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十三年間の重み

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 そして夜、「今日から一人で休みます!」と宣言して久しぶりに自室のベッドに横になる。

「自立順調!」と初めこそ浮かれていたが徐々に気持ちが沈んできた。
 目を閉じて寝ようとするが、いろんなことが頭に浮かび一向に眠気がやってこない。
 こうして離れている間にエドヴァルドがもし、またいなくなっていたらどうしよう、全部夢だったらどうしよう、朝起きていなかったら・・・
 そんなことはないと頭ではわかっているのに不安がどんどん膨れ上がってくる。

 エドヴァルドのいなかった十三年間を思い出す。小刻みに体が震えて涙がこぼれる。
 掛布にもぐって声を殺して泣く。
 「とう様・・・とう様・・・」
 ふわっと空気が動いたと思った途端、掛布がめくられ体がふわっと浮いた。
「・・・とう様・・・」
 カティは頬に流れた涙をごしごし手でふこうとした。
 エドヴァルドはカティを抱きあげると
「肌が痛む、こするな。」
 そう言って昔のように背中を撫でてくれる。

「どうした?」
「とう様が・・・またいなくなるんじゃないかと怖くなったの・・・」
 分離不安だという医師の言うことを思い出す。
 カティを抱き上げたまま隣の自室へ戻り、ソファーに座る。
「私はもう大丈夫だ。ローベンスの女神に救っていただいた命、生涯大切にすると誓おう。」
「・・・女神って?」
 エドヴァルドはふっと表情を弛めると
「近頃ローベンス国に女神が現れたとの噂だ。」
 そう言いながらカティの頬を拭い、その頬に軽くキスをする。
 真っ赤になるが、エドヴァルドを失う不安の方が強くさほど気にならなかった。
「じゃあ、私も女神さまにお願いする。とう様がどこにも行かないように、ずっとカティの側にいるようにお願いする。」
 そう言いながらきゅっとエドヴァルドの服を掴むカティに、その頭のてっぺんにキスをすると
「お前がそう思うのならその願いはかなう。私もお前の側にいられるよう女神に願おう。だからもう心配する必要はない。」
「・・・うん。」
 エドヴァルドは温かいミルクを頼み、カティが落ち着くまで寄り添うことにした。

 カティが落ち着きを見せたころ、思い出したように
「カティヨンの話を耳にしたのだが。」
 カティはぶっと噴き出した。
「な、な、何のことでしょう?!」
「カティヨンと名乗る義賊の話を聞いた。少し前まで良く出没していたそうだ。」
「へ、へえ・・・それは・・それは。シリマセンデシタ・・・。」
「そうか。以前老師と修行中にお前が名乗っていた名と・・・」
「うわあ!すごい偶然。懐かしい名前だな。」
「お前は関係ないと?」
「もちろんです!苦しかった時、ストレス発散に夜中にこっそりと盗賊退治したり、悪徳貴族からお金奪って孤児院に寄付したりとか、それでちょっと栗のお山買ったり・・・私がそんな義賊のはずがないし!」
「詳しいな。」
「・・・。レ、レオに聞いたの!」
 エドヴァルドはカティの手を取るとその手の甲に唇を寄せると
「そうか。立派な淑女のお前ではないと信じている。」
 頭のてっぺんキスよりもなぜか恥ずかしくて顔が真っ赤になる。 
「と、とう様!」
「心配をかけた私が言う事ではないが、危険なことはするな。」
「ふぁい。」
 その返答にご褒美のように今度は頭のてっぺんにキスをくれた。

 その後、ローベンス国でカティヨンは表向き姿を消した。
 代わりに密告や情報が寄せられるようになり正攻法での取り締まりが強化される事になる。風雲ヴィー城は大繁盛で、第二の城を用意したと嬉しそうなヴィクトルに見学にも誘われた。
 しかし、それでも正攻法では手の届かない悪人はどうしてもいる。
 彼らに天誅を下すため月に代わってお仕置きをする少女が後にこっそりと誕生する。
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