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40 事実は真実ではない
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シャルロットがモーリア家に戻ってきてから二週間が過ぎた。
いつまでもこのままではいけない、エリックに離縁を申し出なければならない。短期間での離縁、エリックにもジェラルドにも迷惑をかけないよう、病気で側にいられなくなったことにするしかなかった。
幸い、この二週間で驚くほどやせた。これだとエリックも周囲も納得してくれると思う。
「お父様、今日帰られたらお話したいことがあります。お時間取っていただけますか?」
「・・・分かった。早く帰って来よう。」
何かを決意したようなやせ細った娘の顔を見て、ジェラルドは胸を痛めた。
ジェラルドが王宮に向かった後、いつものように部屋で刺繍をした。
最後にエリックに渡すためのハンカチ。
もっといろんなものを送りたかったが、いずれ再婚するエリックの迷惑になるからハンカチ一枚。せめてそれだけでも受け取って欲しいと一刺し一刺し心を込めて針を刺した。
誰も来るはずがないシャルロットの部屋にノックが響く。
「・・・はい。なにかしら?」
執事かメイドのだれかだろうが、緊急の用に違いない。
「私だよ、入っていい?」
「!!」
驚きすぎて声が出なかった。
王宮で執務中のはずのエリックの声。
「入るよ。」
ドアを開けて入ってきたエリックは、椅子に座り刺繍をしながら目にいっぱいの涙をためているシャルロットが目に入った。
「久しぶりだね、二週間も会えなくて寂しかった。その涙は私に会えたうれし涙だと思っていい?」
そういって、全身を震わせているシャルロットを抱き寄せて口づけた。
「・・・殿下。申し訳ありません。」
ぐっと押し戻そうとした。
心の準備がまだ何もできていない。今夜、ジェラルドに話しをしてからエリックに離縁の話を伝えるつもりだった。
しかし、逆に強く抱きしめられてしまう。
「殿下じゃないでしょう?それにこんなに痩せて・・・私が恋しくて食欲がなかったのなら嬉しいけど、でも痩せすぎだよ。」
「あ・・・あの・・・体の、体の調子が悪くて・・・そのもう少し帰れないと思います。」
「そうか、でもあとは王宮で療養だ。あちらには侍医が常駐している。」
「いいえ、いいえ!ここで・・・ここにいさせて下さいませ。」
今にも折れそうな細い体を抱き寄せて軽々と自分の膝の上に乗せた。
「エリック様?!」
そして後ろから全身を包み込むように抱きしめた。
「先日、不審な手紙が届いた。」
シャルロットがびくっと体を震わせた。
もう終わった・・・。知られたくなかった。お別れすることになっても、こんなこと知られたくはなかったのに。もう消えてしまいたい。
「・・・殿下・・・殿下を謀り申し訳ありませんでした。この罰は・・・いかようにも・・・」
震える声で何とか言葉を紡ぎ、エリックの手から逃れようとした。
「やはり君のもとにも手紙が来ていたか?そんな物は気にすることはない。君が純潔だってことは私が一番よく知っている。」
「・・・え?」
「初夜の日、シーツに血がついていただろ?」
「・・・ええ。」
戸惑ったように、はずがしげにシャルロットは顔を伏せた。
「あれは乙女のしるしだ。初めての証拠だ。」
「・・・そう・・・なのですか?」
幼いころから引きこもり、他者と交流のないシャルロットには閨に関することなど何も知らなかった。結婚するつもりもそもそもなく、その方面の教育もされなかった。
「そうだ。どのような手紙かは知らないが、私たちを引き裂こうと誰かが謀ったんだろう。辛い目にあったな。私はあなたが初めてだったと知っていたのだから、そんな手紙に惑わされることはなかった。だからシャルロットも自信をもって私の側にいて欲しい。もう泣かなくていい。」
そうしてもう一度深く深くシャルロットに口づけをした。
初めて結ばれた日、シャルロットが眠った後エリックは自分を傷つけて血をシーツにつけておいた。その意味をシャルロットが知らなかったとは思いもよらなかった。
でもそうしておいてよかったのだ、そうでなければシャルロットを失っていたかもしれない。事実と異なろうともそれがシャルロットにとっての真実だ。
「エリック様・・・本当に?私、エリック様を裏切っておりませんでしたか?」
「私が証人だ。私を謀ろうとしたものはすでに処分済だ。」
「なぜあんな手紙を?それに・・・シリルの様子もおかしくて・・・ですから私は・・・」
「弟君にも聞いたよ。実際、あの日君に薬を盛った人間がいた。弟君が君を助け、宿で介抱したそうだ。君が嫌な思いをしないよう襲われそうになったことを隠していたそうだ。手紙の差出人は身の程知らずにも、君に成り代わろうとした愚か者だ。」
「そう・・・でしたか。良かった・・・本当に良かった。」
エリックの胸にそっと顔を寄せて涙を落した。
そんなシャルロットの背中をしばらく撫でて
