上 下
27 / 42

27 王子の暗殺劇 4

しおりを挟む
「どういうことだ!我が国と争うつもりか!」
 とくにアランは拘束を外せと怒り狂った。
「戦争を吹っかけてきたのは貴様の方だろう。この痴れ者が。」
 嘲笑うかの様な表情でエリックは言った。

「婚姻を結び、強固な同盟国となるはずの我が国の王子を暗殺せんとするおまえの所業、ひいてはお前の国の腹積もりは十分理解した。だがお前のような愚盲が相手では物足りぬ、もっと頭を使ってくれないと楽しむ暇もない。」
「貴様!無礼ではないか!いくら婚約者の兄とは言えこの侮辱は許せるものではない!」
「は?婚約者の兄?覚えがないが。ここにいるソフィは私の妹でも何でもない、ただの平民だ。」
「お兄様?!」
「エリック殿下?!」
 ソフィとフローラの声が重なる。
「ああ、数日前に王族から離籍させてある。フローラもだ。多少・・・報告が遅れてしまったがな。」
 国王が告げる。

「どういうことですか!陛下!」
「お父様!陛下!どうしてですの?!」
 二人は淑女の仮面を投げ捨て、わめき散らす。
「お前たちが私の暗殺の主犯だからだ。隠し通せると思ったか!こいつらの口をふさげ!カイン、続けろ。」
 騎士たちは三人の口に乱暴に布を押しこんだ。
「私は・・・妻と二人の子供を人質に取られ、エリック殿下を殺害するよう脅迫されました。断ると・・・血だらけの妻の髪が送られてきました。私は・・・殿下に相談しようといたしました。でも・・・フローラ妃が王宮内でもどこでも仲間が見張っているからと、逆らうなと告げてきました。」
 そこで初めて、真犯人が王宮にいると分かったとカインは告白した。
 誰が裏切者がわからないなか、誰にも告げることが出来なかったと。

「私は・・・・重体のエリック殿下のもとに跪き、剣を立てようとしましたが・・・忠義に反することはどうしてもできませんでした。」
「カインはその剣で自分の首をかき切ろうとしたのだ。お前が自害したところで妻子の命は保証されないぞ。」
カインは捕らえられたままうなだれる。
「フローラ妃、お前の生家の動きを知らないとでも思ったか。第一王子の後ろ盾になるだと?優しい兄上を操って傀儡にするつもりでシモン家を落とし入れただけではないか。そして、これらを計画したのはアラン、貴様だと分かっている。ソフィの婚約者に名乗りを上げたのも我が国を手中に収めるためか。」
 ソフィは目を見開き、アランを見て唸り声をあげる。

「なんだ、ソフィ。愛されてるとでも思っていたのか?知も思いやりも足りず、愛嬌だけでやってきた貴様がどうやったら愛されるのだ?それで騙され母国を売り渡そうとするとはお目出たい頭だな。まあ、自尊心と虚栄心ばかり高くて他は空っぽな出来損ない皇子とはお似合いだがな。」
 涙を流すソフィをエリックは笑い飛ばした。
 アランに騙された涙なのか、エリックの言葉に涙を流したのかわからない。
 先ほどから相手の心を折るために楽しそうに辛らつな言葉を吐きまくるエリックに、国王含めまわりの護衛たちもちょっと引いていた。
「バート殿をここへ。」
 アランの侍従が呼びこまれた。
「アラン、お前の侍従は飼い主と違って利口だな。餌をぶら下げるとすぐに芸を覚えたぞ。」
「あ、アラン様!申し訳・・・申し訳ありません!わたくしの婚約者が人質に取られて・・・。」
「人聞きが悪いなあ。バート殿にお会いしたいだろうと招待をしただけですよ。ご令嬢は喜んで来てくださいましたよ、今も丁寧におもてなしをさせていただいております。カインの家族を人質としたお前たちに非難する権利はみじんもない!」

