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30 黄昏

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 シャルロットがエリックのお茶会の招待に何度か応じたころ、エリックの執務室にジェラルドが訪れた。
「エリック殿下、お願いがございます。」
 エリックはニコラを含め人払いをした。

「ありがとうございます。殿下・・・我が娘へのご配慮まことに感謝しております。おかげさまで不名誉な噂もほとんど払拭されております。ですから・・・もうお茶会にお招きいただく必要はございません。これ以上身に余る望みを抱かないよう娘への寵愛を止めていただけるようお願いに参りました。」
「私は彼女を婚約候補の一人から、婚約者にしたいと考えている。実は皆に内緒にしてたが、先日の毒殺事件の余波で体に後遺症が残っているのだ。私は王太子を辞退し兄上をお支えしようと思う。」
「馬鹿な!!」

 毒など一滴たりともエリックの体内に入ってはいない。後遺症などあるはずがない。エリックは前言の通り、シャルロットの為に臣下に下るつもりだ。
 それほどまでに娘のことを・・・ジェラルドはありがたさに目頭が熱くなった。しかし・・・それでも王族であることに変わりはない。シャルロットを嫁がせることは出来ない。
「殿下、娘のことをそこまで想っていただき、親としてこれほど嬉しいことはございません。ですが・・・娘はどこにも出すつもりはありません。生涯、うちで面倒を見ると決めております。」
「以前もそういったな?理由は?あの能力だけが原因ではないだろう?」
「いえ、そうです。彼女を守れるのは我々家族だけですので。」
「弟のシリル・・・彼が彼女の苦しみを取れるという話を聞いたが?」
「そうです。ですから・・・」
「ではシャルロット嬢が私に嫁ぐときに、彼が従者として付き添えばよい。」
「それはなりません!」
 かたくなな態度にエリックも不信感を抱く。娘の体質を心配しての事だと理解はできる。だがそれも承知で迎えると言っているのだ。

「なにか言えない事情でもあるのか?話してくれないのであれば調べるしかなくなるが。」
 ジェラルドは額に汗をかき、口をぎゅっと引き結んでいる。
 王家の力、影の力であれば、あの日の夜会のできごともおおよそ把握することが出来るだろう。ともすれば、シリルではなく薬を使った卑劣な男に蹂躙されたと勘違いをされる可能性まである。
 そんなことが表ざたになればシャルロットの名誉が、尊厳が失われてしまう。
「・・・殿下。私はあなたを王子としてではなく、人間として信頼しております。シャルロットの為にならないことはされないと信じてよろしいでしょうか。」
「もちろんだ。」

 エリックはジェラルドが退出した後、窓から空を見ていた。
 ニコラが話しかけても、お茶を入れてもほとんど反応はなかった。

 ここのところ、エリックからのお茶会のお誘いがなくなった。
 シャルロットは少し寂しく思ったが、これが当たり前なのだ。ルコント領や暗殺事件での功績の褒美として招いてくれていただけ、それが終了したということだ。
 膨れ上がる自分の気持ちを殺すためにもちょうどいい。いつまでも側にいられるとは思っていなかったが、一緒に過ごす時間を重ねるにつれて離れがたくなっていたのも事実。
 ひと時の輝く宝石のような思い出として胸の中に閉じ込め、、元の生活に戻るだけだと痛む胸に気が付かぬふりをした。
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