29 / 42
29 シリルの告白
しおりを挟む
エリックからお茶会に誘われているシャルロットの事がシリルは心配でたまらなかった。初めこそ、一緒に招かれてエスコートしたが、次からは人払いをするからシャルロットの付き添いはいらないと通達された。
「・・・姉上は、殿下の事・・・好きなんですか?」
「・・・尊敬しているわ。殿下がいればこの国は大丈夫だと思う。」
「もし姉上にこんな力がなかったら・・・殿下に嫁ぎたかったですか?」
シャルロットが望んだとしても乙女ではない彼女が王家に嫁ぐことはできない。そうしたのは自分だ。シリルは独占欲からくる嫉妬と、罪悪感でいっぱいだった。
「・・・それはないわ。だって、私には無理だもの。優秀な殿下の横に立つ資格なんてないわ。そもそも結婚など考えたこともないの。」
悲しそうにいうシャルロットにシリルは胸が痛んだ。
シャルロットがエリックに、臣下として以上の気持ちを抱いていることをシリルは気が付いてしまった。
「・・・でもいつかは誰かと結婚するでしょう?」
「結婚はするつもりはないわ。お父様はずっとここにいていいと言ってくださってるけどそうはいかないし。貴方が結婚する前にはここを出るつもりだから心配しないで。」
「そんな心配いりません。姉上はずっとここで暮らせばいい!」
「こんな人嫌いで怪しい姉がいたら奥さまがかわいそうだわ。私は大丈夫よ、先の事は色々考えているから。」
「色々って・・・何を考えているんですか?」
「ニコラ様にも相談して、ルコント領で一人暮らしできるようにね。住む家と人に合わずに済むように刺繡や代筆の仕事を世話してもらうつもりなの。」
「どうしてそんな大事な事を勝手に決めるのですか!」
「まだ思いついただけなの。ちょっとお話しただけよ」
「決まってしまってからでは遅いじゃないですか。姉上は・・・僕がそばにいなくても大丈夫なんですか?」
「シリルのおかげで私は生きる希望が持てた。でも、私の為にシリルが制約されることがあってはならないわ。私はあなたがくれた希望があるから、一人で生きていける気がするの。あなたのおかげなのよ。」
「じゃあ、その希望を現実の物にするためにずっと一緒に暮らしましょう。」
「気持ちは嬉しいけど、私のためにあなたが面倒を引き受ける必要ないのよ。私は大丈夫だから。」
「僕しか姉上を助けられないと知って嬉しかった。面倒だなんて思いもしません。」
「ありがとう、でもあなたの幸せも大切にしてほしいわ。」
「姉上といるのが僕の幸せです。」
「フフフ、まるでプロポーズみたいなことを言ってくれるのね。そういうのは大切なご令嬢に言ってあげなくちゃ。」
「だから・・・姉上に言いました。」
「え?」
顔を赤くして視線を少し逸らすシリルを見て、シャルロットも動揺した。
「・・・ずっと好きだったのです。愚か者の僕ですけど・・・僕の事考えてもらえませんか?」
エリックに特別な思いを抱き始めただろうシャルロットを悩ませることになるかもしれない。それでもシャルロットがエリックと結ばれることはない。それならば・・・自分が誠心誠意尽くしてシャルロットの気持ちを振り向かせることが出来たのなら、彼女を幸せにすることが出来るのではないだろうか。
それが自分にできる贖罪だ。いや、償いなどではない、心から望む願いだった。
シャルロットはそんな告白を受けてから、どうも必要以上に意識をしてしまう。気が付けばあの日、シリルに言われたことを頭の中で反芻している自分がいる。思い出しては顔が赤くなり、ドキドキしてしまう。
苦しみから救ってくれるシリルが伴侶になると言ってくれる。こんな心強く嬉しいことはない・・・しかし、それはただ自分が楽になるため相手を利用してすることになるのではないか。
そして、シリルもシャルロットの苦しみを知り、哀れに思い、それを助ける事ができるのが自分だけだと知り、同情と正義感から側にいてくれようとしているのではないか。それが愛情と勘違いをしているかもしれない。
それでも、シリルが側にいてくれる安心感に本当に救われた。永遠にも思われた苦しみと恐怖から救ってくれたシリルは大切な存在で、好意を持っているのは確かだが、シリルと同じ感情かというと分からなくなる。
そしてシリルの事を考えていると、そのシリルの面影を押しのけるようにエリックとのお茶会の光景が浮かんでくる。エリックに手を取られその甲に唇を寄せられた夢のような出来事。
それが思い浮かんだ瞬間の胸の中に湧き上がる羞恥と歓喜、そしてその直後に訪れる落胆。不思議な力を持ち、まともに社交が出来ない自分にはエリックと歩んでいく未来はない。
シリルからの告白と、胸の中のエリックへの思い。シャルロットはどうしていいかわからなかった。
「・・・姉上は、殿下の事・・・好きなんですか?」
「・・・尊敬しているわ。殿下がいればこの国は大丈夫だと思う。」
「もし姉上にこんな力がなかったら・・・殿下に嫁ぎたかったですか?」
シャルロットが望んだとしても乙女ではない彼女が王家に嫁ぐことはできない。そうしたのは自分だ。シリルは独占欲からくる嫉妬と、罪悪感でいっぱいだった。