「さ、今日からまた新婚生活の続きだよ。覚悟してね。」
「エリック様!」
シャルロットは顔を赤くして顔を伏せた。
いつまでもこのままではいけない、エリックに離縁を申し出なければならない。短期間での離縁、エリックにもジェラルドにも迷惑をかけないよう、病気で側にいられなくなったことにするしかなかった。
幸い、この二週間で驚くほどやせた。これだとエリックも周囲も納得してくれると思う。
「お父様、今日帰られたらお話したいことがあります。お時間取っていただけますか?」
「・・・分かった。早く帰って来よう。」
何かを決意したようなやせ細った娘の顔を見て、ジェラルドは胸を痛めた。
ジェラルドが王宮に向かった後、いつものように部屋で刺繍をした。
最後にエリックに渡すためのハンカチ。
もっといろんなものを送りたかったが、いずれ再婚するエリックの迷惑になるからハンカチ一枚。せめてそれだけでも受け取って欲しいと一刺し一刺し心を込めて針を刺した。
誰も来るはずがないシャルロットの部屋にノックが響く。
「・・・はい。なにかしら?」
執事かメイドのだれかだろうが、緊急の用に違いない。
「私だよ、入っていい?」
「!!」
驚きすぎて声が出なかった。
王宮で執務中のはずのエリックの声。
「入るよ。」
ドアを開けて入ってきたエリックは、椅子に座り刺繍をしながら目にいっぱいの涙をためているシャルロットが目に入った。
「久しぶりだね、二週間も会えなくて寂しかった。その涙は私に会えたうれし涙だと思っていい?」
そういって、全身を震わせているシャルロットを抱き寄せて口づけた。
「・・・殿下。申し訳ありません。」
ぐっと押し戻そうとした。
心の準備がまだ何もできていない。今夜、ジェラルドに話しをしてからエリックに離縁の話を伝えるつもりだった。
しかし、逆に強く抱きしめられてしまう。
「殿下じゃないでしょう?それにこんなに痩せて・・・私が恋しくて食欲がなかったのなら嬉しいけど、でも痩せすぎだよ。」
「あ・・・あの・・・体の、体の調子が悪くて・・・そのもう少し帰れないと思います。」
「そうか、でもあとは王宮で療養だ。あちらには侍医が常駐している。」
「いいえ、いいえ!ここで・・・ここにいさせて下さいませ。」
今にも折れそうな細い体を抱き寄せて軽々と自分の膝の上に乗せた。
「エリック様?!」
そして後ろから全身を包み込むように抱きしめた。
「先日、不審な手紙が届いた。」
シャルロットがびくっと体を震わせた。
もう終わった・・・。知られたくなかった。お別れすることになっても、こんなこと知られたくはなかったのに。もう消えてしまいたい。
「・・・殿下・・・殿下を謀り申し訳ありませんでした。この罰は・・・いかようにも・・・」
震える声で何とか言葉を紡ぎ、エリックの手から逃れようとした。
「やはり君のもとにも手紙が来ていたか?そんな物は気にすることはない。君が純潔だってことは私が一番よく知っている。」
「・・・え?」
「初夜の日、シーツに血がついていただろ?」
「・・・ええ。」
戸惑ったように、はずがしげにシャルロットは顔を伏せた。
「あれは乙女のしるしだ。初めての証拠だ。」
「・・・そう・・・なのですか?」
幼いころから引きこもり、他者と交流のないシャルロットには閨に関することなど何も知らなかった。結婚するつもりもそもそもなく、その方面の教育もされなかった。
「そうだ。どのような手紙かは知らないが、私たちを引き裂こうと誰かが謀ったんだろう。辛い目にあったな。私はあなたが初めてだったと知っていたのだから、そんな手紙に惑わされることはなかった。だからシャルロットも自信をもって私の側にいて欲しい。もう泣かなくていい。」
そうしてもう一度深く深くシャルロットに口づけをした。
初めて結ばれた日、シャルロットが眠った後エリックは自分を傷つけて血をシーツにつけておいた。その意味をシャルロットが知らなかったとは思いもよらなかった。
でもそうしておいてよかったのだ、そうでなければシャルロットを失っていたかもしれない。事実と異なろうともそれがシャルロットにとっての真実だ。
「エリック様・・・本当に?私、エリック様を裏切っておりませんでしたか?」
「私が証人だ。私を謀ろうとしたものはすでに処分済だ。」
「なぜあんな手紙を?それに・・・シリルの様子もおかしくて・・・ですから私は・・・」
「弟君にも聞いたよ。実際、あの日君に薬を盛った人間がいた。弟君が君を助け、宿で介抱したそうだ。君が嫌な思いをしないよう襲われそうになったことを隠していたそうだ。手紙の差出人は身の程知らずにも、君に成り代わろうとした愚か者だ。」
「そう・・・でしたか。良かった・・・本当に良かった。」
エリックの胸にそっと顔を寄せて涙を落した。
そんなシャルロットの背中をしばらく撫でて
「さ、今日からまた新婚生活の続きだよ。覚悟してね。」
「エリック様!」
シャルロットは顔を赤くして顔を伏せた。
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