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22 王子、諫める

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 翌日、ニコラとシリルはエリックの指示の下、被害状況の確認や物資の支給、人員の手配など忙しく飛び回っていた。
 シャルロットは申し訳ないと思いながら部屋で過ごさせてもらっていた。

 皆の力で被害は最小限に抑えられた、しかしシャルロットの記憶には崩れ落ちた建物の下敷きになっている者、逃げる集団に圧迫されてしまった者、火に巻き込まれた者・・・あの日、見た大勢の死の映像が脳裏に焼き付いている。
 辛く苦しくて怖い、しかしこんな時なのに皆を手伝わず自分だけこうして過ごしていることの罪悪感も募る。何の役にも立てない自分を恥ずかしく思う。
 それでも騎士が大挙している場所には出ていけなかった。危険な仕事をしている騎士達、いつその命が危険にさらされるのかわからないのだ。
 だからこそ、死を予見して、それを回避するように注意してあげれば助けられるのに・・・怖くて逃げる卑怯な自分をどんどん嫌いになっていく。
「・・・結局、私は自分が可愛いの・・・自分勝手で・・・どうしようもない・・・」
 シャルロットが一人でうなだれている時、ノックがあった。

「・・・はい。」
「私だ、エリックだ。少しいいだろうか?」
「殿下?!」
 慌ててドアを開けるとエリックが護衛と立っていた。一瞬身を竦めそうになったが、何も見えることはなかった。
 そのしぐさに気が付いたエリックは
「すまなかった。」
 シャルロットに詫び、護衛に扉の外で待つように言った。
「突然きて申し訳なかったな。あなたは大丈夫か?ずいぶんむごい光景を見たと聞いたが・・・」
「・・・はい。ですが、殿下と騎士様のおかげで人的被害はなかったと聞いております。本当にありがとうございました。」
「シャルロット嬢のおかげだ。何百という尊い命が救われた。」
「でも・・・私はこうしているばかりで何もお役に立っておりません。申し訳ありません。」
 シャルロットの顔を見ると、血の気がなく真っ青で今にも倒れそうな様子だ。それに誰も役立たずなどと思っていない。
「シャルロット嬢は嬉しくないのか?大勢の人を救ったんだ。」
「嬉しいですわ・・・でも・・・」

 ただ見えただけ、あとは周りの者に押し付けただけだ。
 皆と一緒に手伝いたくとも、亡くなる確率の高い騎士たちを見たくないなどと決して言っては言えない。
 命を懸けて国や国民を守ってくれている騎士たち。彼らは根拠のない妄言のようなシャルロットの予見に付き合いルコント領を助けるために駆け付けて来てくれた使命感溢れる崇高なる騎士達なのだから。
 彼らを救える力があるのに、逃げ隠れしている自分の汚さが情けなくて恥ずかしい。

「いえ・・・」
「シャルロット嬢、私を暗殺から救ってくれた時、もしや・・・そう思いジェラルドを半ば脅して貴女のことを聞き出した。最初は、その力に興味を持ち、利用できるのではないかとさえ思っていた。傲慢な考えだったと反省している。」
「殿下・・・」
「だが、ジェラルドからあなたが抱えている苦しみ、屋敷に引き込もらざるを得ない生活をきき哀れに思ったのだ。花のように美しく、一番輝く楽しいこの時をあなたはただ暗闇の中をもがいているようだ。
なのに・・・暗闇に逃げ込まずに、わが身を顧みず王族の生死を確認し、私の命を救い、今度はルコント領を救い・・・どれだけ自分を犠牲にして大きなものを救ってきたのか。あなたはもっと自分を誇りに思うべきだ。辛いだろう、苦しいだろうと思う。でもあなたは自分自身をもっと褒めて、優しくしてあげてほしい。」
 シャルロットはエリックをみた。
「自分に優しく・・・ですか?」
「貴女は先ほど、自分は役に立っていないと言ったね。でもあなたはどれほどの者だろうか?」
「え?」
「予見もして、その死を避けようと手配をし、自らが動いて救う。自分一人で人を救えるなんて傲慢な考えじゃないだろうか。誰もが自分が出来ることを精一杯やっている。私もだ。ニコラも騎士も、民もだ。あなたは騎士や私に、予見ができない役立たずだと思うか?」
「そんなこと、思うはずがございません!」
「では予見をして、それを防ぐ知恵を出し、周りに助けを求め精一杯尽くしている自分のことをなぜ役立たずと言うのだ?私はあなたのことを素晴らしい女性だと思っている。」
「・・・違うのです。私は・・・褒めてもらえるような人間ではないのです。身勝手な人間なのです。」
 思わず涙がこぼれる。

「私は・・・国のために尽くしてくださる騎士様たちの死を・・それが見えるのが怖くてこのように隠れているのでございます。もしかしたら殉職されるかもしれない騎士様たちを救う力がるかもしれないのに・・・それなのに私はわが身可愛さにこうしてここにいるのです。申し・・・わけ・・・ありません。」
 エリックからハンカチが差し出された。
 王子のハンカチなど恐れ多くて使えないと辞退したが、強引に手渡された。
「先ほども言ったが、あなたがすべての人の死を救えるなどとそれも傲慢だと思う。たまたまその力があるだけで、あなたに人の死を救う義務などありはしない。」
「殿下・・・。」
 心にすとんと落ちた。

 決して優しく慰めてくれたわけではない。傲慢な考えだと諫められた。
 それでも、心が軽くなった。視野が狭く、自分で自分を追い込んでいた。エリックの言葉はシャルロットの心を解きほぐしてくれた。
「・・・・ありがとうございます。殿下のお言葉、心に染みました。もう少し、自分に優しくいたします。」
 泣き笑いのように言うシャルロットにエリックは頷いた。
「では、くよくよせず堂々とゆっくり休みたまえ。」
「承知いたしました。」
 シャルロットは心からの笑みを浮かべた。

 三日後、あとの指揮はニコラと連れてきていた宰相補佐に任せるとエリックは王都に戻っていった。幸いにして軽い怪我を負った者はいたが、大怪我をした者も死者も出なかった。建物の倒壊はあちらこちらに見られた。
 今後の支援に関して王都に戻らないとできないことも多い。現地でおおよそのめどがついたと優秀な王子は帰っていった。
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