87 / 98
連載
番外編 4 カティの支えになったもの 2
しおりを挟む
その夜、アンジェリーノの裏手に炎が上がった。火を放った男の醜い笑顔が炎に照らされる。
そして放火魔が、踵(きびす)を返して逃げようとしたとき、急に自分の身体が重くなり地面に押しつけられた。
そして、炎は一瞬にして消える。
「な、んだ・・・これ?動けない・・」
目に見えない何かに押しつぶされると思った瞬間、急に解放された。
荒い息をつきながらホッとしたのもつかの間、何かがおかしいと恐ろしくなり再び走り出そうとした。
すると今度は空からすごい勢いで何かが降ってくる。
「痛っ!いたたた・・た、助け・・痛っ!」
必死で頭をかばおうとするが、その手や背中に何かが突き刺さる。
地面に落ちたものを見ると栗のイガだった。中の栗はなく、イガだけが大量に放火魔を狙って飛んでくる。
「な、なんだ?・・・痛っ!やめて・・・誰か・・」
「闇夜に生じて卑劣な犯行。愚かな放火魔に正義の鉄拳を!闇に舞う蝶、カティヨン!」
暗がりのどこかから声が聞こえる。
「な?!どこだ?痛っ・・た、たすけて!」
「誰に頼まれて放火したの?」
声は聞こえど、姿は見えぬ。
カティヨンの声とともにさらにイガが飛んでくる。
頭や顔がすでに大惨事だ。
「い、いうから・・・助けて・・・子爵だ!イマル子爵だ!」
「なぜ?」
「栗を買い占めて高値で転売するつもりだ!それが駄目ならアンジェリーノを閉店に追い込んで、自分の店だけで栗のお山を高値で専売するつもりだった。なのに!どこかで栗を調達して店を継続するから大量の在庫を抱えて・・・」
「ほう、なるほど。私利私欲で栗を買い占めて、アンジェリーノを閉店に追い込むつもりだったと。え~い!天誅!!くそがきといった報いも受けよ!」
最後の方は小さな声でつけたし、放火魔を空中に浮かせた。
「な、なんだ?これは?!おろせ!おろしてくれ!」
「いいの?ノーと言えない(元)日本人なの。」
カティがそう言うと放火魔の身体は落下した。
「うぎゃあ~~!!」
イガイガの絨毯の上に落下した男はそのまま気絶したようで、その後は何の声も聞こえなくなった。
カティは大量のイガをバリアで包むと一旦転移で公爵邸に持ち帰った、また別のところで使うつもりだから大切に扱う。
そして翌朝、イガが頭に整列して刺さりイガ栗仕様のパンチパーマ頭の男が縄でぐるぐる巻きにされ、「放火魔です。正義の味方より」というメモとともに、自白が録音された魔道具が見つかった。
放火魔とイマル子爵は騎士団に拘束された。
しかしイマル子爵はすぐに釈放された。
放火や異物混入事件は使いの男が勝手に行ったこと。確かに栗の買い占めは行ったが、それはあくまでも商機を逃さないためにとった経済活動だと言い切った。
放火魔を捕まえた者の正体さえ分からず、証拠も信用できない。放火魔の「イマル子爵から頼まれた」という証言は、自分の罪を軽くするための虚言とされたのだった。
しかしその数日後、顔や頭そして体中を傷だらけにしたイマル子爵が自ら出頭した。
「栗のお化けが・・・」
「は?!」
騎士団は顔を見合わせる。
「栗の怪物がいるんだよ!『栗を悪用したものは栗に泣く!』って声がして栗が襲って来るんだよ!」
昼夜に関わらず子爵邸に栗が出現するようになった。
初めはベッドに寝転んで仰向けに寝た時、天井をびっしり埋め尽くすように大量のイガ栗が漂っていた。
「は?!」
声を上げたとたん、大量のイガ栗が降り注いだ。
「うぎゃあ?!痛っ・・いたたた・・助けて・・誰か?!」
這う這うの体で部屋を逃げ出し、階段を下ろうとしたとき何かに足を取られて階段を転げ落ちた。そして落ちたその先にはイガ栗が敷きつめられていた。
「ぎゃあ!痛っ・・・だれ・・か・・」
「いかがいたしました?」
「おい、どうにかしてく・・・」
助けを求めようと、声をした方を見た。
そこには人の形をとったイガ栗の集合体が立っていた。
「旦那様~、どういたしました?」
イガ栗の怪人が近づいてくる。
「!!」
イマル子爵は後ずさりして逃げようとする。すると
「栗を悪用したものは栗に泣く!!」
栗の怪物がそう言って襲い掛かってくる。
「うわあ!だ、誰か・・誰か助けてくれ!」
