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続編
閑話 合わせ柿
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*書籍第二巻での事件ですが、今回のお話は知らなくても楽しんでいただけます! 時系列的にはまだポインター魔法しか使えない赤ちゃんカティです
================================================
先日、国を揺るがす大事件*が終結し、ようやく落ち着いた日々が戻ってきた。
事件後、宰相のエドヴァルドは非常に忙しい日々を過ごし、カティはしばらく公爵邸でゆっくりと事件による傷心を癒やし——だらだらごろごろしていた。
そして諸々の問題が落ち着いてきたころ、先日の事件で大活躍のカティをエドヴァルドが街へと連れてきてくれた。
うきうきそわそわしているカティの様子にエドヴァルドが声をかける。
「何か欲しいものがあるか?」
「ううん、大丈夫! とう様とお出かけて出来るだけで嬉しいの!」
カティは嬉しそうに両手を上げる。
「そうか」
「ん?」
ほんのり頭のてっぺんが温かくなり、上を向くがエドヴァルドはすました顔で「どうした?」と聞いてくる。
「ううん」
カティは歩みを進めるエドヴァルドの腕の中で道の両脇にある店をわくわくした気分で眺める。
(欲しいもの! いっぱい、いっぱいありますとも! でも、「とう様といる時間が大事なの!」とアピールするの。そうすれば、謙虚な私に感動したとう様は可愛い健気な娘に大判振る舞いしたくなるはず!
ミンミにスカーフ買って、料理長に帽子買って、執事にはおもちゃを買ってあげたい。娘さんに子供が生まれたと喜んでいたからね! 庭師のトムにも忘れずに。トムは噴水の金魚のお世話もしてくれて、水草迄浮かべてくれた有能な庭師だから!
他にも屋敷のみんなにプレゼント。魔鳥に連れ去られた事件の時にすごく心配をかけたから。無事に屋敷に戻った時に泣いて喜んでくれたもの。
あ、こっそりじいじにも買わなくちゃ。じいじは、いまだに自分を罰するように楽しみを持つこともなく質素倹約の生活をしているらしい。だからたくさんお菓子を買って持って行って一緒に食べよう!
でもたくさんおねだりするのはちょっと……だから、エドヴァルドの方から
『お前は奥ゆかしいな、心配せずとも欲しいものをなんでも買うといい』
という言葉待ちなのだけど! もうそろそろいいと思うんだけど⁈)
そう歯噛みするカティを抱いて、道の両側にずらっと並ぶお店の前をゆっくりと、だが足を止めずにエドヴァルドは進んでいく。
(あ! 可愛い衣料店が・・・雑貨屋さんが・・・服飾店が・・・食べ物屋さんが・・・ああ・・・あれ? このまま何も買ってもらえないコース? やばくない? いらないと言った手前、こちらからは言えない・・・くっ、鬼畜にはこの奥ゆかし作戦は通じず!!)
店を通り過ぎる度に、慌てるカティの体が反応していることに気がつかないエドヴァルドではない。わからないくらいの笑みを浮かべ、歩みを止めずに進む。
そしてエドヴァルドが足を止めたのは異国情緒漂う建物の前だった。
異国情緒というか・・・カティには懐かしい! としか言いようがない。
木造の建物に屋根瓦。その周りには竹が植えられている。窓の形も、格子戸も懐かしさを覚える。どう見ても「和」。それを見たとたんカティのテンションが爆上がりする。
(おおっ! こんな店があったとは! もしかしたらおはぎとかお饅頭とかみたらし団子とか……何より、桜の餅子さんが食べられるかも!)
「最近人気の店だそうだ。中で食べられるそうだがどうする?」
「食べる! 食べる!」
全身で賛成の気持ちを表す。
カティのその言葉にレオは店に入っていく。
しばらくしてレオが戻り、他の席とは離れた場所で、衝立で半個室のように視線を遮られた席に案内された。
カティは絶対に桜の餅子さんと緑茶よね! とわくわくしながらメニュー見た。
……メニューは全く持って普通だった。
(いやそりゃ、紅茶も美味しいよ? ケーキもクッキーも美味しいよ?
