時間でもあった。そのことで男である景紀に苛立ちを覚え、酷い言葉をぶつけてしまったこともある。
それでもあの同期生は、自分の面倒を見てくれた。
女であることを隠すため医者にかかることの出来ない自分のために、兵学寮の医務室からこっそり脱脂綿を盗んできてくれたり、あるいは花街の遊女たちから対処方法を聞いてきてくれたり、あるいは血を誤魔化すことに協力してくれたり、思い出せば切りがない。
その内に月のものと言いながら、やってくる周期は不規則になっていき、今回までは一年近く来ていなかった。
楽なのは楽でいいのだが、今のように急に来るのでやはり腹立たしい。
行軍中や作戦行動中でなかったのが幸いといえば幸いだが、それでもこの戦争の趨勢を決めることになるかもしれない重要な作戦の準備に景紀と共に当たれないことが辛かった。
自分は景紀の軍師であることが存在意義なのだ。なのに、これの所為で彼の幕僚としての任を十分に果たせなくなってしまう。
近衛師団で閑職に回されていた内は別に気にもならなかったが、今は無性に自分自身の体が憎らしかった。
「景くん……、痛いです……」
かつて景紀に当たり散らしておきながら、今はこうやって縋ろうとする。自分の浅ましさに、痛みからだけではない涙が浮かびそうになる。
そうやって貴通が一人痛みに耐えながら布団の中で煩悶していると、部屋の扉が叩かれた。
「景紀だ。ちょっと様子見に来たんだが、いいか?」
「……ああ、景くん。どうぞ」
痛みの所為で気怠げな声になってしまったが、ちゃんと扉の外に届いたらしい。把手を回す音と共に、扉が開かれる。
「ご心配おかけして、申し訳ありません」
貴通は痛みを押して、布団の上に上体を起こそうとする。
「おいおい、無理すんなって」
景紀がどこか咎めるように言うので、貴通はその言葉に甘えることにした。寝台の上に横になったまま、部屋に入ってきた景紀を見る。
女性故の体の不調に呻いている自分の姿を見られることに、羞恥はない。そんな姿、兵学寮で何度も見せてしまっている。
「ごめんな」
寝台脇の椅子に腰を下ろしながら、景紀が言う。
「どうして、景くんが謝るんですか?」
「お前の体のこと、もう少し気を遣ってやれば良かったと思って」
「気を遣ってくれたところで、どうにもなりませんよ」
痛みで気が立っているのか、どうにも反発するような声になってしまった。せっかく景紀が来てくれたのにこれではいけないと思いながらも、やはり心のどこかにやり場のない苛立ちがあるのだ。
「同じ女性である冬花がいたんだ。もう少し、そういう面で互いに相談するように言えば良かったと思ってな」
冬花は女子学士院の出である。当然、女性故の体の問題を巡って自分や周囲の少女たちがどう向き合ってきたかという経験や知識は、貴通よりも豊富だ。
ただ、月のものを巡る女性同士の確執についても景紀は冬花から聞いていたので、どうしても彼自身からこの問題について切り出すことを躊躇してしまった面もある。
月のものの重い軽いで、女性同士で差別や隔意が生じることもままあるという。
「今朝、冬花さんに見てもらいましたが、曰く、僕の体は“気”の乱れが激しいらしいです」
流石に今の状態の貴通を軍医や衛生兵に見せるわけにはいかないので、景紀は同じ女性である冬花に対応を頼んでいた。呪術による治癒などが出来ないかと、景紀は思ったのである。
貴通も、あまりに痛みが激しいので治癒の術式を使ってもらえるものならば使ってもらいたかった。
だが、冬花は月のものに対して治癒の術式は使えないという。それはある意味で女性の体の当然の仕組みであるため、治癒の術式が意味をなさないというのだ。
その代わり、冬花は貴通の体の“気”の乱れが激しいことに気付いた。
「冬花さんもはやり、初めて月のものが来た後、この“気”の乱れに悩まされたそうです。でも、陰陽師である以上、 “気”の乱れを放置しては体内を巡る霊力の循環に悪影響を与えるということで、今は体内の霊力の流れを上手く使って“気”の乱れを防いでいるそうです」