栗の怪物が両手を突き出して突進してくる。
イマル子爵は顔を腕でかばい身構えた。しかし何も起こらず恐る恐る顔をあげるとイガ栗がすべて消え去っていた。
「な、なんだ?なんなんだ?!」
夜中にこれほど騒いでも使用人が誰も出てこなかったのも不思議だった。
翌日、使用人の様子をうかがうも何も変わった様子はなかった。
まさか夢でも見たのかと思うが、自分の身体にはイガ栗につけられた傷がある。
「湯を張ってくれ。」
「かしこまりました。」
早く嫌な汗を洗い流したい。
たっぷり湯船に張られたお湯に身を任せたとき、温かくて身を包んでくれていたものが冷たくて棘のあるものに変わった。全身裸で栗のイガにつつかれまくった子爵は悲鳴を上げて逃げ出す。しかしどこに逃げても栗のイガが飛んできてぶつかる。
部屋に逃げ帰り、服を着ようとすると袖から裾からポケットから・・・あらゆるところからイガ栗が転がり出てくる。
「痛っ!」
「旦那様?なぜ栗が?」
わけも分からず使用人が尋ねる。
「知らん!か、片づけておけ!」
そう命じながらもどこかから栗が飛んでくるのではないかとビクビクして食堂に向かう。
慎重に周りを見渡すもいつもと同じ景色で異変はない。テーブルに乗っている料理にも問題なし。
「よし。」
イマル子爵は恐る恐るスープを救って口元に運ぶ。温かい湯気がまだ残るスープを見てほっとして口に入れた。
「いっ!!」
口の中イガに刺されて血だらけになる。
「ゆ・・・許して・・・悪かった・・・私が・・私が命令したんだ!おい、栗!栗よ、許してくれ!」
ついに観念した子爵はその後自首し、放火という大罪を命じたことにより子爵家はお取り潰しとなった。
子爵は罰として自ら大量の栗のイガをむく作業を科され、その栗をアンジェリーノに慰謝料とともに渡すこととなった。
子爵の自白で共犯者の商人のもとへ騎士が捕縛に向かったところ、こちらもイガ栗仕様のパンチパーマの商人が「助けてくれ!栗がっ栗が!と、うわ言のように口走り騎士に縋り、即刻罪を認めたのだった。
アンジェリーノはこの事件によりさらに名が広まり、これまで以上に繁盛したという。
「取り調べで、栗のお化けが襲ってきた、なんて言ったそうだよ。」
「そうなの?」
「カティ、君の強さはわかってるけど無茶をしないでよ。栗のお化けってカティでしょ?」
栗のお山を食べながら、ヴィクトルが言う。
「ええ?何のこと?」
「先に捕まった放火魔はカティヨンと名乗る者にやられたと白状してるよ。」
「放火魔の聞き間違いじゃない?それに栗のお化けなんてねぇ・・・これだからお子様は。いやだ、いやだ。」
カティはにっこり笑う。
ヴィクトルが半目でカティを見る。
「・・・・。ふ~ん、くそがきって言われたこと根に持ってたんだ。」
「私はそんな子供ではありません。」
「まあ、結局その騒動のせいで栗のお山を真似していた店もつぶれたし、アンジェリーノはもう大丈夫だよ。」
「よかった!」
これで思い出のお菓子を守れる。
「ん?あ、もう一人成敗しなきゃならないわ。」
小声でぶつぶつ言ってると
「僕が父上に報告したよ。農園でしょ?アンジェリーノはもうあの農園から栗は買わないらしいし、他の店もつぶれたからね。農園を閉めるしかなくなるさ。そこを王家が買い取り、正統な価格でまたアンジェリーノと取引するというのはどうかな。」
「うわあ、ありがとう!」
「それで、その農園の管理を孤児院にお願いして子供たちにも手伝ってもらおうと思ってる。大きくなったらそこに勤めることもできるし。」
「ヴィー!大好き。」
カティはヴィクトルに思わず抱き着く。
前のオセロの事業もうまくいっており、また新たに孤児院の収入源と就職先を確保できそうだ。
「ふふふ。うれしいよ。これからも一緒にこうして国を守っていこうね。」
「うん!」
ヴィクトルは嬉しそうにカティを抱き上げる。
「でも危ないことはしないですぐに僕に相談する事!いい?」
「・・・。もちろん!」
でもカティは今回の事で分かったことがあるのだ。
悪人退治をするために密かに動き回っていた時、悪人を懲らしめている時。エドヴァルドが行方不明である喪失感、悲壮感が少し緩和された。