だけどもうお口が日本茶と桜餅になってしまったのよ……
こうなったら公爵家の力を使って、世界中から小豆ともち米を探す必要があるわね。
はっ! ……お金儲けの匂いが‼ この世界にない和菓子を作れば特許取って(あるかどうか知らんけど)、丸儲け!)
公爵家の令嬢とは思えない守銭奴魂を爆裂させたカティがにやにやしているのを見たエドヴァルドとレオはまたいらぬことを考えているのだろうとため息をついていた。
そんなこんなで桜の餅子さんには出会えなかったけど、上機嫌で先ほどの道を歩いて戻る。
そしてなんと! カティが往路で気になっていた場所でエドヴァルドは足を止めて
「お前は謙虚……ではないが、我がままや贅沢は言わないからな。遠慮せずとも何でも買うがいい」
と聞いてくれた。
「でもぉ~。悪いというか~」
大作戦が成功し、カティはにやにやするのをこらえてもじもじして見せる。
「ふっ。この通り一体買い占めたとて構わぬ」
「ほんと!? じゃあね! あのね!」
カティが欲しいものを嬉しそうに伝えると、レオがそれを書き取りあらかじめ訪問の手はずを整えてくれる。そのリストには使用人やエドヴァルドへのプレゼントが並んでいる。
「とう様、ありがとう!」
ぎゅうっとエドヴァルドに抱き着いたカティの頭に、エドヴァルドがキスを贈っていると少し離れたところでざわめきが聞こえた。
誰かが怒鳴り合っているようだった。
びっくりしたカティがエドヴァルドにしがみつくとかばうように抱きなおしてくれた。
確認に行った護衛騎士の一人から、子供と大人の争いだときいたエドヴァルドは厳しい顔をしてその場へ向かった。
争っていたのは果物屋の子供と、業者の大人の男。
大の大人が店番の子供に向かって居丈高な物言いをしていた。
「坊主はわからないだろうがな、果物というのは食べ時ってものがあるんだ。まだ希少なこの柿のことは詳しくわかっちゃいない、もう少し待てば食べごろになるだろうよ」
「時間がたっておいしくなるようなものじゃないだろ!」
「だから柿についてはわかっていないことが多いんだ。こっちだって異国から輸入したものを販売しているんだから文句があるなら向こうの商人に言え」
「以前食べた柿は甘くておいしかった! これは口の中がしびれるような気持ち悪さじゃないか、熟れるとかの話じゃない! 子供だからってバカにするな!」
「おいおい。親父さんが病気で困っているからこの手に入りにくい柿をわざわざ持ってきてやったんだぜ。ともかく今日の搬入分も料金払ってくれないなら今後の取引はなしだ」
店番の男の子と搬入業者のもめごとの原因は柿だった。近年、異国から入って来たまだ珍しい柿という果物が急速に市場に広まってきていた。
この店も柿を取り扱うことになったが、先日、仕入れた柿を売ったところ渋くて口の中がおかしくなるというクレームが続出した。そのため今日も柿を届けに来た業者に店番の男の子が抗議したのだ。
それを知ったカティは、その問題の柿に興味を示した。
「ねえ、とう様。あの柿全部買い取ってほしいの」
エドヴァルドはなぜだというようにカティの顔を見る。
「あれもしかしたらなんとかできるかも! 男の子も助かるし私もうれしいし」
和もどきカフェでは桜の餅子さんには会えなかったが、まさかここで柿に会えるとは思わなかったカティはエドヴァルドにお願いをする。
どのみち大の大人が子供を恫喝しているのを見過ごすわけにはいかない。
「おい、子供相手に阿漕な真似はするな」
急に現れたエドヴァルドを見て業者の男はペコペコしだした。服装や護衛を見てすぐさま高位貴族だと判断したのだろう。
「滅相もない! 私はこの店に特別珍しい果物を卸してあげたのです。それがたまたまおいしくなかったようで……私も仕入れたものを卸しているので味について知りようがないのです」
「嘘だ! 全部がまずいなんてわかってやっていたに決まってるだろ」
「そんなことしないさ。見た目にもわからないしどうやって分けるというんだ?」
「ぐっ・・・・・」
そういわれると男の子は黙るしかなかった。
「では今日の搬入分にも味の良いもの、悪いものが混じっているというのだな」
「え? それは……食べてみないとなんとも」
