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連載
番外編 1 エドヴァルドにもたらされたもの
しおりを挟む*二回目の誘拐事件が解決した後くらいのお話です。
なんでもない日常のお話です。(*´▽`*)
======================
カティは必死で笑顔を取り繕っていた。
国王のひげの生えた顔でずりすり頬ずりされるのは気持ちの良いものではない。
「あ~おおたま。」
この際、不敬は勘弁してもらおう。
頬ずりされないように小さい手で陛下のおひげを、こよりを作るようにネジネジする。
「ふふ、ここは触ってはいかんのじゃが・・・特別に許そう。カティちゃんはわしの事が好きなんじゃなあ。」
国王は満面の笑顔でカティを抱っこし、あやしている。
向かいに座るエドヴァルドから冷気が流れてくる。
「うんっ、んん!」
とわざとらしく咳ばらいをすると
「この度は誠にすまなかった。この子を迎えに行かせた使者がアンティラ家の息がかかった者だとは思わなかった。怖い目に合わせてしまってすまなかったな。」
国王は、誘拐事件のきっかけを作ったことを素直に反省し、今日は大っぴらに謝罪できない分、秘密裏に茶会を開いた。
「陛下におかれましては、カティにことさら配慮いただき感謝しております。」
感謝していない目で国王を見つめ、国王の心臓がちょっと跳ねる。
「む、むろんじゃ!日頃、国のために尽力をする宰相の愛娘なのだから当然じゃ。」
「そうですか。また、私を懐柔するためかと思っておりましたが、勘ぐりすぎておりました。申し訳ございません。」
国王の心臓は二つ跳ねた。
カトリ王女の対応で負担をかけたエドヴァルドの機嫌を取るため、そのエドヴァルドの無慈悲で容赦ない仕事ぶりに泣きついてきた官吏のためにとカティを招聘したのだ。
「・・・。そんなわけはなかろう、のうカティちゃん。ん?なになに?そうかそうか、おうたまと会いたかったか。毎日来るがよいぞ。」
(・・・何も言ってませんけど。)
カティはきゃっきゃ、きゃっきゃと愛想を振りまき、ぐったりしてエドヴァルドに抱えられて退出した。
「陛下にずいぶん気に入られたようだな。そうしておけば万が一の時守ってもらえるから、努力は無駄にはならぬ。」
(あれ?情報収集のためだけじゃなかったのかな?私の事心配してくれてるんだ。)
ちょっと鬼畜の優しさを垣間見てほだされそうになったが、
「さ、今夜は貴族年鑑と王宮の使用人名簿を覚えてもらうぞ。お前の安全の為にな。」
(くっそう鬼畜め・・・いつか天罰が下ってその麗しい額に肉の文字が浮き出るがいい。)
カティはソファーに寝転びながら貴族年鑑を見ている。
エドヴァルドはその間、仕事をしている。ちらっとカティを見ると真剣にメモをしながら頑張っているようだ。
なんだかんだ文句を言いながらもいつも全力で何にでも取り組むカティ。
異世界の知識や考え方のせいなのか、性格のせいなのか、やる事なす事突拍子もないことばかりだが憎めない頑張り屋だ。こちらが想像もしない言動に感情が揺さぶられずにはおられない。
本当に中身が十六歳なのか疑わしいとエドヴァルドは思う。この世界で十六歳といえばすでに大人なのだが・・・
翌日、カティが勉強していた貴族年鑑を開くと、姿絵にたくさん落書きがされていた。
髪型に手を加えたもの、まつげを増やされた者、眼が大きくなったり、渦巻きがかかれたり、角や牙が足されもはや人間ではなくなっている者もいる。
「・・・・。」
おもわず、口角が上がった。
こんなことをする人間などこの世界にはいない。貴族の姿絵に落書きをするなど無礼な発想は思いつきもしない。
一体何のためにこんなことをするのか。カティの思考回路が全く理解できない。
だが、胸から湧き上がるこの感情は何なのだろうか。
エドヴァルドが笑った姿を見てレオは目を瞠る。
少し前からカティが関わることで笑うのは何度目だろうか。
「これを。」
貴族年鑑を渡されてレオも何げなく開く。
「ぶっ!」
レオは様々な貴族の姿絵を見るなり、盛大に噴き出す。
ページをめくり、エドヴァルドの姿絵に行きつくとその絵には、王冠とマントが描き込まれていた。まるで王族のようないでたちのエドヴァルドの頭には角、額にはなぜか「肉」の文字、口からブリザードらしきものが吐かれ、手にはむちを持っている。そしておそらくカティと思われる赤ん坊が腹筋をさせられ、『きちくー』と叫んでいる。
「なんですか、これは?!」
「カティが昨日せっせと描いていたようだ。あいつは本当にしょうがないやつだな。」
そういうエドヴァルドの顔がまた少し笑ったのを見た。
子供のころからの付き合いで、正式にお側に仕えるようになってから四年。怒る、嘲笑する以外で表情を変えたのを見たことはない。それでさえわずかな変化に過ぎない。感情と表情筋はあの(・・)時(・)に捨てたのだから。
それがカティと出会ったからというもの、感情が表に出ることが多くなった。
「カティ様は、才能がおありですね。素晴らしい才能です。」
「これがか?まあ、無意味なものに一生懸命になる天才かもしれないな。」
ふっと鼻で笑う。
「はい。」
レオは笑顔で頷いた。
エドヴァルドの感情を引き出す天才だ。
心からカティの存在をありがたいと思った。
しかしそれはそれ、後でカティはレオにみっちりと怒られることになる。
===============================
番外編、お読みいただきありがとうございました。
全力で本編を完結したので、燃え尽き症候群といいますか(;´・ω・)
カティが赤ちゃんの時代に脳が戻れず、なかなか書けませんでした( ノД`)シクシク…
が。復活しました(*´▽`*)
番外編をいくつか書いた後、本編の続きをちょっと書きたいと思っています。
番外編、一つはおふざけすぎになる予感・・・
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