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13 ライバルか

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 ルコント領は大部分が温暖な気候で、森や草原が広がり平地の部分では酪農が盛んでチーズやクリームなどの乳製品が有名である。屋敷から少し離れた街は交易で移動する人々の通り道になっており、いろんな国の食品や雑貨などが売られ賑わいを見せている。
 ルコント家の別邸は王都よりも頑丈にできていた。屋敷はこじんまりとしていたが、庭は広大であった。都会の喧騒を離れてゆっくりするときに使う別荘なのだろう、そこら中に意匠を凝らした柱や飾りがみられる。おそらく使用人も大勢いるはずだが、ニコラは顔を合わせず快適に過ごせる手配をしてくれていた。

「ニコラ様!素敵ですわ。私、こんな楽しいこと初めてです」
 人の目を気にせず、人に会うことに怯えることなく外出できるなんてどんなに幸せな事だろう。常に胸の中から消えることのない重苦しい思いから解放されるようだった。こうして美しい景色の中を散歩し、敷物を広げてお茶やお菓子、パンなどを食べることも初めてで、うれしくてたまらなかった。

 ルコント領に滞在している間、王都では見せることのないような明るい笑顔で過ごすシャルロットから、シリルは目が離せなかった。それを見て嬉しそうにしているニコラにムッとする。
 自分よりシャルロットのことに詳しいこの男が気に入らない。おそらくシャルロットの発作についても知っているに違いない。
 しかし、こうなったのは自分のせいだ。自分が今からできることはシャルロットに信頼してもらえる人間になることだ。義弟の立場から抜け出すのはそれからだ。それまで誰にもとられないよう祈るしかなかった。

「ニコラ様は領地の視察にも行かれるのでしょう?」
「ええ。お誘いしたのに申し訳ありませんが、どうしても顔を出さないといけないのです。」
「私はシリルと楽しみますから、ごゆっくりしてきて下さいね。」
「姉上は僕がエスコートしますのでこちらにかまわずどうぞ執務を優先してください。」
 どこか嬉しそうなシリルにニコラは苦笑しながら、
「ありがとうございます。そうさせていただきますね、ご自分の家だと思ってご自由におくつろぎください。」
 そう言った。

 シリルは家にいた時と違い、やたらシャルロットに構うようになった。
 散歩するときは躓いたらいけないからと手を差し出し、寒くないかと上着を貸してくれ、故郷を離れて寂しくないかと何度も心配してくる。
(少ーし・・・うっとうしいかも。)
 そうは思いながらも、また昔のようにシリルと仲良くなれたことがちょっぴりうれしかった。

 ニコラが視察に出る日、シャルロットとシリルは部屋でゆっくりさせてもらうことにした。外出をすると屋敷の出入りで使用人を煩わせることになるし、シャルロットが顔を合わすリスクも高まってしまう。
「姉上は、ニコラ様とは本当にご友人なのですか。」
「・・・ええ。世間ではいろいろ言われているようだけど。私のせいで不名誉な噂を立てられて申し訳なく思っているわ。」
「でも姉上もニコラ様もほとんど反論されないから余計に・・・その。」
「私は先日も言ったとおり、それどころじゃなかったしどうでもよかった。ニコラ様もどうでもいいとおっしゃっていたわ、噂を信じて事実を見ようとしないものに用はないと。彼らは私を見下げて優越感に浸っているようだけど、僕たちが見切りをつけているなんて考えもしない馬鹿ばかりだなって。」
「僕もその馬鹿な一員なわけだけれども。・・・ニコラ様って案外怖いお方だね。」
「いいえ、とても素敵な方よ。本当にお世話になってるの、大げさかもしれないけれど彼がいなかったら私生きていけなかったかもしれないわ。こうしていつも気を配ってくださるの。」
「・・・姉上、本当はニコラ様の事。」
「それほど大切な友達ってことよ。・・・私は人にそういう思いを抱くことはないわ。」
 シリルがどういうこと?と聞く前にノックの音がした。

 ニコラが外出前に、昼食を部屋の前まで届けさせると言っていた。
 シリルが席を立とうした時、ドアが開いてワゴンを押したメイドが二人入ってきた。
「え・・と。そのまま置いといてくれていいよ。」
 中に入ってくるとは思わず戸惑ったが、メイドたちはワゴンをテーブルのそばまで押してきた。そして、シャルロットを上から下までぶしつけに見た後、シリルに向かい目が合うと微笑んで頭を下げた。
「御用があればいつでもお呼びください」
「ありがとう。聞いていると思うけど入室は遠慮してほしい。」
 ニコラの命令を無視して入室したうえ、シャルロットにも無礼な態度をとっている。ニコラがいない以上客の立場で強く叱責もできずさっさと追い出すことしかできなかった。
「まさか部屋に入ってくるとは・・・姉上?!」

 振り返るとシャルロットが頭を押さえてソファーにうずくまっていた。

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