上 下
17 / 42

17 予見 2

しおりを挟む
「ご心配をおかけしました。そしてシリル、ありがとう。おかげで痛みは襲ってこなかった。やはりあなたには何か特別な力があるのだわ。」
「でもすごく苦しそうでしたよ。」
「そうね。想像していた通りだったの。大勢の人に・・・死が見えたわ。」
 シャルロットはニコラを見た。ニコラは大きく目を見開いた。
「大地震が来るということですか!」
「ええ。家が崩れて下敷きになったり、家事なって炎に巻き込まれたり・・・本当に多くの人々が。」
 涙声になり、シャルロットは顔を覆った。シリルのおかげで直接痛みは感じなくても、「死」は見えてしまう。それはシャルロットの心を悲しませ、傷つける。

 昨日、メイドの一人に死が見えた。建物が崩れ、大きな瓦礫が頭に直撃し、倒れても誰も助けに来ず死んでいく姿だ。それを見てもしかして地震による倒壊かもしれないとニコラに話してみた。
 すると、このルコント領は時折大地震に襲われ甚大な被害がでる地域であり、そのため領主の屋敷と別邸は頑丈に作られているのだと知った。
 もし予想通りなら、被害はあのメイドだけにとどまらない。地震が起こるのかどうか、領民の命が危機に瀕していないかどうか街に出て確かめることになったのだ。
 もし大地震が襲うなら大変なことになる、シャルロットとニコラはそれを想像して一晩、不安と焦燥感に苛まれたのだった。

 大地震が来ることは確定した。しかし、それは日時まではわからない。いつも場面から類推しているのだ。今回も判っていることは暗いので夜ということ。しかしランプやろうそくの火も見えたことから就寝前でそれほど遅い時間ではないだろうこと。
 期日については特定しにくい。ニコラが巻き込まれないことはわかったが、だからといってそれが王都に帰ってからからなのか、まだ領地にいる期間だが命が助かっただけなのかも判らない。
「シャルロット様の予知はいつもどのくらいの未来まで見えるのですか?」
「はっきりわからないのです。その後どうされてるのか、いつそれが起こったのかわからないことが多いですし。身近な範囲では2か月前後というところでしょうか。早い時は数日ということも。」
「今は緑の月ですから、黄の月までの間ですね。何か手がかりになるものはありませんか。飾りとか、花とか。」
「う~ん。そんな余裕がなかったですからね・・・あ、そういえば子供たちが。」
 と、子供たちの死にざまを思い出して感情が乱れそうになるのを何とか押さえ込むと
「みんな緑の服を着ていましたわ。偶然?かもしれませんが。」
「!それはすごい!この地方では緑の月の15の日に子供に緑の服を着せて、お祝いをするのですよ。草花や木の葉のようなみずみずしい生命力と成長を願って。ということは・・・今から10日後です!」

 日が分かったことは大進歩だ。しかし、これまでのように一人に忠告するような話ではない。大勢の領民を助けるために何をしなければいけないのか。
 家屋の増強、避難、地震後の生活を見据えた準備などなどやることは多岐にわたる。今すぐ準備をしたいくらいだ。
 しかし
「信じてくれるとは思えないわ。」
「・・・そうですね。しかも父上ではなく僕が言ったところで領民は信じないし動かないでしょう。」
「でもわかっているのに!このまま手をこまねいてほっておくことはできませんよ。」

 ニコラがはっと何かに気が付いたように立ち上がった。
「すいません、王都に帰ります!」
「ええ?!」
「我が主、エリック殿下に掛け合ってきます!そこそこの恩は売ってありますから。お二人は申し訳ありませんが、すべきことをまとめておいていただけると嬉しいです。この屋敷のことはあなた方の言うとおりにするよう言いつけておきます。」
 そういって、あわただしく馬に騎乗し王都に戻っていった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ギフトに振り回されてきたので、今世はひそかに生きていきます

mio
恋愛
ギフト、と呼ばれる超能力が人々に現れる国。 その中でも特に『神の目』と呼ばれるギフトは特別視されていた。基本的に貴族の令嬢が授かるそのギフトを持つものが現れると王家に嫁ぐことが定められているほどに。 そんなギフトをもって生まれたフリージアは過去を思い出し決心した。自分の持っているギフトがばれる前に逃げ、ギフトを隠したまま今世こそは自由に生きようと。 だがその決心はなかなかうまくいかなくて……。 他サイトにも掲載しています。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...