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第八章 中華衰亡編
145 軍監本部と封建制の葛藤
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皇暦八三五年十二月二十五日に敢行されたアルビオン連合王国極東遠征軍の広州上陸は、内地の政治情勢にも若干の影響を与えていた。
軍監本部では兵部大臣より、連合王国軍の広州上陸が対斉戦役の戦況全般に及ぼす影響について分析するよう、命じられていた。
どうやら、六家側からの圧力があったようである。
「船舶問題の次は、連合王国軍の問題か」
やや精気を欠いた声で、軍監本部長・川上荘吉少将は呟いた。このところ、徴傭船問題に端を発する物資動員計画の見直しなどの業務に忙殺されており、寝不足気味であった。もっとも、それは部員たち全員にいえることであったが。
「連合王国の極東派遣軍の兵力は正規軍と植民地傭兵を合せて約二万。我が軍の征斉派遣軍の規模に比べればはるかに小さい」
実は皇国は、アルビオン極東遠征軍の広州上陸以前から、その兵力を把握していた。
六家という軍閥勢力が政治的主導権を握る秋津皇国と違い、アルビオン連合王国は議会制国家である。議会において斉との開戦の可否がまず議論され、次いで本国軍を派遣するか、植民地駐箚軍ないし植民地傭兵軍を派遣するか、いずれにすべきかという議論が交わされた。
そうした議論の内容は新聞報道などの形でアルビオン国内に広まっており、駐アルビオン大使館付駐在武官が逐一、兵部省に報告していた。
最終的にアルビオン議会は、皇国が対斉開戦に踏み切ったのを見定めた上で開戦を決意、そして本国軍五〇〇〇、植民地傭兵一万五〇〇〇の極東派遣を決定している。
そして東アジアにおいて秋津皇国と対立することを回避したいアルビオン連合王国は、駐秋津大使を通じて、派遣される陸戦兵力の規模やそれを輸送する船団、護衛の艦隊の規模を秋津皇国側に通報していた。
流石に上陸地点や上陸予定日など機密事項に関わる部分については通報してはこなかったが、それでも皇国側はアルビオン連合王国の兵力を事前に把握していたのである。
軍監本部から見れば、正規軍五〇〇〇、傭兵一万五〇〇〇という兵力は斉の国土に対してあまりにも少なかった。
現在、対する皇国は遼河平原を中心に三十万近い兵力を展開させている。二万という兵力は二個師団に相当する規模であるが、後方支援や占領地の維持などを考えれば、とても十分な兵力とはいえない。
長距離の航海によって兵の疲労もたまり、船内で疫病なども発生している可能性もあるから、実質的な兵力は二万未満と見るべきだろう。
実は第二次アヘン戦争を画策していたアルビオン内閣は当初、正規軍二万、植民地傭兵三万の計五万人規模の遠征軍、そして海軍艦艇、輸送船含めて二〇〇隻近い大上陸船団を極東に派遣することを議会に求めていた。しかし、それを議会が認めなかったため、このような遠征軍の規模になってしまったのである。
それらの情報も、兵部省は把握している。
やはりルーシー帝国とマフムート帝国の対立の影響があるな、と川上は分析していた。
連合王国は中央大陸に持つ植民地がルーシー帝国の南下政策によって脅かされることを恐れている。だからこそルーシー帝国と対立するマフムート朝を支援しているのであるが、この軍事支援と植民地防衛のために、極東方面に派遣される兵力が限定されてしまったのだろう。
実際、アルビオン議会には、ルーシー帝国がマフムート帝国や大陸中央で南下政策を推し進めようとしている時期に極東に大規模な遠征軍を派遣しようとする内閣の方針に批判的な議員も存在しているという。
また、連合王国の一部には秋津皇国を利用して斉を中心とする華夷秩序を解体させるべき、という議論もあると報告されている。
アルビオン連合王国は東アジアでの皇国との対立を恐れている一方、その存在を最大限利用して東アジアでの通商の拡大を目指しているということだろう。
まあ国際政治などそのようなものさ、と川上は思っている。利用出来る国や勢力は積極的に利用し、自らの国益の拡大を図る。
そうした強かさでは、皇国よりも連合王国の方が一枚上手だろう。
未だ武士階級が支配勢力である皇国は、攘夷論に代表されるように外交的解決よりも武力による解決を求めやすい風潮がある。
「まあ、連合王国の広州上陸は、冬季攻勢を推進した六家に冷や水を浴びせる結果にはなったようだな」
征斉派遣軍による冬季攻勢を最初に支持した伊丹正信などは、皇国軍が遼河平原で斉軍と対峙している間に連合王国軍が北上し、首都・燕京を占領してしまうのではないかと恐れているようだった。