「・・・それはないわ。だって、私には無理だもの。優秀な殿下の横に立つ資格なんてないわ。そもそも結婚など考えたこともないの。」
悲しそうにいうシャルロットにシリルは胸が痛んだ。
シャルロットがエリックに、臣下として以上の気持ちを抱いていることをシリルは気が付いてしまった。
「・・・でもいつかは誰かと結婚するでしょう?」
「結婚はするつもりはないわ。お父様はずっとここにいていいと言ってくださってるけどそうはいかないし。貴方が結婚する前にはここを出るつもりだから心配しないで。」
「そんな心配いりません。姉上はずっとここで暮らせばいい!」
「こんな人嫌いで怪しい姉がいたら奥さまがかわいそうだわ。私は大丈夫よ、先の事は色々考えているから。」
「色々って・・・何を考えているんですか?」
「ニコラ様にも相談して、ルコント領で一人暮らしできるようにね。住む家と人に合わずに済むように刺繡や代筆の仕事を世話してもらうつもりなの。」
「どうしてそんな大事な事を勝手に決めるのですか!」
「まだ思いついただけなの。ちょっとお話しただけよ」
「決まってしまってからでは遅いじゃないですか。姉上は・・・僕がそばにいなくても大丈夫なんですか?」
「シリルのおかげで私は生きる希望が持てた。でも、私の為にシリルが制約されることがあってはならないわ。私はあなたがくれた希望があるから、一人で生きていける気がするの。あなたのおかげなのよ。」
「じゃあ、その希望を現実の物にするためにずっと一緒に暮らしましょう。」
「気持ちは嬉しいけど、私のためにあなたが面倒を引き受ける必要ないのよ。私は大丈夫だから。」
「僕しか姉上を助けられないと知って嬉しかった。面倒だなんて思いもしません。」
「ありがとう、でもあなたの幸せも大切にしてほしいわ。」
「姉上といるのが僕の幸せです。」
「フフフ、まるでプロポーズみたいなことを言ってくれるのね。そういうのは大切なご令嬢に言ってあげなくちゃ。」
「だから・・・姉上に言いました。」
「え?」
顔を赤くして視線を少し逸らすシリルを見て、シャルロットも動揺した。
「・・・ずっと好きだったのです。愚か者の僕ですけど・・・僕の事考えてもらえませんか?」
エリックに特別な思いを抱き始めただろうシャルロットを悩ませることになるかもしれない。それでもシャルロットがエリックと結ばれることはない。それならば・・・自分が誠心誠意尽くしてシャルロットの気持ちを振り向かせることが出来たのなら、彼女を幸せにすることが出来るのではないだろうか。
それが自分にできる贖罪だ。いや、償いなどではない、心から望む願いだった。
シャルロットはそんな告白を受けてから、どうも必要以上に意識をしてしまう。気が付けばあの日、シリルに言われたことを頭の中で反芻している自分がいる。思い出しては顔が赤くなり、ドキドキしてしまう。
苦しみから救ってくれるシリルが伴侶になると言ってくれる。こんな心強く嬉しいことはない・・・しかし、それはただ自分が楽になるため相手を利用してすることになるのではないか。
そして、シリルもシャルロットの苦しみを知り、哀れに思い、それを助ける事ができるのが自分だけだと知り、同情と正義感から側にいてくれようとしているのではないか。それが愛情と勘違いをしているかもしれない。
それでも、シリルが側にいてくれる安心感に本当に救われた。永遠にも思われた苦しみと恐怖から救ってくれたシリルは大切な存在で、好意を持っているのは確かだが、シリルと同じ感情かというと分からなくなる。
そしてシリルの事を考えていると、そのシリルの面影を押しのけるようにエリックとのお茶会の光景が浮かんでくる。エリックに手を取られその甲に唇を寄せられた夢のような出来事。
それが思い浮かんだ瞬間の胸の中に湧き上がる羞恥と歓喜、そしてその直後に訪れる落胆。不思議な力を持ち、まともに社交が出来ない自分にはエリックと歩んでいく未来はない。
シリルからの告白と、胸の中のエリックへの思い。シャルロットはどうしていいかわからなかった。
36
お気に入りに追加
348
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー
しらす丼
ファンタジー
20年ほど前。この世界に『白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー』という能力が出現した。
その能力は様々だったが、能力を宿すことができるのは、思春期の少年少女のみ。
そしてのちにその力は、当たり前のように世界に存在することとなる。
—―しかし当たり前になったその力は、世界の至る場所で事件や事故を引き起こしていった。
ある時には、大切な家族を傷つけ、またある時には、大事なものを失う…。
事件の度に、傷つく人間が数多く存在していたことが報告された。
そんな人々を救うために、能力者を管理する施設が誕生することとなった。
これは、この施設を中心に送る、一人の男性教師・三谷暁と能力に人生を狂わされた子供たちとの成長と絆を描いた青春物語である。
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる