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16 予見 1
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翌日、まずはニコラが昨日のメイドの件を再び謝罪した。
ニコラは確かにシャルロットの前に姿を現さないようにと指示を出していた。
メイドたちに問い詰めたところ、次期領主がこれまでにないほど気を配り、様々な手配をしている相手が気になった。こっそり見ると主より年下の令嬢が、公爵家嫡男をまるで侍従のように使っているように感じた。しかも使用人とは顔も合わせたくないと自分たちを見下げるような奴の顔を見てやろうと思ったとのこと。
おまけに、ニコラやシリル、高位貴族として有名な二人を振り回しているのも気に入らなかったと言ったらしい。
それこそ何様のつもりだ、公爵邸にやとわれた使用人に過ぎない女が主の客人に抱く感情ではない。主の命に背き、客人に無礼を働くとは正気の沙汰でない。その挙句、シャルロットは苦痛を味わったのだ。シリルはゆるせなかった。
「メイドたちの処分はこちらで致します。お許しください。」
「ニコラ様のせいではありません。私がわがままを言ってるのは確かですから。」
「ありがとうございます。しかし指示を聞かず、勝手なことをする使用人は信用できませんのでどちらにしても処分は下します。」
ニコラが処分するなら良しとしよう。そうでなかったら、あのメイド二人をどう追い詰めてやろうか、シリルは一晩考えていたのだ。
「シャルロット様、今日は本当によろしいのですか?あなたの想像通りなら大変な苦痛を・・・」
「ええ、でも確かめないといけませんわ。もしそうならほっておけません。それにシリルがそばにいてくれたら大丈夫かもしれませんから。」
「ああ、そうでした。シリル様、あなたのような方がいらっしゃるとは本当に神の采配でしょうか。シャルロット様を助けてくださって本当にありがとうございます。」
ニコラは心なしか目が潤んでいる。
一瞬、ニコラに言われる筋合いはないとむっとしたが、これまで姉の苦しみを身近で見ていながら救うすべもないことにニコラもまた辛かったのだろう。
窓に覆いをしたまま馬車は街へと入っていた。大勢の人が見渡せるところまで来ると馬車が止まった。シャルロットはやや顔を青ざめている。
「・・・シリル・・・抱きしめていてくれるかしら。」
シリルは窓の方に体を向けたシャルロットの体を後ろからそっと包み込んだ。
ある予想からすでに緊張で体が小刻みに震える。窓から外を覗くのが怖かった。
昨日のはたまたまで、シリルがそばにいたからと言って何も変わらなかったら?どれだけたくさんの「死」が自分に襲い掛かるのか想像してカーテンを開ける手が震える。
「シャルロット様、無理をしないでください。このまま帰りましょう。」
「いいえ・・・このまま帰ったら一生後悔しますわ。」
思い切ってカーテンを開けた。
思わず、シリルの腕をぎゅうっとつかんだ。声にならない声がのどから発され、体の震えがどんどんひどくなる。
呼吸も乱れ苦しそうなのに、その瞳は外をにらみつけて目を離さない。
ニコラはシャっとカーテンを引いて、シャルロットの視線を遮った。
「シャルロット様!!大丈夫ですか?!」
ぐったりと体の力を抜いてシリルにもたれ込む。
「姉上!」
「・・・大・・丈夫。話はあとで・・・」
ニコラは御者に屋敷に戻るよう伝えた。
今まで以上に動揺の見られるシャルロットにブランデー入りの紅茶を用意し、落ち着いてから話を聞くことにした。
ニコラは確かにシャルロットの前に姿を現さないようにと指示を出していた。
メイドたちに問い詰めたところ、次期領主がこれまでにないほど気を配り、様々な手配をしている相手が気になった。こっそり見ると主より年下の令嬢が、公爵家嫡男をまるで侍従のように使っているように感じた。しかも使用人とは顔も合わせたくないと自分たちを見下げるような奴の顔を見てやろうと思ったとのこと。
おまけに、ニコラやシリル、高位貴族として有名な二人を振り回しているのも気に入らなかったと言ったらしい。
それこそ何様のつもりだ、公爵邸にやとわれた使用人に過ぎない女が主の客人に抱く感情ではない。主の命に背き、客人に無礼を働くとは正気の沙汰でない。その挙句、シャルロットは苦痛を味わったのだ。シリルはゆるせなかった。
「メイドたちの処分はこちらで致します。お許しください。」
「ニコラ様のせいではありません。私がわがままを言ってるのは確かですから。」
「ありがとうございます。しかし指示を聞かず、勝手なことをする使用人は信用できませんのでどちらにしても処分は下します。」
ニコラが処分するなら良しとしよう。そうでなかったら、あのメイド二人をどう追い詰めてやろうか、シリルは一晩考えていたのだ。
「シャルロット様、今日は本当によろしいのですか?あなたの想像通りなら大変な苦痛を・・・」
「ええ、でも確かめないといけませんわ。もしそうならほっておけません。それにシリルがそばにいてくれたら大丈夫かもしれませんから。」
「ああ、そうでした。シリル様、あなたのような方がいらっしゃるとは本当に神の采配でしょうか。シャルロット様を助けてくださって本当にありがとうございます。」
ニコラは心なしか目が潤んでいる。
一瞬、ニコラに言われる筋合いはないとむっとしたが、これまで姉の苦しみを身近で見ていながら救うすべもないことにニコラもまた辛かったのだろう。
窓に覆いをしたまま馬車は街へと入っていた。大勢の人が見渡せるところまで来ると馬車が止まった。シャルロットはやや顔を青ざめている。
「・・・シリル・・・抱きしめていてくれるかしら。」
シリルは窓の方に体を向けたシャルロットの体を後ろからそっと包み込んだ。
ある予想からすでに緊張で体が小刻みに震える。窓から外を覗くのが怖かった。
昨日のはたまたまで、シリルがそばにいたからと言って何も変わらなかったら?どれだけたくさんの「死」が自分に襲い掛かるのか想像してカーテンを開ける手が震える。
「シャルロット様、無理をしないでください。このまま帰りましょう。」
「いいえ・・・このまま帰ったら一生後悔しますわ。」
思い切ってカーテンを開けた。
思わず、シリルの腕をぎゅうっとつかんだ。声にならない声がのどから発され、体の震えがどんどんひどくなる。
呼吸も乱れ苦しそうなのに、その瞳は外をにらみつけて目を離さない。
ニコラはシャっとカーテンを引いて、シャルロットの視線を遮った。
「シャルロット様!!大丈夫ですか?!」
ぐったりと体の力を抜いてシリルにもたれ込む。
「姉上!」
「・・・大・・丈夫。話はあとで・・・」
ニコラは御者に屋敷に戻るよう伝えた。
今まで以上に動揺の見られるシャルロットにブランデー入りの紅茶を用意し、落ち着いてから話を聞くことにした。
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