確かに国家の面子としても、あるいは将家としての戦功という面からしても、連合王国による燕京攻略は認められない。
しかし、軍監本部の分析としては、その可能性は低いと見積もっている。
二万程度の兵力で、占領地を維持しつつ広州から燕京に北上するなど、無謀に過ぎるからだ。本国から遠く離れた地であるから、兵站の問題は深刻である(補給に関してはアジアでの独占的貿易権を認められたアルビオンの国策会社が請け負う部分が大きいようであったが)。
さらには現地の風土病なども考えれば、二万人規模の兵力では広州占領が精一杯だろう。
もちろん海路、直接、首都・燕京に近い天津に上陸すればまた違った結果となったであろうが、風浪の激しい冬の渤海での上陸作戦など無謀の極みである。
加えて、皇国は連合王国の極東派兵にあたり、高山島以北の海域にアルビオン海軍が進出する場合はあらかじめ担当海域などについて協議することを要求しているため、連合王国軍による天津上陸は政治的・外交的困難が伴う。
もっとも、連合王国がそうまでして燕京攻略を目指すとは考えがたい。秋津皇国に血を流させて華夷秩序を崩壊させ、自分たちは斉での権益と通商の拡大を狙う。連合王国の国家目標としては、そのあたりが妥当だろう。
つまり現状、アルビオン極東遠征軍の天津上陸は、ほぼ警戒に値しないと考えて良い。伊丹公の考えは、杞憂に等しかった。
ただ、戦後における他国からの干渉を警戒する六家に対し、アルビオン連合王国軍の広州上陸は彼らにある種の危機感を抱かせることには成功したように川上は思う。
伊丹公を始めとする攘夷派の人間にとっては、共同出兵を行っているアルビオン連合王国もまた、干渉を警戒すべき国家であるからだ。
これで彼らが冬季攻勢の愚を少しでも理解してくれるといいのだが、と川上は書類を整えながら嘆息した。
◇◇◇
連合王国軍が広州に上陸した翌日の二十六日は、ちょうど川上少将が主家である結城家当主・景忠に接見が許されていた日でもあった。
景忠公は午前、すでに始まっている列侯会議常会に出席、その後、大本営政府連絡会議に出席していたので、接見の時刻は夕刻になってからであった。
陸軍軍務局長・畑秀之助少将と徴傭船問題について話し合ってから、すでに数日が経っている。その間に、徴用期間の長期化による民需逼迫問題に関する資料をまとめ、いくつかの建白書も作成した。
また、辞表も懐に入れている。
辞表自体は六家の圧力によって冬季攻勢の実施が承認された直後にも提出したが、兵部大臣からも景忠公からも慰留を促されて、受理されなかった。
とはいえ、これ以上、軍監本部の対斉作戦計画を無視するような決定が大本営政府連絡会議でなされては、川上としても本当に軍監本部長として戦争遂行に自信が持てなかった。
景忠公の言葉次第では、また辞表を叩き付けることになるかもしれないと覚悟していた。
だが、実際に結城家皇都屋敷に着いてみると事情が違った。
景忠公側用人の里見善光から、公は体調が思わしくないので接見は出来ないと言われたのだ。当初は接見が許されていたにもかかわらず、突然、接見の中止を告げられても川上としては納得出来るものではなかった。
そもそも、公の体調が思わしくないのは昨年以来続いていることであり、今更そのような理由で接見中止を申し渡されても作為的なものを感じるだけであった。
里見ら景忠公側近の用人たちが、公の周囲から重臣たちを排除しようと画策しているという話を川上も聞いたことがあるが、今回の突然の接見中止もそうした策動の一環ではないかと思ってしまったのだ。
里見に食い下がろうとした川上であったが、里見の方から代わりとして宵姫が引見なさるという話を切り出されては、それ以上抗議することは叶わなかった。
とはいえ、それでもどこか釈然としないものをこの軍監本部長は感じていた。
主家次期当主・景紀の正室として嫁いできた宵姫に対する影響力拡大を狙って、重臣と景忠公側近の間で政治的駆け引きが続いているということは、川上も知っていた。
宵姫は実家である佐薙家が没落したため、結城家内での政治的後ろ盾が皆無に等しい存在であった。唯一、彼女を庇護してくれる夫・景紀は出征して不在であり、だからこそこの機に乗じてかの姫への影響力拡大を重臣も景忠公側近も狙っているのだろう。
今回、里見が画策したであろう宵姫との接見も、そうした重臣と景忠公側近との政治抗争の結果と見るしかない。宵姫が誰を引見するか、その決定権を巡る両者の争いがあったのだろう。
自分も宵姫も、結城家内部での権力闘争の道具に使われているとなれば、いい気分のするものではなかった。
「―――お初にお目にかかります。兵部省軍監本部長を拝命しております、川上荘吉と申します」
接見の間に通された川上は、この日、初めて宵の姿を見ることになった。