業者の威勢が急に弱くなる。
「では私が購入するからこの場ですべて見分せよ」
「いえ! 貴族様にそんなご迷惑はかけられません! な? 坊主、お前もそう思うだろ? あとはこちらで話を付けますから!」
男は冷や汗をかきだす。
「詐欺なら衛兵を呼ぶが、どうする?」
男は震える体で深く頭を下げ、謝罪した。
元をたどればこの男も異国の商人からまんまと渋い柿をつかまされてしまったのだった。
急激な柿の需要に参入した商売人の中にはこうして騙されて泣き寝入りしている者も多いという。余力のない人間は資金難に陥り、誰かに押し付けて少しでも資金を回収しようとあちこちでこういうことが起こっているという事だった。
その話を聞いたエドヴァルドはその当然この男にも罰則を与えたが、異国への賠償請求や交渉はこちらの仕事であるとその件を引き取った。
それから十日後。
大変甘くてやわらかいおいしい柿が公爵邸のお皿に乗った。
「ほうこれは想像以上だな。あの渋いものと同じ果実とは思えぬ」
「まさか合わせ柿が食べられるなんて~。幸せ」
カティは柿が大好きだ。むしろ渋柿の渋を抜いた合わせ柿のほうが好物なのだ。
強いお酒をへたに塗りそのあと密封して十日待つと、あら不思議、おいしい柿に早変わり。
カティは黙々と幸せ気分で頬張っていたが、それがローベンス王国の名物として外交や経済に大貢献することになるとは知る由もなかった。
故意に渋柿を送ってきた異国の商人に対して詐欺として問題にされたくなければ、高額な賠償金を支払い、今後特別割引価格で取引するようエドヴァルドは交渉した。そしてその詐欺まがいの取引にその国の高官も加担していたため、他の作物の関税も引き下げさせることに成功したのだ。
そしてあの日、カティが公爵邸のみんなにお土産を配り終わり部屋に戻った時、カティの部屋には大きなぬいぐるみが増えていた。
以前、カティが子悪党を小剣で仕留めたときに買った大きなぬいぐるみの対となる色違いのぬいぐるみが二人並んでいた。
「わあ! とう様、お友達増えてる!」
カティは嬉しそうに顔を輝かせてエドヴァルドを見る。
「お前は人の物ばかりで、自分の物を買っていないようだからな。私からのプレゼントだ」
エドヴァルドはカティからプレゼントされたハンカチを胸に差している。
「ありがとう、とう様! とっても嬉しい!」
(奥ゆかし作戦大大大成功!)
カティは作戦が大成功して満面の笑みを浮かべながら、エドヴァルドとお買い物に行けるこの平和な時が延々に続きますようにと願ったのだった。
===================================
最後までお読みいただきありがとうございました。
本日10/25にカティちゃんの二巻目の書籍が発売となりました。
読んでくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございました(*´▽`*)
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先日、国を揺るがす大事件*が終結し、ようやく落ち着いた日々が戻ってきた。
事件後、宰相のエドヴァルドは非常に忙しい日々を過ごし、カティはしばらく公爵邸でゆっくりと事件による傷心を癒やし——だらだらごろごろしていた。
そして諸々の問題が落ち着いてきたころ、先日の事件で大活躍のカティをエドヴァルドが街へと連れてきてくれた。
うきうきそわそわしているカティの様子にエドヴァルドが声をかける。
「何か欲しいものがあるか?」
「ううん、大丈夫! とう様とお出かけて出来るだけで嬉しいの!」
カティは嬉しそうに両手を上げる。
「そうか」
「ん?」
ほんのり頭のてっぺんが温かくなり、上を向くがエドヴァルドはすました顔で「どうした?」と聞いてくる。
「ううん」
カティは歩みを進めるエドヴァルドの腕の中で道の両脇にある店をわくわくした気分で眺める。
(欲しいもの! いっぱい、いっぱいありますとも! でも、「とう様といる時間が大事なの!」とアピールするの。そうすれば、謙虚な私に感動したとう様は可愛い健気な娘に大判振る舞いしたくなるはず!
