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1 プロローグ
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廊下で義弟とすれ違う。
できるだけ顔を合わさないようにしているのに、たまに出会ってしまう。すれ違いざま、不愉快そうに顔を歪めるのが、視界に入る。
きゅっと痛みにひきつる胸を静めながら部屋に戻る。
「まあ、いいけど。」
一人ごちる。
いつのころからか社交界で不名誉な噂が広まっていた。
もともと積極的に社交していないうえに、体調が悪く家にこもったりしているうちに自身を貶める悪いうわさが流れていたのだ。それを真に受けている義弟ともぎくしゃくし、今では顔を見るのも嫌なくらい嫌われている。
(わかってくれてる人はわかってくれてる。それでいい)
自分をそう慰める。だって自分には人には言えない秘密があるのだから。それを知っているお父様と信頼してる方々がいれば自分は大丈夫。
シャルロットは6歳の時、このモーリア侯爵家に養女として迎えられた。義弟のシリルはこの家の嫡男でシャルロットの2つ年下。この家に迎え入れられたときシリルは姉ができたと大喜びでシャルロットの後をついて回った。
モーリア侯爵夫妻もたいそう可愛がってくれていたがシャルロットが15歳の時、義母のアメリーが病気でなくなり、今は義父のジェラルドと義弟のシリル、シャルロットの3人家族である。
だからこそ仲良くしたいとは思っているが、これだけ嫌われていたら仕方がない。いずれお父様と弟の迷惑にならないように家を出ようと思っている。
今日も、廊下ですれ違う。いつもと違うのは壁にもたれてこちらをなんだか見ていたような気がする。その顔は相変わらず不機嫌そうだったが。
しかし、今日ばかりは迷惑をかけてしまったのだからあんな顔をされてもやむを得ない。
昨夜の夜会で気分が悪くなった私をいやいや介抱して連れて帰ってくれたのが弟だった。朦朧としていたのかさっぱり記憶はなく、気が付いたら貴族が使用する高級宿にいた。そして朝に屋敷に戻ってきたのだ。
「今日は迷惑をかけて悪かったわ。ごめんなさい。」
「・・・いや。その・・・体の調子はどうですか?」
体調を気遣ってくれるなんて珍しい。昨夜はどんなに具合が悪かったのだろうか。
「大丈夫よ。あちこち痛い気がするけど、たいしたことない。」
「何も覚えてない?」
「なんとなく・・・誰かからお水をいただいたのは覚えてるけどそのあとははっきりしないわ。」
「・・・もう、知らない人からもらったものは口にしたら駄目ですよ」
そういいおいて、弟は自室に戻っていった。
これだけ会話したのはずいぶん久しぶりだ。
この日の晩餐はジェラルドもそろい、久しぶりに3人でテーブルを囲んだ。
「シャルロット、すまないが来週の夜会に同行してくれないか?」
「かしこまりました、お父様。」
「シリルもだ。王宮から招待状が届いている。」
「・・・わかりました。」
昔から父はシャルロットを公の場に出したがらなかった。どうしても必要な時でも父か母が抱いて顔を隠させていたように思う。成長してからも社交の場にはほとんど参加させず、デピュタントでさえ、渋っていた。
今でも、父が許可した最小限のみ参加し、常に父がエスコートしている。
父はシャルロットを娘以上に見ているのではないか?とそう思い始めたのはいつだっただろうか。二人はよく意味ありげに視線を交わしている、パーティー会場の片隅で抱き合っている姿を見たこともある。そして夜、シャルロットが時折父の部屋に行ってることも知っている。
血のつながらない親子、口出しできることではない。たとえ自分も子供のころからシャルロットに姉以上の気持ちを抱いていたとしても。
最近では、社交はろくにしないくせに、気に入った男たちとふしだらな関係を持つ娼婦のようなご令嬢として噂されているシャルロット。そんな姉を許せず、嫌悪感を抱くようになっていた。
それなのに・・・姉は乙女だった。