噂通り、小柄な少女であった。あと数ヶ月で十七となるというのに、背格好は十代前半の少女のようである。ただ、そのような見た目に反して態度は随分と落ち着いていた。
そして、接見の間には宵の他にこの席を設けた里見善光、そして筆頭家老である益永忠胤の姿があった。
この部屋が結城家内部の派閥対立の縮図のような気がして、川上はますます辟易とした気分を禁じ得なかった。
それでも目の前の小柄な姫君に向かって、船舶問題とそれに伴う種々の問題について川上はなるべく噛み砕いて説明することにした。
重臣と景忠公側近が宵姫への影響力拡大を狙っているのなら、自分たち中央も彼女に対する影響力を拡大して六家を動かすしかない。そう考えていたのだ。
「―――つまり卿は、民間船舶の徴用期間の長期化が国内の戦時経済体制に深刻な打撃を与えかねないとおっしゃりたいわけですね?」
そして意外にも、説明を終えて返ってきた宵姫の声はしっかりとしていた。自身の理解出来ない問題に対する困惑の色は感じ取れなかった。
「はい、その通りです。早ければ来年三月から四月には、国内における各種増産計画に支障が生じ始め、来夏には国内に出回る米穀、さらには塩を始めとした食糧にも不足を来すことになるでしょう」
「待て、それはいささか悲観的観測に過ぎるのではないか?」
宵姫に対する川上の説明を遮ったのは、益永であった。
「今秋は特に凶作というわけでもなく、領内の工業生産量も戦争特需の影響もあって軍需・民需ともに上り調子だ。開戦からわずか半年で皇国の国力が限界を迎えるとは、にわかには信じがたい話であるな」
「ボナパルト戦争や広南出兵の時とは、戦争の形態が変わりつつあるのです。それこそ、鉄砲の伝来によって大名たちが領内の総力を合戦に費やそうとした戦国時代のように」
飛び道具が弓矢から火縄銃に変わった戦国期のように、弾薬消費量の増大は一つの画期ともいえる現象であった。
そして、皇国の国力はこれまでの形態の戦争には十分に耐えられるだけの弾力性を持っていたが、弾薬の大量消費という変化の前では国力の維持は半年から九ヶ月程度が限度というのが兵部省の分析であった。
如何に広大な植民地を持っているとはいっても、皇国本土はそれほど豊かな資源を産出する土地ではないのだ。必然的に、外征にしても資源の調達にしても、船舶に頼ることになる。
そして、外征軍の兵站維持と海外からの資源輸入は、互いに国内の船舶量を奪い合う関係にあった。
川上の見るところ、筆頭家老・益永忠胤は、確かに主家を支え、領政を円滑に回してく官吏としての能力には優れているようであったが、中央官庁での勤務経験がないために思考回路が封建体制のままであるように感じるのだ。
これは恐らく、他の重臣連中や景忠公側近も同じだろう。いや、景忠公もそうかもしれないと川上は思う。
戦争中に他の六家と植民地利権争いに夢中になり、さらにはその植民地に創られる総督府に送り込む官吏の人選を巡って重臣と景忠公側近が対立しているとなれば、なおさらであった。
これでは戦後の恩賞獲得をあてにする中世的武士そのものではないかと、自分もそうした将家家臣団の出身でありながら川上は嘆じたくなった。
「だいたい、お館様も含めて我らは領民に率先して馬や馬車を軍に供出し、卿ら兵部省に対して最大限の便宜を図ってきたはずだ。南海興発の船も優先して陸軍に回すよう取り計らった。であるにもかかわらず、今度はそれとは逆のことをせよと言ってくる。それは軍監本部長という自己の職責に対して、いささか無責任な態度ではないか」
「益永殿、まるで我ら軍監本部がその時その時の気分で駄々っ子のような文句を言っていると受け止められるのは甚だ心外です。小官は自己の職責に則り、必要と信ずる建言を主家に対して申し上げているまでです」
「しかし、卿も結城家の家臣であるのならばだな……」
筆頭家老として、川上の家臣としての態度に注意を与えようとする益永。それを遮ったのは、宵であった。
「益永殿、卿にも筆頭家老としてのお立場があるように、川上本部長には軍監本部長としてのお立場がありましょう。必然、本領の者とは違う考えが出てくるものです」
「まあまあ。姫様も本日は篤志看護婦人会の講習にご出席されてお疲れでありましょう。この問題については、また日を改めて中央と将家との間で議論する時間を設けては?」
すると、すべての議論を断ち切るように里見がそう発言した。
主家の姫と重臣、そして中央に出向している家臣との間で激論が起こるのを回避させてこの場を穏便に終わらせようとする意図が明白だった。