ぽっかりと開いた穴を埋めることは出来ないけれど、その瞬間意識をそらすことは出来たのだ。
「なんか間(ま)があったけど・・・。それとさ、もう一つ知りたいんだけど。アンジェリーノの店主が店を閉めたとき、良質の栗が店に届けられたらしいんだ。どこから調達してきたの?」
「え?なんで私に聞くの?」
「ばれないとでも思ってるの?」
「・・・。」
バレないと思っていた。
「カティぐち隊長!カティぐち探検隊の一員として知りたいです!」
ヴィクトルはまじめな顔をして敬礼する。
「・・・ヴィー副隊長。口は堅いですか?」
「もちろんです。」
「魔獣の出る森の奥に栗の木がいっぱいあるの。そこに行ってちょこっと収穫してきたの。イマル子爵の倉庫から持っていったら犯罪になっちゃうからね。」
「・・・魔獣の森に一人で行ってきたの?」
「うん。」
「どうやって?!」
大人でさえ、手練れを何人も連れだって入らなければ危険な森だ。
「乙女の秘密です。」
ヴィクトルもうすうすは感じている。
詳細はわからないものの、カティが「ちょっと魔力が強い」で片付けられるレベルではないことを。しかしそれを隠そうとしていることも。
なのに、隠しているつもりで何か行動するたびにぼろが出ている。困った人がいるとつい力を使って助けているのだから、いずれ誰かに気が付かれてしまう。
「わかった。だけど僕も両陛下もいつだってカティの味方だってことは覚えておいてね。」
「ありがとう。」
これからもカティは一人で悪人退治をするつもり。
世の中のためではない、自分の心の為に。やるせない気持ちを悪人退治ではらすため、ぽっかり空いた穴を何かでごまかすため。
そしてそれが結果的に誰かの為になる。こんないいことはない。
ヴィクトルは何も気が付かぬふりをし、エドヴァルドの代わりにカティとカティの秘密を守っていこうと決意したのだった。
番外編は次話で最後になります。
ただし、本編とは全く関係のないパロディになります。こんなんちが~う( `ー´)ノと思った方は飛ばしてください(*´▽`*)
その後、本編の続きを数話投稿する予定です。
よろしくお願いします。
そして放火魔が、踵(きびす)を返して逃げようとしたとき、急に自分の身体が重くなり地面に押しつけられた。
そして、炎は一瞬にして消える。
「な、んだ・・・これ?動けない・・」
目に見えない何かに押しつぶされると思った瞬間、急に解放された。
荒い息をつきながらホッとしたのもつかの間、何かがおかしいと恐ろしくなり再び走り出そうとした。
すると今度は空からすごい勢いで何かが降ってくる。
「痛っ!いたたた・・た、助け・・痛っ!」
必死で頭をかばおうとするが、その手や背中に何かが突き刺さる。
地面に落ちたものを見ると栗のイガだった。中の栗はなく、イガだけが大量に放火魔を狙って飛んでくる。
「な、なんだ?・・・痛っ!やめて・・・誰か・・」
「闇夜に生じて卑劣な犯行。愚かな放火魔に正義の鉄拳を!闇に舞う蝶、カティヨン!」
暗がりのどこかから声が聞こえる。
「な?!どこだ?痛っ・・た、たすけて!」
「誰に頼まれて放火したの?」
声は聞こえど、姿は見えぬ。
カティヨンの声とともにさらにイガが飛んでくる。
頭や顔がすでに大惨事だ。
「い、いうから・・・助けて・・・子爵だ!イマル子爵だ!」
「なぜ?」
「栗を買い占めて高値で転売するつもりだ!それが駄目ならアンジェリーノを閉店に追い込んで、自分の店だけで栗のお山を高値で専売するつもりだった。なのに!どこかで栗を調達して店を継続するから大量の在庫を抱えて・・・」
「ほう、なるほど。私利私欲で栗を買い占めて、アンジェリーノを閉店に追い込むつもりだったと。え~い!天誅!!くそがきといった報いも受けよ!」
最後の方は小さな声でつけたし、放火魔を空中に浮かせた。
「な、なんだ?これは?!おろせ!おろしてくれ!」
「いいの?ノーと言えない(元)日本人なの。」
カティがそう言うと放火魔の身体は落下した。
「うぎゃあ~~!!」
イガイガの絨毯の上に落下した男はそのまま気絶したようで、その後は何の声も聞こえなくなった。
カティは大量のイガをバリアで包むと一旦転移で公爵邸に持ち帰った、また別のところで使うつもりだから大切に扱う。
