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9 ニコラとお茶会
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「お父様、ニコラ様からご招待いただきました。」
友人のニコラ・ルコントからお茶会の招待状をもらった。
「ふむ、ルコント家への招待か?それなら構わないよ。」
「ありがとうございます、そうお返事いたしますわ。」
数少ない友人で、気を許せる相手とのお茶会にうれしそうに言った。
「お迎えに来てくださるそうです。」
「そうか、では安心だな。私のエスコートは必要なさそうだ」
「ええ。ニコラ様なら私も安心です。」
ふと一緒にテーブルについているシリルの顔を見ると顔をしかめ不機嫌そうにしている。
(ああ、通常運転に戻ったみたい。せっかく、仲直りできるかと思ったんだけどな・・・ちょっと残念。)
ニコラがシャルロットをエスコートして馬車に乗り込む。
馬車の窓にはカーテンが引かれ、外が見えないように配慮されている。
シリルは屋敷の窓から、走り去る馬車を辛そうに見送った。
「久しぶりにシャルロット嬢とゆっくりお会いしたかったのです。先日のお礼もさせていただきたくて。」
サロンに案内されると、茶会の準備が整っていた。すでにカップにお茶が注がれ、シャルロットが誰にも会わずに済むよう手配が行き届いていた。
「今日は、ルコント領の特産品の新茶が届きましたのでぜひ召し上がっていただきたくて。」
「ありがとうございます!」
お茶を飲みながら先日のエリック王子の暗殺事件の話になった。
「本当になんと感謝して良いかわかりません。ですがシャルロット様には大変つらい思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。」
「お力になれてよかったですわ。でも狩りを中止にされずに囮になるなんて。」
「エリック様は策略を張り巡らせるのがお好きなのです。周りは大変ですよ。」
ニコラは苦笑する。
今回、実行犯は捕まえたが、まだ黒幕はわかっていない。頑として口を割らないのだ。それが分かるまで本当の解決とは言えない。
「王族の命を救ったシャルロット様に大々的に褒賞を授けることが出来なくて申し訳ありません。」
「大丈夫ですわ、表に出たくありませんから。」
「代わりにと言っては何ですが、ルコント領に遊びにいらっしゃいませんか?ルコント領は自然が多くて、美しいところです。別邸の方だとほとんど人がおりません、何も気にすることなくゆっくり日頃の疲れがとれると思うのですが。」
「まあ、素敵ですわ!」
ほとんど家に引きこもっているシャルロットには魅力的なお誘いだ。
人に会う心配をせず、外を楽しめるなんてどれほど素晴らしいことだろう。
「お父様にお許しいただきますわ!私、いつも怯えて部屋に籠っているので旅の経験も、ゆっくり外を楽しんだことがありませんの。小さなころ、シリルがいつも誘ってくれたのを拒否したりして、ずいぶん不機嫌にさせてしまったものですわ。」
「そういえば、弟君との関係はどうなりましたか?少し改善したと手紙をいただきましたが。」
「ええ、以前ほど辛らつな言葉はかけられなくなりました。時々プレゼントを買ってきてくれたり、話しかけたりと・・・ありがたいですけど不思議です。」
「根も葉もないうわさだと気が付いたのではないですか?」
「そうだと良いのですが。ニコラ様にはご迷惑をおかけしてしまい申しわけありません。」
「いえいえ、まったく問題はありませんよ。」
自分もシャルロットのやましい相手だと噂されているのは知っているが、知ったことではない。そんな噂に惑わされているような人間こそ侮蔑に値するとおもっているし、そのような噂くらいで困るような公爵家ではない。
「他人のことをあれこれ貶めて、暇な人間が多いのですね。シャルロット様の御心が傷ついてなければよいのですが。」
「ええ・・・。慣れておりますし、社交は最低限ですので大丈夫ですわ。」
「私はあなたを守りたいと思っています。」
「十分守ってくださっていますわ。」
「公爵家と縁続きになればもっとお守りすることが出来ます、社交などしなくても構いません。」
「ニコラ様・・・。ありがとうございます。ですが私は誰とも結婚するつもりはないのです。人に会いたくないので社交ができないのも理由の一つですが、夫や子供に死が見えるのではないかとずっと怯えてしまう・・・大切な人を作るのが怖いのです。」
「シャルロット様・・・。」
「見ることで、助けられるかもしれません。でも今でも・・・お父様と毎朝顔を合わせる度に緊張しています。毎日怯えてしまうのです。なぜ・・・こんな力があるのでしょうね。」
思わず涙がこぼれる。
毎日毎日、大切な人の死が見えてしまうのではないかという緊張感にさらされる。
そして、日々、体験してきた死が記憶としてシャルロットの心にどんどん積み重なっていく。心安らぐ時間はあまりない。
「・・・貴方はいつも周りの者を救ってくださる。でもあなたを誰が救ってくれるのでしょうか。私は守りたいと願っても・・・こうすることしかできないふがいない男で申し訳ありません。」