船舶徴傭問題に対して調停者の立場に立つことで、里見はこの問題が自身のところにまで責任が及ぶのを避けたいのかもしれない。実際、結城家領内の船舶徴傭には、景忠公側用人である彼も関わっているのだ。出来る限り責任を回避して、政治的失点を避けたいところだろう。
正直、川上としてはまだまだ言い足りない気分であった。
六家が当初の作戦計画になかった冬季攻勢を推し進めておきながら、何とも無責任な態度であると感じている。
少し緊張感の漂ってきた接見の間に、小さな溜息が漏れた。宵姫の口から出てきたものであった。
「……川上殿。卿の意見は判りました。資料と建白書については私の方で預かり、後ほど公爵閣下にお渡しすることをお約束します」
「ははっ」
川上は慇懃に頭を下げながら、少し当惑した気分になった。
最悪、資料と建白書は重臣か景忠公側用人に握り潰されると考えていただけに、宵姫がそれを預かるというのは意外だったのだ。
そしてそれはどうやら他の二人も同様であるらしく、かすかに困惑した表情を浮かべている。
だが、当の宵姫は感情の乏しい表情のまま人形のように座っているだけだった。
この姫様はよく判らん人物だな、というのが川上の本音であった。
病を得て景忠公が指導力を十分に発揮出来ない現状で、次期当主の正室である宵姫は重臣にとっても景忠公側近にとっても格好の傀儡である。しかし、現状では宵姫は彼女独自の立場を確立しているようにも見えるのだ。
実家の後ろ盾も、夫である景紀の庇護も何もない結城家の中で、十六歳の少女は実に上手く立ち回っているように感じる。
あるいはこれが、当主不在の将家においてその正室がとるべき本来の態度なのかもしれない。
そんなことを思いながら、川上は宵姫の前を退出したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「菖蒲殿」
「はっ、ここに」
接見の間から自室に引き上げた宵は、自身の護衛に付けられた少女を呼ぶ。忍の少女は廊下の影から音もなく現れて、この北国の姫の前に膝をつく。
「こちらの資料と建白書ですが、景忠公はご体調が優れないとのことですので、まずは私の方で目を通しておきます。重臣や側用人の皆様には、そうお伝え下さい」
宵は手に持っている資料と建白書を菖蒲に示しつつ、そう言った。
「はっ、承知いたしました」
「それと、後ほど右筆に頼んで、こちらの複写をお願いしておいて下さい」
「複写、ですか?」
「ええ、後学のため、私の手元にも置いておきたいので」
当惑気味の菖蒲を他所に、宵はそう説明した。それで忍の少女も納得したようであった。恐らく、行政資料などを読み漁っているいつもの癖が出たのだろうという程度にしか思われていないに違いない。
実際、船舶徴傭問題も含めた戦時経済体制の問題について、宵はもっと知っておく必要があると痛感していた。
以前、兵部大臣から景紀が聞かされた「戦争の時代が来る」という言葉。
景紀を支えると誓った以上、自分がその問題に対して無知であることは許されない。
それに、今日の家臣団の様子を見る限り、軍監本部と結城家ではこの問題に対する見解を異にしているようだ。そして、船舶徴傭問題を軍監本部ほどには深刻視していない家臣団では、景忠公も積極的に問題解決のために動こうとしないだろう。
ならば自分が少し動いてみるか、と宵は考えていた。
出来るだけ、今は気分が紛れることが欲しかった。
遼河平原で始まった斉軍の大反攻。景紀についての情報は何も入ってこない。頼朋翁からも、軍の作戦行動についての事柄は軍機に関わるため、詳しい話は聞かされていない。
ただ、斉軍が呪術師たちを戦場に投入して皇国軍陣地に瘴気を流し込んだという話を、宮内省御霊部長・浦部伊任から聞いただけであった。瘴気に冒された人間は呪術師による治癒が必要となってくるため、被害状況調査も兼ねて御霊部も大連に一部の人員を派遣するという。
そんな話を聞いていたから、景紀の側には冬花がついていると判っていても、日増しに無事を祈る思いは膨れ上がってしまうのだ。
寝る前に必ず付けている日記にも、景紀を案じて揺れる自身の内面を書いてしまっている。そうして心の内を吐き出さないと、何か叫び出したい気分になってしまうのだ。
「……景紀様、どうかご無事で」
寝巻に着替えて布団に入る前、宵は遼河平原のある西に向かってぬかずいた。枕元には、景紀から預かった霊刀“雪椿”を置いている。
景紀の伴侶となった宵にも霊的な守護を与えてくれるというが、今はただ、景紀との繋がりを感じたくて白木の鞘に収められたこの刀を枕元に置いていた。
武士の間では古来より魔除けのために枕元に置く刀のことを「枕刀」と呼んでいるが、そのお陰か不安な心の内に反して宵が悪夢を見ることはなかった。
だけれども、だからこそ宵は枕刀としている“雪椿”にさらに望んでしまう。
