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20 その時が来た

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 その日。
 頑丈な公爵別邸とはいえ、天井や壁が崩れた時のことを考えて、エリックやシャルロットたちも庭に待機した。シャルロットはベールをつけて人目につかない場所に張ってもらったテントの中にシリルといた。

 月の光を浴びて、エリックとニコラは敷物の上に座っていた。
 周りは近衛兵に囲まれ、守られているが、少し離れただけの場所には領民たちのテントがある。みんな野宿のような、非日常を楽しんでいるような不思議な高揚感でどこか浮ついた気分を楽しんでいた。火は禁じられていたのでまぶしいくらいの月明りがありがたかった。

 地面に置いていた紅茶の表面に波紋が現れたのにニコラが気づいた。
「エリック様!!来ます!」
小刻みの振動を感じたかと思うと、どんっと下から突き上げるような衝撃に襲われた。下からの衝撃は一瞬にして今度は左右への大きな揺れに変わった。
 立っていたものは大きくふらついて崩れ落ち、這いつくばるしかなかった。座っていたものも右へ左へ体を大きく揺さぶられ両手を地面について倒れ込まないよう支えるのに必死だった。
「姉上!!」
 左右に振られるシャルロットの体を抱き寄せる。テントも布がバサバサと揺さぶられ音が鳴りやまない、その音が不安を呼び起こす。
 シャルロットもシリルも地震に合うのは初めてだった。ルコント領では時々あるとニコラは言っていたがこんな恐ろしいものだとは想像できなかった。

 シャルロットは悲鳴さえ上げられず、シャルロットを守ろうと覆いかぶさってくれているシリルにしがみつく。
 相当長い時間、強く揺れていたように思う。
 やっと治まった時、シャルロットは恐怖のあまり気を失っていた。
「姉上?!大丈夫ですか?!」
 遠くでもあちらこちらで騒ぎ声が聞こえてくる。
 領民のほとんどがお祭り気分で参加していたのだ、本当に地震が来たことで驚愕、恐怖そして安堵など様々な感情が渦巻き、混乱している。
 その中にはきびきびと指示を出すエリックや騎士たちの声が聞こえる。

 テントの外から声がかかった。
「シャルロット様、シリル様大丈夫でしたか?」
 ニコラの声だ。
 シリルはシャルロットを抱えたままテントを出た。
「っ?!シャルロット様?」
「ニコラ様、屋敷は無事でしょうか?姉上が意識をなくしてしまって…」
「え、ええ。屋敷は無事でした。念のため部屋を点検させますが、こちらへ!」
 二人は部屋の安全を確認した後、ベッドに寝かせた。
「何があったんですか?」
「あの揺れが怖かったのだと思います。僕たち初めて体験したので。」
「ああ、そうですね。我々は小さい地震なら慣れていますから・・・。しかしこれほど大きいのは私も初めてで恐怖を感じましたよ。シャルロット様がいなければ今頃この地域は全滅・・・感謝してもしきれません。」
「・・・この10日間、緊張や責任感で限界だったんでしょうね。そこにこの地震の恐怖でもたなかったのかもしれません。ニコラ様、姉には僕が付いていますので、ニコラ様は殿下の元にお戻りください。明日から手伝います、今だけお時間ください。」
 ニコラはシリルにも心から感謝すると、領民の為に戻っていった。
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