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38 不穏な手紙 2
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シリルと話をした後、シャルロットは部屋に戻って朝まで泣いた。
シャルロットが部屋を出て行くとシリルはジェラルドのもとに急いだ。
「なに?!シャルロットがそんなことを?!」
「はい・・・。僕のことを思い出したのかと思ったけれど違うみたいで。でも殿下に顔向けできないからもう帰らないって。」
「・・・・。私は朝、すぐ登城する。お前は・・・明日は休んでシャルロットを見ていてくれるか?」
「わかりました。」
ジェラルドがエリックを訪ねたときには、エリックは昨夜のうちにそのことを掴んでいたと言った。義弟と二人きりになる時は影には遠慮しないで見張れと命令がなされていたのだ。
「さようでございましたか・・・。」
「彼女のもとに怪しい手紙が届いていたようだ。義父上からの手紙ということで通してしまったらしい。」
「手紙が・・・それにシリルのことが書かれていたということですか。それにしてはシャルロットの様子が理解できません。」
「・・・ああ。」
エリックは少し顔をしかめる。せっかく墓場まで持っていく覚悟で、なかった事にしたのにそれをほじくり出す奴がいる。気高いシャルロットを傷つけようとする者は許さない。
「しばらく、守ってやって欲しい。かたをつけて必ず迎えに行くから。それまで彼女を頼む。それから、シリルにあの日の事を詳細に聞いておいてくれ。誰に会ったかや、気になったことを。影に連絡させてよい。」
「かしこまりました。」
エリックは眉間にしわを寄せながら執務に取り掛かった。
シャルロットの事は気がかりだが、執務を止めるわけにはいかない。まずはジェラルドからの情報収集だ。
そこにノックがあり、外務大臣が入ってきた。
「エリック様、承認をお願いいたします。」
「ああ。で、どうした?」
ブトナ外務大臣は娘を連れていた。
「殿下、ブトナ侯爵が娘、ローズでございます。」
「まずはご結婚おめでとうございます。誠に喜ばしいことでございます。」
外務大臣が媚びるような笑いをして祝いの言葉を述べる。
「忙しいのだが?」
「申し訳ございません。ただ、新婚にも拘らず、奥方様はご実家で休養されているとのこと。我が娘が何か役に立つのではと連れてまいりました。」
「・・・どう役に立つのだ?」
「それは殿下の思し召しのままでございます。このまま離宮にお連れ下さいまして構いません。」
「なるほど・・・。考えておこう。」
「ありがとうございます!わたくし殿下を誠心誠意お慰めいたしますわ!」
「今日は忙しいのだ。おって連絡する。」
外務大臣親子が喜んで出て行くと、エリックはその扉をじっと見つめた。
影からシリルの証言が報告された。
夜会で、シリルにシャルロットがほかの男と楽しんでると教えたのがブトナ侯爵令嬢だった。ここにもブトナ侯爵令嬢の名があった。わかりやすいことだ。
しかも、外務大臣を調べていた影からは、いずれ娘がエリックの妻の座に収まるつもりでいるようだと報告があった。娘の暴走ではない、家ぐるみの奸計だ。
「ただで済むと思うなよ。」
しばらくして、今度はエリックのもとに手紙が届いた。
手紙の仕分けやチェックをする執事がそれを見つけ、エリックのもとに届けた。
「エリック様、こちらの手紙は封蝋が偽の可能性があり、処分対象なのですが、先日シャルロット様にお届けした手紙と筆跡がそっくりなのです。中を確認してからお届けいたしましょうか?」
「いや、そのままもらおう。よく気が付いてくれた。」
その手紙には、夜会で出会った男とシャルロットが艶やかなお遊びに興じていたと書かれていた。そしてそんな汚れた娘が王家に入るのは、王家に忠誠を尽くすものとして見ていられないと義憤に駆られ報告いたしますと。どうか離縁し、ふさわしいご令嬢を娶られますよう切に願いますとの言葉が並んでいた。
エリックは、その手紙を握りつぶした。
ブトナ侯爵はこちらからの連絡を待ちかねて、ことを急ぐために決定打のつもりで仕掛けてきたのだろう。
「そんなに早く消えたいなら、お望みどおりにしてやろう。」
エリックは低くつぶやいた。
同じような内容をシャルロットにも送り付けたのだろう。貞節を重んじる彼女は、自分の身に起こったことを推察し身を引く決意をしたはずだ。その心がどれほど傷ついているだろうか。一刻も早く迎えに行き、この胸に抱きしめたかった。