貴通も冬花も、日常の運動量が多い女性である。
後世的な表現を用いれば、それが体内のホルモンバランスを乱し生理の周期を不規則としているのであるが、この時代の者たちにそこまでの医学的知識はない。
加えて、貴通の下腹部の痛みが激しいのもやはりホルモンバランスの乱れ、特にプロゲステロンの不足が引き起こしていた。
「取りあえず、“気”の乱れを抑制する術式を例のお守りに加えてもらいましたが、まあ、今すぐに効果が出るものでもないらしいです」
貴通は女であることを認識させないための術式を組み込んだお守りを身に付けている。その中に、冬花に“気”の巡りを正常にするための術式も加えてもらったのだ。
そう説明していたら、また痛みが激しくなってきた。
「うっ……」
小さく呻きを上げて、貴通は布団の中で体を丸くする。
「景くん……」
案ずるような表情で自分を見ている少年に、小さく哀願するように貴通は呼びかけた。
「ああ」
景紀は応ずるように小さく頷くと、そっと手を伸して男装の少女の背中の下のあたりをさする。それで痛みが引くわけでもないのだが、手のひらから伝わってくる温かさに貴通は精神的には随分と落ち着くことが出来た。
兵学寮でも最初の内は、景紀もどう対応していいのかよく判らずに二段寝台の縁から顔を覗かせながらおろおろと戸惑っていることが多かった。
その内に、痛みに呻いている時には腹や背中をさすって欲しいと言われてから、こうするようになった。
男である景紀は、これにどこまで効果があるのかよく判らなかったが、それでも貴通がほっとしたような表情を見せるので言われるままに続けているのだ。
「……ありがとう、ございます」
少しだけ弛緩した声で、貴通は言った。
この同期生だから、貴通は安心することが出来た。そんな相手だから、彼女は訊いた。
「ねえ、景くん。僕は、誰ですか……?」
穂積公爵家当主・通敏の息子・貴通、存在を消された愛妾の子・満子、結城家次期当主・景紀の同期生・穂積貴通、独立混成旅団幕僚の陸軍大佐・穂積貴通。
兵学寮の頃は、満子という本当の自分自身を共有出来る景紀の存在があればそれでよかった。でも今は随分と自分自身を示すものが多くなっていた。
そして、そのほとんどは偽りの「穂積貴通」という人間に属するものなのだ。こうして月のものの痛みを感じていると、それが何だか虚しくなってくる。
「お前は、俺の軍師だ」
だけれども、景紀の声は貴通の不安とは裏腹に確固としたものであった。しかし、貴通はどうしてかその答えでは満足出来なかった。
「……それが、僕の望みだったんです。景くんと一緒に戦って、景くんを支えた者として歴史に名を残すことが。そうすれば、こんな偽りだらけの僕にも存在意義があったと思えるから……」
「ああ」
「でも、僕が歴史に名を残せるかどうかは結局、僕が死んでからでないと判りません。結局、僕が生きている内は、僕自身が存在意義を感じることが出来ないんです」
「そんなことないだろ」
少し強い口調で、景紀は咎めるように言った。自分の軍師だと言い切った彼にとっては、貴通の自嘲は自分を蔑ろにされたと感じるのだろう。
「僕は、女なんですよ?」
下腹部からの痛みを感じている今だからこそ、強くそう思う。
「満……」
「本当に、やんなってきますよ……。僕自身で、今の立場を望んだはずなのに……。でもそれじゃあ、満足出来なくなってきているんです。最初は保身のために景くんに近付いて、その内に景くんから認められたいと思うようになって、それから側にいたいと思うようになって……。どんどんどんどん、膨らんでいくんです……。今だって、景くんから頼られて、景くんの役に立って、景くんから褒められて、それで旅団の他の人たちからの賞賛も受けて……。でも何だか、満たされないものを感じているんです……」
「別に、貪欲になることは悪いことじゃないだろ?」
背中をさすり続けながら、景紀は言った。