もし私の夢を守護することが出来るのなら、その夢を景紀様のものと繋げて下さい、と。
そうしてこの日もまた、宵はくすぶる不安とかすかな期待の中で、瞼を落としたのだった。
軍監本部では兵部大臣より、連合王国軍の広州上陸が対斉戦役の戦況全般に及ぼす影響について分析するよう、命じられていた。
どうやら、六家側からの圧力があったようである。
「船舶問題の次は、連合王国軍の問題か」
やや精気を欠いた声で、軍監本部長・川上荘吉少将は呟いた。このところ、徴傭船問題に端を発する物資動員計画の見直しなどの業務に忙殺されており、寝不足気味であった。もっとも、それは部員たち全員にいえることであったが。
「連合王国の極東派遣軍の兵力は正規軍と植民地傭兵を合せて約二万。我が軍の征斉派遣軍の規模に比べればはるかに小さい」
実は皇国は、アルビオン極東遠征軍の広州上陸以前から、その兵力を把握していた。
六家という軍閥勢力が政治的主導権を握る秋津皇国と違い、アルビオン連合王国は議会制国家である。議会において斉との開戦の可否がまず議論され、次いで本国軍を派遣するか、植民地駐箚軍ないし植民地傭兵軍を派遣するか、いずれにすべきかという議論が交わされた。
そうした議論の内容は新聞報道などの形でアルビオン国内に広まっており、駐アルビオン大使館付駐在武官が逐一、兵部省に報告していた。
最終的にアルビオン議会は、皇国が対斉開戦に踏み切ったのを見定めた上で開戦を決意、そして本国軍五〇〇〇、植民地傭兵一万五〇〇〇の極東派遣を決定している。
そして東アジアにおいて秋津皇国と対立することを回避したいアルビオン連合王国は、駐秋津大使を通じて、派遣される陸戦兵力の規模やそれを輸送する船団、護衛の艦隊の規模を秋津皇国側に通報していた。
流石に上陸地点や上陸予定日など機密事項に関わる部分については通報してはこなかったが、それでも皇国側はアルビオン連合王国の兵力を事前に把握していたのである。
軍監本部から見れば、正規軍五〇〇〇、傭兵一万五〇〇〇という兵力は斉の国土に対してあまりにも少なかった。
現在、対する皇国は遼河平原を中心に三十万近い兵力を展開させている。二万という兵力は二個師団に相当する規模であるが、後方支援や占領地の維持などを考えれば、とても十分な兵力とはいえない。
長距離の航海によって兵の疲労もたまり、船内で疫病なども発生している可能性もあるから、実質的な兵力は二万未満と見るべきだろう。
実は第二次アヘン戦争を画策していたアルビオン内閣は当初、正規軍二万、植民地傭兵三万の計五万人規模の遠征軍、そして海軍艦艇、輸送船含めて二〇〇隻近い大上陸船団を極東に派遣することを議会に求めていた。しかし、それを議会が認めなかったため、このような遠征軍の規模になってしまったのである。
それらの情報も、兵部省は把握している。
やはりルーシー帝国とマフムート帝国の対立の影響があるな、と川上は分析していた。
連合王国は中央大陸に持つ植民地がルーシー帝国の南下政策によって脅かされることを恐れている。だからこそルーシー帝国と対立するマフムート朝を支援しているのであるが、この軍事支援と植民地防衛のために、極東方面に派遣される兵力が限定されてしまったのだろう。
実際、アルビオン議会には、ルーシー帝国がマフムート帝国や大陸中央で南下政策を推し進めようとしている時期に極東に大規模な遠征軍を派遣しようとする内閣の方針に批判的な議員も存在しているという。
また、連合王国の一部には秋津皇国を利用して斉を中心とする華夷秩序を解体させるべき、という議論もあると報告されている。
アルビオン連合王国は東アジアでの皇国との対立を恐れている一方、その存在を最大限利用して東アジアでの通商の拡大を目指しているということだろう。
まあ国際政治などそのようなものさ、と川上は思っている。利用出来る国や勢力は積極的に利用し、自らの国益の拡大を図る。
そうした強かさでは、皇国よりも連合王国の方が一枚上手だろう。
未だ武士階級が支配勢力である皇国は、攘夷論に代表されるように外交的解決よりも武力による解決を求めやすい風潮がある。
「まあ、連合王国の広州上陸は、冬季攻勢を推進した六家に冷や水を浴びせる結果にはなったようだな」
征斉派遣軍による冬季攻勢を最初に支持した伊丹正信などは、皇国軍が遼河平原で斉軍と対峙している間に連合王国軍が北上し、首都・燕京を占領してしまうのではないかと恐れているようだった。
確かに国家の面子としても、あるいは将家としての戦功という面からしても、連合王国による燕京攻略は認められない。
しかし、軍監本部の分析としては、その可能性は低いと見積もっている。
