上 下
39 / 39

番外編 一度目の世界 2

しおりを挟む
 その後、女は聖なる力を持つ血を持ってきて聖獣に与えた。
 すると、清らかな魔力が体に流れ込んできた。体中に力が漲り、気持ちよくてこの魔力の持ち主の側に行きたい。ずっと側にいたい、そんな本能が体をさいなむ。目の前の女と契約した時にはない感覚だった。
 「どう?お前には聖なる力の持ち主とも契約を結ばせてやったわ。感謝しなさい。その礼に巡ってきた魔力は私に戻しなさい。」

 聖獣にはおそらく捕らえられているであろう者から聖なる力が流れてきてしまう、そして聖獣の体を巡った魔力は女に渡される。申し子の命を盾に、そして無理やり結ばされた女との契約の為に聖獣は言われるがままにするしかなかった。

 中途半端な契約、それも申し子の側にいることがかなわない不十分なもの。聖なる魔力の供給は微々たるものだった。また聖獣自身が女に怒りを抱き、この現状を許せなかったことも一因で、聖獣が成獣になるまでに3年もの月日を要した。

 その結果が・・・目の前でボロボロにされている申し子の姿だった。

 竜は空に向かって咆哮すると、翼を広げて風を起こし、口から炎を吐き少女に剣を突き立てている騎士たち、周りを囲む騎士たちを吹き飛ばし炎で燃やし尽くした。
 怒りを抑えられない。その怒りで正気を失った竜は森を燃やした。そして翼を広げ飛び立つと初めて街の方へ向かった。

 初代国王に、初めて契約した国王に、国民の前に姿を見せないで欲しいと頼まれ森の奥深くにいた聖獣。初めて空の高みからみた街は竜にはちっぽけなものに見えた。
 何も考えることはできなかった、聖獣は街を燃やし、風を起こして破壊し、王宮も、美しい街並みもあっという間に瓦礫と化した。

 少女に剣を突き立てる役目を騎士にさせている間、女はその場から離れていた。そして遠くから、街が破壊されるのを、人族が殺されていくのを見た。
 この国の民が憎かった。あの男が作ったこの国が憎くて憎くてたまらなかった。やっと無茶苦茶にしてやることができた。 

 しかし、この虚無感は何だ?聖獣に人族を殺させても気は晴れなかった。これではだめだったのか?自分の手でやるべきだったのか?
 前世が魔族だった女はこの目でこの国が滅びるのを見るために、ここまでやってきた。それなのに・・・

 ふと見上げると、国中を蹂躙しに飛び立った聖獣が宙に浮いてこちらを見ていた。
 正気を失い、名を授けていない仮の契約など意味をなさなかった。女を守るという使命は欠片も頭に残っていない聖獣は女に向かって火を吐いた。

 ルーナ国を燃やし尽くし、燃えあとに立ち尽くす竜のもとに、赤く燃える強大な鳥、金に輝く大きな獅子、真っ黒い巨大竜が現れた。
 1000年も前に神の国から連れ去られた聖獣、この所業で神の国にその所在がようやく明らかになったのだ。

 迎えに来た聖獣達は、魔力でつながった申し子を失い、力を使い果たして弱り切った哀れな聖獣を見て首を横に振った。
「消えゆく前に、望みはあるか?哀れな子よ。」
「・・・僕の・・・申し子に会いたかった。あの子を守りたかった。」
 3体の聖獣は顔を見合わせた後
「・・・。そなたの願い、叶えてやろう。待つがいい」
 と、応えた。その瞬間、まばゆい光に包まれ空間が揺らいだ。

 聖獣が気が付いた時、元の光り輝く鳥の姿に戻りあの森の中にいた。
 ここで待っていたら彼女に出会える。
 あとどのくらい待つのかわからない。1000年も一人で過ごしたのだ、あと数年くらい瞬きくらいの時間だ。

 後にケルンと呼ばれることになる聖獣は、前回は一度も会えなかった彼女に会えるという希望を胸にしばしの眠りについた。



=========================
最後までお読みいただきありがとうございました(*´▽`*)

これからの未来の話、初代国王の話などいつか番外編を書くことがあるかもしれませんが、当初の予定通りここでいったん完結とさせていただきます。


近々、「死を見る少女と義弟の話」(変わるかも)を投稿する予定です。
好みが合いましたら読んでいただけると嬉しいです!