 毒殺未遂後の最初の襲撃で、実行犯がシモン侯爵家の関与を白状したとき、一貴族の犯行で事が収まるかに見えた。しかしエリックは追及を緩めなかった。重体と思われているのをいいことに自由に調べまわり、禁忌とされている麻薬を自白剤として使用し、真相を大体掴んでいた。
 そこに作戦を知っているニコラから、シャルロットが自分のことを心配しすぎて泣き暮らしていると聞いた。ジェラルドに確認するも、ジェラルドはそんなことはないと突っぱねるだけで、望ましい返事はくれなかったが。
 ひそかにニコラに手引きしてもらい、シャルロットを見舞と称して招いた。
 重体だと信じ込んでいたシャルロットは元気な姿のエリックを見て腰を抜かしたように崩れ落ちそうになった。エリックはそれを抱きとめてソファーに座らせると心配をかけたことを詫びた。

「殿下・・・よくぞご無事で。」
「申し訳ない。」
 二人が気を許し合って話をしているのをみて、シリルの胸の中は穏やかではなかった。いつの間に二人の距離が近づいたのか。
 エリックが毒で倒れたと聞いてからのシャルロットはずっと落ち着きがなく、打ちひしがれていた。ニコラから内密に見舞を打診された時、ためらうことなく王宮に駆け付けた。
 シリルは嫉妬で体の奥が焼けつくように苦しかった。
「殿下、申し上げたことがございます。」
 落ち着いたところでシャルロットが言った。

 ニコラの案内とシリルのエスコートにより、人払いをされた廊下を進んでいた時、護衛騎士が荒々しく急いで歩いているのを見かけた。
「その方が・・・剣で自害しているところが見えました。」
 「何?」
エリックが眉をひそめる。
 そこにニコラが助言した。
「近衛騎士第一部隊カイン隊長です。」
「なんだと?!なぜ自害する?!」
「わかりません。・・・ただ・・・」
 シャルロットは部屋を見渡した。
 恐れ多くもエリックの寝室に通されている。意識不明の重体ということになっているのだ。
「ただ、このお部屋だったように思います。ベッドにはおそらく殿下が横たわり・・・そのそばに跪いて剣を首に・・・」
 思い出して身を震わせたシャルロットの背中をそっとシリルが撫でる。
 シャルロットはシリルに笑いかけてありがとうと言った。
 それだけでシリルの胸はどきんと跳ねる。

「・・・そうか。シャルロット嬢、貴重な情報感謝する。ニコラ、カインの家族やその周囲を調べてくれないか?」
「かしこまりました。」
 そうして、カインの置かれている状況がわかった。
 おかげで、事件の全貌がおおよそ掴めた。
 そして、真相追及へと至る。

 この場に主要貴族、他国外交官を招いたのには訳がある。
 国王が再びみんなに状況を説明し、詫びた。このような舞台用意したのも、国外の賓客に偽りない事実を知ってもらうためだった。
 内密に処分をすると、隣国からどんな言いがかりや虚偽情報で逆にこちらが陥れられるかわからない。王家の醜聞ではあるが、二人の王子、当国貴族には問題がなく、黒幕は隣国の皇太子で乗っ取りを図られたのだと広く知らしめられたことは重要な事だった。
 今後、他国と隣国との付き合いが変わっていくだろう。婚姻をいう確固たる同盟を結ぶふりをしながら、その実は乗っ取りを考えるような信用できない国との取引や交流をやめるだろう。
 そして策に嵌まらず、華麗に敵を退け国を守る優秀な王子がこの国にいることを世界に喧伝できたのは大きな成果だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio
恋愛
ギフト、と呼ばれる超能力が人々に現れる国。 その中でも特に『神の目』と呼ばれるギフトは特別視されていた。基本的に貴族の令嬢が授かるそのギフトを持つものが現れると王家に嫁ぐことが定められているほどに。 そんなギフトをもって生まれたフリージアは過去を思い出し決心した。自分の持っているギフトがばれる前に逃げ、ギフトを隠したまま今世こそは自由に生きようと。 だがその決心はなかなかうまくいかなくて……。 他サイトにも掲載しています。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...