ミンミにスカーフ買って、料理長に帽子買って、執事にはおもちゃを買ってあげたい。娘さんに子供が生まれたと喜んでいたからね! 庭師のトムにも忘れずに。トムは噴水の金魚のお世話もしてくれて、水草迄浮かべてくれた有能な庭師だから!
他にも屋敷のみんなにプレゼント。魔鳥に連れ去られた事件の時にすごく心配をかけたから。無事に屋敷に戻った時に泣いて喜んでくれたもの。
あ、こっそりじいじにも買わなくちゃ。じいじは、いまだに自分を罰するように楽しみを持つこともなく質素倹約の生活をしているらしい。だからたくさんお菓子を買って持って行って一緒に食べよう!
でもたくさんおねだりするのはちょっと……だから、エドヴァルドの方から
『お前は奥ゆかしいな、心配せずとも欲しいものをなんでも買うといい』
という言葉待ちなのだけど! もうそろそろいいと思うんだけど⁈)
そう歯噛みするカティを抱いて、道の両側にずらっと並ぶお店の前をゆっくりと、だが足を止めずにエドヴァルドは進んでいく。
(あ! 可愛い衣料店が・・・雑貨屋さんが・・・服飾店が・・・食べ物屋さんが・・・ああ・・・あれ? このまま何も買ってもらえないコース? やばくない? いらないと言った手前、こちらからは言えない・・・くっ、鬼畜にはこの奥ゆかし作戦は通じず!!)
店を通り過ぎる度に、慌てるカティの体が反応していることに気がつかないエドヴァルドではない。わからないくらいの笑みを浮かべ、歩みを止めずに進む。
そしてエドヴァルドが足を止めたのは異国情緒漂う建物の前だった。
異国情緒というか・・・カティには懐かしい! としか言いようがない。
木造の建物に屋根瓦。その周りには竹が植えられている。窓の形も、格子戸も懐かしさを覚える。どう見ても「和」。それを見たとたんカティのテンションが爆上がりする。
(おおっ! こんな店があったとは! もしかしたらおはぎとかお饅頭とかみたらし団子とか……何より、桜の餅子さんが食べられるかも!)
「最近人気の店だそうだ。中で食べられるそうだがどうする?」
「食べる! 食べる!」
全身で賛成の気持ちを表す。
カティのその言葉にレオは店に入っていく。
しばらくしてレオが戻り、他の席とは離れた場所で、衝立で半個室のように視線を遮られた席に案内された。
カティは絶対に桜の餅子さんと緑茶よね! とわくわくしながらメニュー見た。
……メニューは全く持って普通だった。
(いやそりゃ、紅茶も美味しいよ? ケーキもクッキーも美味しいよ?
だけどもうお口が日本茶と桜餅になってしまったのよ……
こうなったら公爵家の力を使って、世界中から小豆ともち米を探す必要があるわね。
はっ! ……お金儲けの匂いが‼ この世界にない和菓子を作れば特許取って(あるかどうか知らんけど)、丸儲け!)