「お前は今までずっと色々なことを抱え続けて、それを我慢してここまで来たんだ。だから少しくらい、我が儘言ったって良いだろ?」
「僕は、欲深くて醜い、面倒な女ですよ……?」
「それを判っていて、俺はずっとお前に付き合っているんだが?」
皮肉げな同期生の声が、貴通の上に降ってくる。貴通の自虐を否定せず、それを判っていて側にいるのだと言う。
自分も歪んでいる。彼もまた歪んでいる。
その歪さが噛み合ったから、これまでずっと一緒にやってこれたのだろう。
「……きっと、僕が次に欲しいのは……」
そこまで言って、貴通は口を噤んだ。そこから先は、言ってはならない。
陽鮮の倭館で、自分は景紀に彼を思慕する気持ちもあることを伝えた。でも、貴通は将家の女として景紀を支えることは出来ない。結局、軍人として彼の側に置いてもらう以外にないのだ。
自分は、自分自身という存在の意義を感じたいのだ。女としての存在意義を感じたいわけではない。
でもどうしたって自分は女でしかないんだから、別にそれでいいじゃないかという思いも心の片隅に浮かんでくる。
自身の破滅を弄ぶような、そんな自棄にも似た感情。
葛葉冬花という少女が、貴通には妬ましく思えた。
彼女は陰陽師として景紀に仕えることも、女として景紀の側に侍ることも出来た。そして白髪の少女は陰陽師であることを選んだ。
彼女は、選べたのだ。
自分は、選べなかった。
軍師としてしか、景紀の側にいられない。男であると偽って生きる自分には、冬花のような選択肢は与えられていなかった。
そんな感情を冬花に向けてはいけないと、貴通の理性も判っている。冬花は冬花で、その容姿故に辛い思いをしてきたのだ。
でも、生き方の選択肢を与えられた冬花が今は無性に妬ましかった。
きっと全部、この痛みの所為だ。
「景くん」
貴通は弱った声で少年の名を呼ぶ。
「僕の側に、いてください」
「ああ。今日はもう仕事を終わらせているから、気の済むまで側にいてやるさ」
男装の少女を安心させるように、景紀は笑みを浮かべて言う。
体の不調の所為で不安と孤独を強く感じてしまっている貴通にとって、その言葉は何よりも嬉しいものだった。でも同時に、景くんは判ってくれていないな、とも思ってしまう。
自分は、今この瞬間だけではない、ずっと景紀に側にいて欲しいのだ。粘着質な、彼への執着。そんなことは判っている。
でも今は、この痛みに苛まれている今だけは、景紀は純粋に自分を女として扱ってくれる。
それはどこか甘美で、でも背徳的な罪悪感を覚えるような満足感であった。
港のある大連港は目の前であり、金州城の城壁からは湾内に停泊する輸送船の姿がはっきりと見えている。
二月二十日に発令された新たな兵力部署により、独混第一旅団は軍監本部直属となり、新たな作戦に備えるための訓練と準備に入るよう命じられていた。
軍監本部、海軍軍令本部などの間で極秘の内に進められている天津上陸作戦および紫禁城降下作戦の実施期日は、三月下旬の風浪の穏やかな日とされている。
大連から西に行った旅順は海軍の泊地となっており、そちらでは海軍陸戦隊の訓練が続けられているという。
前線に近い海城から後方の金州へと移動した当初は旅団将兵の中に弛緩した空気が流れていたが、ここ数日は何か大きな作戦準備が行われているのではないかと囁き合う者たちが多くなり、それに伴って将兵たちの緊張感も上がってきていた。
とはいえ、あまり緊張状態が続いても将兵の心身に負担をかけるだけであるからと、景紀は冬営中と同じように兵士たちを警備、休暇、訓練の順で輪番制を取らせている。
これまで遼東半島の中心地は金州であったが、皇国が遼東半島を占領したここ半年ほどの間で、むしろ寒村であった大連の方が発達しつつあった。
大連港柳樹屯には陸軍の兵站拠点が置かれ、その周囲に将兵たちの宿舎、軍慰安所などの娯楽施設、そして野戦軽便鉄道の駅などが次々と建てられており、町のごとき様相を呈していたからである。
「どうにも上手くいきませんなぁ」