そして翌朝、イガが頭に整列して刺さりイガ栗仕様のパンチパーマ頭の男が縄でぐるぐる巻きにされ、「放火魔です。正義の味方より」というメモとともに、自白が録音された魔道具が見つかった。
放火魔とイマル子爵は騎士団に拘束された。
しかしイマル子爵はすぐに釈放された。
放火や異物混入事件は使いの男が勝手に行ったこと。確かに栗の買い占めは行ったが、それはあくまでも商機を逃さないためにとった経済活動だと言い切った。
放火魔を捕まえた者の正体さえ分からず、証拠も信用できない。放火魔の「イマル子爵から頼まれた」という証言は、自分の罪を軽くするための虚言とされたのだった。
しかしその数日後、顔や頭そして体中を傷だらけにしたイマル子爵が自ら出頭した。
「栗のお化けが・・・」
「は?!」
騎士団は顔を見合わせる。
「栗の怪物がいるんだよ!『栗を悪用したものは栗に泣く!』って声がして栗が襲って来るんだよ!」
昼夜に関わらず子爵邸に栗が出現するようになった。
初めはベッドに寝転んで仰向けに寝た時、天井をびっしり埋め尽くすように大量のイガ栗が漂っていた。
「は?!」
声を上げたとたん、大量のイガ栗が降り注いだ。
「うぎゃあ?!痛っ・・いたたた・・助けて・・誰か?!」
這う這うの体で部屋を逃げ出し、階段を下ろうとしたとき何かに足を取られて階段を転げ落ちた。そして落ちたその先にはイガ栗が敷きつめられていた。
「ぎゃあ!痛っ・・・だれ・・か・・」
「いかがいたしました?」
「おい、どうにかしてく・・・」
助けを求めようと、声をした方を見た。
そこには人の形をとったイガ栗の集合体が立っていた。
「旦那様~、どういたしました?」
イガ栗の怪人が近づいてくる。
「!!」
イマル子爵は後ずさりして逃げようとする。すると
「栗を悪用したものは栗に泣く!!」
栗の怪物がそう言って襲い掛かってくる。
「うわあ!だ、誰か・・誰か助けてくれ!」
栗の怪物が両手を突き出して突進してくる。
イマル子爵は顔を腕でかばい身構えた。しかし何も起こらず恐る恐る顔をあげるとイガ栗がすべて消え去っていた。
「な、なんだ?なんなんだ?!」
夜中にこれほど騒いでも使用人が誰も出てこなかったのも不思議だった。
翌日、使用人の様子をうかがうも何も変わった様子はなかった。
まさか夢でも見たのかと思うが、自分の身体にはイガ栗につけられた傷がある。
「湯を張ってくれ。」
「かしこまりました。」
早く嫌な汗を洗い流したい。
たっぷり湯船に張られたお湯に身を任せたとき、温かくて身を包んでくれていたものが冷たくて棘のあるものに変わった。全身裸で栗のイガにつつかれまくった子爵は悲鳴を上げて逃げ出す。しかしどこに逃げても栗のイガが飛んできてぶつかる。
部屋に逃げ帰り、服を着ようとすると袖から裾からポケットから・・・あらゆるところからイガ栗が転がり出てくる。
「痛っ!」
「旦那様?なぜ栗が?」
わけも分からず使用人が尋ねる。
「知らん!か、片づけておけ!」
そう命じながらもどこかから栗が飛んでくるのではないかとビクビクして食堂に向かう。
慎重に周りを見渡すもいつもと同じ景色で異変はない。テーブルに乗っている料理にも問題なし。
「よし。」
イマル子爵は恐る恐るスープを救って口元に運ぶ。温かい湯気がまだ残るスープを見てほっとして口に入れた。
「いっ!!」
口の中イガに刺されて血だらけになる。
「ゆ・・・許して・・・悪かった・・・私が・・私が命令したんだ!おい、栗!栗よ、許してくれ!」
ついに観念した子爵はその後自首し、放火という大罪を命じたことにより子爵家はお取り潰しとなった。
子爵は罰として自ら大量の栗のイガをむく作業を科され、その栗をアンジェリーノに慰謝料とともに渡すこととなった。
子爵の自白で共犯者の商人のもとへ騎士が捕縛に向かったところ、こちらもイガ栗仕様のパンチパーマの商人が「助けてくれ!栗がっ栗が!と、うわ言のように口走り騎士に縋り、即刻罪を認めたのだった。
アンジェリーノはこの事件によりさらに名が広まり、これまで以上に繁盛したという。
「取り調べで、栗のお化けが襲ってきた、なんて言ったそうだよ。」
「そうなの?」
