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27 王子の暗殺劇 4

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「どういうことだ!我が国と争うつもりか!」
 とくにアランは拘束を外せと怒り狂った。
「戦争を吹っかけてきたのは貴様の方だろう。この痴れ者が。」
 嘲笑うかの様な表情でエリックは言った。

「婚姻を結び、強固な同盟国となるはずの我が国の王子を暗殺せんとするおまえの所業、ひいてはお前の国の腹積もりは十分理解した。だがお前のような愚盲が相手では物足りぬ、もっと頭を使ってくれないと楽しむ暇もない。」
「貴様!無礼ではないか!いくら婚約者の兄とは言えこの侮辱は許せるものではない!」
「は?婚約者の兄?覚えがないが。ここにいるソフィは私の妹でも何でもない、ただの平民だ。」
「お兄様?!」
「エリック殿下?!」
 ソフィとフローラの声が重なる。
「ああ、数日前に王族から離籍させてある。フローラもだ。多少・・・報告が遅れてしまったがな。」
 国王が告げる。

「どういうことですか!陛下!」
「お父様!陛下!どうしてですの?!」
 二人は淑女の仮面を投げ捨て、わめき散らす。
「お前たちが私の暗殺の主犯だからだ。隠し通せると思ったか!こいつらの口をふさげ!カイン、続けろ。」
 騎士たちは三人の口に乱暴に布を押しこんだ。
「私は・・・妻と二人の子供を人質に取られ、エリック殿下を殺害するよう脅迫されました。断ると・・・血だらけの妻の髪が送られてきました。私は・・・殿下に相談しようといたしました。でも・・・フローラ妃が王宮内でもどこでも仲間が見張っているからと、逆らうなと告げてきました。」
 そこで初めて、真犯人が王宮にいると分かったとカインは告白した。
 誰が裏切者がわからないなか、誰にも告げることが出来なかったと。

「私は・・・・重体のエリック殿下のもとに跪き、剣を立てようとしましたが・・・忠義に反することはどうしてもできませんでした。」
「カインはその剣で自分の首をかき切ろうとしたのだ。お前が自害したところで妻子の命は保証されないぞ。」
カインは捕らえられたままうなだれる。
「フローラ妃、お前の生家の動きを知らないとでも思ったか。第一王子の後ろ盾になるだと?優しい兄上を操って傀儡にするつもりでシモン家を落とし入れただけではないか。そして、これらを計画したのはアラン、貴様だと分かっている。ソフィの婚約者に名乗りを上げたのも我が国を手中に収めるためか。」
 ソフィは目を見開き、アランを見て唸り声をあげる。

「なんだ、ソフィ。愛されてるとでも思っていたのか?知も思いやりも足りず、愛嬌だけでやってきた貴様がどうやったら愛されるのだ?それで騙され母国を売り渡そうとするとはお目出たい頭だな。まあ、自尊心と虚栄心ばかり高くて他は空っぽな出来損ない皇子とはお似合いだがな。」
 涙を流すソフィをエリックは笑い飛ばした。
 アランに騙された涙なのか、エリックの言葉に涙を流したのかわからない。
 先ほどから相手の心を折るために楽しそうに辛らつな言葉を吐きまくるエリックに、国王含めまわりの護衛たちもちょっと引いていた。
「バート殿をここへ。」
 アランの侍従が呼びこまれた。
「アラン、お前の侍従は飼い主と違って利口だな。餌をぶら下げるとすぐに芸を覚えたぞ。」
「あ、アラン様!申し訳・・・申し訳ありません!わたくしの婚約者が人質に取られて・・・。」
「人聞きが悪いなあ。バート殿にお会いしたいだろうと招待をしただけですよ。ご令嬢は喜んで来てくださいましたよ、今も丁寧におもてなしをさせていただいております。カインの家族を人質としたお前たちに非難する権利はみじんもない!」

 毒殺未遂後の最初の襲撃で、実行犯がシモン侯爵家の関与を白状したとき、一貴族の犯行で事が収まるかに見えた。しかしエリックは追及を緩めなかった。重体と思われているのをいいことに自由に調べまわり、禁忌とされている麻薬を自白剤として使用し、真相を大体掴んでいた。
 そこに作戦を知っているニコラから、シャルロットが自分のことを心配しすぎて泣き暮らしていると聞いた。ジェラルドに確認するも、ジェラルドはそんなことはないと突っぱねるだけで、望ましい返事はくれなかったが。
 ひそかにニコラに手引きしてもらい、シャルロットを見舞と称して招いた。
 重体だと信じ込んでいたシャルロットは元気な姿のエリックを見て腰を抜かしたように崩れ落ちそうになった。エリックはそれを抱きとめてソファーに座らせると心配をかけたことを詫びた。

「殿下・・・よくぞご無事で。」
「申し訳ない。」
 二人が気を許し合って話をしているのをみて、シリルの胸の中は穏やかではなかった。いつの間に二人の距離が近づいたのか。
 エリックが毒で倒れたと聞いてからのシャルロットはずっと落ち着きがなく、打ちひしがれていた。ニコラから内密に見舞を打診された時、ためらうことなく王宮に駆け付けた。
 シリルは嫉妬で体の奥が焼けつくように苦しかった。
「殿下、申し上げたことがございます。」
 落ち着いたところでシャルロットが言った。

 ニコラの案内とシリルのエスコートにより、人払いをされた廊下を進んでいた時、護衛騎士が荒々しく急いで歩いているのを見かけた。
「その方が・・・剣で自害しているところが見えました。」
 「何?」
エリックが眉をひそめる。
 そこにニコラが助言した。
「近衛騎士第一部隊カイン隊長です。」
「なんだと?!なぜ自害する?!」
「わかりません。・・・ただ・・・」
 シャルロットは部屋を見渡した。
 恐れ多くもエリックの寝室に通されている。意識不明の重体ということになっているのだ。
「ただ、このお部屋だったように思います。ベッドにはおそらく殿下が横たわり・・・そのそばに跪いて剣を首に・・・」
 思い出して身を震わせたシャルロットの背中をそっとシリルが撫でる。
 シャルロットはシリルに笑いかけてありがとうと言った。
 それだけでシリルの胸はどきんと跳ねる。

「・・・そうか。シャルロット嬢、貴重な情報感謝する。ニコラ、カインの家族やその周囲を調べてくれないか?」
「かしこまりました。」
 そうして、カインの置かれている状況がわかった。
 おかげで、事件の全貌がおおよそ掴めた。
 そして、真相追及へと至る。

 この場に主要貴族、他国外交官を招いたのには訳がある。
 国王が再びみんなに状況を説明し、詫びた。このような舞台用意したのも、国外の賓客に偽りない事実を知ってもらうためだった。
 内密に処分をすると、隣国からどんな言いがかりや虚偽情報で逆にこちらが陥れられるかわからない。王家の醜聞ではあるが、二人の王子、当国貴族には問題がなく、黒幕は隣国の皇太子で乗っ取りを図られたのだと広く知らしめられたことは重要な事だった。
 今後、他国と隣国との付き合いが変わっていくだろう。婚姻をいう確固たる同盟を結ぶふりをしながら、その実は乗っ取りを考えるような信用できない国との取引や交流をやめるだろう。
 そして策に嵌まらず、華麗に敵を退け国を守る優秀な王子がこの国にいることを世界に喧伝できたのは大きな成果だった。
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