金州郊外の開けた場所で、独混第一旅団龍兵隊長の加東正虎少佐はぼやいた。傍らの景紀も、渋面を作っている。
「下手をすると、発艦時の事故が起こりかねませんぜ」
二人の目の前で行われているのは、翼龍に曳かせた気球を発進させる訓練であった。
船の上の短い滑走路を想定して地面に白線を引いていたが、その範囲内で発進に成功した龍兵と気球の操縦手はわずかであった。
「気球を発進させる時に邪魔な帆柱は一時的に撤去して甲板上をまっさらにしてもらえれば何とかなりますが、こっちに関しては完全に搭乗員の技量と訓練次第ってところです」
「あと二、三週間で何とかすることは難しいか?」
「若、若も翼龍乗りならよくご存じでしょう?」険しい口調で、加東は言う。「翼龍乗りは一朝一夕の訓練でどうにかなるものじゃありません。しかも、陸軍龍兵にとっては慣れない船上からの発進です」
「だが、海軍龍兵も、船上から気球を曳いたまま発進した経験のある人間はいないらしい。翼龍で気球を曳く訓練をやっていた貴官らに、実行してもらうしかない」
「上陸地点の後方に降下して、海岸と内陸の前後から敵を挟撃して混乱状態に陥らせる。理論としちゃあ悪くありませんが、実施するとなると相当な困難が伴いますぜ。最悪、発進する気球の半数は事故を起こすことを覚悟してもらわにゃあなりません」
「……」
景紀は、腕を組んで唸らざるを得なかった。
船上からの気球の発進は、実際に訓練を開始してみると予想以上の困難があったのだ。
「正直、龍兵の立場から言わせてもらえれば、戦国時代みたいに翼龍に人を乗せて敵の城に突っ込ませる決死隊を編成してもらった方が有り難いですな。確実に敵中で孤立して戦死することが判っていても、事故で死ぬよりかは納得して死ねますからな」
「旅団の翼龍で元気な奴の数は?」
「二十九頭」
加東少佐は端的に答えた。旅団の龍兵戦隊の定数は三十六騎であるが、疲労や体の不調などの要因で飛ばせない翼龍も存在している。
「一騎に三人まで乗せるとして、八十七人か……」
一方、旅団の気球は今回の紫禁城降下作戦に合せて増強され、十基となっている。気球一基の籠に兵員三〇名を乗せるとすれば、三〇〇名。ただし、分解した多銃身砲やその弾薬の輸送も必要なため、実際にはその八割程度の二四〇名ほどとなるだろう。
降下後の気球はそのまま紫禁城内に下ろし、籠を組み合わせて簡易的な遮蔽物とする計画となっている。
気球を反復させて、兵員や弾薬を輸送することは出来ない。
これは、気球を着艦させることが難しいと判断されたからだ。加藤隊長以下の龍兵ですら、龍母の飛行甲板に着艦させることに慣れていないのだ。気球を曳いたまま着艦させるなど、ほとんど不可能であった。
このため、弾薬や糧食などは海軍の翼龍からの空輸で凌ぐことになっている。
「若のことですから、どうせそこの陰陽師の嬢ちゃんも同行させるんでしょう?」
加東少佐は景紀の斜め後ろに控える冬花を見た。
「陽鮮倭館じゃあ、大活躍だったそうじゃないですか。八十七人という額面通りに戦力を換算する必要もないと思いますがね」
「そうなんだがなぁ……」
景紀はどこか納得していない口調で、訓練中の龍兵部隊を見つめていた。
状況は、倭館というすでに防御陣地になり得る場所に籠っていることが出来た帯城軍乱の時とは違う。
出来るだけ多くの兵員と、多銃身砲を持ち込みたいというのが景紀の本音だった。彼は降下部隊を編成したいのであって、決死隊を編成したいのではない。
「翼龍の問題さえ解決出来れば何とかなるんだろうが……」
あるいは、倭館攻防戦の時に館員を脱出させた時の逆、翼龍を反復して送り込んで兵力を増員していくという手もある。
この場合は、翼龍を龍母の飛行甲板に着艦出来る技量が必要となってくるので、兵員の輸送は海軍龍兵部隊の協力を仰ぐことになるだろう。
「……いや、倭館攻防戦。そうか、その手があったか……」
はっと閃くものがあって、景紀は冬花に顔を向けた。