公爵家の令嬢とは思えない守銭奴魂を爆裂させたカティがにやにやしているのを見たエドヴァルドとレオはまたいらぬことを考えているのだろうとため息をついていた。
そんなこんなで桜の餅子さんには出会えなかったけど、上機嫌で先ほどの道を歩いて戻る。
そしてなんと! カティが往路で気になっていた場所でエドヴァルドは足を止めて
「お前は謙虚……ではないが、我がままや贅沢は言わないからな。遠慮せずとも何でも買うがいい」
と聞いてくれた。
「でもぉ~。悪いというか~」
大作戦が成功し、カティはにやにやするのをこらえてもじもじして見せる。
「ふっ。この通り一体買い占めたとて構わぬ」
「ほんと!? じゃあね! あのね!」
カティが欲しいものを嬉しそうに伝えると、レオがそれを書き取りあらかじめ訪問の手はずを整えてくれる。そのリストには使用人やエドヴァルドへのプレゼントが並んでいる。
「とう様、ありがとう!」
ぎゅうっとエドヴァルドに抱き着いたカティの頭に、エドヴァルドがキスを贈っていると少し離れたところでざわめきが聞こえた。
誰かが怒鳴り合っているようだった。
びっくりしたカティがエドヴァルドにしがみつくとかばうように抱きなおしてくれた。
確認に行った護衛騎士の一人から、子供と大人の争いだときいたエドヴァルドは厳しい顔をしてその場へ向かった。
争っていたのは果物屋の子供と、業者の大人の男。
大の大人が店番の子供に向かって居丈高な物言いをしていた。
「坊主はわからないだろうがな、果物というのは食べ時ってものがあるんだ。まだ希少なこの柿のことは詳しくわかっちゃいない、もう少し待てば食べごろになるだろうよ」
「時間がたっておいしくなるようなものじゃないだろ!」
「だから柿についてはわかっていないことが多いんだ。こっちだって異国から輸入したものを販売しているんだから文句があるなら向こうの商人に言え」
「以前食べた柿は甘くておいしかった! これは口の中がしびれるような気持ち悪さじゃないか、熟れるとかの話じゃない! 子供だからってバカにするな!」
「おいおい。親父さんが病気で困っているからこの手に入りにくい柿をわざわざ持ってきてやったんだぜ。ともかく今日の搬入分も料金払ってくれないなら今後の取引はなしだ」
店番の男の子と搬入業者のもめごとの原因は柿だった。近年、異国から入って来たまだ珍しい柿という果物が急速に市場に広まってきていた。
この店も柿を取り扱うことになったが、先日、仕入れた柿を売ったところ渋くて口の中がおかしくなるというクレームが続出した。そのため今日も柿を届けに来た業者に店番の男の子が抗議したのだ。
それを知ったカティは、その問題の柿に興味を示した。
「ねえ、とう様。あの柿全部買い取ってほしいの」
エドヴァルドはなぜだというようにカティの顔を見る。
「あれもしかしたらなんとかできるかも! 男の子も助かるし私もうれしいし」
和もどきカフェでは桜の餅子さんには会えなかったが、まさかここで柿に会えるとは思わなかったカティはエドヴァルドにお願いをする。
どのみち大の大人が子供を恫喝しているのを見過ごすわけにはいかない。
「おい、子供相手に阿漕な真似はするな」
急に現れたエドヴァルドを見て業者の男はペコペコしだした。服装や護衛を見てすぐさま高位貴族だと判断したのだろう。
「滅相もない! 私はこの店に特別珍しい果物を卸してあげたのです。それがたまたまおいしくなかったようで……私も仕入れたものを卸しているので味について知りようがないのです」
「嘘だ! 全部がまずいなんてわかってやっていたに決まってるだろ」
「そんなことしないさ。見た目にもわからないしどうやって分けるというんだ?」
「ぐっ・・・・・」
そういわれると男の子は黙るしかなかった。
「では今日の搬入分にも味の良いもの、悪いものが混じっているというのだな」
「え? それは……食べてみないとなんとも」
業者の威勢が急に弱くなる。
「では私が購入するからこの場ですべて見分せよ」
「いえ! 貴族様にそんなご迷惑はかけられません! な? 坊主、お前もそう思うだろ? あとはこちらで話を付けますから!」
男は冷や汗をかきだす。
「詐欺なら衛兵を呼ぶが、どうする?」