父上とも噂されているどの男でもない、姉の純潔を奪ったのは自分だった。噂はすべて根も葉もないものだった。
できるだけ顔を合わさないようにしているのに、たまに出会ってしまう。すれ違いざま、不愉快そうに顔を歪めるのが、視界に入る。
きゅっと痛みにひきつる胸を静めながら部屋に戻る。
「まあ、いいけど。」
一人ごちる。
いつのころからか社交界で不名誉な噂が広まっていた。
もともと積極的に社交していないうえに、体調が悪く家にこもったりしているうちに自身を貶める悪いうわさが流れていたのだ。それを真に受けている義弟ともぎくしゃくし、今では顔を見るのも嫌なくらい嫌われている。
(わかってくれてる人はわかってくれてる。それでいい)
自分をそう慰める。だって自分には人には言えない秘密があるのだから。それを知っているお父様と信頼してる方々がいれば自分は大丈夫。
シャルロットは6歳の時、このモーリア侯爵家に養女として迎えられた。義弟のシリルはこの家の嫡男でシャルロットの2つ年下。この家に迎え入れられたときシリルは姉ができたと大喜びでシャルロットの後をついて回った。
モーリア侯爵夫妻もたいそう可愛がってくれていたがシャルロットが15歳の時、義母のアメリーが病気でなくなり、今は義父のジェラルドと義弟のシリル、シャルロットの3人家族である。
だからこそ仲良くしたいとは思っているが、これだけ嫌われていたら仕方がない。いずれお父様と弟の迷惑にならないように家を出ようと思っている。
今日も、廊下ですれ違う。いつもと違うのは壁にもたれてこちらをなんだか見ていたような気がする。その顔は相変わらず不機嫌そうだったが。
しかし、今日ばかりは迷惑をかけてしまったのだからあんな顔をされてもやむを得ない。
昨夜の夜会で気分が悪くなった私をいやいや介抱して連れて帰ってくれたのが弟だった。朦朧としていたのかさっぱり記憶はなく、気が付いたら貴族が使用する高級宿にいた。そして朝に屋敷に戻ってきたのだ。
「今日は迷惑をかけて悪かったわ。ごめんなさい。」
「・・・いや。その・・・体の調子はどうですか?」
体調を気遣ってくれるなんて珍しい。昨夜はどんなに具合が悪かったのだろうか。
「大丈夫よ。あちこち痛い気がするけど、たいしたことない。」
「何も覚えてない?」
「なんとなく・・・誰かからお水をいただいたのは覚えてるけどそのあとははっきりしないわ。」
「・・・もう、知らない人からもらったものは口にしたら駄目ですよ」
そういいおいて、弟は自室に戻っていった。
これだけ会話したのはずいぶん久しぶりだ。
この日の晩餐はジェラルドもそろい、久しぶりに3人でテーブルを囲んだ。
「シャルロット、すまないが来週の夜会に同行してくれないか?」
「かしこまりました、お父様。」
「シリルもだ。王宮から招待状が届いている。」
「・・・わかりました。」
昔から父はシャルロットを公の場に出したがらなかった。どうしても必要な時でも父か母が抱いて顔を隠させていたように思う。成長してからも社交の場にはほとんど参加させず、デピュタントでさえ、渋っていた。
今でも、父が許可した最小限のみ参加し、常に父がエスコートしている。
父はシャルロットを娘以上に見ているのではないか?とそう思い始めたのはいつだっただろうか。二人はよく意味ありげに視線を交わしている、パーティー会場の片隅で抱き合っている姿を見たこともある。そして夜、シャルロットが時折父の部屋に行ってることも知っている。
血のつながらない親子、口出しできることではない。たとえ自分も子供のころからシャルロットに姉以上の気持ちを抱いていたとしても。
最近では、社交はろくにしないくせに、気に入った男たちとふしだらな関係を持つ娼婦のようなご令嬢として噂されているシャルロット。そんな姉を許せず、嫌悪感を抱くようになっていた。
それなのに・・・姉は乙女だった。
父上とも噂されているどの男でもない、姉の純潔を奪ったのは自分だった。噂はすべて根も葉もないものだった。
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