「伊季殿らの調査団は、まだこちらに留まったままだったな?」
「はい」
主君からの問いに、冬花は首肯した。
「呪術通信で、伊季殿に連絡を取ってくれ。軍として少し協力して頂きたいことがある、とな」
◇◇◇
穂積貴通は、旅団司令部の自室で寝台の上に体を丸めていた。
「大事な、作戦の前だっていうのに……」
布団を被りながら、男装の少女は呻く。下腹部から襲ってくる痛みが、貴通の体を苛んでいた。
ずっと来ていなかった月のものが、唐突に来てしまったのだ。
ずきずきと疼く下腹部。全身を覆う倦怠感。手足がむくんでいるような感覚。
その所為で、旅団の庶務や景紀と共に龍兵部隊の訓練を視察に行くことも出来なくなってしまった。
最初は無理にでも景紀についていこうとしたのだが、逆に休養を取るように言われてしまった。
景紀の方から、司令部の従兵などには単なる体調不良だと説明してもらっている。司令部の者たちや四隊長なども、旅団幕僚としての激務が祟ったのだろうと勝手に納得してくれたという。
「ほんと、僕って何なんでしょう……」
女として生まれながら、女として生きることを許されない自分。だけれども、女特有の体の不調に悩まされる自分。
これの所為で、兵学寮在学中は景紀に随分と迷惑をかけた。
だが同時に、男と女の体の違いを思い知らされる時間でもあった。そのことで男である景紀に苛立ちを覚え、酷い言葉をぶつけてしまったこともある。
それでもあの同期生は、自分の面倒を見てくれた。
女であることを隠すため医者にかかることの出来ない自分のために、兵学寮の医務室からこっそり脱脂綿を盗んできてくれたり、あるいは花街の遊女たちから対処方法を聞いてきてくれたり、あるいは血を誤魔化すことに協力してくれたり、思い出せば切りがない。
その内に月のものと言いながら、やってくる周期は不規則になっていき、今回までは一年近く来ていなかった。
楽なのは楽でいいのだが、今のように急に来るのでやはり腹立たしい。
行軍中や作戦行動中でなかったのが幸いといえば幸いだが、それでもこの戦争の趨勢を決めることになるかもしれない重要な作戦の準備に景紀と共に当たれないことが辛かった。
自分は景紀の軍師であることが存在意義なのだ。なのに、これの所為で彼の幕僚としての任を十分に果たせなくなってしまう。
近衛師団で閑職に回されていた内は別に気にもならなかったが、今は無性に自分自身の体が憎らしかった。
「景くん……、痛いです……」
かつて景紀に当たり散らしておきながら、今はこうやって縋ろうとする。自分の浅ましさに、痛みからだけではない涙が浮かびそうになる。
そうやって貴通が一人痛みに耐えながら布団の中で煩悶していると、部屋の扉が叩かれた。
「景紀だ。ちょっと様子見に来たんだが、いいか?」
「……ああ、景くん。どうぞ」
痛みの所為で気怠げな声になってしまったが、ちゃんと扉の外に届いたらしい。把手を回す音と共に、扉が開かれる。
「ご心配おかけして、申し訳ありません」
貴通は痛みを押して、布団の上に上体を起こそうとする。
「おいおい、無理すんなって」
景紀がどこか咎めるように言うので、貴通はその言葉に甘えることにした。寝台の上に横になったまま、部屋に入ってきた景紀を見る。
女性故の体の不調に呻いている自分の姿を見られることに、羞恥はない。そんな姿、兵学寮で何度も見せてしまっている。
「ごめんな」
寝台脇の椅子に腰を下ろしながら、景紀が言う。
「どうして、景くんが謝るんですか?」
「お前の体のこと、もう少し気を遣ってやれば良かったと思って」
「気を遣ってくれたところで、どうにもなりませんよ」
痛みで気が立っているのか、どうにも反発するような声になってしまった。せっかく景紀が来てくれたのにこれではいけないと思いながらも、やはり心のどこかにやり場のない苛立ちがあるのだ。
「同じ女性である冬花がいたんだ。もう少し、そういう面で互いに相談するように言えば良かったと思ってな」