二万程度の兵力で、占領地を維持しつつ広州から燕京に北上するなど、無謀に過ぎるからだ。本国から遠く離れた地であるから、兵站の問題は深刻である(補給に関してはアジアでの独占的貿易権を認められたアルビオンの国策会社が請け負う部分が大きいようであったが)。
さらには現地の風土病なども考えれば、二万人規模の兵力では広州占領が精一杯だろう。
もちろん海路、直接、首都・燕京に近い天津に上陸すればまた違った結果となったであろうが、風浪の激しい冬の渤海での上陸作戦など無謀の極みである。
加えて、皇国は連合王国の極東派兵にあたり、高山島以北の海域にアルビオン海軍が進出する場合はあらかじめ担当海域などについて協議することを要求しているため、連合王国軍による天津上陸は政治的・外交的困難が伴う。
もっとも、連合王国がそうまでして燕京攻略を目指すとは考えがたい。秋津皇国に血を流させて華夷秩序を崩壊させ、自分たちは斉での権益と通商の拡大を狙う。連合王国の国家目標としては、そのあたりが妥当だろう。
つまり現状、アルビオン極東遠征軍の天津上陸は、ほぼ警戒に値しないと考えて良い。伊丹公の考えは、杞憂に等しかった。
ただ、戦後における他国からの干渉を警戒する六家に対し、アルビオン連合王国軍の広州上陸は彼らにある種の危機感を抱かせることには成功したように川上は思う。
伊丹公を始めとする攘夷派の人間にとっては、共同出兵を行っているアルビオン連合王国もまた、干渉を警戒すべき国家であるからだ。
これで彼らが冬季攻勢の愚を少しでも理解してくれるといいのだが、と川上は書類を整えながら嘆息した。
◇◇◇
連合王国軍が広州に上陸した翌日の二十六日は、ちょうど川上少将が主家である結城家当主・景忠に接見が許されていた日でもあった。
景忠公は午前、すでに始まっている列侯会議常会に出席、その後、大本営政府連絡会議に出席していたので、接見の時刻は夕刻になってからであった。
陸軍軍務局長・畑秀之助少将と徴傭船問題について話し合ってから、すでに数日が経っている。その間に、徴用期間の長期化による民需逼迫問題に関する資料をまとめ、いくつかの建白書も作成した。
また、辞表も懐に入れている。
辞表自体は六家の圧力によって冬季攻勢の実施が承認された直後にも提出したが、兵部大臣からも景忠公からも慰留を促されて、受理されなかった。
とはいえ、これ以上、軍監本部の対斉作戦計画を無視するような決定が大本営政府連絡会議でなされては、川上としても本当に軍監本部長として戦争遂行に自信が持てなかった。
景忠公の言葉次第では、また辞表を叩き付けることになるかもしれないと覚悟していた。
だが、実際に結城家皇都屋敷に着いてみると事情が違った。
景忠公側用人の里見善光から、公は体調が思わしくないので接見は出来ないと言われたのだ。当初は接見が許されていたにもかかわらず、突然、接見の中止を告げられても川上としては納得出来るものではなかった。
そもそも、公の体調が思わしくないのは昨年以来続いていることであり、今更そのような理由で接見中止を申し渡されても作為的なものを感じるだけであった。
里見ら景忠公側近の用人たちが、公の周囲から重臣たちを排除しようと画策しているという話を川上も聞いたことがあるが、今回の突然の接見中止もそうした策動の一環ではないかと思ってしまったのだ。
里見に食い下がろうとした川上であったが、里見の方から代わりとして宵姫が引見なさるという話を切り出されては、それ以上抗議することは叶わなかった。
とはいえ、それでもどこか釈然としないものをこの軍監本部長は感じていた。
主家次期当主・景紀の正室として嫁いできた宵姫に対する影響力拡大を狙って、重臣と景忠公側近の間で政治的駆け引きが続いているということは、川上も知っていた。
宵姫は実家である佐薙家が没落したため、結城家内での政治的後ろ盾が皆無に等しい存在であった。唯一、彼女を庇護してくれる夫・景紀は出征して不在であり、だからこそこの機に乗じてかの姫への影響力拡大を重臣も景忠公側近も狙っているのだろう。
今回、里見が画策したであろう宵姫との接見も、そうした重臣と景忠公側近との政治抗争の結果と見るしかない。宵姫が誰を引見するか、その決定権を巡る両者の争いがあったのだろう。
自分も宵姫も、結城家内部での権力闘争の道具に使われているとなれば、いい気分のするものではなかった。
「―――お初にお目にかかります。兵部省軍監本部長を拝命しております、川上荘吉と申します」
接見の間に通された川上は、この日、初めて宵の姿を見ることになった。
噂通り、小柄な少女であった。あと数ヶ月で十七となるというのに、背格好は十代前半の少女のようである。ただ、そのような見た目に反して態度は随分と落ち着いていた。
そして、接見の間には宵の他にこの席を設けた里見善光、そして筆頭家老である益永忠胤の姿があった。