いつものようにそっと抱きしめ、背中を優しく撫でた。
友人のニコラ・ルコントからお茶会の招待状をもらった。
「ふむ、ルコント家への招待か?それなら構わないよ。」
「ありがとうございます、そうお返事いたしますわ。」
数少ない友人で、気を許せる相手とのお茶会にうれしそうに言った。
「お迎えに来てくださるそうです。」
「そうか、では安心だな。私のエスコートは必要なさそうだ」
「ええ。ニコラ様なら私も安心です。」
ふと一緒にテーブルについているシリルの顔を見ると顔をしかめ不機嫌そうにしている。
(ああ、通常運転に戻ったみたい。せっかく、仲直りできるかと思ったんだけどな・・・ちょっと残念。)
ニコラがシャルロットをエスコートして馬車に乗り込む。
馬車の窓にはカーテンが引かれ、外が見えないように配慮されている。
シリルは屋敷の窓から、走り去る馬車を辛そうに見送った。
「久しぶりにシャルロット嬢とゆっくりお会いしたかったのです。先日のお礼もさせていただきたくて。」
サロンに案内されると、茶会の準備が整っていた。すでにカップにお茶が注がれ、シャルロットが誰にも会わずに済むよう手配が行き届いていた。
「今日は、ルコント領の特産品の新茶が届きましたのでぜひ召し上がっていただきたくて。」
「ありがとうございます!」
お茶を飲みながら先日のエリック王子の暗殺事件の話になった。
「本当になんと感謝して良いかわかりません。ですがシャルロット様には大変つらい思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。」
「お力になれてよかったですわ。でも狩りを中止にされずに囮になるなんて。」
「エリック様は策略を張り巡らせるのがお好きなのです。周りは大変ですよ。」
ニコラは苦笑する。
今回、実行犯は捕まえたが、まだ黒幕はわかっていない。頑として口を割らないのだ。それが分かるまで本当の解決とは言えない。
「王族の命を救ったシャルロット様に大々的に褒賞を授けることが出来なくて申し訳ありません。」
「大丈夫ですわ、表に出たくありませんから。」
「代わりにと言っては何ですが、ルコント領に遊びにいらっしゃいませんか?ルコント領は自然が多くて、美しいところです。別邸の方だとほとんど人がおりません、何も気にすることなくゆっくり日頃の疲れがとれると思うのですが。」
「まあ、素敵ですわ!」
ほとんど家に引きこもっているシャルロットには魅力的なお誘いだ。
人に会う心配をせず、外を楽しめるなんてどれほど素晴らしいことだろう。
「お父様にお許しいただきますわ!私、いつも怯えて部屋に籠っているので旅の経験も、ゆっくり外を楽しんだことがありませんの。小さなころ、シリルがいつも誘ってくれたのを拒否したりして、ずいぶん不機嫌にさせてしまったものですわ。」
「そういえば、弟君との関係はどうなりましたか?少し改善したと手紙をいただきましたが。」
「ええ、以前ほど辛らつな言葉はかけられなくなりました。時々プレゼントを買ってきてくれたり、話しかけたりと・・・ありがたいですけど不思議です。」
「根も葉もないうわさだと気が付いたのではないですか?」
「そうだと良いのですが。ニコラ様にはご迷惑をおかけしてしまい申しわけありません。」
「いえいえ、まったく問題はありませんよ。」
自分もシャルロットのやましい相手だと噂されているのは知っているが、知ったことではない。そんな噂に惑わされているような人間こそ侮蔑に値するとおもっているし、そのような噂くらいで困るような公爵家ではない。
「他人のことをあれこれ貶めて、暇な人間が多いのですね。シャルロット様の御心が傷ついてなければよいのですが。」
「ええ・・・。慣れておりますし、社交は最低限ですので大丈夫ですわ。」
「私はあなたを守りたいと思っています。」
「十分守ってくださっていますわ。」
「公爵家と縁続きになればもっとお守りすることが出来ます、社交などしなくても構いません。」
「ニコラ様・・・。ありがとうございます。ですが私は誰とも結婚するつもりはないのです。人に会いたくないので社交ができないのも理由の一つですが、夫や子供に死が見えるのではないかとずっと怯えてしまう・・・大切な人を作るのが怖いのです。」
「シャルロット様・・・。」
「見ることで、助けられるかもしれません。でも今でも・・・お父様と毎朝顔を合わせる度に緊張しています。毎日怯えてしまうのです。なぜ・・・こんな力があるのでしょうね。」
思わず涙がこぼれる。
毎日毎日、大切な人の死が見えてしまうのではないかという緊張感にさらされる。
そして、日々、体験してきた死が記憶としてシャルロットの心にどんどん積み重なっていく。心安らぐ時間はあまりない。
「・・・貴方はいつも周りの者を救ってくださる。でもあなたを誰が救ってくれるのでしょうか。私は守りたいと願っても・・・こうすることしかできないふがいない男で申し訳ありません。」
いつものようにそっと抱きしめ、背中を優しく撫でた。
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