冬花は女子学士院の出である。当然、女性故の体の問題を巡って自分や周囲の少女たちがどう向き合ってきたかという経験や知識は、貴通よりも豊富だ。
ただ、月のものを巡る女性同士の確執についても景紀は冬花から聞いていたので、どうしても彼自身からこの問題について切り出すことを躊躇してしまった面もある。
月のものの重い軽いで、女性同士で差別や隔意が生じることもままあるという。
「今朝、冬花さんに見てもらいましたが、曰く、僕の体は“気”の乱れが激しいらしいです」
流石に今の状態の貴通を軍医や衛生兵に見せるわけにはいかないので、景紀は同じ女性である冬花に対応を頼んでいた。呪術による治癒などが出来ないかと、景紀は思ったのである。
貴通も、あまりに痛みが激しいので治癒の術式を使ってもらえるものならば使ってもらいたかった。
だが、冬花は月のものに対して治癒の術式は使えないという。それはある意味で女性の体の当然の仕組みであるため、治癒の術式が意味をなさないというのだ。
その代わり、冬花は貴通の体の“気”の乱れが激しいことに気付いた。
「冬花さんもはやり、初めて月のものが来た後、この“気”の乱れに悩まされたそうです。でも、陰陽師である以上、 “気”の乱れを放置しては体内を巡る霊力の循環に悪影響を与えるということで、今は体内の霊力の流れを上手く使って“気”の乱れを防いでいるそうです」
貴通も冬花も、日常の運動量が多い女性である。
後世的な表現を用いれば、それが体内のホルモンバランスを乱し生理の周期を不規則としているのであるが、この時代の者たちにそこまでの医学的知識はない。
加えて、貴通の下腹部の痛みが激しいのもやはりホルモンバランスの乱れ、特にプロゲステロンの不足が引き起こしていた。
「取りあえず、“気”の乱れを抑制する術式を例のお守りに加えてもらいましたが、まあ、今すぐに効果が出るものでもないらしいです」
貴通は女であることを認識させないための術式を組み込んだお守りを身に付けている。その中に、冬花に“気”の巡りを正常にするための術式も加えてもらったのだ。
そう説明していたら、また痛みが激しくなってきた。
「うっ……」
小さく呻きを上げて、貴通は布団の中で体を丸くする。
「景くん……」
案ずるような表情で自分を見ている少年に、小さく哀願するように貴通は呼びかけた。
「ああ」
景紀は応ずるように小さく頷くと、そっと手を伸して男装の少女の背中の下のあたりをさする。それで痛みが引くわけでもないのだが、手のひらから伝わってくる温かさに貴通は精神的には随分と落ち着くことが出来た。
兵学寮でも最初の内は、景紀もどう対応していいのかよく判らずに二段寝台の縁から顔を覗かせながらおろおろと戸惑っていることが多かった。
その内に、痛みに呻いている時には腹や背中をさすって欲しいと言われてから、こうするようになった。
男である景紀は、これにどこまで効果があるのかよく判らなかったが、それでも貴通がほっとしたような表情を見せるので言われるままに続けているのだ。
「……ありがとう、ございます」
少しだけ弛緩した声で、貴通は言った。
この同期生だから、貴通は安心することが出来た。そんな相手だから、彼女は訊いた。
「ねえ、景くん。僕は、誰ですか……?」
穂積公爵家当主・通敏の息子・貴通、存在を消された愛妾の子・満子、結城家次期当主・景紀の同期生・穂積貴通、独立混成旅団幕僚の陸軍大佐・穂積貴通。
兵学寮の頃は、満子という本当の自分自身を共有出来る景紀の存在があればそれでよかった。でも今は随分と自分自身を示すものが多くなっていた。
そして、そのほとんどは偽りの「穂積貴通」という人間に属するものなのだ。こうして月のものの痛みを感じていると、それが何だか虚しくなってくる。
「お前は、俺の軍師だ」
だけれども、景紀の声は貴通の不安とは裏腹に確固としたものであった。しかし、貴通はどうしてかその答えでは満足出来なかった。