この部屋が結城家内部の派閥対立の縮図のような気がして、川上はますます辟易とした気分を禁じ得なかった。
それでも目の前の小柄な姫君に向かって、船舶問題とそれに伴う種々の問題について川上はなるべく噛み砕いて説明することにした。
重臣と景忠公側近が宵姫への影響力拡大を狙っているのなら、自分たち中央も彼女に対する影響力を拡大して六家を動かすしかない。そう考えていたのだ。
「―――つまり卿は、民間船舶の徴用期間の長期化が国内の戦時経済体制に深刻な打撃を与えかねないとおっしゃりたいわけですね?」
そして意外にも、説明を終えて返ってきた宵姫の声はしっかりとしていた。自身の理解出来ない問題に対する困惑の色は感じ取れなかった。
「はい、その通りです。早ければ来年三月から四月には、国内における各種増産計画に支障が生じ始め、来夏には国内に出回る米穀、さらには塩を始めとした食糧にも不足を来すことになるでしょう」
「待て、それはいささか悲観的観測に過ぎるのではないか?」
宵姫に対する川上の説明を遮ったのは、益永であった。
「今秋は特に凶作というわけでもなく、領内の工業生産量も戦争特需の影響もあって軍需・民需ともに上り調子だ。開戦からわずか半年で皇国の国力が限界を迎えるとは、にわかには信じがたい話であるな」
「ボナパルト戦争や広南出兵の時とは、戦争の形態が変わりつつあるのです。それこそ、鉄砲の伝来によって大名たちが領内の総力を合戦に費やそうとした戦国時代のように」
飛び道具が弓矢から火縄銃に変わった戦国期のように、弾薬消費量の増大は一つの画期ともいえる現象であった。
そして、皇国の国力はこれまでの形態の戦争には十分に耐えられるだけの弾力性を持っていたが、弾薬の大量消費という変化の前では国力の維持は半年から九ヶ月程度が限度というのが兵部省の分析であった。
如何に広大な植民地を持っているとはいっても、皇国本土はそれほど豊かな資源を産出する土地ではないのだ。必然的に、外征にしても資源の調達にしても、船舶に頼ることになる。
そして、外征軍の兵站維持と海外からの資源輸入は、互いに国内の船舶量を奪い合う関係にあった。
川上の見るところ、筆頭家老・益永忠胤は、確かに主家を支え、領政を円滑に回してく官吏としての能力には優れているようであったが、中央官庁での勤務経験がないために思考回路が封建体制のままであるように感じるのだ。
これは恐らく、他の重臣連中や景忠公側近も同じだろう。いや、景忠公もそうかもしれないと川上は思う。
戦争中に他の六家と植民地利権争いに夢中になり、さらにはその植民地に創られる総督府に送り込む官吏の人選を巡って重臣と景忠公側近が対立しているとなれば、なおさらであった。
これでは戦後の恩賞獲得をあてにする中世的武士そのものではないかと、自分もそうした将家家臣団の出身でありながら川上は嘆じたくなった。
「だいたい、お館様も含めて我らは領民に率先して馬や馬車を軍に供出し、卿ら兵部省に対して最大限の便宜を図ってきたはずだ。南海興発の船も優先して陸軍に回すよう取り計らった。であるにもかかわらず、今度はそれとは逆のことをせよと言ってくる。それは軍監本部長という自己の職責に対して、いささか無責任な態度ではないか」
「益永殿、まるで我ら軍監本部がその時その時の気分で駄々っ子のような文句を言っていると受け止められるのは甚だ心外です。小官は自己の職責に則り、必要と信ずる建言を主家に対して申し上げているまでです」
「しかし、卿も結城家の家臣であるのならばだな……」
筆頭家老として、川上の家臣としての態度に注意を与えようとする益永。それを遮ったのは、宵であった。
「益永殿、卿にも筆頭家老としてのお立場があるように、川上本部長には軍監本部長としてのお立場がありましょう。必然、本領の者とは違う考えが出てくるものです」
「まあまあ。姫様も本日は篤志看護婦人会の講習にご出席されてお疲れでありましょう。この問題については、また日を改めて中央と将家との間で議論する時間を設けては?」
すると、すべての議論を断ち切るように里見がそう発言した。
主家の姫と重臣、そして中央に出向している家臣との間で激論が起こるのを回避させてこの場を穏便に終わらせようとする意図が明白だった。
船舶徴傭問題に対して調停者の立場に立つことで、里見はこの問題が自身のところにまで責任が及ぶのを避けたいのかもしれない。実際、結城家領内の船舶徴傭には、景忠公側用人である彼も関わっているのだ。出来る限り責任を回避して、政治的失点を避けたいところだろう。
正直、川上としてはまだまだ言い足りない気分であった。
六家が当初の作戦計画になかった冬季攻勢を推し進めておきながら、何とも無責任な態度であると感じている。