「カティ、君の強さはわかってるけど無茶をしないでよ。栗のお化けってカティでしょ?」
栗のお山を食べながら、ヴィクトルが言う。
「ええ?何のこと?」
「先に捕まった放火魔はカティヨンと名乗る者にやられたと白状してるよ。」
「放火魔の聞き間違いじゃない?それに栗のお化けなんてねぇ・・・これだからお子様は。いやだ、いやだ。」
カティはにっこり笑う。
ヴィクトルが半目でカティを見る。
「・・・・。ふ~ん、くそがきって言われたこと根に持ってたんだ。」
「私はそんな子供ではありません。」
「まあ、結局その騒動のせいで栗のお山を真似していた店もつぶれたし、アンジェリーノはもう大丈夫だよ。」
「よかった!」
これで思い出のお菓子を守れる。
「ん?あ、もう一人成敗しなきゃならないわ。」
小声でぶつぶつ言ってると
「僕が父上に報告したよ。農園でしょ?アンジェリーノはもうあの農園から栗は買わないらしいし、他の店もつぶれたからね。農園を閉めるしかなくなるさ。そこを王家が買い取り、正統な価格でまたアンジェリーノと取引するというのはどうかな。」
「うわあ、ありがとう!」
「それで、その農園の管理を孤児院にお願いして子供たちにも手伝ってもらおうと思ってる。大きくなったらそこに勤めることもできるし。」
「ヴィー!大好き。」
カティはヴィクトルに思わず抱き着く。
前のオセロの事業もうまくいっており、また新たに孤児院の収入源と就職先を確保できそうだ。
「ふふふ。うれしいよ。これからも一緒にこうして国を守っていこうね。」
「うん!」
ヴィクトルは嬉しそうにカティを抱き上げる。
「でも危ないことはしないですぐに僕に相談する事!いい?」
「・・・。もちろん!」
でもカティは今回の事で分かったことがあるのだ。
悪人退治をするために密かに動き回っていた時、悪人を懲らしめている時。エドヴァルドが行方不明である喪失感、悲壮感が少し緩和された。
ぽっかりと開いた穴を埋めることは出来ないけれど、その瞬間意識をそらすことは出来たのだ。
「なんか間(ま)があったけど・・・。それとさ、もう一つ知りたいんだけど。アンジェリーノの店主が店を閉めたとき、良質の栗が店に届けられたらしいんだ。どこから調達してきたの?」
「え?なんで私に聞くの?」
「ばれないとでも思ってるの?」
「・・・。」
バレないと思っていた。
「カティぐち隊長!カティぐち探検隊の一員として知りたいです!」
ヴィクトルはまじめな顔をして敬礼する。
「・・・ヴィー副隊長。口は堅いですか?」
「もちろんです。」
「魔獣の出る森の奥に栗の木がいっぱいあるの。そこに行ってちょこっと収穫してきたの。イマル子爵の倉庫から持っていったら犯罪になっちゃうからね。」
「・・・魔獣の森に一人で行ってきたの?」
「うん。」
「どうやって?!」
大人でさえ、手練れを何人も連れだって入らなければ危険な森だ。
「乙女の秘密です。」
ヴィクトルもうすうすは感じている。
詳細はわからないものの、カティが「ちょっと魔力が強い」で片付けられるレベルではないことを。しかしそれを隠そうとしていることも。
なのに、隠しているつもりで何か行動するたびにぼろが出ている。困った人がいるとつい力を使って助けているのだから、いずれ誰かに気が付かれてしまう。
「わかった。だけど僕も両陛下もいつだってカティの味方だってことは覚えておいてね。」
「ありがとう。」
これからもカティは一人で悪人退治をするつもり。
世の中のためではない、自分の心の為に。やるせない気持ちを悪人退治ではらすため、ぽっかり空いた穴を何かでごまかすため。
そしてそれが結果的に誰かの為になる。こんないいことはない。
ヴィクトルは何も気が付かぬふりをし、エドヴァルドの代わりにカティとカティの秘密を守っていこうと決意したのだった。
番外編は次話で最後になります。
ただし、本編とは全く関係のないパロディになります。こんなんちが~う( `ー´)ノと思った方は飛ばしてください(*´▽`*)
その後、本編の続きを数話投稿する予定です。
よろしくお願いします。
365
お気に入りに追加
8,117
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。