「……それが、僕の望みだったんです。景くんと一緒に戦って、景くんを支えた者として歴史に名を残すことが。そうすれば、こんな偽りだらけの僕にも存在意義があったと思えるから……」
「ああ」
「でも、僕が歴史に名を残せるかどうかは結局、僕が死んでからでないと判りません。結局、僕が生きている内は、僕自身が存在意義を感じることが出来ないんです」
「そんなことないだろ」
少し強い口調で、景紀は咎めるように言った。自分の軍師だと言い切った彼にとっては、貴通の自嘲は自分を蔑ろにされたと感じるのだろう。
「僕は、女なんですよ?」
下腹部からの痛みを感じている今だからこそ、強くそう思う。
「満……」
「本当に、やんなってきますよ……。僕自身で、今の立場を望んだはずなのに……。でもそれじゃあ、満足出来なくなってきているんです。最初は保身のために景くんに近付いて、その内に景くんから認められたいと思うようになって、それから側にいたいと思うようになって……。どんどんどんどん、膨らんでいくんです……。今だって、景くんから頼られて、景くんの役に立って、景くんから褒められて、それで旅団の他の人たちからの賞賛も受けて……。でも何だか、満たされないものを感じているんです……」
「別に、貪欲になることは悪いことじゃないだろ?」
背中をさすり続けながら、景紀は言った。
「お前は今までずっと色々なことを抱え続けて、それを我慢してここまで来たんだ。だから少しくらい、我が儘言ったって良いだろ?」
「僕は、欲深くて醜い、面倒な女ですよ……?」
「それを判っていて、俺はずっとお前に付き合っているんだが?」
皮肉げな同期生の声が、貴通の上に降ってくる。貴通の自虐を否定せず、それを判っていて側にいるのだと言う。
自分も歪んでいる。彼もまた歪んでいる。
その歪さが噛み合ったから、これまでずっと一緒にやってこれたのだろう。
「……きっと、僕が次に欲しいのは……」
そこまで言って、貴通は口を噤んだ。そこから先は、言ってはならない。
陽鮮の倭館で、自分は景紀に彼を思慕する気持ちもあることを伝えた。でも、貴通は将家の女として景紀を支えることは出来ない。結局、軍人として彼の側に置いてもらう以外にないのだ。
自分は、自分自身という存在の意義を感じたいのだ。女としての存在意義を感じたいわけではない。
でもどうしたって自分は女でしかないんだから、別にそれでいいじゃないかという思いも心の片隅に浮かんでくる。
自身の破滅を弄ぶような、そんな自棄にも似た感情。
葛葉冬花という少女が、貴通には妬ましく思えた。
彼女は陰陽師として景紀に仕えることも、女として景紀の側に侍ることも出来た。そして白髪の少女は陰陽師であることを選んだ。
彼女は、選べたのだ。
自分は、選べなかった。
軍師としてしか、景紀の側にいられない。男であると偽って生きる自分には、冬花のような選択肢は与えられていなかった。
そんな感情を冬花に向けてはいけないと、貴通の理性も判っている。冬花は冬花で、その容姿故に辛い思いをしてきたのだ。
でも、生き方の選択肢を与えられた冬花が今は無性に妬ましかった。
きっと全部、この痛みの所為だ。
「景くん」
貴通は弱った声で少年の名を呼ぶ。
「僕の側に、いてください」
「ああ。今日はもう仕事を終わらせているから、気の済むまで側にいてやるさ」
男装の少女を安心させるように、景紀は笑みを浮かべて言う。
体の不調の所為で不安と孤独を強く感じてしまっている貴通にとって、その言葉は何よりも嬉しいものだった。でも同時に、景くんは判ってくれていないな、とも思ってしまう。
自分は、今この瞬間だけではない、ずっと景紀に側にいて欲しいのだ。粘着質な、彼への執着。そんなことは判っている。
でも今は、この痛みに苛まれている今だけは、景紀は純粋に自分を女として扱ってくれる。
それはどこか甘美で、でも背徳的な罪悪感を覚えるような満足感であった。
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