少し緊張感の漂ってきた接見の間に、小さな溜息が漏れた。宵姫の口から出てきたものであった。
「……川上殿。卿の意見は判りました。資料と建白書については私の方で預かり、後ほど公爵閣下にお渡しすることをお約束します」
「ははっ」
川上は慇懃に頭を下げながら、少し当惑した気分になった。
最悪、資料と建白書は重臣か景忠公側用人に握り潰されると考えていただけに、宵姫がそれを預かるというのは意外だったのだ。
そしてそれはどうやら他の二人も同様であるらしく、かすかに困惑した表情を浮かべている。
だが、当の宵姫は感情の乏しい表情のまま人形のように座っているだけだった。
この姫様はよく判らん人物だな、というのが川上の本音であった。
病を得て景忠公が指導力を十分に発揮出来ない現状で、次期当主の正室である宵姫は重臣にとっても景忠公側近にとっても格好の傀儡である。しかし、現状では宵姫は彼女独自の立場を確立しているようにも見えるのだ。
実家の後ろ盾も、夫である景紀の庇護も何もない結城家の中で、十六歳の少女は実に上手く立ち回っているように感じる。
あるいはこれが、当主不在の将家においてその正室がとるべき本来の態度なのかもしれない。
そんなことを思いながら、川上は宵姫の前を退出したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「菖蒲殿」
「はっ、ここに」
接見の間から自室に引き上げた宵は、自身の護衛に付けられた少女を呼ぶ。忍の少女は廊下の影から音もなく現れて、この北国の姫の前に膝をつく。
「こちらの資料と建白書ですが、景忠公はご体調が優れないとのことですので、まずは私の方で目を通しておきます。重臣や側用人の皆様には、そうお伝え下さい」
宵は手に持っている資料と建白書を菖蒲に示しつつ、そう言った。
「はっ、承知いたしました」
「それと、後ほど右筆に頼んで、こちらの複写をお願いしておいて下さい」
「複写、ですか?」
「ええ、後学のため、私の手元にも置いておきたいので」
当惑気味の菖蒲を他所に、宵はそう説明した。それで忍の少女も納得したようであった。恐らく、行政資料などを読み漁っているいつもの癖が出たのだろうという程度にしか思われていないに違いない。
実際、船舶徴傭問題も含めた戦時経済体制の問題について、宵はもっと知っておく必要があると痛感していた。
以前、兵部大臣から景紀が聞かされた「戦争の時代が来る」という言葉。
景紀を支えると誓った以上、自分がその問題に対して無知であることは許されない。
それに、今日の家臣団の様子を見る限り、軍監本部と結城家ではこの問題に対する見解を異にしているようだ。そして、船舶徴傭問題を軍監本部ほどには深刻視していない家臣団では、景忠公も積極的に問題解決のために動こうとしないだろう。
ならば自分が少し動いてみるか、と宵は考えていた。
出来るだけ、今は気分が紛れることが欲しかった。
遼河平原で始まった斉軍の大反攻。景紀についての情報は何も入ってこない。頼朋翁からも、軍の作戦行動についての事柄は軍機に関わるため、詳しい話は聞かされていない。
ただ、斉軍が呪術師たちを戦場に投入して皇国軍陣地に瘴気を流し込んだという話を、宮内省御霊部長・浦部伊任から聞いただけであった。瘴気に冒された人間は呪術師による治癒が必要となってくるため、被害状況調査も兼ねて御霊部も大連に一部の人員を派遣するという。
そんな話を聞いていたから、景紀の側には冬花がついていると判っていても、日増しに無事を祈る思いは膨れ上がってしまうのだ。
寝る前に必ず付けている日記にも、景紀を案じて揺れる自身の内面を書いてしまっている。そうして心の内を吐き出さないと、何か叫び出したい気分になってしまうのだ。
「……景紀様、どうかご無事で」
寝巻に着替えて布団に入る前、宵は遼河平原のある西に向かってぬかずいた。枕元には、景紀から預かった霊刀“雪椿”を置いている。
景紀の伴侶となった宵にも霊的な守護を与えてくれるというが、今はただ、景紀との繋がりを感じたくて白木の鞘に収められたこの刀を枕元に置いていた。
武士の間では古来より魔除けのために枕元に置く刀のことを「枕刀」と呼んでいるが、そのお陰か不安な心の内に反して宵が悪夢を見ることはなかった。
だけれども、だからこそ宵は枕刀としている“雪椿”にさらに望んでしまう。
もし私の夢を守護することが出来るのなら、その夢を景紀様のものと繋げて下さい、と。
そうしてこの日もまた、宵はくすぶる不安とかすかな期待の中で、瞼を落としたのだった。
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