シャルロットが部屋を出て行くとシリルはジェラルドのもとに急いだ。
「なに?!シャルロットがそんなことを?!」
「はい・・・。僕のことを思い出したのかと思ったけれど違うみたいで。でも殿下に顔向けできないからもう帰らないって。」
「・・・・。私は朝、すぐ登城する。お前は・・・明日は休んでシャルロットを見ていてくれるか?」
「わかりました。」
ジェラルドがエリックを訪ねたときには、エリックは昨夜のうちにそのことを掴んでいたと言った。義弟と二人きりになる時は影には遠慮しないで見張れと命令がなされていたのだ。
「さようでございましたか・・・。」
「彼女のもとに怪しい手紙が届いていたようだ。義父上からの手紙ということで通してしまったらしい。」
「手紙が・・・それにシリルのことが書かれていたということですか。それにしてはシャルロットの様子が理解できません。」
「・・・ああ。」
エリックは少し顔をしかめる。せっかく墓場まで持っていく覚悟で、なかった事にしたのにそれをほじくり出す奴がいる。気高いシャルロットを傷つけようとする者は許さない。
「しばらく、守ってやって欲しい。かたをつけて必ず迎えに行くから。それまで彼女を頼む。それから、シリルにあの日の事を詳細に聞いておいてくれ。誰に会ったかや、気になったことを。影に連絡させてよい。」
「かしこまりました。」
エリックは眉間にしわを寄せながら執務に取り掛かった。
シャルロットの事は気がかりだが、執務を止めるわけにはいかない。まずはジェラルドからの情報収集だ。
そこにノックがあり、外務大臣が入ってきた。
「エリック様、承認をお願いいたします。」
「ああ。で、どうした?」
ブトナ外務大臣は娘を連れていた。
「殿下、ブトナ侯爵が娘、ローズでございます。」
「まずはご結婚おめでとうございます。誠に喜ばしいことでございます。」
外務大臣が媚びるような笑いをして祝いの言葉を述べる。
「忙しいのだが?」
「申し訳ございません。ただ、新婚にも拘らず、奥方様はご実家で休養されているとのこと。我が娘が何か役に立つのではと連れてまいりました。」
「・・・どう役に立つのだ?」
「それは殿下の思し召しのままでございます。このまま離宮にお連れ下さいまして構いません。」
「なるほど・・・。考えておこう。」
「ありがとうございます!わたくし殿下を誠心誠意お慰めいたしますわ!」
「今日は忙しいのだ。おって連絡する。」
外務大臣親子が喜んで出て行くと、エリックはその扉をじっと見つめた。
影からシリルの証言が報告された。
夜会で、シリルにシャルロットがほかの男と楽しんでると教えたのがブトナ侯爵令嬢だった。ここにもブトナ侯爵令嬢の名があった。わかりやすいことだ。
しかも、外務大臣を調べていた影からは、いずれ娘がエリックの妻の座に収まるつもりでいるようだと報告があった。娘の暴走ではない、家ぐるみの奸計だ。
「ただで済むと思うなよ。」
しばらくして、今度はエリックのもとに手紙が届いた。
手紙の仕分けやチェックをする執事がそれを見つけ、エリックのもとに届けた。
「エリック様、こちらの手紙は封蝋が偽の可能性があり、処分対象なのですが、先日シャルロット様にお届けした手紙と筆跡がそっくりなのです。中を確認してからお届けいたしましょうか?」
「いや、そのままもらおう。よく気が付いてくれた。」
その手紙には、夜会で出会った男とシャルロットが艶やかなお遊びに興じていたと書かれていた。そしてそんな汚れた娘が王家に入るのは、王家に忠誠を尽くすものとして見ていられないと義憤に駆られ報告いたしますと。どうか離縁し、ふさわしいご令嬢を娶られますよう切に願いますとの言葉が並んでいた。
エリックは、その手紙を握りつぶした。
ブトナ侯爵はこちらからの連絡を待ちかねて、ことを急ぐために決定打のつもりで仕掛けてきたのだろう。
「そんなに早く消えたいなら、お望みどおりにしてやろう。」
エリックは低くつぶやいた。
同じような内容をシャルロットにも送り付けたのだろう。貞節を重んじる彼女は、自分の身に起こったことを推察し身を引く決意をしたはずだ。その心がどれほど傷ついているだろうか。一刻も早く迎えに行き、この胸に抱きしめたかった。
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