ありがとうございました!

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(38件)

千夜歌
2023.10.13 千夜歌
ネタバレ含む
れもんぴーる
2023.10.13 れもんぴーる

千夜歌様
早速こちらの作品お読みいただきありがとうございます(*´▽`*)

ケルン・・・ありがたい神獣のはずなのに残念な子(≧▽≦)
長い期間一人ぼっちでいたせいで、精神年齢子供疑惑あり。

ケルンはお気に入りで、何とかどこかで出せないかなあと思いつつ、遅筆のため手が付けられていません( ノД`)シクシク…

今後ともよろしくお願いします(*´▽`*)

解除
チーたぬき
2022.04.29 チーたぬき

完結お疲れさまでした!
番外編を拝見し、必死になってたケルンに納得しました。こんな壮絶な過去があったのですね。
出会えて良かった!
ワクワクハラハラしながら毎日楽しみでした。とても面白かったです。

れもんぴーる
2022.04.29 れもんぴーる

楽しみにしてくださってて、とても嬉しいです(´▽`*)

待ちわびていたからって、急に流血は駄目でしたね~、ケルン君。

辛い展開もありましたが最後までお読みいただきありがとうございました!

解除
砂原 行
2022.04.29 砂原 行

転生した初代国王が聖獣を手に入れようとしてきて返り討ちざまぁされる話が見たいですね。

れもんぴーる
2022.04.29 れもんぴーる

ああ、それとてもいいアイデアですね!
しかも瞬殺とか( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

楽しい話になりそうです!ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」 ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。 「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」 その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。 初めての作品です。 どうぞよろしくお願いします。 本編12話、番外編3話、全15話で完結します。 カクヨムにも投稿しています。

【短編】私は婚約者に嫌われているみたいですので

水谷繭
恋愛
公爵令嬢フルールは、十四歳のときに伯爵家の令息クロヴィスに一目惚れし、父に頼み込んで婚約者にしてもらった。 しかし肝心のクロヴィスには疎まれていて、彼の冷たい態度に悲しむ日々を送っていた。 そんなある日、フルールは魔術師を名乗る男に惚れ薬を買わないか勧められる。 どうしてもクロヴィスを振り向かせたいフルールは、彼をさらってきて惚れ薬を飲ませることを決意。 薬を飲まされたクロヴィスは、今までと打って変わってフルールを溺愛するようになるが……。 ◆小説家になろうにも投稿しています ※外部投稿から内部投稿に切り替えました。ブクマしてくれた方すみません!🙇‍♂️

聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。

和泉 凪紗
恋愛
「リリアーナ、君との結婚は無かったことにしてもらう。君の力が発現しない以上、君とは結婚できない。君の妹であるマリーベルと結婚することにするよ」 「……私も正直、ずっと心苦しかったのです。これで肩の荷が下りました。昔から二人はお似合いだと思っていたのです。マリーベルとお幸せになさってください」 「ありがとう。マリーベルと幸せになるよ」  円満な婚約解消。これが私の目指したゴール。  この人とは結婚したくない……。私はその一心で今日まで頑張ってきた。努力がようやく報われる。これで私は自由だ。  土地を癒やす力を持つ聖女のリリアーナは一度目の人生で領主であるジルベルト・カレンベルクと結婚した。だが、聖女の仕事として領地を癒やすために家を離れていると自分の妹であるマリーベルと浮気されてしまう。しかも、子供ができたとお払い箱になってしまった。  聖女の仕事を放り出すわけにはいかず、離婚後もジルベルトの領地を癒やし続けるが、リリアーナは失意の中で死んでしまう。人生もこれで終わりと思ったところで、これまでに土地を癒した見返りとしてそれまでに癒してきた土地に時間を戻してもらうことになる。  そして、二度目の人生でもジルベルトとマリーベルは浮気をしてリリアーナは婚約破棄された。だが、この婚約破棄は計画通りだ。  わたしは今は二度目の人生。ジルベルトとは婚約中だけれどこの男は領主としてふさわしくないし、浮気男との結婚なんてお断り。婚約破棄も計画通りです。でも、精霊と約束したのであなたの領地はいただきますね。安心してください、あなたの領地はわたしが幸せにしますから。 *過去に短編として投稿したものを長編に書き直したものになります。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。