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女神様

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 希少な治癒魔法、しかもかなりの高レベルのイリークとアリスは同行せず、別々の被災地で活動することにした。
だが子供のアリスが単独で被災地を訪れても、相手にしてもらえない。

 魔法が使えることを打ち明け、王宮で働く父に付き添ってもらうことになった。治癒魔法が急遽発現した知人の娘ということにして、白のローブをまといフードをしっかりかぶって顔を隠させ連れて行った。認識障害魔法もしっかり使ったうえで念には念を入れた。

「シルヴェストル公爵!こんなところまで足を運んでいただきありがとうございます。救援物資も大量にいただきましてこのご恩は忘れません。」
 地震で領土がひび割れ、家屋の倒壊と農業用用水のため池の決壊などかなりの被害が出ていた。建物の下敷きになり数名の命が失われた。けが人も多数おり、西の辺境スワン領にある教会に集められ手当てを受けていた。

 エルネストは領主にアリスを紹介した。治癒魔法を使える知人の娘エルと。
「治癒魔法を使えるのはとてもありがたいですが・・・まだ少女にみえますが、大丈夫でしょうか?」
 スワン領主は戸惑った。
 怪我人多数で、重傷者も多くいる今、治癒魔法を渇望していた。しかし、使い手が少ない上に、魔力の消費も多いと聞く。まだ少女のエルという娘に体力も魔力もそうあるとは思えず、修羅場のような教会に連れて行っても役に立つどころか少女の心がふさがないかと心配になった。しかも、ローブのポケットに小鳥を連れている。お遊び半分で来られてもこちらは少しの余裕もないのにと苦々しく思った。

「ご心配なく。本人からの申し出です、この子の能力は私が保証しますよ。けが人のところへ連れて行ってください。」
 教会につくと、いたるところに怪我人が寝かされていた
 教会の壁もところどころ崩れ、窓ガラスが割れているところもあった。
「重症者のところに案内してください。」
 スワン領主はアリスたちを教会の奥の方に連れて行った。

 怪我人にすがって泣いている家族や、ただ手をつないであきらめたように座り込んでいる家族などこの部屋に寝かされているけが人はもうすぐ命が尽きようとする者たちばかりだった。治療らしい治療は受けていない。
 スワン領主はちらっとエルをみた。この現状で出来ることはあるのかと伺うように。

 アリスは7歳くらいの男の子が泣いてすがりついている患者のそばに座った。
男の子の父親であろう男性は頭に大きな傷を負っていた。ピクリとも動かないが、わずかに胸が上下している。
 アリスはその手を握り、魔力を流した。行き過ぎた薬が毒になるように、いきなり大量の魔力を損傷部位に流すと負担になる。手から流し、ゆっくりと体に巡らせながら頭、脳に到達させる。少しずつ魔力を調整して脳を修復させていく。

 次第に胸の上下が大きくしっかりとしたものになり、顔色も赤みが差してきた。そしてゆっくりと目を開けた。
「とうさん!!とうさん!うう・・うわ~ん」
 そして男性は泣きじゃくる息子を抱きしめた。

 それをまじかで見た人々は縋るようにアリスを見た。肺に肋骨が刺さり、出血し呼吸がうまくできない人、足が切断され出血が多くて意識がないものなど重篤な状態の患者一人一人に治癒魔法をかけアリスは救っていった。
 通常の切断に対する治癒魔法では、切断部位から出血を止めるのがやっと。少し力のあるものでも痛みを軽くできる程度で、その後は医師の手で縫合する。
 アリスは膝から下を失った女性の太ももあたりに手を置き、ゆっくりと魔力を流すと組織が少しずつ修復していき、失った部分に元通りの足が復元された。常識を覆すような魔法にその場にいるものはひれ伏した。

「女神さまだ…」
「なんと!こんな奇跡を‥‥女神様じゃ!!」
「奇跡が!ああ、女神様!」
 さわさわとみんなのつぶやきやざわめきが広がっていく。
 涙を流して拝むもの、手を合わせて拝むもの、憧憬の目で見るものと様々だったが、アリスは神聖で崇高なる女神として讃えられた。

 数十人の重傷者を見た後、骨折などの怪我人の治療を行う。
これだけの治療をこれだけの人数にほどこすなんて。ここまでできる治癒魔法など聞いたこともない。魔術宮に所属する魔法師以上ではないのかとスワン領主は驚愕した。

 そしてそれだけでなく、風を操り崩れた家屋を動かし、水を操り土砂や泥を移動させ今後の復旧への道筋も作った。
 領民とともに、領主はアリスに膝を折り胸に手を当て礼を取り、頭を下げた。
「エル様・・・女神さま。このような奇跡をこの身が目の当たりにできるなど何たる僥倖でしょう。私どもスワン領民はこのご恩は生涯、いえこのスワン領が続く限り決して忘れません。あなたの聖名を子子孫孫伝え、感謝することを誓います。こののち何かありましたら我々は何としてもこのご恩お返しする所存でございます」

(いやいやいや、自分でもびっくりしてるんだけど!・・・足が生えるなんて思わないじゃない!血を止めて傷口をきれいにしてって思っただけなのよ・・・ケルンが助けてくれたのよね、きっと。)
 この大げさで過分な感謝にアリスはいたたまれず、父親に丸投げして自分はその陰に隠れうつむくだけだった。

「領主殿、頭を上げてください。エルは治癒魔法師としてできることをしたまでです。女神でも何でもありませんよ。逆に、このような場所に子供を連れてきて申し訳ない、私も王宮に知られたら何を言われてしまうかわかりません。まあ、口外しないでいただけると助かります。あくまでもたまたま随行したということで」
「も、もちろんです。ご事情お察しします」

 エルネストは生まれて初めて娘に頼られた気がして、こんな時だというのに胸が弾んでいた。
 アリスは、目の前で婚約者の首をはねた父だけは年数がたっても受け入れられないでいたが、ケルンがそばにいてくれるようになり自分の魔力がケルンを巡るようになってからは嫌悪感が少しずつ薄れていった。
 事実としてその記憶は残っているが、他者が演じる劇を見ているような感情・感覚を伴わないものに変化して、父に対する憎しみや恐怖がずいぶん減った。
 聖獣ケルンの力のおかげだろうとアリスは思っている。
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