男は震える体で深く頭を下げ、謝罪した。
元をたどればこの男も異国の商人からまんまと渋い柿をつかまされてしまったのだった。
急激な柿の需要に参入した商売人の中にはこうして騙されて泣き寝入りしている者も多いという。余力のない人間は資金難に陥り、誰かに押し付けて少しでも資金を回収しようとあちこちでこういうことが起こっているという事だった。
その話を聞いたエドヴァルドはその当然この男にも罰則を与えたが、異国への賠償請求や交渉はこちらの仕事であるとその件を引き取った。
それから十日後。
大変甘くてやわらかいおいしい柿が公爵邸のお皿に乗った。
「ほうこれは想像以上だな。あの渋いものと同じ果実とは思えぬ」
「まさか合わせ柿が食べられるなんて~。幸せ」
カティは柿が大好きだ。むしろ渋柿の渋を抜いた合わせ柿のほうが好物なのだ。
強いお酒をへたに塗りそのあと密封して十日待つと、あら不思議、おいしい柿に早変わり。
カティは黙々と幸せ気分で頬張っていたが、それがローベンス王国の名物として外交や経済に大貢献することになるとは知る由もなかった。
故意に渋柿を送ってきた異国の商人に対して詐欺として問題にされたくなければ、高額な賠償金を支払い、今後特別割引価格で取引するようエドヴァルドは交渉した。そしてその詐欺まがいの取引にその国の高官も加担していたため、他の作物の関税も引き下げさせることに成功したのだ。
そしてあの日、カティが公爵邸のみんなにお土産を配り終わり部屋に戻った時、カティの部屋には大きなぬいぐるみが増えていた。
以前、カティが子悪党を小剣で仕留めたときに買った大きなぬいぐるみの対となる色違いのぬいぐるみが二人並んでいた。
「わあ! とう様、お友達増えてる!」
カティは嬉しそうに顔を輝かせてエドヴァルドを見る。
「お前は人の物ばかりで、自分の物を買っていないようだからな。私からのプレゼントだ」
エドヴァルドはカティからプレゼントされたハンカチを胸に差している。
「ありがとう、とう様! とっても嬉しい!」
(奥ゆかし作戦大大大成功!)
カティは作戦が大成功して満面の笑みを浮かべながら、エドヴァルドとお買い物に行けるこの平和な時が延々に続きますようにと願ったのだった。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
本日10/25にカティちゃんの二巻目の書籍が発売となりました。
読んでくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございました(*´▽`*)
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合わせ柿美味しいですよね(´﹃`)
お屋敷の庭で干し柿作っても良かったかもですね(笑)
八方丸くおさまって何よりでした
桜の餅子さんは道明寺粉派です(๑•̀ㅁ•́ฅ
出来ればお薄と一緒に頂きたい!
公爵邸の軒先(?)にずらりと柿色の暖簾が(笑)。秋の風物詩になりそうですね。
私も道明寺粉派です!
というよりも、関西なので桜餅と言えばアレしか知らなった。
随分大人になってから、TVで関東の桜餅を見たときには衝撃を受けましたΣ(゚Д゚)。
そちらは食べたことはないんですけど絶対道明寺~!って思ってます(๑•̀ㅂ•́)و !
桜の餅子さんへのコメントとてもうれしかったです。
ありがとうございました!
わあ、とてもうれしいです(≧◇≦)!
これらがささるchichiさん、特捜最前線や俺たちは天使だとかもささりますか~( *´艸`)
今後のことも少し考えたりしているのですが、脳の老化が進み……(笑)
ちまちまとしか書けてない状況です(´;ω;`)ウッ…
また続編を出すことができた際にはよろしくお願いします(*´▽`*)
お読み頂きありがとうございました!
小説とコミックの絵の差が···( ̄▽ ̄;)
内容面白いから結局両方読んじゃうんだけどね(笑)
ありがとうございます(*´▽`*)
コミックの方のコミカルさは私もだいぶん楽しんでます。
小説、コミックでキャラにそれぞれの味があり、どちらも楽しんでいただけてうれしいです(≧◇≦)
これからもよろしくお願いします!